米下院議員に議会調査局作成の報告書「日本軍慰安婦システム」が配布されているが,その作成者であるニクシュ氏へのインタビュー。
氏は,河野談話を出した宮沢政権と今日の安倍政権との見解の相違を重視し,さらに日本の歴史修正主義者の主張をつきつめれば戦争責任はアメリカにあるものとなり,それは日米同盟にとっても危険であると指摘する。
当面の日米同盟を重視する立場から,「慰安婦」問題は脇におこうとの議論が米議会にもあるわけだが,これは同じ同盟重視の立場からのこれに対する正面からの反論となっている。
こうした見解が下院の多数の議員に支持されることの現代的な意味は大きい。問題は未来と切り離された過去の評価ではなく,日米関係の現代と未来に直接かかわるものとなっている。
「日本の歴史修正の動き、日米同盟にも悪影響」 ニクシュ博士にインタビュー(東亜日報,4月24日)
今週は、米下院に提出された日本軍慰安婦強制動員糾弾決議案のゆくえを占う分水嶺になるものとみえる。26日に米国を訪れる日本の安倍晋三首相は最近数日間、相次いで「謝罪」という単語を口にした。強制動員の証拠がないと強弁した先月に比べ、ひょう変と言っていいほどしっぽを下げ、事前準備に集中しているようだ。安倍首相の訪米後、決議案を本格的に論議する米下院議員たちに最近、議会調査局(CRS)が作成した公式報告書が配布された。「日本軍慰安婦システム」というタイトルの23頁の報告書は、客観的で中立的な論調を維持しながらも、第2次世界大戦当時、日本軍と日本政府が慰安婦募集および強制動員に直接介入したことを明確に論証した。同報告書の作成者である議会調査局のラリー・ニクシュ博士にインタビューし、報告書の意味と作成経緯を聞いた。
――米議会で慰安婦問題の報告書を作成した経緯はどういったものか。
「議会調査局レベルで決定した。議会の高い関心のためだった。日本の過去事問題に対する議会の関心は、先の議会から高まった。05年にヘンリー・ハイド国際関係委員長は、東京裁判の判決を認めない日本国内の歴史修正論者たちに、太平洋戦争終戦60周年の決議案で明確なメッセージを投じたことがある。今年1月31日にマイケル・ホンダ議員が提出した決議案に、すでに70人(在米韓国人団体によると83人)を上回る議員が支持署名をした。これは大変な数だ」
ニクシュ博士は同報告書で、米軍がミャンマーで発見した韓国出身「慰安婦」約20人の証言やアンダー・ウッド博士が米政府に報告した日本軍の記録を含め、多くの資料を引用した。このなかで最も目につくのは、オランダ政府の公式文書だ。
オランダ国立文書保管所にある1947年と1948年のオランダ戦犯裁判の記録には、1942年に日本軍がインドネシアに進駐した直後、軍監督の下、オランダ女性たちを収容所から慰安所に連れていったという証言や日本軍将校の審問内容が記されている。当時、数人の日本軍将校が有罪判決を受けたことが明らかになっている。
――これらの証拠の存在を日本政府の指導者たちも知っているのか。
「オランダの文書は私が探し出したのではなく、日本の学者たちが発見したものだ。安倍内閣と自民党指導部が同文書の存在を知っているとは確信できない。私としても彼らに聞いてみたい。根本的な問題は、河野談話が出た1993年当時の宮沢政府の見解と安倍政府の見解が大きく異なるという点だ。宮沢政府は、信じられる証拠や被害者の証言を『証拠』として受け入れたが、安倍政府はこれを『証拠』として認めないと明確にしている」
――同報告書に提示されたことだけで、日本軍の介入および強制動員の証拠は十分でないのか。
「安倍政府と議会指導部も、政府と軍の介入を否定しない。しかし彼らが主張しようとする核心は、『慰安婦募集が軍によって行われたのではなく、強圧的な方法も使わなかった』ということだ。ところが、様々な国の出身の多くの女性の証言を信じられる証拠として受け入れれば、そのような主張は根拠がなくなる。さらに重要な点は、若干の例外を除けば、多くの女性が慰安所から出たくても出ることができなかったという点だ。慰安所から脱出した韓国人女性たちが日中戦線をかいくぐって中国に入り、米軍関係者のインタビューを受けた記録がある。彼らが自発的に慰安所を出ることができる状況だったなら、危険な脱出をあえて行って戦線を越えることなく、韓国に帰ったはずだ」
――米議会の同問題への関心は、人権という普遍的価値のためか。
「ハイド前委員長は、第2次大戦時にフィリピンで戦った参戦勇士であり、トム・ラントス外交委院長はホロコーストの生存者だ。いっぽう、日本国内の歴史修正の動きは、長期的に日米同盟にも悪影響を及ぼす恐れがある。もし彼らが日本での影響力が大きくなり、日本人が自分たちは戦争当時起こったことに責任がないと考えるなら、戦争責任はだれが負うことになるのか。米国が有罪になると修正論者たちは主張する。そのような態度は、日米同盟にとって危険なものとなりうる」
――同報告書を作成する間、日本側は神経を使ったと思われるが、ロビーはなかったか。
「若干の接触があった。彼らは、安倍首相の声明書の全文と日本側の論理が書かれた資料を送り、問題を自分たちに有利に説明しようとした。外交委員会と議員たちにも同じ資料が送られた。しかし私は、韓国と日本のいずれからも圧力を受けなかったという自信がある。日本側も私の作業を尊重し、圧力が作用しないという事実もわかっていただろう」
――決議案通過の見通しをどうみるか。
「常任委と本会議に上程され投票に付される場合、通過されるものと信じる。昨年のレイン・エバンズ議員の決議案は、常任委に付された時点が中間選挙を控えた9月末で遅すぎたが、今回、上半期内の常任委で処理されれば、本会議に上程される可能性が高いだろう。しかし、投票に付されるかどうかは、ラントス委員長やナンシー・ペロシ議長をはじめとする指導部にかかっている」
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