以下は、神戸女学院大学図書館ニューズレター Veritas №35(2007年7月19日)に掲載されたものです。
「特集・夏休みに読んでほしい 読みたい一冊」の1つです。
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神戸女学院大学石川康宏ゼミナール『「慰安婦」と心はひとつ 女子大生はたたかう』(かもがわ出版、2007年6月発行)
かつて日本軍が、数万から20万といわれる女性を「慰安所」に監禁し、数カ月から数年に渡るレイプを繰り返した「慰安婦」問題が、あらためて大きな話題となっています。6月26日、アメリカ下院の外交委員会で、この問題についての日本政府の態度を批判する決議が可決されました。その議論の中で、誠実な謝罪と問題解決への努力をしようとしない日本政府の姿勢は、ナチスによるホロコースト(大量虐殺)の加害を乗り越えようとしてきた、戦後ドイツ政府の姿勢との際立った対照のもとに語られています。
この決議は外交委員会だけにとどまらず、下院の本会議でも可決される見通しです。いまのところ安倍首相は「よその国がやっていることだ」とばかりに静観の構えを見せていますが、本会議での可決となれば、いつまでもそうした態度で事態をやりすごすことはできなくなってくるでしょう。可決の時期は、参議院選挙投票日の直前になるともいわれており、それは日本の選挙結果にも大きな影響を与える可能性を秘めています。
さて、ここに紹介する『「慰安婦」と心はひとつ 女子大生はたたかう』は、この「慰安婦」問題での学びと学生たちの取り組みの様子を記録した、石川ゼミからの3冊目の本となっています。1冊目が『ハルモニからの宿題』(2005年、冬弓舎)、2冊目が『「慰安婦」と出会った女子大生たち』(2006年、新日本出版社)、そして、この6月に出版されたばかりの3冊目がこの本です。これまでの2冊と比べてみると、今回の本は学生たちの「行動」に焦点をあてたところが大きな特徴となっています。
本の構成を紹介しておきましょう。
「座談会 私たちはなぜ行動するのか? そのきっかけは何?」(3年ゼミ生)
「学び、感じ、考えること 私のゼミ論と実践」(石川康宏)
「わかものが政治に目覚めるとき」(槇野理啓)
「安倍首相の『慰安婦』発言徹底批判 事実も道理も無視し、世界から孤立するもの」(石川康宏)。
最初の3編が「行動」する学生たちの分析となっており、その後の1編は、安倍首相による「狭義の強制性はない」「(アメリカ議会が議決しても)謝罪の必要はない」という3月の発言を、事実認識の誤りとその無責任な姿勢の両面から批判するものとなっています。
今回の本のメインとなるのは、冒頭の学生たちによる座談会です。それは学生たちが「行動」する自分たちを、あらためて冷静にふりかえったものとなっています。ここで「行動」というのは、「慰安婦」問題の解決を訴える学生による講演や発言の取り組みのことです。この本の「はじめに」には、奈良・大阪・神戸・香川など、すでに行われてきた13カ所の発言先が紹介されていますが――うち3ケ所は大阪と兵庫の高校でした――、この7月までに、その数は16カ所にふえています。そして「学生さんの話を聞きたい」と私のところに入る外部からの依頼は、すでに年末の日程にまでおよんでいます。
3年生の4月にゼミに入ったときに「慰安婦」問題をほとんど知らなかった学生たちが、なぜ半年後には、たくさんの高校生や大人の前で、問題解決の必要を訴えるまでに変わってきたのか。その内面の変化は、じつに興味深いものです。
石川ゼミは毎週のゼミが5時間におよぶという「スパルタ」ゼミですが、その長い時間の中で、学生たちは問題にかかわる疑問を自分で立て、そして、その疑問を自分の力で解決していく努力を重ねます。そこで行われる学びは、教師の意見を鵜呑みにすることなどではありません。あくまでも自分のアタマで考えること。それは本来自発的である「学び」の本来の姿といっていいでしょう。そのような経路をたどって、自分なりに納得のいく結論が得られたからこそ、学生たちには各地での「行動」を生み出す強い内的な力が生まれてきます。
これは、大きな本ではありません。100ページをようやく超える程度の分量です。ぜひ、自分の目で、同じ大学に学ぶその学生たちの生き生きとした姿をながめてみてください。
今年も、9月10日(月)から13日(木)まで、今度は、この本をつくった次の学年の学生たちが、日本軍「慰安婦」歴史館に学び、元「慰安婦」被害者に会うために韓国へと渡ります。「私も行ってみたい」「旅行のことを詳しく聞きたい」という方は、石川まで気軽にメールをしてください。
みなさんの「夏休み」が、充実したものとなることを願っています。
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