自衛隊情報保全隊による国民監視問題をめぐる、国会の中でのやりとりである。
共産党の志位氏は4つの問題点を整理している。
①事実を認めながら、最高裁判決をも否定する開き直りの姿勢をとっている。
②イラク派兵以外の問題については、「あわせて記録した」という偽りの答弁を行った。
③それを示せば「手の内が知れる」(防衛事務次官)との本音のもとに、文書は「3週間くらいで破棄してしまった」との言い逃れをしている。
④イラク派兵反対運動の監視理由を、派兵の是非の判断材料だというが、その判断は国民の代表が国会や政府で決めること。文民統制を無視した自衛隊の「暴走」にもつながりかねない。
まったくもって、ことは重大である。
監視の事実を告発するのか、反対に、それを自らの口を封ずる理由とするのか。
わずかな勇気の発揮が、主権者たる国民に求められている。
自衛隊の国民監視にたいする政府・防衛省の対応について 志位委員長の会見 (大要)(しんぶん赤旗、6月8日)
日本共産党の志位和夫委員長は七日、自衛隊による違憲・違法な国民監視活動に対する政府・防衛省の対応に対する党の立場について述べました。その内容(大要)は次の通りです。
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昨日(六日)、自衛隊の情報保全隊による国民に対する違憲・違法の監視活動について内部文書を明らかにしました。これに対し、国民のみなさんから非常に強い怒りの声が寄せられています。メディアの報道をみても、直接に監視対象とされた方々が、次々と怒りの声をあげ、「まるで戦前の特高警察のようだ」「憲兵隊を思わせる」などの声が広がっています。
こうした国民の怒りの声の広がりのもとで、昨日と今日(七日)の政府・防衛省の対応の問題点、わが党の立場について四点ほどのべます。
政府の対応――「何が問題だ」という居直りに終始
第一は、政府・防衛省側は、わが党が提起した内部資料について否定ができなくなり、情報保全隊が国民を対象にした監視活動を日常的に行っているという事実を認めました。しかし、政府側の対応の特徴は、問題の重大性を認めようとせず、一言でいって「何が問題だ」というべき居直りに終始しており、これはきわめて重大です。
今日(七日)の参院外交防衛委員会の質疑の中で、久間防衛相は「公然とおこなった集会やデモの情報を集めて何が悪い」と答弁しました。しかし、報道機関が取材するのとは違い、国家権力の中枢にある自衛隊の隊員が、身分を隠して、情報収集を目的に集会やデモに入ってくる。こうした行為を、普通スパイというのです。それが当然だという議論は、国民にとうてい通用する話ではありません。
今日の久間大臣の答弁を聞いて驚いたのは、明白な違法行為として、私が指摘した、集会やデモ参加者への写真撮影についても「当然の活動だ」「必要に応じて行っている」と居直ったことです。
しかも、その合理化の理由として、報道機関が行っている写真撮影と同列に置いて、「マスメディアもやっているのだから、自衛隊がやって何が悪い」と居直ったのは、ことの是非をまったく理解していない重大な答弁です。
一九六九年の最高裁大法廷判決では、「憲法一三条は、……国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定している」とし、こうした立場から「何人も、その承諾なしに、みだりにその容貌(ようぼう)・姿態を撮影されない自由を有するものというべきである」として、「国家権力」からの肖像権の保護をのべています。さらにこの判決では、この立場から、警察であっても、具体的な犯罪行為がなければ、集会やデモ参加者への写真撮影を行うことは違法行為だとの判定をくだしました。ましてや、自衛隊が行うことは、明白な違法行為だと私は指摘しました。
報道機関が行う写真撮影というのは、「国家権力」によるものではなく、まったく別の次元の活動です。ところが今日の答弁では、報道機関と自衛隊を同列に置いて、自衛隊による写真撮影は「問題はない」と居直ったというのは非常に重大です。これは、これまでも違法活動をやっているし、今後もやると宣言していることになります。
批判に答えられず、ごまかしの答弁を始めた
第二に、私は、昨日の会見の中で、こうした自衛隊による国民監視活動は、情報保全隊がその建前としている任務からもまったく説明ができない、大きく逸脱したものだと批判しました。とりわけ、「年金」「医療費」「春闘」の問題なども監視対象にしていますが、これらは「防衛」とも、「防衛機密」とも、何の関係もなく、情報保全隊の任務からもまったく説明できない逸脱行為、違法行為だとのべました。
今日のマスメディアの報道をみますと、防衛省の中からも、さすがに「たしかに説明できないことが(内部文書に)書かれている」という声が出されたことが報道されています。
今日の質疑の中で、久間大臣は、この批判に対しては答えられなくなって、まったくのごまかしの答弁を始めました。久間大臣は、「イラク派遣の問題について情報収集に行ったときに、年金問題などもあったので、あわせて記録した」といいました。しかし、昨日発表した内部文書をみれば、「あわせて記録」したなどというものではありません。「年金」にしても「医療」についても「春闘」についても、単独で記載されています。そこを追及されて、政府・防衛省は、説明に窮し、「あわせて記録」したなどと、まったくのごまかしの、虚偽の答弁をしたのです。これは許せません。
さらに政府・防衛省は、「イラク派遣への反対運動から、自衛隊員と家族を守るためにしたことだ」という言い訳を始めていますが、これはおよそ成り立たないものです。だいたい高校生の「ピース・ウオーク」が、どうして自衛隊員や家族に危害を加えるものになるというのか。あるメディアの社説は、この言い訳について、「とても通用する理屈でない」と一蹴(いっしゅう)していますが、そういうきびしい批判があがるのは当然です。
情報保全隊の建前のうえでの任務からもまったく逸脱したことでも、「逸脱していない。これは当然の活動なのだ」ということになれば、情報保全隊がおこなう情報収集活動――国民監視活動が、際限なく広がっていくことになります。これも絶対に許せないことです。
活動が「当然」というなら、なぜ実態を報告できないのか
第三に、わが党が、情報保全隊の実態を調査し、国会に報告することを求めたのに対し、久間大臣は拒否する態度をとりました。これも、まったく許せない、また道理のたたない態度です。
だいたい、「情報保全隊がおこなっている活動は、当然の活動だ」というのならば、なぜその内容を報告することができないのか。
久間大臣は、文書は「三週間くらいで破棄してしまった。だから確かめようがない」と言い訳をしました。すべての文書が、電子データを含めて破棄されたなど、ありえないことです。また、情報保全隊は存在しているわけですから、わが党が提示した内部文書が真正なものかどうか、情報保全隊の隊員に確認すればすむことです。調査の意思さえあれば、調査できるはずです。
さらに政府・防衛省は、「情報保全隊の活動はずっと続けている」という趣旨のことも言っており、「秘密でも何でもない」というのであれば、現在保管しているものを提出することに何の不都合もないはずです。「実態を明らかにせよ」という要求を拒否したのは、国民の代表者で構成する国会に対しての拒否回答であり、重大問題です。
防衛事務次官は、文書を明らかにすれば「手の内が知れる」といったそうです。語るに落ちるとはこのことです。国民に「手の内」を知られて困る活動をやっているということにもなる。それこそ言語道断です。情報保全隊の活動の全容を明らかにすることを、引き続き強く求めていきます。
文民統制を政治の側から投げ捨てるもの
第四に、情報保全隊は何のためにこうした活動をやっているか。この問題についての久間大臣の答弁が非常に重大です。
大臣は、情報保全隊がイラク派兵にたいする反対運動を監視することについて、「国民の盛り上がりのなかで、非常に多くなってくればやめようという判断材料になるし、反対が少なかったら堂々とやれる」と答弁しました。つまり、自衛隊のイラク派兵についての国民の反対動向を、自衛隊自身が調べて、自衛隊が自らの活動の「判断材料」にしていくのは当たり前だという考え方が、ここには示されています。
しかし、イラク派兵の是非というのは、自衛隊が判断することではないのです。政治が判断するべき問題であり、国会と政府のみがその判断をおこなう決定権限をもっているわけで、これが文民統制です。自衛隊は政治的に中立であるべきで、政治がどんな判断をしようと、それに従うというのが自衛隊の文民統制の大原則です。
自衛隊が、自分で自衛隊の活動に反対する運動についての情報収集をおこない、自分の活動をすすめるうえでの「判断材料」にしていくならば、これは文民統制を無視した自衛隊の暴走ということにつながっていきます。大臣の答弁は、それをまったく理解していないもので、きわめて重大です。久間大臣の答弁は、政治の側から自衛隊に対する文民統制を投げ捨てるものだといわなければなりません。
違憲・違法な活動を中止させるまで力をつくす
以上、四点をのべましたが、憲法二一条、一九条、一三条などを踏みにじる、国民の基本的人権と民主主義を蹂躙(じゅうりん)する大問題が問われているにもかかわらず、政府・防衛省は動かぬ証拠をつきつけられ、追い詰められて、あの内部文書を否定できなくなり、居直りとごまかしで対応しようとしています。しかし、この問題は、そうした居直りとごまかしが通用する問題では決してありません。わが党は、こうした違憲・違法な活動を中止させるまで、引き続き力をつくしていくつもりです。
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