以下は,和歌山学習協主催の講座「ジェンダーと史的唯物論」の最後の感想に対するコメントです。
事務局の方から,講座参加のみなさんに届けていただけるものだそうです。
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〔2006年夏「ジェンダーと史的唯物論」講座〕
講師のつぶやき(5)
2006年9月5日
神戸女学院大学・石川康宏
http://walumono.typepad.jp/
和歌山のみなさん,4回の講座へのご参加おつかれさまでした。
昨日(9月4日),学習協の松野さんから,講座「ジェンダーと史的唯物論」第4講の質問と感想をいただきました。これがこの講座にかかわる最後の「つぶやき」です。
今回は,直接内容にかかわるご質問はありませんでした。以下,さっそくみなさんの文章を紹介し,ごく簡単にコメントをつけていきます。一部書き換えてある場合があります。ご了承ください。
◇「ジェンダー・フリー」バッシングの内容と、それがいかに根拠のないものかがよくわかりました。憲法24条で具体的な家族形態を特定していないのは、どんな家族の形態でも個人が尊重されるようにだという話が印象に残りました。
「慰安婦」問題について学んでみて、石川先生の本を読んだ時もその内容に衝撃をうけ、この問題を解決するために自分に何ができるだろう?と考えましたが、今回話を聞いて改めて色々と考えさせられました。戦争で何があったのか、そのことをくりかえさないためにどうすればいいのかを学び、できることから行動を始めることが大事だと思いました。ハルモニの訴えが、世界中の戦時性暴力をなくす活動の先頭にあるという話を聞いて、本当にこれは人類の課題なんだと思ったし、世界中の人たちと連帯して運動することが大事だと思いました。いろんな角度から学ぶきっかけを与えてくれたことに感謝しています。どうもありがとうございました。石川先生、本当にありがとうございました。
──今回の学びをきっかけに,ぜひ学習の幅をひろげていただけたらと思います。
◇石川先生、ジェンダーに関する体系的な講義をありがとうございました。日本社会を民主的に改革していく上での大切な視点を学ぶことができました。これを自分のものにして、現実を変える力としていけるかは今後の独習にかかっていると思います。
日本は侵略戦争の歴史を反省せず、責任を取っていませんが、「慰安婦」問題も大事な事柄だと改めて思いました。
──社会というのは多面的ですね。いまある理論の枠組みから現実を見るのでなく,現実そのものをまるごととらえようとする姿勢が必要なのだと思います。
◇なかなかじっくりと一冊の本を読み終えられない中、「『慰安婦』と出会った女子大生たち」はすぐに読み終えました。いつかこの問題をとりあげた集会を聞きたいと思いました。特に若い人たちに向けて取り組みたいと思います。
前回の講義の中で、「勉強することは、わからないことでも、うじうじしながらも続けていればいつか判る時がくる。その時まであきらめずに続けることが大切ということ」ということが心に残っています。ありがとうございました。
──講座でも紹介しましたが,戦争の問題や「慰安婦」問題を学ぶ上では,たくさんのビデオが活用できると思います。また,学びにはある程度の「量」が必要です。ポンと上に抜ける瞬間がやってくるまで,あせらず気楽につづけてください。
◇ジェンダーやジェンダー・フリーと言う言葉を理解しているつもりでいたが、少し間違った受け取り方をしていたのかもしれない。
慰安婦という言葉に対し、違和感があり不思議に思っていましたが、今回の説明で理解できました。
4回通して、私が得たものは、そう簡単には、男女差別はなくならないという現実です。今まで、なぜ男性優位の社会になっていったのか、なぜフェミニストと呼ばれる人達は、マルクスを批判しているのか、どうしてこんなに日本は男女平等が進まないのか、疑問だらけでした。それを理解するために、この講座を受講しました。が、結果、とても4回では理解しきれない事でした。今後は購入した著書を読みかえし、さらに考えてみたいと思います。
ちなみに男性優位社会ゆえに、どうしても男性を目のかたきにした発言や考えになってしまいます。男性は男性でつらい立場でもある訳ですが、栄養ドリンクを飲んでまで頑張らなくてもいいのにと、少々気の毒にすら思います。
日本がだれにとっても生きやすい国になってほしいと願いつつ投票していますが……
──より良い社会をめざすためには,どこをどうかえていくかというポイントを正しくつかむことが必要です。財界中心の社会づくりに男性優位がうまくはめこまれている。ここの関係を,もっと豊かに理解していく必要があるのでしょうね。私自身も研究課題だと思っています。
◇私の母は、京城で生まれ、16才で引き上げて来ました。生まれた時には父親を病気で亡くしており、釜山から九州(港名は失念しました)への引き上げ船の中で(姉と2人で)母を亡くしました。朝、目覚めたら船内のどこにも祖母の姿はなかったそうです。
昨年、75才になった母を60年ぶりにソウルに連れて行きました。戦争は母から親もふるさとも奪ってしまいました。一度もソウルに行きたいと言ったことはありませんでした。関空から日本海の上を飛んだ時、「下が海よ」と声をかけましたら、返事がありません。後で聞きますと、祖母を想って涙が止まらなかったのだということです。戦争とは本当にむごいものですね。4回、ありがとうございました。
──戦争は「もう終わった昔のこと」ではないわけですね。今を生きているたくさんの人の心に,様々な思いが生きています。そういう人は日本にもアジアにも,本当にたくさんいるわけです。そのそれぞれの人のつらさに思いを寄せる政治がつくりたいですよね。
◇「慰安婦」とされたハルモニたちが、民間の賠償を拒み、国家の謝罪にこだわっているということは今まで知らなかった。
元日本軍兵士の「人を殺すことはいけないことだと誰かが教えてくれていたら」という話も印象的だった。3回しか出席できませんでしたが、今回の講義たいへん勉強になりました。
──戦争のことはある程度まで知っていても,侵略と植民地支配の責任をこの国がどうとったか(とらなかったか)については,なかなか勉強する機会がありませんね。そこは目的意識をもって自分で補っていく必要があるのだと思います。
◇闘う勇気が大切だとよくわかった。今、教育改革と偉そうに叫ぶ人達は、「命は大切である」なんて言う一方で、その子ども達の命や人生、幸せの大切さをわかってはいないように思います。結局は、国や権力者の都合で改革という名のもとに、自分達のいいようにしたいただのわがまま、えらそうに「子どもは……」なんていう前に自分達が「子ども」なのだと思う。
今の日本では男女が本当に平等なのかという問いは、現場で生徒に聞いてみて考えさせたいと思います。自分自身よく考えたいです。
戦時性暴力を含むすべての責任を認めない、謝罪しないという日本の責任は、安倍くんの言う「美しい」日本とは、かけはなれたものだなあと思うし、私達自身の人間としての「美しさ」も問われるなあと思います。
──そうですね。そもそも,いつまでも自民党政権がつづいているというところに,この国の主権者である国民の政治的未熟を痛感させられますね。そして,その未熟さをなかなか乗り越えられないところに,よりましな社会をめざす取り組みの弱さもあるわけです。
◇松井やよりさんの存在を初めて知りました。こんなすごい人がいたのをこれまで全く知らなかったことに驚きました。
三回しか講義を受けられなかったですが、これからの学習の仕方「計画性をもて学習すること」が印象に残りました。今回学んだことを今後の自分の活動に生かしていきたいと思いました。
──講座でも紹介しましたが,松井さんの自伝『愛と怒り たたかう勇気』(岩波新書)は,個々の問題での意見の違いはあっても,その前向きな生き方にとても励まされる本です。とくに女性のみなさんにはそうであろうと思います。
◇、事実を認めたくない右の人たちが、よく、「賠償」は済んでいる、という根拠に使うので、日韓基本条約の経過や内容、……調べてみたいと思います。
ハルモニの「日本人はきれいな国でいたいんだ」という発言が印象的でした。罪を自覚する、加害を償う、ということは、とてもつらくて苦しいことですが、日常生活のほんの小さな出来事でさえ、私たちはそれを乗り越えていかなければ、成長、成熟していくことはできないはずです。日本の政治家や国民の未熟さを追求する、鋭いひとことだと思いました。いろいろ、理不尽なことに、慣れてしまわず、ぶつかっていきたいです。
──学生たちとつくった1つ前の本である『ハルモニからの宿題』(2005年,冬弓舎)に「日本にあるアジアの侵略と戦後の無反省」という文章を書いておきました。戦前日本の社会,朝鮮半島への侵略,中国侵略からアジア太平洋戦争,戦後の反省におけるドイツとの対照性等が大きなテーマです。日韓基本条約の経過についても3ページほど書いてあります。よければ参考にしてください。
◇テレビで取り上げられて、何だろうと、興味はあったものの、恥ずかしながら私は靖国問題がまったくわかっていませんでした。慰安婦問題を通してその一角が理解できました。知らないことは恥、今後も勉強していきたいと思います。
子どもを保育園にあずけながら正社員で働くつもりです。入社予定の会社は部署が多く、会社側は当面(子どもが高学年になるまで)は保育園に合った勤務時間、曜日の所に配属してくれるそうです。資格職なので、キャリアアップして子どもに手がかからなくなって定年まで働きたいと思っています。(50才を過ぎて必要とされない自分になるのが嫌でした。)しかし実際、出産・子育てが正社員として働けない条件の会社が多く、女性にとって出産・子育てがネックとなっています。子育てはすばらしけど自分の人生も大事だし…と産むタイミング(?)を悩んだり、働きたい女性の再就職等の問題を解決して、女性が人生を充実して生き、子育てしやすい社会になってほしいと思います。
少子化は児童手当としてお金を受け取るだけでは解決しないと思います。
──「少子化」については『経済』の9月号が特集を組んでいます。日本の実情と課題,ヨーロッパなどとの違いなどについてです。私も資本主義経済と少子化の関係について,少し理論的に問題を考えて書いてみました。ご参考までに。
◇「慰安婦」のテキストを読んで、日本政府は世界中から非難の的、孤立化を深めているとひしひしと感じました。
Aさんは、1回生から石川ゼミ。Dさんは、石川先生のファン。BさんとFさんは、中学校で「慰安婦」、Eさんは、高校でこの言葉に出会っている。Cさん、Dさん、Fさんは、「ナルムの家」の報告会に参加。Aさん、Dさん、Eさんは、水曜集会に参加して発言。DさんとFさんは、高校で韓国語を勉強している。みなさんすごいですね。
和歌山で報告集会やってもらえませんか。主催者は、もちろん学習協となります。
今の社会情勢がわからないので、毎日起こっている出来事が自分とどうかかわっているのかわからないという問題がある。人それぞれ生活環境、人生経験、家族関係も異なる。当然、労働者でも学生でも学習を深めることになる。
私は聞き役にまわるが、人的つながりの度合いによって対話することになる。ここで一番気を付けておくべきことは何か教えて下さい。
参加した人々で一度短時間でもいいから座談会を開いたらどうでしょうか。石川先生独特のスピードについていかねばならない。労働組合等の会議なれていること、学習好きでなければならない。どのような講座をすれば人が多く集まるか、いろいろな意見だけでも出しあったらいいと思います。
──『女性のひろば』11月号に,3人の学生との座談会が掲載されます。またすでに大阪や兵庫などのいくつかの場所で,報告会をすることが決まっています。学生が高校生にしゃべる企画も生まれてきています。対話の件は,具体的事情に左右されますね。一般論としていえるのは,「上から教えてやる」という姿勢をもたないことでしょうか。相手の意見を尊重しながら,同じ目線で話し合う。対話の中には,必ず相手からも学べるところがあるはずです。また相手の悩みや思いを良く聞いてあげる姿勢も大切ですね。こちらが一方的にしゃべっても,それが相手の上をすべて素通りというのは案外ありがちなことですから。和歌山での企画については,和歌山のみなさんで話し合ってみてください。
最後は,やはり学習のすすめでしめくくっておきます。
学習には計画が必要です。「いい本が出たら読む」では,自分の知性を計画的に鍛えることはできません。たとえば3ケ月単位くらいで,はっきりと自分のテーマを決めて学ぶのです。そういう攻めの姿勢が必要です。たとえば9~12月は「今回の講座のテキストとそれに関連する文献を読んでいく」,来年1~3月は「日本の経済と消費税の関係を学ぶ」,4~6月は……というように。
そして,3ケ月ごとに最初に5冊の本を買います。どの本がいいかは,良く勉強している人に聞いて教えてもらうのが効率的です。学習協に相談するのもいいでしょう。本を手にいれる時には,最初に5冊買ってしまうことが大切です。「1冊読んだら次のを買う」とう覚悟では,だいたいが2冊目にすすむことはできません。
本を買いにいく時間がない,本屋が身近にないはいう場合も多いと思います。その場合には学習協を「本屋」として活用することです。それでもダメな場合は,ぜひインターネットで本を注文する力を身につけてください。メール1本で多くの本は1~2日以内で自宅に届きます。たとえば「アマゾン」で買うと,1500円以上の注文なら送料は無料です。
買った本にはボールペンなどで線や印,感想の書き込みなどしていきます。必ずペンをもって読むことです。そうしないと,目が文字を追っているだけで,どこが大切か,どうして大切かを何も考えずに読んでしまうことになります。
印をつけた箇所は,何かの会議で人にしゃべってみてください。「このあいだ読んだ本にこんなことが書いてあって」と。しゃべることで学んだことの整理がすすみ,忘れずあたまに残っていきます。そのためにも,そもそも各種の会議では「学習を交流する時間」をとることが必要です。
とはいえ,本はどの本もすべて精読するという必要はありません。自分にとって大事なところ,当面必要なところだけを集中的に読んで,ほかの箇所は,見出しだけながめていくといった,そんな読み方でもかまいません。肝心なことは,自分が当面の必要にそって成長することであって,苦行に耐えることではありませんから。
今回の講座での『女と男の日本史』のとばし読みの要領を思い出してください。たとえば「結婚制度」に感心があれば,それに関連するページだけを読めばいいし,「買売春」に関心があれば,やはり関係する箇所を同じように読めばいいわけです。
また「これはむずかしすぎる」「私にはわからない」という場合には,小見出しだけをひととおり最後まで読んで,「いずれこういう本が読めるようになろう」と思って,本棚にいれておけばいいです。それでも小見出しを見ておけば,「こんなようなテーマについて書いてあるのだな」と,なんとなく予想がついて,後でかならず役に立つことになります。
他にもいろんな工夫はあるでしょうが。ようするに先ずは,自分の責任で自分を成長させる計画をしっかりもつことが大切です。いきあたりばったりでは決してかしこくなりません。そして,一人一人がかしこくならねば,日本社会全体もかしこくならないのです。
きっかけとなる「勉強のやり方」そのものを学ぶ企画があってもいいかも知れませんね。みなさんで考えてみてください。
では,またお会いしましょう。4回のおつきあい,ありがとうございました。
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