テキスト第3章「動きだした人民元改革の未来」に入る。元切り上げの影響は,工業部門について輸入部品価格の低下によって相殺される。しかし9億人の人口をかかえる農村部では国際競争力の一層の低下を生む。それは中国政府にとっての重大政治問題となる。
そこで中国政府は,元切り上げの方向を既定方針としながらも,①海外(アメリカ)のいいなりにならない「独立的な主体性」,②一足飛びの切り上げを避ける「漸進主義」,③市場化をすすめるが政府によるコントロールの手段を手放さない「制御可能性」を方針とする。とはいえ,現状でも政府によるコントロールの範囲を越えた為替取引がすでに行われており,市場化をさらにすすめながら「漸進」過程の「制御」を行うことはきわめて難しい。
最大の危険はヘッジファンド等による投機だが,その外圧を避けるには前触れなしに一挙に切り上げを行い,その後の切り上げが一切ないことを宣言すれば良い。しかし,農村問題の存在によりこの選択肢を選ぶことはきわめて困難。
2007~8年に大きな為替制度改革があることが予想されるが,問題なのはその時点でどの程度の国内金融システムができあがっているか。97年の東アジア通貨危機のように海外の投機勢力に付け込まれることがあれば,元の切り上げとは逆に暴落という事態も起こりうる。それは中国を世界市場の一部として深く組み入れようとする海外の国々にとっても大きなリスクとなるものである。
最近のコメント