「しんぶん赤旗」が、「慰安婦」問題をめぐり、まとまった記事を繰り返し掲載している。
下院外交委員会での議決の模様には臨場感があり、また民主党における靖国派勢力の根深さを指摘する点も重要である。
「慰安婦」問題の米下院委決議 断罪された「靖国」派 日本政府は「謝罪を拒否」 安倍発言は「筋通らない」(しんぶん赤旗、6月28日)
「戦後ドイツは正しい選択をした。一方、日本は歴史の健忘症を積極的に促進させている」。最上段の委員長席に座るラントス委員長が声を高めると、委員会室の空気が張り詰めました。二十六日、旧日本軍の「従軍慰安婦」問題で日本政府に公式の謝罪を求める決議案を圧倒的多数で採択した米下院外交委員会。討論では、民主、共和両党の議員が相次いで発言を求め、安倍晋三首相や「靖国」派の国会議員を「歴史を反省しない不誠実な態度」と批判しました。(ワシントン=鎌塚由美)
この日の外交委員会は、イラン問題などの重要法案が審議されました。「慰安婦」決議案は、それらと並ぶ重要案件として特別の討論が行われ、約二十人が発言、一時間二十分に及びました。昨年の同様の決議案が討論なしの発声採択されたのとは様変わりでした。
議員からの批判は、日本軍による強制と関与を認めた河野官房長官談話(一九九三年)を、安倍首相や、「靖国」派議員が覆そうとしていることへ集中しました。
音頭をとったラントス委員長は、日本政府が元「慰安婦」たちに「謝罪を拒否している」だけでなく、「犠牲者を非難するゲームをもてあそぶ」ようだと批判しました。
「意見広告」に批判
同委員長は、ハンガリー出身のユダヤ人で、ナチスによるホロコースト(大虐殺)の生き残り。昨年の外交委員会では、小泉首相の靖国参拝を「ナチ指導者の墓に花輪を置くに等しい」と批判していました。それだけに反省のない日本の「靖国」派勢力の主張に「非常に心かき乱される」と怒りをあらわにしました。
委員長は、ワシントン・ポスト紙に日本の「靖国」派議員が出した意見広告を取り出し、「生き残った慰安婦たちへの中傷」であり、「事実と真っ向から対抗する、ばかげた主張」だと非難。こうした主張が、国会議員によって行われたことに強い懸念を示しました。
スミス議員(共和)は、安倍首相が「(性奴隷の)強制を否定」したことは、河野談話の「正当性と誠実性に対する挑戦」だったと指摘。米国の「よき友、同盟国である日本に、人権侵害や歴史の事実を覆い隠すことをさせてはならない」と述べました。
元「慰安婦」が証言したアジア・太平洋・地球環境小委員会のファレオマバエガ委員長(民主)は、河野談話を読み上げて引用。安倍首相の発言を「筋が通っていない」と指摘。「日本政府がこの決議案を真剣に検討することを望む」と語りました。
「歴史の事実」強調
傍聴には、「慰安婦」決議案の採択を求めてきた諸団体の代表が詰めかけました。アムネスティ・インターナショナル米国のクマール氏は、「決議案は日本たたきではなく、道義的責任の問題です。戦場での人権侵害を未来に起こさせないためにも、引き続き本会議での採決に向け頑張りたい」と語りました。
「慰安婦問題ワシントン連合」のソ・オクチャ会長は、決議案の採択について「生き残った元『慰安婦』の女性たちは、涙を流して歓喜しているに違いない」と述べ、「『慰安婦』は性奴隷であり人権侵害だと、議員たちが深く理解して議論してくれたことが印象深かった」と議員の発言を歓迎しました。
各議員は、日本軍がアジアの女性たちを強制的に性奴隷である「慰安婦」にしたことは「歴史の事実」だと繰り返し指摘。また、米議会で証言した元「慰安婦」の女性たちの勇気をたたえました。アッカーマン議員(民主)は、元「慰安婦」の女性たちは、「過ちを繰り返してはならないと沈黙を破りホロコーストを告発したユダヤ人たちと同じだ」と語りました。
「慰安婦」問題 最終解決へ被害者と協議を 弁護士44人が要望書 首相あてに(しんぶん赤旗、6月28日)
旧日本軍の「従軍慰安婦」問題で日本政府に公式の謝罪を求める決議が米下院外交委員会で可決されたことを受け、中国、韓国、フィリピンなど各「慰安婦」訴訟を担当してきた弁護士が二十七日、「被害者の名誉と尊厳を回復するため」内閣府に要請、問題の最終解決を求める要望書を安倍晋三首相あてに提出しました。同日までに四十四人の弁護士が連名しています。
要請は四人の弁護士がおこない、日本政府に対し▽「慰安婦」問題が未解決であることを認め、▽今年出された第三十八回国連拷問禁止委員会の勧告や米下院議会の決議、日本兵らに連行、監禁され、性暴力を受けた被害事実を確定した最高裁判決などを真摯(しんし)に受け止め、▽軍の関与を認めた「河野談話」の見地に真に立脚し、問題の最終解決のために被害者および弁護士らとの協議の場を設けるなど、新たな取り組みを求めました。
対応した大臣官房総務課調査役は要望を首相に伝えるとのべる一方、内閣府に同問題の担当所管がないことを明らかにしました。穂積剛弁護士は「所管がないというのは問題を解決していくという意思がないからではないか」と批判しました。
要請後の記者会見で川上詩朗弁護士は、米下院議会での決議について「(他国に)言われたからやるのではなく、人権侵害の問題をわれわれ自身がどう考えるのか、戦後日本のあり方がこのままでいいのか。日本としてどう主体的に考えていくのか、きっかけを与えてもらったと受け止めている」と語りました。
世界で「日本 謝罪を」 「慰安婦」決議受け高まる声(しんぶん赤旗、6月28日)
米下院外交委員会が二十六日、「慰安婦」問題での決議を採択したことを受け、かつて「慰安婦」にされた女性が「日本はいまこそ正式謝罪を」の声をあげるなど、日本政府の責任を追及する動きが世界各地で高まっています。
元「慰安婦」韓国で集会
「正義は必ず実現する」―韓国・ソウルでは二十七日、元「慰安婦」や支援者らが日本大使館前に集まり、日本政府に公式謝罪、補償を求める声を上げました。
毎週水曜日に日本大使館前で「水曜デモ」を実施している韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)が開いたもの。委員会での決議可決に、「世界の女性人権運動史に新たなページを記した」と喜びをあふれさせました。
集会には、米議会の公聴会で証言した李容洙さんら七人の元「慰安婦」が出席。李さんは、数日前に亡くなった被害者女性にふれ、「日本政府は謝罪し、補償すべきだ」と涙まじりに訴えました。
政界でも決議の可決を歓迎する声が広がっています。
与党・開かれたウリ党の宋永吉事務総長は、「歴史問題に、日本は客観的に接しなければならない。自国民の拉致問題を強調する日本が、『慰安婦』問題や沖縄での集団自決を隠ぺいするのは、自己矛盾だ」と日本政府を批判。最大野党・ハンナラ党の黄祐呂事務総長は「あらゆる力で(採択を防ぐ)ロビー活動をするという日本政府や一部日本議員の立場に憂慮を禁じえない。人権と良心の声がこの地域から消えることがないよう、後世に教えるべきだ」と述べました。
新聞、テレビ、ネットメディアなど報道各社は、午前二時の米国発速報を皮切りに先を争い報道。決議案を提案したホンダ議員や、米国での運動を進めてきた慰安婦問題ワシントン連合のソ・オクチャ会長らのインタビュー記事も掲載するなど詳しく報道しています。
夕刊二紙は、社説を掲載。「この決議こそ、歴史の真実はゆがめられないことを圧倒的な票差で立証した」(文化日報)、「日本は二度と残虐な行為を行わないと誓う意味で、真実を認めなければならない」(アジア経済)と伝えました。
米「慰安婦」決議を敵視 「靖国」派抱え問われる民主(しんぶん赤旗、6月29日)
旧日本軍による「従軍慰安婦」の問題で、米下院外交委員会が日本政府の公式な謝罪を求める決議を採択したことで、それを真っ向から否定する「靖国」派議員の特異な姿勢が浮きぼりになりました。民主党は、「(首相の)結果責任が問われる」(松本剛明政調会長)と批判しますが、同党も「靖国」派議員を多数抱えており、自らの立場も問われます。
米紙ワシントン・ポスト十四日付に、日本の国会議員四十四人が連名で「従軍慰安婦」にたいする強制性を否定する全面広告を掲載しました。米国だけでなく、アジア諸国からも批判の声が上がり、米下院での謝罪要求決議の採択を加速させる要因となったと指摘されています。この広告には、自民党議員二十九人、無所属議員二人とともに、十三人の民主党議員(参院院内会派一人を含む)が名を連ねています。
南京大虐殺も「なかった」と
十三人の多くは、三月に民主党の有志議員が結成した「民主党慰安婦問題と南京事件の真実を検証する会」(会長=渡辺周衆院議員)のメンバーです。同会の中心メンバーは、日本会議国会議員懇談会(日本会議議連)副幹事長などの役員であり、バリバリの「靖国」派。賛同議員は、民主党のすべての派閥に及んでいます。
これらの民主党議員は、国会の委員会質問などで「南京大虐殺」の事実や「従軍慰安婦」の軍による強制性を否定する発言を繰り返しています。
たとえば、日本会議議連の役員でもある松原仁衆院議員は、「事実がなかった、三十万なんていう話じゃないし、三万という話でもない。なかったんですよ」「大虐殺、虐殺はなかった、間違いなく」(五月二十五日、衆院外務委員会)などと発言しています。
しかし、日本軍による南京や周辺地域での大規模な虐殺は、元日本兵や多くの被害者の証言によって、すでに覆せない事実となっています。日本政府でさえ「旧日本軍による南京入城後、非戦闘員の殺害または略奪行為などがあったことは否定できない」(二〇〇六年六月二十二日付「答弁書」)と認めざるをえないのです。
「従軍慰安婦」についてこれらの民主党議員は、強制的な連行があったことを強く否定し、「不名誉なぬれぎぬ」だと主張。日本軍の関与・強制を公式に認め、反省とおわびを表明した「河野談話」の取り下げまであからさまに要求しています。
改憲をめざす流れの底には
民主党内の「靖国」派議員は、こうした“見解”にもとづく対応を政府に迫ってさえいます。渡辺衆院議員は、四月二十五日の外務委員会での質疑で、南京大虐殺記念館が年内にも拡張され、世界遺産登録の動きもあることに懸念を示し、「これから北京五輪や上海エキスポ(万博)で大勢の方々が世界中から訪れる」「そこに行ったら、何と日本はひどいことをしたんだ、これだけのことをしていたのかということが、まさに刷り込まれてしまう」とのべ、「対応」を急ぐよう求めました。
「創憲」の名のもとに「自衛軍」の創設や集団自衛権の容認を含む改憲をめざす民主党の底流には、侵略戦争の歴史を否定する危険な勢力が存在するのです。
米下院外交委員会 「従軍慰安婦」問題での決議(全文)(しんぶん赤旗、6月29日)
米下院外交委員会は二十六日、旧日本軍の「従軍慰安婦」問題で日本政府に公式な謝罪を求める決議を圧倒的多数で採択しました。決議全文は次の通りです。
一九三〇年代から第二次世界大戦を通じたアジアおよび太平洋諸島の植民地支配と戦時占領の期間、日本政府が公式に、その帝国軍隊に対する性的強制労働を唯一の目的として若い女性の獲得を委託し、これらの人々は「イアンフ」あるいは「comfort women」として世界に知られるようになったのであり、
日本政府による強制的な軍の売春である「慰安婦」制度は、二十世紀における最大の人身取引事件の一つであり、身体損傷や死、自殺をもたらした集団強姦(ごうかん)、強制中絶、屈辱、性的暴力など、その残酷さと規模において未曽有のものとみなされ、
日本の学校で使用されるいくつかの新しい教科書は、「慰安婦」の悲劇や第二次世界大戦における他の日本の戦争犯罪を軽視しようとしており、
日本の官民の関係者は最近、彼女たちの苦難に対して政府の真剣な謝罪と反省を表明した一九九三年の河野洋平内閣官房長官の「慰安婦」に関する声明を薄め、あるいは無効にしようとする願望を示しており、
日本政府は、一九二一年の「婦人及び児童の売買禁止に関する国際条約」に署名し、武力紛争が女性に与える特別の影響を認識した二〇〇〇年の「女性と平和・安全保障に関する国連安全保障理事会決議一三二五」を支持しているのであり、
下院は、人間の安全保障、人権、民主主義的価値および法の支配を促進する日本の努力と、安保理決議一三二五の支持者となっていることを称賛し、
米日同盟はアジア・太平洋地域における米国の安全保障利益の礎であり、地域の安定と繁栄の基礎であり、
冷戦後の戦略環境における変化にもかかわらず、米日同盟は、アジア・太平洋地域において、政治・経済的な自由の保持と促進、人権と民主的制度への支援、両国民と国際社会の繁栄の確保をはじめとした、共通の死活的に重要な利益と価値に立脚し続けており、
下院は、一九九五年の日本における民間の「アジア女性基金」の設立に結びついた日本の官民の関係者の懸命の努力と思いやりを称賛し、
「アジア女性基金」は日本国民からの「償い」を慰安婦に提供するために五百七十万ドルを集め、さらに、
「慰安婦」の虐待および被害の償いのための計画と事業の実施を目的とし、政府が主導し、資金の大部分を政府が提供した民間基金である「アジア女性基金」の任務は二〇〇七年三月三十一日に終了し、基金はこの日付で解散されることになっている。
このため、以下が下院の意思であることを決議する。
日本政府は、
(1)一九三〇年代から第二次世界大戦中を通じたアジアおよび太平洋諸島の植民地支配と戦時占領の期間、日本帝国軍隊が若い女性を「慰安婦」として世界に知られる性的奴隷となるよう強制したことを、明瞭(めいりょう)であいまいさのないやり方で、公式に認め、謝罪し、歴史的責任を受け入れるべきである。
(2)日本国首相が公的な資格での公的な声明として、このような謝罪をするなら、誠実さと、これまでの声明〔注=河野談話のこと〕の地位をめぐって繰り返されてきた疑問を解くことに貢献するだろう。
(3)日本帝国軍のための「慰安婦」の性奴隷化や人身取引などはなかったといういかなる主張に対しても、明確に公式に反ばくすべきである。そして、
(4)「慰安婦」に関する国際社会の提案に従うとともに、この恐るべき犯罪について現在と将来の世代を教育すべきである。
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