以下は,日本アジア・アフリカ・ラテンアメリカ連帯委員会大阪編集委員会「アジア・アフリカ・ラテンアメリカ(大阪版)」2007年1月1月,第560号付録(大阪版407号)に掲載されたものです。
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第44回定期総会での講演
アジアにおける日本の位置と日本国憲法
神戸女学院大学・石川康宏
「ナヌムの家」を学生と訪問・・その時の一コマ
2006年の夏も、学生たちと一緒に韓国ナヌムの家に行ってきました。これで3度目です。学生たちはたくさんのことを学び,ソウルの水曜集会では、「私たち若い世代が政治を変えていく」と発言していました。びっくりしましたが、集中的にものを考える機会が与えられた時に,若い世代は飛躍的に成長するものだと痛感しました。
帰りの空港に行くバスの中で全員が発言しましたが,最後に韓国人のバスガイドさんが立ち上がり,「私はいま感激しています。あの侵略戦争の問題を正面から考え,反省している日本人に生まれて初めて会いました」といわれました。
彼女は「私の小さい子どもが平和に生きていけるかどうかは、本当に北朝鮮、韓国、日本が仲良くやっていけるかどうかということにかかっています。韓日の平和をつくっていこうという取り組みをしてくれる日本人がいてくれるのはとてもうれしい」と述べられました。
かつての歴史の問題だけではなく、今日の北東アジアに平和の空間をどうつくり出していくかの点でも,市民レベルの連帯が様々に必要なのだということを痛感させられました。
東アジアの成長とアメリカの政策転換
05年の春には,アメリカは、決して東アジア・サミットは許さない、日本が加わることも許さないといっていました。それが秋になると、「アメリカを排除することでない限りどのようなフォーラムも結構です」と言い始めます。
ブッシュ・ドクトリンは、中国を,あなどりがたい資源基盤を持つ軍事的競争者となる可能性を持つ国と言っていました。ところが、いまは,国際的な安定と安全保障への米国や他の大国との共同の貢献を求めて、軍事的敵対一辺倒の路線を大きく修正しています。そうせずにおれない力関係があるわけです。
どうしてアメリカがこうした大きな政策転換をしてきたのか。1つには,軍事対応ではイラクも自分の思うようにならなかった。2つには,アメリカと中国の経済関係がますます深まっている。アメリカの輸入相手国の第二位は中国です。アメリカの消費生活は,中国からの輸入に深く依存しています。
3つには,中国市場でのアメリカ企業の直接投資収益率は,03年で世界平均の2倍以上になっています。アメリカ大企業にとって中国は非常に重要な市場となっているわけです。現在の中国は農村部の消費力向上に力を入れていますから,その膨大な消費人口を狙っているという問題もあります。
深まる日本政府の孤立
カート・キャンベル(米戦略国際問題研究所上級副所長)氏は,「小泉首相の靖国参拝問題について『今起こっていることは日本のためにならない、ということで専門家の意見は一致している』」「『ASEANの多くの国が私に、何で米国は日本を非難しないのかと言う。克服すべき問題だ』」といっています。
マレーシアのアブドラ首相は「率直に言って,状況は悪化している。地域の経済は同じ方向に向かっているが,政治は別の方向に進んでいる。日中のみならず日韓関係も緊張の度を高めている。国々が別方向に動き始めるとすべての国に影響が及ぶ。こうした不健康な状態に終止符を打たねばならない」と述べ,さらにマレーシアのマハティール前首相は、「欧州は長い間戦争を続けてきたが,敵対していた仏独の先導でEUを築いた。日中韓が過去の敵がい心を抑制し未来を考えられれば,北東アジアと東南アジアで優れたグループをつくることができる。それはアジア全体の平和につながる」と述べています。
アジアにおける日本の孤立は明白で,アメリカもそれが日米両国の不利益になっているという理解です。
財界も東アジアとの関係回復を望んでいる
経済同友会は「東アジア共同体実現に向けての提言」で「過去に対する謙虚な反省の上に立って、中国政府・国民にその気持ちが正しく伝わる行動を続けなければならない」「相手側にとって、疑心暗鬼に繋がるような言動は慎むべきである。歴史への反省をもとにした戦後の平和国家への転換とその実績について、中国等アジア諸国に少しでも疑義を抱かせる言動を取ることは、他でもない戦後の日本の否定に繋がりかねず、日本の国益にとっても決してプラスにはならないことを自戒すべきである」と述べています。
また「近現代史の教育を充実させ、若者に過去の戦争という事実を正視させる努力が必要である」「靖国問題については、わが国が国際社会の中で占めている重要な地位と担っている責任に鑑み、自らの問題として主体的かつ積極的に解決すべきことであると考える」とも述べています。
あくまで利益第一主義の立場からのことですが,靖国問題の克服なしには,長期的にはアジアで金儲けができないという判断です。
世界の流れに反する憲法「改正」の企み
自民党の「新憲法草案」は、一言で言うと「侵略戦争の反省をせずに、海外でアメリカと一緒に戦争をし、国内では人権尊重を放棄する国をつくる」ものとなっています。
これは,アジア各国が日本に期待していることへの真正面からの逆行です。東アジアの共同体づくりが、加盟国はお互いに戦争しないという東南アジア友好協力条約(TAC)を土台としている時に,これにまったく反したことになるわけです。これでは東アジアの経済共同からも取り残されていくしかありません。
世界は,国連を通じて,いずれの紛争も話し合いで解決するという国連憲章を実態化する努力段階に入っています。いま日本が平和憲法を放り出すことは、この世界の努力に冷や水をあびせるものでしかありません。いまの憲法のままでいいわけです。靖国問題を解決し、東アジアとの経済交流を活発にしていくためには、憲法通りの日本をつくればいいのです。憲法を変えねばならない必要はどこにもありません。
国民運動の力をさらに大きく
05年9月の選挙で自民党が大勝して、巨大与党ができあがりました。しかし、06年春の国会は、政府が重視した4つの法案のうち通ったのは1だけです。悪政を食い止める力となったのは,少人数ではあるが国会内部で頑張る人たちと全国の国民運動の結合です。
私たちの周りには国民運動が,大きく力をのばしています。医療制度改悪反対署名は2000万集まりました。沖縄市長選、岩国市長選では在日米軍基地強化に反対する市長が勝ちました。横須賀では3万人もの集会が行われました。雇用をめぐる青年の闘いも広がっています。
私の大学の学生たちも頑張っています。ゼミで05年に『ハルモニからの宿題』,06年に『「慰安婦」と出会った女子大生たち』を出版しました。今年の3年生たちは,学んだこと,見てきたことを伝える講演活動に取り組んでいます。歴史教育者協議会などの先生たちの前で3ケ所,440名を前にした大阪の夕陽丘学園はじめ3つの高校の授業でなど,すでに12ケ所で講演を行っています。
事実を知り,世の中を変えるにはこういう取り組みの方法があると伝えてあげれば、若い人たちは大変大きなエネルギーを発揮します。日本の未来は,決してすてたものではありません。
全国の9条の会も5600組織を超えている。たいしたものです。あとはこれらの力を一つにまとめていく工夫が大切です。この取り組みに際しては,国民運動を黙殺し,分断するマスコミの策動に負けないという気概が必要です。(文責・事務局)
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