シンガポールのリー・クアンユー顧問相が、東アジア共同体を論じている。
EUとは異なる多様性を理由に、構築の困難は大きいとするが、他方でそれを乗り越えるためにはASEANが中心になるべきだともいう。
加盟国については、すでに東アジアサミットに加わっているニュージーランドとオーストラリアについては賛成だが、アメリカとロシアについては反対。
15~20年後にアジア全域のFTAを実現し、さらに20~30年後に共同体を構築するとの見通しも示している。
リー・クアンユ―・シンガポール顧問相が御手洗会長を表敬 -東アジア共同体の構築めぐり活発に意見交換(日本経団連タイムス、6月7日)
5月24日、来日中のリー・クアンユー・シンガポール共和国顧問相が東京・大手町の経団連会館に御手洗冨士夫日本経団連会長を表敬訪問し、同席した米倉弘昌副会長を交え、主に東アジア共同体の構築をめぐって活発な意見交換を行った。
リー顧問相は、東アジア共同体形成に向けた動きは今後ますます活発になっていくが、欧州連合(EU)と異なりアジアには共通の文化的基盤がなく、人種、宗教、言語などの面で多様性に富んでいるため、東アジア共同体の構築は、EUに比して困難であるという考えを示した。また、このようなEUでさえ、原加盟国6カ国から12カ国、さらに25カ国へと拡大していく中で、フランスとオランダが東欧諸国やトルコのEU加盟を快く思わず、EU憲法の批准を拒んだことなどを例に、東アジア共同体の構築はより一層困難なものになるとみられることから、「不可能なものを可能であるかのように語るのは慎むべきである」と述べた。また、日中韓が過去の歴史を乗り越え、東アジア共同体を構築する第一歩を踏み出すためには、ASEANを触媒として連携を強化することが妥当であるとし、加盟国の中立性を保つためにも、東アジア共同体の事務局はASEAN域内に置くべきだと主張した。
さらに、リー顧問相は、東アジア共同体の加盟国に関して、原材料や農産品を輸出し、補完的な役割を担っている豪州やニュージーランドが加わることは意義があると発言。また、両国が東アジア共同体に加われば、日中韓を牽制しパワーバランスを保つ役割を果たすとともに、「アジア人と白人の人種間の対峙」という構図を回避でき、歓迎すべきとした。
一方、米国については、世界の平和と安全にとって必須の存在であり、排除すべきでないとしながらも、経済的な観点から必ずしも東アジア共同体に加えることは適切ではないと述べ、また、アジアよりも欧州に関心が強いロシアについても、東アジア共同体に加えることに疑義を呈した。
今後の東アジア統合の道筋については、5~10年でまず韓国、中国、日本、豪州、ニュージーランド、インドとASEANとの関係強化に努め、15~20年後にアジア全域での自由貿易圏を構築した上で、20~30年後を目途に東アジア共同体の形成をめざすべきであるとの展望を明らかにした。
リー顧問相の説明を受け、御手洗会長は「確かに2000年に及ぶ長い歴史を振り返ってみると、アジアには宗教的なものも含め、欧州のような強い結びつきがなく、また実に多様であるため、東アジア共同体を構築することは容易でない。ASEANを触媒とした日中韓FTA(自由貿易協定)形成という考え方は非常にプラクティカルであり、評価できる」と答えた。
【国際第二本部アジア担当】
コメント