2006年4月11日(火)……和歌山で計画中のジェンダー講座の「よびかけ文」
内容は,まだ若干変更の可能性ありです。
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『ジェンダーと史的唯物論』を学びましょう!
ジェンダーとは何か
和歌山のみなさん,ごぶさたしています。神戸女学院大学の石川です。今回は夏の熱い時期になりますが,鰺坂真編『ジェンダーと史的唯物論』(2005年,学習の友社)を基本テキストに一緒に学びたいと思います。ぜひご参加ください。
ジェンダーといわれると「何のことか?」と思われる方も少なくないかも知れません。ジェンダーとは,歴史的に変化していく男女の社会関係のことです。
「男は仕事,女は家庭」。こうした男女の役割分業はヨーロッパでも19世紀からのことであり,日本で広がるのは,戦後の高度成長期のことです。では,それ以前の家庭や経済における男女の配置はいったいどうなっていたでしょう。
正解は「男も女も生活のために働いていた」です。もっぱら家事だけを行なう大量の女性というのは,資本主義になってはじめてあらわれます。
生産関係に歴史の変化があるように,男女の関係もやはり歴史的に変化します。ジェンダー論とは,いろいろな社会関係のなかから男女の社会的関係の内容や変化を探究しようという学問です。それは科学的社会主義の社会理論にとっても重要なものです。
エンゲルスの先駆的な研究
科学的社会主義の立場からのジェンダー研究については,エンゲルスの『家族,私有財産および国家の起源』が有名です。
そこには,ジェンダーという用語はつかわれていませんが,エンゲルスは男女が平等であった原始の時代が,私有財産制度の成立とともに男性支配にかわっていくといった歴史の変化,また男には妾(めかけ)がゆるされ,女には貞節が求められるなど,婚姻における男女の不平等な関係がどうつくられたかなどを分析しています。
「科学的社会主義は男性中心主義で,ジェンダーブラインド(じェンダー問題が視野の外に落ちている)」という批判がありますが,マルクスにもエンゲルスにも最初からそうした視点は含まれています。
とりわけ,エンゲルスの卓見は,男女の関係がそれだけで独自に変化するのでなく,生産関係の変化といった社会全体の大きな変化に連動していることを明らかにした点にありました。
つまり男女関係の改革には「男性中心主義の意識」の改革だけでなく,そのような「意識」を大量につくりだす現実の歴史的関係(企業の中の制度,婚姻をめぐる制度等々)の改革が必要なのです。これは当日の学問としては画期的な成果でした。ここは現代のフェミニズムもしっかりと継承するべき問題です。
歴史と学問の発展を受けて
その一方で,エンゲルスの著書からすでに110年がすぎています。そのあいだに人間の社会には大きな変化がありました。
女性たちの自由と自立,男女平等を求める運動は大きく発展し,日本国憲法24条をどう具体化するかが重大課題となっています。また「男女差別撤廃」は途上国をふくめた世界的全体の取り組みとなっています。
こうして男女平等の進展についは,大きな前進的な変化がありました。他方で,それでも残される不平等の払拭に向けて,さまざまなフェミニズム(女性解放の理論と運動)が生まれています。
科学的社会主義にも,このような現実の変化に対応した新しい理論の展開が求められます。特に,エンゲルスは女性の完全な解放には未来社会への移行が必要だとしましたが,北欧などでは資本主義の枠内においても男女の平等が大きく進んでいます。
「科学的社会主義は男女平等を未来社会まで先のばしにする」という批判もあります。このような批判に正しくこたえるためにも,科学的社会主義の側にも新しい理論的挑戦が必要になっていると思います。
フェミニズムの理論や運動の誤りについても
同時に,フェミニズムの活発な研究の中には,科学的社会主義への誤解にもとづく批判や,社会理論の不十分さによる問題点も含まれます。女性の自由と自立をすすめるためには,この誤りを克服していく取り組みが重要です。
「マルクス主義は男女平等に鈍感だ」という批判もあり,これには現実の運動における「男性中心主義」(男性役員中心・女性は補佐役,性差別に鈍感等)についての真摯な自己点検とともに,そもそもの史的唯物論や『資本論』が男女関係の分析にどのような力を発揮しているかを示すことが必要になっています。
現代日本の問題としては,ジェンダーフリーバッシングとの闘いや,そうした動きが生まれる日本社会の特徴の分析が必要です。労働分野での女性差別との闘いの前進を正当に評価する視角ももちろん大切です。
またこれらは自民党等による憲法24条改悪の強い執念への分析ともむすびつくものです。理論問題としては,環境問題と女性,生殖医療と女性,フェミニズムの運動論や社会認識の方法といった領域にも,重要な論点がふくまれています。
科学的社会主義からの初めての本格的著作
鰺坂真編『ジェンダーと史的唯物論』(2005年,学習の友社)は,以上のような問題意識を含みこんで書かれた著作です。この本は,最近のフェミニズムやジェンダー論の展開を視野にいれた,科学的社会主義の立場からの初の本格的な著作といっていいでしょう。
初めての著作であるために粗削りなところもあり,また執筆者たちのあいだにも完全な意見の一致があるわけではありません。
しかし,この本を材料に,学び,考えることは,政治や経済と男女関係のかかわりを考え,科学的社会主義の社会理論の幅とふところの広さをあらためて実感するものとなるでしょう。
また男女平等をすすめる取り組みの大切さを再確認し,それをどう進めていくかをあらためて考える新鮮な機会ともなるでしょう。
さらには私たちのものの見方,運動のすすめ方,組織のあり方などにしみついた「男性中心主義」を自己点検する機会としていくことも可能でしょう。
憲法改悪との闘いは,24条の改悪に対する女性たちの強く広い抵抗の力を生み出しています。そうした取り組みの重要性や男女の平等を求める女性たちの社会改革にむけた潜在的なエネルギーの強さに目を向ける上でも,大いに役に立つ講座になるものと思います。
7月15日(土)――第1講・エンゲルスの解明と現代の社会
男女関係の現在(主婦とは何か,企業の中の男女差別)を学び,エンゲルス『起源』の解明と今日的な課題との関係について考えます。
〔使用文献〕石川康宏『現代を探究する経済学』第2部,鰺坂真編『ジェンダーと史的唯物論』第1章。
7月29日(土)――第2講・史的唯物論・『資本論』のジェンダー分析
唯物論の見地からマルクスの理論にふくまれるジェンダー分析の成果と,その発展的な展望や課題を示します。
〔使用文献〕『ジェンダーと史的唯物論』第2・3章。
8月05日(土)――第3講・日本史の中のジェンダー問題
男女関係の実際のあり方を,原始から現代までの長い日本の歴史の中に追求してみます。特に,労働,婚姻と家庭,買売春の歴史に注目したいと思います。
〔使用文献〕歴史教育者協議会編『学びあう女と男の日本史』全体。
8月19日(土)――第4講・「慰安婦」問題と憲法24条
現代の社会が直面している具体的な問題から,「慰安婦」問題(男女差別だけでなく国家による犯罪の面,民族差別の面などありますが)と憲法24条をめぐる問題をとりあげたいと思います。
〔使用文献〕石川康宏ゼミナール『「慰安婦」と出会った女子大生たち』,『ジェンダーと史的唯物論』第5章。
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