日米首脳会談における「慰安婦」問題の位置づけに関する記事である。
「赤旗」社説は、「河野談話」からの後退を許さないことにブッシュ大統領がクギをさした点に、その意義を見る。
関連して、この問題をアメリカが取り上げることの意味について、カルダー氏は、日本と周辺国の良好な関係がアメリカの国益に合致するからだとあらためて述べる。
韓国の2紙は、日本の謝罪の相手がちがっていること、アメリカがどういう資格をもってそれを受け入れるのかという点を批判する。誰が見てももっともな批判である。
安倍首相の曖昧な謝罪にもかかわらず、下院の「慰安婦」決議は可決の見通し。
問題はそれを一つのきっかけに、この国の「慰安婦」加害をどれだけの日本人が正しく理解し、誠実な謝罪の道へ政治を仕向けることができるかどうかである。
もちろんその改革を、アメリカが許容する範囲にとどめる必要はない。
慰安婦:カルダー教授「安倍首相は鈍感だった」 「日本は引き続き謝罪するだろうが形式的なものだろう」(朝鮮日報、4月30日)
米国内での知日派として知られるジョンズ・ホプキンス大学のケント・カルダー教授は本紙とのインタビューで、「安倍晋三首相の今回の訪米は日本軍慰安婦問題の深刻さを悟るきっかけとなっただろう」と述べた。インタビューはカルダー教授の研究室で27日に行われた。
—安倍首相がブッシュ大統領に会い日本人拉致問題が解決しなければ米国が北朝鮮をテロ支援国家から外すことに反対した。
「今は北朝鮮のテロ支援国問題についての両国の立場が一致しているが、北朝鮮が6カ国協議での合意を履行すればするほど米国と日本は立場の違いが鮮明になるだろう。日本の目的は6カ国協議での米国の動きの幅を狭めることだ。安倍首相のこのような要請は一時的に受け入れられている」
—安倍首相が得た点は。
「安倍首相の最近の慰安婦についての発言は米国の雰囲気を理解できていなかったのが原因だ。ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストが強く非難すると非常に慌てた。安倍首相は鈍感だった」
—慰安婦問題が米日関係に及ぼす影響は。
「米日関係を心配する双方の関係者たちは行き違いの最小化を図るだろうが、双方には認識の違いが残っている。日本は慰安婦問題はすでに法的に決着がついたという技術的な次元で取り扱おうとしたが米国は人権問題と見ている。安倍首相訪米中の謝罪発言は自ら属する日本国内の保守派を裏切らず、同時に下院の慰安婦決議の通過を防ごうとする目的で非常に緻密(ちみつ)なものだった。しかし米国議会は安倍首相の帰国後に慰安婦決議案を通過させそうだ」
—日本がするべきことは。
「日本は引き続き謝罪するだろうが形式的なものだ。ドイツのように完全な謝罪はしていない。にもかかわらず日本と周辺国との関係は改善するだろう。今後の日中関係は韓国も注意する必要がある。安倍首相は韓日間の安保協力の重要性を知っている。中国との関係で日本が利益を得るためにも韓国は必要だ」
—今後韓米日3国が取るべき政策は。
「米国は韓国や日本との三角同盟を強化しようとしている。日本が周辺国との関係を良好に保つことは米国の国益にも一致するという点を米国政府はよく知っている。日本が教科書から慰安婦問題を削除した点についても多くの米国人は心配している」
—最近、日本によるF22購入の動きに中国が直ちに反発したが。
「米国がF22を日本に販売できない理由はない。中国が反対しているが中国は過去17年間、毎年10%以上の軍事力増強を行ってきた。日本の憂慮は当然のことだ。ただし日本がF22を購入するなら韓国が誤解しないよう韓国政府に徹底して説明するべきだろう」
【社説】頭がおかしい安倍首相、話にならないブッシュ大統領(朝鮮日報、4月30日)
27日にワシントンで開催された米日首脳会談で、慰安婦問題について信じられないことが起こった。安倍首相はブッシュ大統領に「慰安婦の方々を非常に困難な中でつらくて苦しい状況に追いやったことに対して、人間として首相として、心から同情しており、申し訳ない思いだ」と謝罪した。これに対してブッシュ大統領は「(謝罪を)受け入れる」と応えた。日本の首相はなぜ慰安婦の人々ではなく米国の大統領に謝罪し、米国大統領は何の資格があってその謝罪を受け入れるというのか。
第2次大戦当時、日本軍に連行され集団で性暴行にあい、強制的な堕胎、電気拷問などの蛮行を受けた被害者はブッシュ大統領でもなく米国国民でもない、韓国や中国などアジアの女性20万人だ。安倍首相は官房長官だったときに日本軍慰安婦について、「虚構であり、マスコミが作り上げた話」と語っていた。首相になってからは「慰安婦を強制的に連行したという証拠がない」と語った。
安倍首相はこのように事実を歪曲(わいきょく)したことから米下院に日本軍慰安婦決議案が提出されると、突然あわて始めた。3日にブッシュ大統領に電話をかけて説明し、米国に行くとブッシュ大統領に謝罪する前に議会の指導者たちにも説明した。朝日新聞が「謝罪の方法がおかしい」「首相が謝罪すべき慰安婦被害者たちには(謝罪を)していない。これまで無視してきたのに米国で問題になるとすぐに謝罪するのはどういうことか」と主張した。
ブッシュ大統領は「(安倍首相の)率直さを評価する」と述べた。安倍首相は慰安婦を強制連行した証拠がないとの立場から事実上1歩も退いていない。慰安婦の連行に日本の官憲による介入を認めた河野談話を継承するとしながらも「狭義の強制性を示す証拠はない」としている。日本の最高裁判所が27日に日本軍による中国人慰安婦の拉致・監禁・強姦(ごうかん)を認めたが、安倍首相の態度が変わる気配はない。
安倍首相が真に言いたいのは、「慰安婦というのはカネを稼ごうとして自発的に出てきたもの」ということだろう。彼は10年前に「歴史教育を考える若手議員の会」の事務局長だった当時、慰安婦問題について、「韓国には元々キーセンハウスが多い」と言ってのけた人物だ。このような安倍首相の本心が変わったという証拠はどこにもない。だとすればブッシュ大統領が見た安倍首相の率直さはどういったものだったのか。
奇妙な米日首脳の慰安婦謝罪のやりとりが米国下院の慰安婦決議案にどのような影響を及ぼすのか20万の被害者たちが注目している。
<取材日記>「慰安婦謝罪」を米国に?(中央日報、4月30日)
26日から1泊2日間、米国を訪問した安倍晋三日本首相は、従軍慰安婦問題発言の解明に忙しかった。初公式日程であるナンシー・ペローシー下院議長ら米議会リーダー11人との会同では、しばらく日米関係の重要性を強調し「せっかくの機会なので…」と自分の「慰安婦観」をくどくどと説明した。
安倍首相は「20世紀は人権侵害が多かった世紀として、日本もそこから無関係ではない」とし「元慰安婦の方々に、個人として、首相として心から同情するとともに、極めて苦しい状況に置かれたことについて、申し訳ないという気持ちでいっぱいだ」と言った。「申し訳なく思う」の部分が「詫びの感覚(sense of apology)」というぎこちない英語に通訳され「真の謝罪ではない」という主張も出た。しかし、その程度なら「謝罪」の表現として受け入れても構わないと思う。
本当に問題視しなければならないことは別にある。安倍首相は従軍慰安婦問題に対して終始、米国に向かって謝っていた。ブッシュ大統領との共同記者会見でも安倍首相は「人間として、そして首相として心から同情し、申し訳なく思うという点を(ブッシュ) 大統領に話した」と言った。これを受けてブッシュ大統領は「首相の謝罪を私は受け入れる」と肯定的に回答している。
ここまでくれば「従軍慰安婦問題の謝罪、あるいは謝罪の対象は米国なのか」という話になるほかない。朝日新聞も29日「国内で批判されても意に介さないのに、米国で紛糾すると直ちに謝罪する。何としたことか」と批判した。米下院に提出されている「慰安婦関連日本政府非難決議案」の採択を阻止するためのジェスチャーとしか解釈されないというのだ。
安倍首相が本当に目と口を向けなければならない所は言葉で形容できない苦痛を経験した従軍慰安婦本人たちと該当の国家だ。つまりあて先を間違ったのだ。
従軍慰安婦問題を鎮めるためいくら昭恵夫人が米CNN放送に出演して「同じ女性として本当にお気の毒に思う」と言っても、ニューズウイークの記者をわざわざ東京に呼んで安倍首相とのインタビューを行ったとしても、当事者に対する謝罪と反省がなければ問題は解決しない。
安倍首相は先月「小泉前首相と橋本元首相も過去、慰安婦の皆さんに(お詫びの)手紙を送った。そんな気持ちは私も全然変わりがない」と言った。ならば手紙は送れなくとも謝罪の一言でも被害者当事者と該当の国家に直接伝えるのが道理だ。
主張 日米首脳会談 誰にかけがえのない同盟なのか(しんぶん赤旗、4月29日)
安倍晋三首相がブッシュ大統領と首脳会談をおこないました。「従軍慰安婦」問題で「狭義の強制はなかった」という首相発言が大きな反発を買い、議会やメディアが批判を強めるなかでの会談でした。
安倍首相はあいまいな「謝罪」で批判をかわしながら、日米軍事同盟を「かけがえのない日米同盟」といい「ゆるぎない同盟として強化する」と公約しました。首脳会談を通じてあきらかになったのは、日米軍事同盟強化の危険な方向と安倍首相の異常なアメリカ追随姿勢です。
解釈改憲を対米公約
「慰安婦」問題は議題にならないといわれていましたが、実際には会談の大きな焦点となりました。安倍首相が三月以来示している「謝罪」をブッシュ大統領が、「慰安婦」問題で軍の強制があったことを認めた河野談話(一九九三年)と「同様」率直なものだと評価する形で、逸脱するなとクギを刺したことは重要です。安倍首相は共同記者会見で、「二十世紀は世界のどこでも人権を侵害してきた」とのべて「慰安婦」問題を人権一般の問題にすりかえる発言をしました。これでは世界の人々との溝を深めるだけです。
安倍首相はブッシュ大統領に「戦後レジーム(体制)の脱却をめざす」とのべました。侵略戦争の反省のうえに戦争をしないという戦後の平和のしくみから脱却するというのは、戦争をするしくみをつくるということです。憲法の平和原則をないがしろにする安倍首相の態度はとうてい許すことはできません。
「安全保障の法的基盤をつくり変えるための有識者会議を設置した」ことをブッシュ大統領に報告したのは重大です。これは、戦後日本の平和の基盤である憲法九条の改悪をめざしつつ、まずは憲法解釈を変え、政府が憲法違反としてきた集団的自衛権の行使を可能にすることを公式に対米約束したことを意味します。
有識者会議が検討するのは、アメリカを標的にした弾道ミサイルを自衛隊が撃ち落とす、戦闘中の米軍艦船を自衛隊が防衛する、イラクなど海外の戦場で自衛隊が米軍部隊を守る、などです。日本への攻撃がないのに、自衛隊が血を流してアメリカを守るというのは、「自衛」どころか「先制攻撃」にほかなりません。日本を戦争への道にひきずりこむ亡国の考えです。憲法九条と両立しません。有識者会議の「可能」の結論を見越して、公約するなど言語道断です。
イラク問題でも安倍首相の態度は卑屈で異常です。イラク戦争が誤った侵略戦争であることがあきらかとなり、アメリカ議会が来年三月末までに米軍の撤退を政府に義務付けた補正予算案を可決しているのに、安倍首相は、イラク戦争を「理解・支援」するといい、「日本は常にアメリカとともにある」とまでいっています。アメリカいいなりにイラクとの戦争に参加し、ミサイル防衛、米軍再編を進めるのでは、戦争の危険を広げるだけです。
戦後政治の原点に反し
日本は、侵略戦争を反省し二度と戦争をしないことを戦後復興の原点にしました。この憲法九条の先駆性は、イラク戦争反対の流れや北朝鮮問題を外交的・政治的に解決するといった現実政治と共鳴しています。
日米首脳会談がうたいあげた日米同盟は、「慰安婦」問題で批判される安倍首相やイラク問題でゆきづまるブッシュ大統領にとっては「かけがえのない」ものでも、国民にとっては重大な危険をもたらすものでしかありません。
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