以下は,NHK「慰安婦」番組改竄をめぐる東京高裁判決を受けての,VAWW-NETジャパン(原告)によるあらためての声明です。
番組を製作する側の「編集の自由」の問題や,「政治圧力」が認められなかったとする誤った判決理解など,判決以後のいくつかの問題に対応したものとなっています。
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VAWW-NETジャパン声明
NHK番組改ざんを巡る控訴審勝訴の判決を受けて
1月29日、東京高等裁判所でNHK番組改ざんを巡る裁判の控訴審判決が言い
渡されました。南敏文裁判長は、本件の経過の下では「期待と信頼を抱くのも
やむを得ない特段の事情がある」として、VAWW-NETジャパン(以下、バウネッ
ト)が主張してきた「期待権の侵害」と「説明義務違反」を認め、NHKの責
任は最も重いとしつつ、番組制作に関わったNEP21と番組制作会社ドキュメ
ンタリー・ジャパン三者の共同不法行為を認定し、200万円の賠償支払いを命
じました。ただし、松井やより個人の損害については「バウネットの無形の損
害が回復されれば松井の損害も回復される関係にある」として認められません
でした。この点は残念ですが、一審で不問にされたNHKの改変行為が覆さ
れ、三者の共同不法行為が認められたことは、大変画期的な判決でした。
2001年7月24日に提訴して以来、5年半に及ぶ苦しい闘いでしたが、皆様の温か
いご支援に大変勇気づけられてきました。心から感謝いたします。
□「編集権の濫用・逸脱」と断罪
判決は、一審判決で不問にされたNHKの改変行為を「編集権を自ら放棄した
ものに等し」「NHKの本件番組の制作・放送については、憲法で保障された
編集の権限を濫用し、又は逸脱したものといわざるを得ず、放送事業者に保障
された放送番組編集の自由の範囲内のものであると主張することは到底できな
い」と認定しました。
□「期待権の侵害」「説明義務違反」を「特段の事情」の下に認定
バウネットが主張してきた「説明義務違反」について、放送された番組はバウ
ネットに説明されたものと「相当かけ離れた内容となった」「バウネットは説
明を受けていれば、自己決定権の一態様として番組から離脱することや善処方
を申し入れたり、他の報道機関等に実情を説明して対抗的な報道を求めたりす
ること等ができたが、被告らが説明義務を果たさなかった結果、これらの手段
を採ることができなくなったのであり、その法的利益を侵害されたというべき
である」と、説明義務を怠ったことによるNHKらの不法行為責任を認めまし
た。これは「特段の事情」を認めた上での判断で、判決は「特段の事情がある
ときに限り、これを説明する法的な義務を負うと解するのが相当である」と、
説明義務が全てのケースに当てはまる権利ではないことをはっきり指摘しまし
た。
もう一方の主張である「期待権の侵害」については、「取材対象者がそのような
期待を抱くのもやむを得ない特段の事情が認められるときは、番組制作者の編
集の自由もそれに応じて一定の制約を受け、取材対象者の番組内容に対する期
待と信頼が法的に保護されるべき」として、このケースに「特段の事情」があ
るとして「期待権の侵害」を認めました。
一部のメディアは「期待権」と「説明義務」が認定されたことに対して「取材
現場を萎縮させる懸念がある」と論じていますが、判決は「特段の事情」が認
められる場合に自己決定権に基礎付けられた期待権が保護され、また、説明義
務が認められると判示しており、判決は「編集の自由」や取材行為の制約を一
般化するものではありません。
□「政治圧力は認められなかった」という誤報について
NHKや一部のメディアは「政治的圧力は認められなかった」としています
が、判決は「具体的な話や示唆」については松尾・野島両氏の証言からは断定
できないといっているに過ぎず、政治圧力がなかったとは言っていません。
そもそもNHKが安倍氏ら国会議員に放送前の番組について説明することにな
った経緯は、予算説明が始まった頃「『日本の前途と歴史教育を考える若手議
員の会』所属の議員らが、昨年12月に行われた女性国際戦犯法廷を話題にして
いる」「予算説明に行った際には必ず話題にされるであろうから、きちんと説
明できるように用意しておいた方が良いといった趣旨の示唆を与えられた」か
らで、編集への上層部の介入は、政治家に説明を「示唆された」(=求められ
た)ことに端を発しています。
判決は、「本件番組が予算編成等に影響を与えることがないようにしたいとの
思惑から、説明のために松尾と野島が国会議員等との接触を図り」「松尾と野
島が相手方の発言を必要以上に重く受け止め、その意図を忖度してできるだけ
当たり障りのないような番組にすることを考えて試写に臨み、その結果、その
ような形にすべく本件番組について直接指示、修正を繰り返して改編が行われ
たものと認められる」と、NHKが予算承認を前に政治家に過剰に反応し、政
治家の意図を汲む改変を行ったことを厳しく指摘しました。これは、NHKが
政治家の話を圧力と感じて改変したことを示しており、判決が「政治圧力を否
定した」というのは正確な表現とはいえません。
□NHKと関係政治家に猛省と謝罪を求める
NHKは判決を不服として即刻上告しました。このことは、NHKがいかに今
回の事件について反省していないか、未だ政治家の顔色を伺っているかを示し
ています。私たちは、NHKが真摯に判決に向き合い、上告を取り下げ、その
過ちを猛省し、バウネットをはじめ視聴者・市民に心から謝罪することを強く
求めます。
また、「放送の自律」を脅かした安倍氏らが謙虚に判決に向き合い、自らの言
動の過ちを認め、心からの謝罪を表明し、二度とこのようなことを繰り返さな
い決意を示すことを強く求めます。
2007年2月8日
「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(VAWW-NETジャパン)
共同代表:西野瑠美子・東海林路得子/ 運営委員一同
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