アメリカとインドの原子力協定をめぐり、インドの内政が大きく動いているようす。
政府国民会議派が、協定を批判する左翼4党の閣外協力を維持するために、協定発効の先のばしを決定した。
これにより少なくとも2年後までは、現在の政治体制がつづくことになる。
左翼の反対の理由が協定を結べば核実験が制限されるからというあたりに、インド内政の独自の複雑さが見える。
原子力協定の早期発効困難 インド首相、米大統領に伝える(東京新聞、10月16日)
【ワシントン16日共同】インドのシン首相は15日、ブッシュ米大統領と電話会談し、両国が7月に合意した原子力協力協定の早期発効に向け「疑う余地のない困難」が浮上したと伝えた。在ワシントンのインド大使館が同日の声明で発表した。16日付の米紙ワシントン・ポストは、インド国内の政治情勢により協定が崩壊に近づいた可能性があると報じた。
人口11億を超える巨大市場への米原子力産業参入を狙うブッシュ政権は、核拡散防止条約(NPT)非加盟国への原子力協力を禁じた従来の政策を転換、事実上の核保有国であるインドとの協定締結を急いだ経緯があり、発効の大幅な遅れは大きな誤算だ。
インドの与党連合は協定について、閣外協力を得ている左派連合を説得してきたが、対米協力より国益を重視する左派連合は現在の内容のまま発効に至った場合、新たな核実験が制限される恐れがあるなどとして協力中止を警告した。
印首相ら、米との原子力協力協定で「早期発効を断念」発言(読売新聞、10月15日)
【ニューデリー=永田和男】米国が、核拡散防止条約(NPT)未加盟のインドに対し原子炉や燃料の供給を可能にする米印原子力協力協定をめぐり、インドのシン首相と最大与党国民会議派のソニア・ガンジー総裁が早期発効を断念したと受け取れる発言を行い、波紋が広がっている。
問題の発言は、シン首相が12日、ニューデリーでの会合で「協定が通らなくても人生の終わりではない」と述べた上で、「任期はあと1年半残っている」と語り、2009年春の任期切れまで解散しない考えを強調した。
続いて登壇したガンジー総裁も「任期を全うする」と述べ、早期解散を否定。これは、協定に反対の左翼4政党の説得が難航する中、4党の閣外協力取り下げで解散・総選挙になる事態は避けたいとの考えを表明したものだ。
左翼4党は8月、「協定を発効させるのなら閣外協力を取り下げる」と宣言。その後も政府との間で話し合いを重ねているが、反対姿勢を崩していない。
15日付「タイムズ・オブ・インディア」紙は首相側近の話として、政府は近く米国に対し、協定発効に必要な国際原子力機関(IAEA)との特別査察協定交渉に当分入れないことを正式に通告する、と報じた。
米印協定は7月に両国の交渉が妥結したが、発効にはIAEAと査察協定を結んだ上で原子力供給国グループ(45か国)と米議会の承認が必要。インド政府は当初、年内にIAEAとの交渉を終え、年明けから米議会での審議につなげる計画だった。春以降だと米大統領選と議会選が本格化して審議時間確保が困難となる。報道が事実とすれば発効は大幅に遅れ、09年1月のブッシュ政権退陣に間に合わない可能性もある。
ガンジー総裁は7日に「印米協定への反対者は進歩を妨げる者」と述べ、左翼陣営と絶縁も辞さない構えを見せていたが、連立与党の内部では解散に慎重な意見も根強い。
だが、政府・与党の軸足のブレに対しては、「国際的影響力の大きい協定を国内政局優先でたなざらしにすれば国家の威信低下は避けられない」(外交筋)との戸惑いや批判がわき起こっている。解散を回避し、なお協定発効にこぎつける秘策がシン政権にあるのか、今後の出方が注目される。
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