テキストに入る前に、日本経済や政治の現状を紹介していく。
1つの柱は、最近の政治に関する世論調査の結果から。
①鳩山政権への支持率が下がり、いわゆる「無党派層」が増えている。
②鳩山政権への失望がひろがっているが、自民回帰の傾向は小さい。「朝日」の調査では、鳩山政権でも政治は「変わらない」63%だが、それでも政権交代は「良かった」67%となっている。
③調査によっては「みんなの党」や共産党への期待の高まりが見られるが、固定された流れではない。ただし、「二大政党」以外への模索の動きは広くある。
2つ目の柱は、経済生活をめぐる政治の課題について。
①08年リーマンショック以前の10年(97年~07年)を比較すると、日本の経済停滞はG7各国で群を抜いている(GDP成長率カナダ73.7%、日本0.4%)。
②労働者の給与の変化も、これに比例するが、日本は唯一のマイナス変化の国となっている(雇用者報酬の伸び率イギリス73.4%、日本-5.2%)。
③ただし、資本金10億円以上企業の経常利益は、15.1兆円から32.3兆円に倍増しており、内部留保は142.4兆円から229.1兆円に増えている。
④この格別の「富と貧困の対立」が、GDPの約6割に対応する個人消費を圧迫し、日本経済の格別の長期停滞を生んできた。ここに深刻な構造上の問題がある。
⑤日本の相対的貧困率の高さは、税と社会保障などによる貧困対策の無力にもあらわれている。フランスは「市場所得の貧困率」24.1%を行政の力で「可処分所得の貧困率」6.0%に圧縮しているが、日本は16.5%を13.5%に縮めるのみ。その幅はアメリカよりも小さい。
⑥社会保障の充実にかかわり常に「財源不足」が問題となるが、1)法人税は43.3%から30%へと「税制改革」によって引き下げられてきた。2)所得税の最高税率低下や証券優遇税制などにより、所得に対する納税率は、70万円(0.8%)から5000万~1億円(26.5%)に上昇し、それをピークに、100億円以上(14.2%)へと低下する。こうした税制の転換も重要課題。
3つ目の柱は、鳩山政権の経済政策の実体について。
①労働者の給与減少の最大の要因は、99年の改定による派遣労働者の急増だが、政府による労働者派遣法の改定案は、1)すべての常用型派遣(製造業派遣の63%)と、2)登録型派遣の専門26業種(100万人)を、いまの状態に据え置くもの。
②農家の生活支援と食糧自給率引き上げにむけた「戸別所得補償」については、1)補償水準が低い、2)転作促進への補助金がカットされる、3)依然、農産物輸入自由化が推進されるという大きな問題がふくれまている。
③他にも、後期高齢者医療(75才以上)については2013年まで据え置きで、さらに同年からは65才以上を現在の75才側におしやるものとなっており、社会保障についての最低基準引き下げが保育の分野からすすめられている、子ども手当てについても所得税と住民税の年少扶養控除廃止など、一方での国民負担増との引換策となっている。
④これらの行き詰まりの主因は「財源不足」とされているが、1)年間5兆円の軍事費や、2)大企業・大資産家優遇税制には手をつけないものとなっている。その狭い枠の中でのカネの移動が「事業仕分け」。他方で「埋蔵金」の活用となっている。
4つ目の柱は、消費税増税問題について。
①日本経団連からあらためて2011年度からの税率引き上げ提案があり、「たちあがれ日本」などいくつかの新党も消費税増税を主張し、鳩山内閣内部にもこれを容認する声がある。
②これが一層の個人消費の圧迫につながり、日本経済の停滞をさらに深刻なものとするのは過去の歴史を見れば明白。日本経団連は今回の文書でも「法人税への過度な依存」を問題にしているが、逆に、そこをヨーロッパ並にもどしていくことこそ課題となる。
③日本経団連は、ヨーロッパに比べて日本の消費税率が低いことを問題にしているが、1)たとえば標準税率17.5%のイギリスは、食料品・医薬品・交通などは税率0となっており、また、医療・教育・郵便・福祉などはそもそも非課税となっている、2)さらに消費税(付加価値税)は貧富の格差を広げるが、EU諸国ではそれによる格差を逆転させる所得税の累進制をもっている。
④このように、1)EUの消費税は生活必需品を例外としている、2)所得税については高い累進制をもっているなどの相違を不問にしながら、単純な税率の比較から消費税増税を正当化するのは、到底フェアな議論といえない。
5つ目の柱は、7月の参議院選挙について。
経済の健全な活性化をめざし、学生たちの就職率を引き上げ、国民の生活改善を望むならばどのような経済政策が必要になるか。
そのことについての学問にもとづく判断をしっかりもってもらいたい。
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