2004年7月27日(火)……学生のみなさんへ。
以下は,神戸女学院大学図書館の「VERITAS」第26号(2004年7月23日)に書いた文章です。
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〔特集 夏休みに読んでほしい,読みたいこの一冊〕
猿田正機『福祉国家・スウェーデンの労使関係』(ミネルヴァ書房,2003年)
神戸女学院大学・石川康宏
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同じ資本主義の国でありがら,「自由競争」重視のアメリカ型資本主義と「社会的連帯」重視のヨーロッパ型資本主義の大きな違いは,いったいどこから生まれてきたのか。とりわけ,スウェーデンに代表される北欧の「福祉国家」は,どのような力によって生み出されたのか。これは,前期の「比較経済論」の授業をつうじて考えてきたテーマのひとつです。
デンマークやオランダを見ても,「福祉国家」には日本よりはるかに「ゆとり」のある労働条件があり,日本とは比較にならない社会保障があり,また社会の「危機」に力をあわせる比較的安定した政労使の関係があります。そのような特徴をもつ社会をつくる力が,市民のなかに,とりわけ労働運動のなかにどのようにして形成されたのか。日本の今を考えるとき,それを良く知っておくことはとても大切なことだと思います。ここに紹介した本は,スウェーデンの労使関係の現状を分析しながら,日本の労働運動の課題を厳しく指摘するものです。みなさんも,どうぞ挑戦してみて下さい。
2004年7月25日(日)……京都のみなさんへ。
以下は,京都の現代経済学講座第3講に配布したレジュメです。
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〔京都学習協・第3回現代経済学講座〕
講師のつぶやき(第3回)
神戸女学院大学・石川康宏
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〔講師のつぶやき〕
選挙結果は残念でした。自民・公明政治に対する国民の批判はありながらも,この批判が民主党に集まってしまいました。民主党の政策,役割をしっかりと分析すること,またそれを説得力豊かに語る力をもっと強くすることが必要だろうと思っています。
以下は,「しんぶん赤旗」2004年7月6日付の記事「なぜ政府は社会保障にお金をかけないのか?――世界一の公共事業費が……経済もアメリカいいなりに」の内容です。この講座の内容とかさなるものですし,また,出されている質問にも関連したものとなっています。
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▽先進国にない「逆立ち財政」
どうして日本は社会保障にお金をかけないのか?
それは、世界で一番たくさん公共事業にお金を使って、社会保障にかけるお金がなくなっているから。いわゆる「逆立ち財政」です。こんなふうに社会保障費より公共事業費の方が多いという先進国は、ほかにはどこにもありません。
このおかしな財政をつくるうえで、アメリカが大きな役割を果たしています。日本経済への介入です。それまでは「大いにアメリカに輸出しろ」といっていたのが、一九七〇年代後半には「アメリカへの輸出を控えて内需主導型に変われ」といい出します。
この「内需」を、自民党政府はすべて大型公共事業に結びつけました。七九年にはゼネコンなどが集まった「日本プロジェクト産業協議会」がつくられ、質より量の「無駄と環境破壊の大型公共事業」が本格的に始まります。
公共事業予算をつくるため政府は消費税導入をたくらみ始め、八一年からは「行政改革」をすすめます。社会保障の改悪です。さらに、八六年には中曽根内閣が「前川レポート」をアメリカに公約。「輸出指向」型から「内需主導」型への経済の転換と、アメリカ大企業の日本国内への受け入れ準備(規制緩和と市場開放)を基本としました。これが小泉流「構造改革」のはしりです。都市再開発やリゾート開発で「バブル経済」がつくられました。
八九年から九〇年にはパパ・ブッシュ大統領との「日米構造協議」で、十年で四百三十兆円の公共事業が求められます。その後六百三十兆円に増え、橋本内閣が「十年では無理なので十三年に」と延長。つまり一年分は四十八・五兆円です。小泉内閣でこの計画は形の上では撤回されましたが、赤字間違いなしの高速道路建設など無駄な事業は続いています。
▽戦後の歴史の大切な教訓は?
憲法二五条の「生存権」を土台に、戦後は国民の運動で社会保障の充実がすすみました。大きな役割を果たしたのは六〇|七〇年代の「革新自治体」です。今の若い人は知りません。先輩がキチンと伝えていかねばなりません。日本共産党と社会党がたくさんの市民と手をつないでつくった「無駄なお金の使い方はやめて、社会保障にお金を使おう」という自治体です。
京都府など高齢者医療を無料にするところもあり、慌てた政府が七三年には「福祉元年」を打ち出します。しかし、自民党はそうやって国民をだましながら、社会党を味方に引き込んで革新自治体をつぶし、「子育てや介護は家庭でやれ」という「日本型福祉社会論」を提起して、革新自治体の成果を崩していきます。
国民の運動とまじめな政党の共同こそが社会保障を育てていく。それは、戦後の歴史の大切な教訓です。
▽「社会保障はたかり」と……
九〇年代に政府は「社会保障構造改革」をいい出します。高齢化が進む中で政府も「社会保障いらない」と簡単にはいえません。でも、お金はかけたくない。そこから出たのが「福祉は金で買え」「福祉は市場に任せよう」といういわゆる「新自由主義」です。
経済の「構造改革」を担当する竹中平蔵金融・経財担当大臣はこういいます。「過保護は人の意欲を失わせる」。しかし、日本に「過保護」などといえる福祉があったためしはありません。竹中氏は本の中でも社会保障は「たかり」と書いています。政治が国民全員の最低生活を保障するという憲法二五条の理念が、まるでわかっていない。こんな人を大臣にした小泉首相の責任は重大です。
参院選挙では、平和と社会保障を大切にする政党をしっかりと躍進させなければならない。それは大いに可能なことだと思います。
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以下,質問にこたえていきます。質問は表現を変えている場合があります。ご了解ください。
〔質問に答えて〕
①中東情勢とアメリカの戦略に関わり、「石油の確保」がよく言われるが、アメリカは自国内の石油だけで80%前後の自給ができるはずであり(記憶曖昧ですが、高率だったと思います)、中東はアメリカ自国の問題より、軍事的足がかりである日本などへの供給確保と考えたらよいのでしょうか。
●アメリカにもかなりの原油がありますが,採掘にあたって大きな問題になるのはコストなのです。掘り出しづらい場所にあるもの,不純物が多いものなどは,コストが高くつきます。アメリカの原油は,大量の砂と一体になっているものなど,中東のものにくらべれば,かなりコストが高くなっています。
●「石油の確保」は,アメリカの石油資本によるもうけの材料の確保という意味もあります。確保された石油は必ずしもアメリカ国内で利用されるとはかぎりません。しかし,資源を独占することによって,世界各地への販売による自分のもうけを大きくするということです。
●資源の独占は,資源をもたない国への様々な圧力の手段としてもつかえます。それは,アメリカ政府の対外支配戦略の手段としても活用しうるものとなります。
②「奥田ビジョン」の中に「東アジア自由経済圏」の構想がありますが、その背景にアメリカの市場開放戦略との補完的役割を果たす日本経団連の位置があることが、先生の論文「財界の21世紀戦略~」で学ぶことができました。一方「東アジアでの連帯と共同」を先生は述べられていますが、立脚点が違うことを前提としつつも、どのような課題に留意して「連帯と共同」をすすめなければならないか、ご教示下さい。
●これは今回の講座のひとつのテーマにあげている問題ですから,そこで少しつっこんで考えたいと思います。
●ただし,東アジア各国間の一定の産業配置のバランスを調整することが必要だろうと思います。日本は高度な技術を必要とする製品を販売しながら,また,逆にアジア各国にとっての大きな市場にもなる必要があるわけです。そこは単純に「実力で決着」というのではなく,「連帯」の精神にもとづいた話し合いによる調整が必要だろうと思います。経済の国際関係についての「民主的規制」です。もちろん,「ともかく売りつければ良い」式の,相手国の経済状態を無視した経済関係をつくることはすべきではありません。その点では,政府がすすめているFTA(自由貿易協定)は,かなり経済「侵略」的な側面をもっていると思います。
③「新しい民主的国際経済秩序」。80年代前後に「新国際経済秩序」が提起されたことがあります。(党ではなかったかもしれません)。双方の問題意識の一致点と相違点を概観できれば幸いです。(最後に思いつきのように浮かんだことなので、自らの課題として学ぶべきかと思います。もしお時間があればお願いします)。
●それぞれ,いろんな意味合いでつかわれる言葉だと思います。ただ,印象的にいうと,70年代から80年代にかけていわれた「新国際経済秩序」というのは,途上国と先進国との貿易を「対等」なものにするということが大きな内容だったと思います。73年と79年にオイル・ショックがおこりますが,これは先進国による途上国の資源のひどい安値での買いたたきに対する,途上国からの抗議という側面をもちました。それは,世界全体が大国いいなりの段階ではなく,世界経済を構成する主体のひとつとして資源をもった途上国が立ち上がってきたということも意味しました。問題は,原油の価格だけでなく,いわゆる「第一次産品」の適正な価格という問題に広がりました。
●さらに今日,私がイメージする「民主的な国際経済秩序」は,さらに幅広く,豊かな資源をもたない国もふくめて,60億の地球人口がいかに「豊かさ」をわけあいながら生きていけるかを追求するものに広がっていると思います。それは,アメリカなどによる経済「侵略」的な多国籍企業の横暴をふせぎ,またIMFなどの国際機関を民主化し,さらに拡大しつつある南北の貧富の格差を縮小していく北からの援助努力など,より幅の広いものになっているという印象です。それは,世界資本主義の発展段階として,「帝国主義の時代」が「帝国主義を乗り越えつつある時代」へと前進していることのひとつの現れだとも思います。
④アメリカの世界戦略支配の思惑とそれに追随する日本財界の戦略の対応はよくわかるのだが、グローバリゼーション、市場開放、規制緩和の関係がもう一つ整理できない。(何を質問していいかちょっとまとまらない)
●グローバリゼーションというのは,経済の国際化ということで,人やモノや金や情報などが,国境の枠にとられないで世界的規模で移動するということです。ただし,それはつねに中立的なものではなく,特にアメリカは,アメリカにとって都合のよいグローバリゼーションを世界各国に強制しており,そのかぎりでは,世界経済をアメリカ本意に改革しようとする側面をもっています。
●「市場開放」というのは,たとえば,アメリカ企業が日本国内になんでも売りつけることができ,また,どういう企業でも自由に入っていけるようにしろということです。さらに「規制緩和」というのは,入ってくるアメリカ企業が,自由にのびのびと金儲けができるように,そのジャマになる日本的なルールを解体しろということです。ヨーロッパ各国はこれらの要求に抵抗する力をもちましたが,日本ではこのアメリカの圧力を全面的に受け入れています。その要求を実現しながら,同時にそのもとで日本大企業の利益拡大を追求するのが「構造改革」です。
⑤タイや韓国の経済状態は今どうなっているのでしょうか、IMF問題は深刻であったと思いますが‥‥‥。
●いまはお答えする準備がありません。講座の後半に東アジア経済問題の時間がありますので,その時に,少し勉強してお答えしたいと思います。
⑥三菱重工など、日本の軍需産業は世界で20位以内に入るほどの大きさと言うことですが、日本には第9条があり、戦争を放棄して平和を追求していたはずです。それらの会社がそんなに大きいと言うことは、どこか他の国々へ武器を輸出しているのですか? 憲法で許されるのでしょうか? それとも独占企業として、日本政府に言い放題で武器を売りつけているから、そんなにもうかっているのですか? そして今軍国化を推し進めることで大っぴらに外国にどんどん武器を売りつけて、ロッキード社のようになっていくことをめざしているのですか?
●三菱重工が軍需生産の受注高で世界14位ということですね。詳細は,これも良く調べてみねばならないことですが,まず日本の軍事費は年間5兆円で,ロシアやイギリスなどとならび世界第2位を争う高額であるということがあります。その自衛隊向けの装備を受注していけば,それだけで,世界的にも大きな額になります。他方で,完成品としての武器を海外に輸出することについては制約があるはずですが,武器の部品については輸出がかなり自由になっています。特に,アメリカからの要望にもとづいて,完成品ではなく,完成品の一部を生産するという形で日本の軍需技術がいかされています。これについては,今回の講座のどこかで,少し詳しくお話をしたいと思っています。
⑦1985.9 プラザ合意でアメリカはドルの対外流失の抑制をはかったということですが、ドルの対外流出とは、日本がアメリカ国債を多額に保有することとは意味が異なるのですか?
●プラザ合意では,ドル価値の急落をふせぐことが行なわれました。「秩序あるドル安」(アメリカの許容範囲のなかでのドル安)ということです。それによって円ドル相場は,85年の1ドル240円から,87年には1ドル120円にまで変動しました。特に日本円に対しては,日本側の対米貿易黒字を減らすことが追求されたわけです。あわせて,日本政府に対する「内需主導型」への転換のための公共事業予算の拡大が求められました。
●他方で,日本側にとっては,その行き過ぎた「円高」をセーブするためのドル買いが行なわれ,これがアメリカの国債を買うことによってアメリカの国家財政をささえることにつかわれるという関係が生まれました。アメリカが「円高」圧力をかけてくれば,そのたびに「ドル高」に向けたドル買い介入をせざるをえなくなり,それにもかかわらずドル安がすすめば,日本政府や保有しているドル資産が目減りしていくということにもなってしまったわけです。
●同時に,この時期のアメリカは,日米の金利格差をつけて,それによって日米の投資収益率に格差をつけて,日本の大企業が保有する資金をドルに転換させてアメリカで運用させるということもしています。それはドル高に向けた動きをつくることにもなります。この運用資金は,アジアの通貨危機を引き起こしていく巨大な投機資金として活用されることになりました。
⑧前回の講義の際にも同じ質問をしましたが、自らを"愛国者"と自認しているであろう筈の、日本の与党政治家達が、何故ここまでアメリカに日本を切り売りし、生け贄をさしだせるのか、が、理解できません。私が思っているより、彼らはずっと近視眼的で、中長期的な視野で世界の中の日本というものを考えていない、と言うことなのでしょうか? メディアでも、アメリカ=世界のような表現ばかりです。政治家達の真の狙いは、日本をアメリカの一部にするすることが最終目標なのでは? と勘ぐってしまいます。近いうちに日本が世界地図から消滅するのかな。(質問にはその場でお答えいただきました。)
●たとえば「愛国」をさけぶ右翼団体が,日本の主権をふみにじっているアメリカの軍事基地撤去を正面から叫ばないように,今日の日本の支配層による「愛国」は,アメリカの対日支配にふれないかぎりでの「愛国」でしかなくなっています。戦後の右翼の大物といわれた児玉誉士夫や笹川良一も,一度は重大な戦犯容疑者として投獄されながら,戦後の日本における「反共活動家」としての可能性を期待されて,出獄させられました。こうした戦後の原点が,日本の戦後右翼を「親米右翼」としていきました。
●最近話題になった比較的手に入りやすい本としては,ジョン・G・ロバーツ/グレン・デイビス『軍隊なき占領――戦後日本を操った謎の男』(講談社+α文庫,2003年,本体980円)が,占領期とそのあとのアメリカによる日本への支配政策をある程度伝えています。ぜひ,読んでみてください。「対米従属」ということの深刻さがよくわかると思います。
⑨米国の「内需主導型」の要求によって、大型公共事業主体の土建国家の道を歩んできましたが、同じ内需でも他のやり方を考えていた人たちはいなかったのでしょうか。また、赤字国債を発行し続ける必要があったのでしょうか。
●そもそも国債の発行は日本の「財政法」によって禁止されていました。これが「特例措置だ」とされて,戦後はじめて認められたのは1965年のことです。それは,日本が戦後はじめて安定した貿易黒字国となり,国内消費に対して国内の生産が過剰となり,これの処理を公共事業に求めるという政策がとられる段階に入ったからです。以後,この「特例」が今日まで毎年つづいています。
●アメリカからの要求については,そもそも「内需主導型」への転換要求に,なぜ無条件で追随する必要があるのかという問題があります。そこは自主的に判断すれば良いことです。そのうえで「内需」は,もちろん公共事業だけでなく,賃上げや福祉の拡充による個人消費の拡大によっても増強できます。70年代半ばといえば,たとえば大阪の革新府政など各地の大きな革新自治体が最終的につぶされていく時期ですが,共産党はもちろん国民生活向上を求めていました。それはアメリカの要求にしたがうためではなく,国民生活の向上それ自体を優先的な課題としてのことです。しかし,自民党の内部では,直前の田中内閣が「日本列島改造」をかかげていたように,すでに大型公共事業推進に向けた強い力が主流となっていました。これ以外の形で「内需」を考える大きな力は自民党内にはなかったと思います。
⑩日本経団連をはじめとする財界の組織や政策提言活動がよくわかりました。自民党政府がこれを取り入れるのは当然ですが、一方で多くの勤労国民の側の政策を立案、提言する「力」、機能はないのでしょうか。
●その高い能力をもった政党,民間のシンクタンクを育てていく必要があるわけです。共産党の政策は,自民党を批判するだけでなく,「こうすればこういうことが実現できる」という建設的な対案提示型になっています。他方,全労連が労働総合研究所というシンクタンクをもっているなど,運動団体にもその種の政策立案・提言活動を起こっている機関はすでにあります。
●ただし,財界の場合には政党や議員を「金で買う」ということができるわけですが,共産党や民主的なシンクタンクの場合にはそれができません。そのような国民本意の提言を実行しようという意思をもった議員を政治の舞台に送り届ける必要があるわけです。そのためには,政治をつくりかえる力強い運動が必要です。
⑪韓国は最近急速に変わりつつあるようですが、IMFの借り入れを3年速く返済したとのことですし、民主化が進んでいるようですが。
●⑤の質問と同じですね。後の講座でとりあげたいと思います。ともかく,アジアの動きについては,私たちの側も認識が必ずしも十分ではありません。アジア外交の展開がかかげられてからは,『前衛』などにその主の論文・レポートがたくさん出るようになっていますから,まずはそのあたりから勉強されてください。
⑫資本の側の動きは分かりましたが、労働者の側はどうとらえているのですが「全労連」は理解できるとして、「連合」の側について教えて下さい。
●どういう政策についてかという限定がないとお答えしづらいです。「連合」もホームページをもっていますし,やはりシンクタンク「連合総合生活開発研究所(連合総研)」,そこもホームページを公開しますから,それらを見ていただくのがいいかもしれません。ホームページはいずれも,私のページのリンク集につなげてあります。
●「連合」は,70年代前半の「賃金爆発」といわれた労働運動の高揚に対する,当時の日経連など財界側の巻き返し(労働戦線の右より再編)によってつくられた潮流です。これは労資協調路線を方針の基本とします。また,政府の各種審議会に「労働者代表」という形で参加するなど,全体として政府にも協力する活動をすすめています。
●ただし,「連合」の本来の方針がそうであり,執行部の方針が基本的にそうであっても,加盟している多くの労働者は,大企業労働者が中心とはいえ,やはり一般の労働者です。「リストラと闘わない連合本部」に対する憤りがあったり,また「組合に入っていることのメリット」が問われるなどもしています。このようななかで,「連合」がナショナルセンターとして組織を維持するために,労働者生活を守るための方針をある程度かかげずにおれないという状況も生まれています。トップレベルでの共同のよびかけとともに,現場,現場でのナショナルセンターの枠をこえた共同を広げていくことが,「連合」の健全な発展にとって重要な課題になっていると思います。
⑬第3講義とも関係させてお話ししていただければうれしいのですが、『日本の1930年代の金融恐慌と政府の取ったモラトリアム令』の問題点と現在の経済状態との関連についても教えて下さい。
●第1次大戦後の反動恐慌(1920年)や23年の関東大震災などの影響を,当時の政府はインフレ的救済措置で塗り隠してきました。そこに,当時の大蔵大臣の「失言」から27年には全国的な銀行取付がおこり,モラトリアムが発動されるが,それにもかかわらずたくさんの銀行が倒産する,いわゆる「昭和金融恐慌」がおこりました。モラトリアムというのは一般的にいえば「支払いの猶予」ということです。
●日本の「現在の経済状態との関連」というのは,どのような問題意識でのことでしょうか。27年には銀行の経営状態が非常に悪いなかで,預金者による取付がおこり,政府の対応にもかかわらずたくさんの銀行がつぶれることになりました。現在の日本では,預金保険機構による預金保護がありますが,これに「ペイオフ」(2005年4月予定)が実施されれば,保護には1000万円という上限が与えられます。その際には,銀行の経営状態やそれに関する情報によって取付騒ぎというのが個別にはありうるかもしれません。もう少し,どこに問題意識をもっておられるのかを,具体的に伝えてください。
⑭インフレについての再質問です。アメリカ政府及び日本政府の赤字財政を解消するには、その貨幣価値を下げればいい訳ですから、例えば戦後直後の日本のインフレのような状況に持って行けば、一挙に赤字財政をチャラにできると思います。やり方としては新円発行の際、旧円との交換時に価値を下げるとか、旧円の銀行預金を下ろさせないで国民からの預金を国家のものにするとか、そういったことが素人的に考えられるがどうでしょうか。
●戦後のインフレは,政府による「臨時軍事費」の放出をきっかけとしていました。これが戦争の終結後にもしばらく行なわれ,これによって日銀券の発行高が急増し,物価が高騰しました。物価高騰の中で,庶民はなけなしの預貯金のとりくずしを必要とします。また軍需企業への融資のこげつきもあり,これによって銀行の経営状態が悪化しました。ここで46年政府がモラトリアム(金融緊急措置令)を実施します。銀行を守り,銀行におさめられた資金を守るためにです。モラトリアムの内容は,預金封鎖でした。それは,1人あたり100円の限度内でのみ旧円を新円に交換するというもので,それによって国民の預金が銀行内部に釘付けにされました。
●その後もインフレは継続し,釘付けのあいだに国民の預金は急速に目減りしました。その原因は,政府が各種の補助金,融資などの形で,莫大な財政資金を大企業にプレゼントしつづけたことにありました。こうして,大企業には資金が渡されながら,インフレのなかでのモラトリアムによって,国民の預貯金が奪いとられることになったわけです。以上については,林直道『現代の日本経済〔第5版〕』(青木書店,1996年)にくわしい叙述があります。
●さて,財政赤字を解決するための戦後のようなインフレの可能性についてです。いくつか店頭にならんでいた本を読んでみました。本吉正雄『元日銀マンが教える預金封鎖』(PHP出版,2004年)は,全体として預金封鎖はもう間近(2004年11月の新札発行)だという,ある種の「危機論」に立っています。しかし,インフレによる国家財政赤字の軽減については2ページだけです。内容は,政府がいうような年2%程度のマイルドなインフレを日銀も容認し,それによって過去の債務を次第に小さくしながら,他方で税収の増加をもくろむというものです。直接に財政再建のための強度のインフレという議論にはなっていません。
●太田春雄『資産疎開・国内疎開編』(実業之日本社,2004年)は,新札発行を2004年7月だとしていますが,インフレによる財政赤字の縮小については「毎年2桁レベルの超インフレ」「国民の実質所得が減って,国内にパニックが起きるはずだが,そこは耐え忍んでいただいて,3~4年もすれば借金の額は半減。10年ほど超インフレがつづくようなら,借金は10分の1程度まで軽減化する」「巷には失業者とスラムがあふれ犯罪が横行する犯罪国家となるだろう」となっています(17ページ)。
●以上2冊については,どうもはじめに結論ありきで,そのようなことをした場合に,日本経済全体がどうなるのか,日本の大企業・銀行の経営がどうなるのか,日本に支出しているアメリカ大企業の経営はどうなるのか,そもそもアメリカは日本のそのようなインフレを望んでいるのか,上のようなパニックを引き起こすことの日本政府によるデメリットをどう考えるのかなど,大切な問題についての検討がまったくないものとなっています。国民の資産管理危機をあおって,それら資産の安全な運用方法を教えるといった論調になっており,どうも,それ自体が新しい儲け口につながっている気がします。
●木村剛『日本再生会議』(講談社現代新書,2004年)は,預金封鎖はできないとします。木村氏は「竹中プログラム」の強制実行で腕力を発揮した人物です。かなり政府の実態につうじた人物と見ていいでしょう。彼は国民の預金封鎖を実現するほどの強い権力がいまの日本にはないとしています。戦争直後にはGHQが銃をもって支配していました。ただし,そのようなことが話題になるほどに財政赤字が深刻なのは事実だとしています。
●私自身は前回,この質問をいただくまで,「預金封鎖」関係の出版物がこんなにたくさんあること自体を知りませんでした。ただ,ざっと本屋でながめたかぎりでは,あまりまじめな経済分析によるよりも,「センセーショナルなものを書けば売れる」といった利益第一主義的なつくりの本が多いと思いました。また,アメリカの超インフレについては言及している文献がみつかりませんでした。さらに,政府内部からこの種の情報がもれ聞こえてくるということも聞きません。政府が率先してそのようなことを行なえば,それはむしろ日本経済の破壊や,世界経済の破壊にしかつながらないような気がします。アメリカのその可能性についてふれている本があれば,教えてください。
⑮経済理論の説明をもう少し多くしてほしい。
●具体的にどのような「理論」の説明が必要だと思われますか? 今年の講座の趣旨にかなうかぎりで考えたいと思います。なお,この講座では最後の講義を,具体的な現実をまずは踏まえた上での「理論」問題にあてる予定になっています。
⑯企業の多国籍化は日本と米国にとっては経済の空洞化を生み、一部の投機家にとってはいいかもしれないが、日米の産業と国民生活はどうなるのか。また逆に進入された中国など東アジア諸国は工業化への圧力が話し合われているが、どの時点(すなわち生産力の発展程度)で対決するのか。
●個々の資本は基本的に自分の利益の拡大を原動力にします。したがって,社会的な力による強制がないかぎり,国民生活の尊重や他の資本の利益のことなどは考えません。「あとは野となれ,山となれ」です。これが資本の本性です。中国等との「対決」については,「対決」の意味が良くわかりません。どういうことでしょう? もう一度,ご質問ください。
〔感想〕
●外貨の「3つの問題」の指摘は、国内大企業の地方・地域への進出と撤退についても類似しています。時には固定資産税等の優遇を受け、進出時には雇用に参与するが、儲からなければ地域のことはおかまいなく撤退する。大型小売店の場合は売り上げが大きくてもそのほとんどは店舗のある地域で循環せず、本社へ流れるというような具合です。「3つの問題」は地域経済のあり方を考える上でも大切な観点であると思います。
●あまりにも情けない日本(政府・財界)の対米従属が、お話のたびに克明になってきています。参院選の宣伝でも学んだことを生かして訴えをさせていただいています。こうしたことも選挙の争点になって、少しでも良い結果になればと思います。
●聞けば聞くほどに日本がまともな道を歩んでいないんだと情けない気分になります。今日は新しい「内需型経済」というのが少し分かりました。確かに知ることは力です。
●日々耳に入ってくるニュースの、その背景にある構造、情勢とそれぞれの関係が、実感として理解できた気がします。
●財界が本格的に、日常的に政治に大きく口出しをしていることが、改めて認識できた。我々国民の側の政策を広く世界の中から、学んで、対置して、実現の努力をしたいものです。
●前回の質問に丁寧に答えてもらえてよくわかりました。(外国資本の件)
●オランダ、EU等アメリカ以外の世界の動きがとても印象的でした。ますますアメリカだけしか見えていない日本の政治は世界から見ると孤立していることを感じました。
●ソ連崩壊当時「冷戦」が終わったか否かの論争がありましたが、終わったのではなく、むしろあからさまに「冷戦」を利用したアメリカの戦略が移されることになったということがやっと理解できました。
〔京都学習協・第3回現代経済学講座〕
第3講・『マネー敗戦』と金融ビッグバン
神戸女学院大学・石川康宏
http://web.digitalway.ne.jp/users/walumono/
(1)第3回講座のねらいと構成
1)戦後日本経済の発展と到達をアメリカへの従属と依存を重視してとらえた第2回講座の到達点をふまえて,これに,重要な歴史的分岐点における「財界の判断」を付け加えていきたい。あるいはその「判断」にアメリカの意向がどのように反映したのかをとらえていきたい。それは今日の日本の政治経済の「財界・大企業いいなり,アメリカいいなり」の姿をより深く,根本からつかまえようとする作業でもある。
2)全体の構成は次のようになる。
第1講 現代日本の経済社会をどうとらえるか
第2講 グローバリゼーションと市場開放
第3講 『マネー敗戦』と金融ビッグバン
第4講 『日米構造協議』と土建国家
第5講 奥田ビジョンの21世紀戦略
第6講 新しい道を模索するEUとアジア
第7講 日本型資本主義の特異な家族・女性支配
第8講 展望・現代に挑む経済理論
(2)「第3講・『マネー敗戦』と金融ビッグバン
1)財界とはどういうものか――資料「参議院選挙について」各団体のHPより
2)論文「財界のアメリカへの従属と過度の依存」(日本共産党『前衛』第774号,2004年3月号)――5・「奥田ビジョン」はなぜ金融市場を語らないのか
3)補足1――原稿「現代日本の経済と『構造改革』」より「アメリカ軍拡予算と円高」
5)補足2――原稿「現代日本の経済と『構造改革』」より「金融ビッグバンと円高」
6)補足3――日経新聞の最近の記事から
7)補足4――「しんぶん赤旗」2004年1月22日(木)「政府のドル買い支えの資金源は?」
8)補足5――中尾茂夫『FRB-ドルの守護神』(PHP新書,2000年)
9)補足6――大槻久志『「金融恐慌」とビッグバン』(新日本出版社,1998年)
10)補足7――銀行問題研究会『金融投機の経済学』(新日本出版社,1993年)
11)補足8――植田信『ワシントンの陰謀』(洋泉社,2002年)
12)補足9――今宮謙二『投機マネー』(新日本新書,2000年)
13)補足10――吉川元忠『マネー敗戦』(中公新書,1998年)
(3)資料「参議院選挙について」
1)日本経団連
・参議院議員選挙結果に関する奥田会長コメント(2004年7月12日)
今回の選挙結果は,国民にわかりやすい形で改革を推進してほしいという有権者の声の表れだと思う。自民党には,政権与党として,これまで以上に政策実現の努力を重ね,改革を断行してほしい。議席を伸ばした民主党については,政策能力を高め,責任ある政党として国民の期待に応えてほしい。
・記者会見における奥田会長発言要旨(2004年7月12日)
【参議院選挙の結果について】
われわれが,「経済界代表」として支援してきた候補者が当選を果たしたことは,大変喜ばしい。経団連としては,引き続き政治寄付や政策評価などを通じて政治に関与していく。自民党の議席は目標には届かなかったが,参議院全体では与党が安定多数を確保しており,構造改革路線への影響はないと考える。今後は,改革の中身を深彫りし,郵政民営化や総合的な社会保障制度改革の推進に注力すべきである。
2)経済同友会
・参議院議員選挙の結果について(7月11日・北城格太郎)
1・昨年の総選挙で導入された「政権公約(マニフェスト)」を中間的に検証する機会であった今回の参議院議員選挙において、政策論争が深まらなかったことは残念である。衆議院で解散がなければ、今後3年間に国政選挙が行われないことを考えれば、与野党とも、財政再建、社会保障改革、三位一体の改革、郵政公社民営化など重要政策課題について、具体的な提案を示した上で、選挙戦を展開し、国民の信を問うべきであった。加えて、年金制度改革やイラク問題に象徴されるように、政府の国民に対する説明があまりにも不十分であったことは否めない。低迷する投票率は、与党が具体的政策を提示せず、政策論争が深まらない選挙への国民の不満の表れと思う。
2・厳しい評価を下された政府・自民党には、年金制度改革やイラク問題に関して、国民への説明責任を果たすとともに、景気回復を確実にするために、構造改革を加速することを期待したい。
一方、竹中大臣が、高い信任を得て当選されたことは、構造改革の本格的取り組みを願う国民からのメッセージである。小泉総理には、「聖域なき構造改革」の加速・推進に、これまで以上に政治的リーダーシップを発揮されるとともに、竹中大臣には、国会議員としての立場をいかして、郵政公社民営化や社会保障改革など、構造改革の推進にますます活躍されることを期待したい。
3・一方、議席を躍進させた民主党には、将来の政権獲得可能な野党第1党としての自覚と責任に基づき、国民の期待に応え得るよう、目指すべき政策の具体化に取り組んでいただきたい。
3)日本商工会議所
・第20回参議院議員選挙結果に対するコメント(7月12日)
予想されていたこととはいえ,自民党にとっては厳しい審判であったと受け止めている。自民党の苦戦の原因は,年金改革やイラクへの多国籍軍参加決定手続きについての説明不足と,国民に対する謙虚さが足りなかったことを争点にされたことにある。自民党はこの結果を真摯に受け止める必要がある。
しかし,国民の最大の関心事は,当面の経済問題と,将来にわたる国民生活の安全・安心の問題であったと思う。経済の面で当面の最も大事な課題は,デフレを解消し,せっかく上向きつつある現在の景気を中小企業や地域へ広く波及させることにある。従って与党としては,引き続き小泉内閣の下で,今回の選挙で示された国民の声を十分かつ謙虚に聞きながら,自律的景気回復への確かな経済運営,さらには持続可能な社会保障制度全体の抜本的な改革を図ってほしい。
一方,民主党は自民党への批判票を集めてよく健闘した。将来の2大政党制へ一歩近づいたと言えるだろう。
(4)補足1――原稿「現代日本の経済と『構造改革』」より
〔円高ドル安でアメリカの軍拡予算を支えさせる〕
もうひとつ,小泉内閣の経済政策で重要なのは,最近の円高ドル安への対応の問題です。2003年1月に「1ドル=130円」だった,円ドル相場は,2004年1月には「1ドル=110円」へと変化しました。短期間にかなり大幅な円高ドル安がすすんだわけです。この間,アメリカの政府高官は「市場にまかせる」といった表現で,ドル安を容認する発言を繰り返し,これによって巨額の資金をもつ投機筋の動きを誘導しています。これは日本の輸出企業,財界中枢企業にとっては重大問題です。
そこで日本の政財界は,円高ドル安をおさえこむために,積極的な市場介入を行いました。日銀が外国為替市場で「円売りドル買い」を行なうことで,ドルの価格を引き上げ,円の価格を引き下げようにしたわけです。その介入の金額が2003年の1年間で20兆円をこえる巨額に達しました。これは通常の国債と同じように政府による借金を財源にしていますから,ドル安による損失が生まれれば,それは非常に大きな庶民増税の圧力となります。
ところで,このアメリカ発の円高圧力には重要な目的があったようです。それは,ブッシュ政権の戦後最大級の赤字軍拡予算を,この日本政府の資金で支えてやるということです。実際,「円売りドル買い」によってドルに転換された20兆円のうち,なんと17兆円がアメリカの国債(財務省証券)の購入につかわれています。最悪の財政赤字に悩む日本が,アメリカの国家財政を支えているわけです。
2003年に発行された財務省証券のうち77.5%は,海外向けの販売となりました。そして海外むけの過半数を越える,全体の44.3%を買っているのが日本で,アメリカ政府にとっては最大のお得意様となっています。第2位のイギリスでさえ8.6%しか買っていませんから,この事実上の財政支援は,日本政府による「アメリカいいなり」の格別な深刻さをあらわすものとなっています(「日本経済新聞」2002年2月20日夕刊)。
かつて80年代の半ばに中曽根首相がアメリカとの関係を「日米運命共同体」と語りましたが,これは軍事的な従属的協調の深まりだけでなく,日本政府がアメリカの軍拡予算を支えるというこの関係のスタートという意味も持っていました。この点は,吉川元忠『マネー敗戦』(文春新書,1998年)が注目したひとつの論点です。
(5)補足2――原稿「現代日本の経済と『構造改革』」より
〔金融市場へのアメリカ大企業の参入〕
この間,日本に参入してきている海外企業は国別で見ればアメリカが圧倒的に1位です。ヨーロッパ各国の全体をアメリカ1国で超えるほどの比率です。経済産業省の『通商白書2003』(経済産業調査会,2003年)に数字がありますが,分野別でみると,第一位が金融・保険,第二位が通信と,非製造業が上位に来ます。毎日のテレビのコマーシャルを見ていても,アリコ,アフレックス,新生銀行など,アメリカ大企業・銀行のものが多くの時間を占めるようになっています。
ここで考えておかねばならない問題は,なぜ日本の政財界は,こうも日本の金融・保険業者に冷たい態度をとるのかという問題です。
02年9月の内閣改造では,柳沢氏から竹中氏に金融大臣の交代が起こりました。そこで大きく変わったのは,日本の銀行の「国有化」に対する政府の姿勢です。柳沢氏は国有化につながる公的資金投入はただちに行う必要がないという立場でしたが,竹中氏はこれをすぐにも行うべきだという立場に立っていました。この大臣の交代と政策の転換を,アメリカ政府は大歓迎し,竹中金融相への強い期待を示しました。
それは,アメリカ側に,「第二,第三の新生銀行」が欲しいという日本進出にかかわる強い要求があったからです。新生銀行は,経営破綻したかつての日本長期信用銀行に,日本政府が8兆円近い公的資金を注入し,そうして再建されたものをわずか10億円でリップルウッド社に売り渡してつくられたものです。
アメリカ政府の強い支持のもとに,竹中金融大臣は02年10月には,いわゆる「竹中プログラム」をつくります。それは,日本の銀行に対する従来よりもきびしい査定基準をつくり,この基準がこえられなければ国有化するとしたものです。
これに前後して,日本の大銀行の頭取たちは共同の緊急記者会見を開いて,小泉内閣に強い不満をぶつけます。しかし,「竹中プログラム」の実施に大きな変更はなく,03年5月には日本で第5の銀行といわれた「りそな」が基準をクリアできず,約2兆円の公的資金投入をうけて,本当に,国有化に追い込まれてしまいます。いま「りそな」の普通株の最大株主は実質的には政府です。これがどこに,どのようにして売却されるのかは重大問題です。
〔「金融ビッグバン」は日米合意〕
こういう政治を行う日本政府は,本当にどこの国の政府だろうかと思います。では,日本の財界団体はこうした銀行や金融関連産業の問題をどうとらえているのか。
03年の元日に日本経団連の奥田碩会長が発表したいわゆる「奥田ビジョン」や,奥田氏がその解説本として出版した『人間を幸福にする経済』(PHP新書,03年)は,驚いたことに,これらの問題については何一つ語っていません。日本の大銀行をどう建て直すかという話も,アメリカからの金融関連産業の進出をどうとらえるかということも,何一つ語っていないのです。
では,日本の財界は,この問題をどうするつもりなのか。私は,アメリカへの輸出に深く依存する財界中枢は,すでに日本の金融市場をアメリカ大企業に明け渡すと決めてしまったのではないかと思っています。事実上,その決定を確認したのが1995年の「日米金融サービス協定」であり,それを日本政府が実行に移しはじめたのが,96年11月からの「金融ビッグバン」だったのではないかと思っています。
日本の金融市場に海外の資本が参入できるように,規制緩和をしたのは「金融ビッグバン」ですが,これは日米の「秘密」合意にもとづいています。植田信『ワシントンの陰謀』(洋泉社,2002年)によれば,サマーズ財務次官(97年当時)は,この95年の「日米金融サービス協定」を認めたうえで,この協定にもとづいて,「目下,橋本首相が〈金融ビッグ・バン〉をおこなおうとしている」「これは日本経済に構造改革を促す」と語りました。
他方,この協定については,03年度の経済理論学会に報告された高橋靖夫氏の「金融ビッグバンにおける日米合意」という研究があります。「報告要旨」を見ると,この協定は1995年2月13日に合意され,内容は「アメリカの一方的な日本の金融市場開放要求」となっています。
97年のアメリカ通商代表部による「外国貿易障壁報告」には,この協定が取り上げられており,そこでは日本の金融ビッグバンがこの協定にそったものであることも「示唆」されており,その一方で,96年の大蔵省国際金融局年報はこの合意に「言及」していないそうです。アメリカの要求が貫徹された日米合意において,アメリカ側が「成果」を公式文書に誇らしげに残し,日本側が「敗北」に沈黙するというのは,良くあることです。
〔合意をすすめる圧力となった異常円高〕
協定がむすばれたのが95年となると,なぜ日本の政財界がこれに屈したのかという理由についても,一定の推測が成り立ちます。それは円高です。
90年には年平均で1ドル=145円であった円ドルレートが,95年には1ドル=94円と過去最高になり,これが98年には1ドル131円にまでもどっています。95年に,瞬間的には1ドル=79円が記録されますが,すでにバブル崩壊で国内市場が冷えきっている上に,このような強烈な円高が重なれば,アメリカへの輸出依存度の高い財界中枢の大企業には大問題です。
当時の急速な円高の「主要原因」について,井村喜代子『現代日本経済論〔新版〕』(2000年)は,「アメリカ政府筋の誘導発言のもとで実体取引以外の投機的な為替差益獲得,差損回避の取引が急増したことにある」として,それが政府主導であったことを述べ,さらにこの円高が「日本の輸出依存的産業に対し大打撃を与えた」としています。
こういう事情をあわせて考えてみると,円高緩和と日本金融市場明け渡しとのいわば取り引きが,95年の「プラザ合意」に先立って行われ,それがあるからこそ,自民党に毎年数億円の政治献金を行ってきた銀行業界が,その後,あっさりと見捨てられていく,日本経団連も銀行を救おうとするどころか,逆に冷淡な態度をとる,そういう現実についてかなり筋のとおった説明ができると思います。
〔「構造改革」は対日経済介入への屈伏〕
振り返ってみると,竹中氏は2000年に小泉内閣で経済財政担当大臣になる以前から,自身の著作で日本の銀行業界を政治の規制(高い山)に守られた効率の悪い「山の国」のひとつに数え,この国の経済政策を「山の国」中心から,内外の障壁を低くした「海の国」中心に転換することを求めていました。その段階で,すでに日本へのアメリカの金融関連資本の大量参入の動きへの同調は,折り込み済みだったのかもしれません。また,さらに遡れば,98年の「金融国会」が決めた銀行への公的資金投入も,本当に日本の銀行の救済を主たる目的としていたのかという疑惑さえわいてきます。
「りそな」より上位に立つ日本の4大銀行を見ても,すでに,2つは筆頭株主がアメリカの投資銀行になっています。三井住友グループの筆頭はフィディリティ投信で,UFJグループの筆頭株主はゴールドマンサックスとなっています。「構造改革」の政治は,アメリカの対日経済介入を屈伏し,これを受け入れるということを大きな特徴としています。
(6)補足3――日経新聞の最近の記事から
●日経新聞2004年4月16日付「日本の米国債保有額,2月末は6079億ドル」
【ワシントン=小竹洋之】米財務省が15日発表した統計によると、日本が保有する米国債の残高は2月末時点で6079億ドル(約66兆円)となり、前月末に比べて5.3%増えた。16カ月連続の増加で、外国の保有残高全体に占める日本の割合は37.3%に上昇した。日本は大規模な円売り介入で得たドル資金で米国債を買い続けており、米国債の「日本依存」が一段と強まった。
米財務省は外国が保有している官民合計の米国債残高を毎月公表している。外国の保有残高は3.3%増の1兆6296億ドル。日本はその3分の一以上を占め、2位の中国(1450億ドル)、3位の英国(1373億ドル)を大きく引き離している。
日本の保有残高は2002年11月から増え続けており、この間に約2300億ドルも増加。外国の保有残高に占める割合も7ポイント近く上昇している。日本が円高阻止のための円売り介入を本格化した時期と重なっており、巨額の介入が米国債を買い支えてきた形だ。 (13:01)
●日経新聞2004年5月18日「日本の米国債保有額,3月末は6398億ドル」
【ワシントン=小竹洋之】米財務省が17日発表した国際資本統計によると、日本が保有する米国債の残高は3月末時点で6398億ドル(約73兆円)となり、前月末に比べて5.2%増えた。外国の保有残高全体に占める日本の割合は37.6%で、同0.3ポイント上昇した。日本は3月中に総額4兆7000億円の円売り介入を実施、米国債の購入を拡大した。
外国が保有している官民合計の米国債残高は同4.3%増の1兆7000億ドル。日本が最大の保有国で、二位の英国(1538億ドル)、三位の中国(1484億ドル)を引き離している。
政府・日銀による大規模介入の継続に伴って、日本の米国債保有残高は17カ月連続で増えている。この間に保有残高は約2600億ドル増加、保有割合も約7ポイント上昇し、日本の突出ぶりが鮮明になっている。 (12:01)
●日経新聞2004年5月21日「対外資産,外債投資増などで過去最大の385兆円に」
日本の政府、企業、個人が海外に持つ資産残高は2003年末時点で前年末比5.4%増の385兆5000億円と、過去最高額になった。中長期の外債を中心に対外投資を大幅に増やしたほか、巨額の円売り介入で外貨準備高が増えたため。ただ、株式市場の回復で海外勢が日本株投資を加速したため負債が膨らみ、資産から負債を引いた純資産残高は2年連続で前年末を下回った。
谷垣禎一財務相が21日の閣議に、昨年末時点の円換算での対外純資産などをまとめた「対外の貸借に関する報告書」を提出した。
国内の生命保険会社など機関投資家や個人による米国債など外債投資が2002年末より13兆円増加の154兆9000億円。国内で超低金利が続き相対的に金利の高い外債に民間資金が流れた。外貨準備は16兆円増の72兆円。対外資産残高は円高による目減り分が約16兆円あったにもかかわらず、5.4%の増加となった。対外負債残高は同11.6%増の212兆7000億円。4年ぶりに増加に転じ、過去3番目に高い水準となった。 (11:02)
●日経新聞2004年6月2日「防衛装備品購入のドル資金,有利子運用に変更へ」
日本政府は、防衛装備品を購入する際に米国に支払うドル資金の運用効率化策で、米政府と最終調整に入った。現在は米政府に払う前のドル資金を無利子で滞留させているが、米国債などで運用する方式に変える。2007年から配備する弾道ミサイル防衛システムは巨額の予算がかかると見込まれており、税収が伸び悩むなか、単年度で支出が500億円を超す予算の効率化につなげる。
今の制度では防衛庁が購入費を米政府に先行して支出し、米側が開発や注文量の状況を見て、最も条件の良い時期に購入・納品している。日本側が支出したドル資金は米連邦準備理事会(FRB)に無利子でためられ、予定納期を超えて滞留している資金もある。 (07:01)
●日経新聞2003年12月22日「イラク戦後の世界を読む――ジャパンマネーがささえるブッシュ再選の資金源」(田村秀男・編集委員)
「イラク泥沼化、それでもブッシュ大統領再選へ」と本コラムで以前書いたが、ブッシュ大統領再選で実際にものを言うのは「カネ」である。ブッシュ氏はこれまでに2億ドル近くの選挙資金を集め、史上最高だった前回大統領選当時の集金額を上回った。「ブッシュ・マネー」は実はジャパン・マネーと密接な関係がある。
日本の米国債買いによりドル安にもかかわらずアメリカは低金利政策を続けられる。ニューヨーク・ウオール街の銀行や証券業界は低コストで調達した資金を元手により利回りの高い債券を買えばいながらにして利ざやを稼げ、デリバティブ(金融派生商品)で収益を増やしている。製造業などはドル安になるたびにカナダ、欧州などへの直接投資に伴うドル建て収益を一挙に膨らませられる。金融、産業界ともかくしてブッシュ氏に喜んで献金する。サダム・フセイン元イラク大統領の拘束でブッシュ氏にはさらにカネが集まるだろう。
ウオール街が多額の献金
ブッシュ大統領への選挙キャンペーン資金供給源の最大手はウオール街である。ゴールドマン・サックス、メリルリンチなどの首脳が幹部などから1社当たり合計10万ドルから20万ドルの資金を集めた(10月23日付けニューヨーク・タイムズ紙)。
ブッシュ大統領は4年前の選挙戦ではウオール街からの支持獲得に失敗した。クリントン前政権がゴールドマン・サックス会長だったロバート・ルービン氏を大統領補佐官、のちに財務長官に据えて経済政策をゆだね史上空前の景気拡大に成功したなどの実績から、副大統領だったアル・ゴア候補にもウオール街がなびいた。ブッシュ大統領は経済政策や金融政策の要めになる財務長官にはウオール街ではなく、二代続けて産業界から登用した。ブッシュ政権とウオール街の仲はよそよそしく、2002年8月にテキサス州ワコ市で開いた企業トップとの「経済サミット」にもウオール街金融機関の経営首脳は足を運ばなかった。
ところが、ことしに入って選挙前哨戦が始まると、ウオール街各金融機関CEO(最高経営責任者)の目の色が変わった。今回の大統領選挙から改正選挙資金法が適用され、企業や労働組合などからの政党への献金は禁止される代わり、個人献金の最高限度額を献金者1人あたり2倍の2000ドルに増やした。ウオール街各CEOはブッシュ再選資金集めの専門家を雇い入れ、ワシントンのロビイスト顔負けの資金集めに奔走した。来年夏の共和党大会はニューヨーク市で開催されるが、大会費用500万ドル分は地元金融界からすぐに集まった。
ウオール街の変心の背景にはいくつかの理由がある。富裕者に有利な減税を歓迎した、同時多発テロ攻撃を受けてテロと戦うブッシュ大統領に共感した、企業会計不祥事のあとのブッシュ政権の手際を評価した、民主党の候補者が乱立してクリントン政権当時のような展望が民主党では開けない、などである。
視点を金融機関の経営に絞ってみると、ウオール街のブッシュ支持は当然のように思えてくる。ブッシュ政権はドル安政策をとりながらも、日本さらには中国にドル債を買わせ、ドル下落に歯止めをかけている。連邦準備理事会(FRB)は安心して超低金利で市場に短期資金をふんだんに供給している。金融機関各社は市場から調達した資金で債券を買えば莫大な収益を稼げる。例えば、18日のフェデラル・ファンド金利は1%、10年物国債の利回りは4.12%である。大手銀行はさらにこぞって金融先物などデリバティブ商品を開発して売買し、手数料などで巨額の収益を挙げている。
ドル買支えで株価も維持
アメリカの経常収支、財政のいわゆる双子の赤字はそれぞれ年間で5000億ドル以上の規模に膨れている。「ドル不安」が漂っているから、リスク・ヘッジになるデリバティブに人気が集まる。実際には日本などがドルを買い支えるからドル暴落――金利急上昇――株式急落という市場崩壊は防げている。ブッシュ政権が同盟国日本はもとより外貨準備大国中国との協力関係を築いているからこそ、ウオール街は繁栄する。民主党に政権が代わるようなことがあれば、対外政策やドル政策が不透明になるので、ウオール街は避けたいところだろう。
もうひとつ、産業界のブッシュ支持も磐石である。1992年の大統領選挙ではブッシュ父大統領がクリントン候補に敗れた。このときにはシリコンバレーのCEOの多くがクリントン・ゴア陣営について情報技術(IT)革命を推進させた。しかし、ブッシュ現大統領は減税や、反テロ関連のプロジェクトの発注でITバブル崩壊後のシリコンバレーは息をついている。
一般の産業界は金利上昇につながらない範囲でのドル安の恩恵を受けている。ドル安はアメリカ企業の国際競争力を向上させ、雇用増につながる、というのが定説だが、即効性があるのは大手企業の収益である。アメリカ商務省によるとアメリカ企業利益のうち、対外直接投資よる収益は2002年で15.1%を占めている。海外に進出しているのは自動車メーカーなど大手に限られるので、大企業にとっての海外収益比率はそれよりもはるかに高いはずである。
製造業の直接投資を国別にみると、2002年でカナダ17%、欧州51%で、中国・香港合計でも2.3%に過ぎない。カナダ・ドルやユーロ、イギリス・ポンドに対するドルの下落はアメリカ企業の収益を即座に増やす。
人民元切り上げに伴うアメリカ企業の収益増効果は欧州、カナダに比べるとはるかに小さい。むしろ人民元の安定で中国国内市場の成長が進出アメリカ企業にとって好ましい。ブッシュ政権が人民元問題を深追いせず、台湾問題でも北京寄りの政策に転換したことは、米中関係ばかりでなくドルの安定を意識しているに違いない。
日本企業の場合、アメリカなど海外での生産による円換算収益は円高・ドル安により損なわれる。その「弱いドル」を日本が買い支え、ひいてはブッシュ再選のための資金に一部が転換されるという循環が今の日米関係の現実なのである。
●日経新聞2003年7月28日「イラク戦後の世界を読む――ドル帝国防衛――もうひとつの戦争」(田村秀男・編集委員)
本コラムの「いつまで続く"ネオコン景気"(続き)」編について、エコノミストの田代秀敏一橋大学国際共同センター研究員から、非常に興味深い対イラク戦争の見方のコメントをいただいた。
田代氏の論点を要約すると、次のとおりだ。 サウジに代わる石油供給源を中東に求めたほかにも理由はある。イラクが2000年11月に原油取引をドル建てからユーロ建てに切り換えた事実だ。イラクをきっかけにユーロ建て石油輸出は他国にも波及し、イランやベネズエラにも広がっている。
経常収支の恒常的な赤字国であり世界最大の債務国であるアメリカは基軸通貨ドル札を発行すればいくらでも原油を調達できる。中近東・中南米の石油に依存した経済を持続できる。原油確保のために各国はドルを必要とし、アメリカ向けに財・サービスを輸出してドルを調達する。ドル建て貯蓄は米国債などのドル資産購入を通じてアメリカに投資される。この「ドルの帝国循環」がアメリカ経済を支えている。ブッシュ政権としては懲罰のためにフセインを退治し、サウジ、イラン、ベネズエラなど他の産油国を牽制する必要があった。
事実関係を調べてみよう。サダム・フセインが実際に「ドルの帝国」をつぶそうと企図したかどうかは知る由もないが、確かに彼は国連の管理下に置かれていた石油輸出代金収入による人道物資基金をユーロ建てに置き換えた。しかも、このイラク石油輸出を担っていたのはフランスとロシアの石油会社である。両国ともイラク攻撃に反対したし、フランスはドイツと並ぶユーロの担い手である。イラクを占領したあとブッシュ政権は、イラク石油輸出を早速ドル建てに戻すように決めた。
ブッシュ政権の思惑通り、アメリカの怒りを恐れて中東や中南米の産油国はドル建てに踏みとどまるだろうかーー。
ドルの異変は実は、サダム・フセインというよりもニューヨーク貿易センタービル崩壊の直後に本格的に始まった。ブッシュ政権は2001.9.11後、ふた月足らずで「愛国者法」を成立させた。同法では在米金融機関に対し、資金取引の詳細を当局に報告するように義務付けた。テロリストから資金を取り上げるためだが、衝撃を受けたのはアルカイダばかりではない。ロンドンの国際金融アナリスト、アーノルド・シムキン氏によれば、中東や華僑・中国のドル資産保有者や法人がドル離れを起こした。その多くがユーロ建て資産に転換した。欧州も心得たもので、欧州中央銀行はドル金利よりもユーロ金利を高めに設定し、資本流入を促し、ユーロ相場は堅調である。同盟国日本政府が米国債を買い支え、元切り上げ圧力をかわすために中国もドル資産買いに努めている。日中の支持がなければドル不安に陥り、グリーンスパンFRB(連邦準備理事会)議長も金融緩和に踏み切れず、アメリカ景気の低迷につながるはずである。
総合すると、9.11以降、ユーロは基軸通貨としてのドルを脅かし始め、ブッシュ政権はサダム・フセインのユーロ建て取り引きを放置できなくなった。フセインにそれを許した国連にも不信感を強めた。ブッシュ政権は国連や仏独の反対を無視し、大量破壊兵器保有を理由にフセインを退治した。半面で、アメリカの経常収支と財政の双子の赤字は膨張し続けており、ドルのファンダメンタルズ(基礎的条件)は極めて弱い。日中のドル買いにもいずれ限界は出よう。
ブッシュ政権はフセインの二人の息子の遺体写真を公開した。文字通り見せしめの刑である。サウジアラビアなどの産油国にはどれだけの効果があるだろうか。
中東などの富豪はもちろんアメリカの当局に監視されるドル資産は持ちたくない。ドル資産に監視・差し押さえと相場下落のリスクがあるなら、石油輸出をユーロ建てにするほうが合理的である。サウジ内部ではユーロ建て輸出の声が根強いのは当然だ。「読者の声」に投稿していただいた田中保春氏によれば、大規模な新天然ガス開発で、サウジはエクソンモービルとの交渉をやめ、欧州のシェル・トタールグループと最近、電撃調印した。
対イラク戦争は、その背景をドル・石油の面からも説明できるほど奥行きは深く複雑である。「ドル帝国防衛」の観点に立つと、ブッシュ政権の戦争はまだ終わっていないどころか、これからが正念場を迎える。
イラク復興支援問題で自衛隊を戦闘地域、非戦闘地域のいずれに派遣するかの次元だけで論争するのは滑稽である。
●日経新聞2004年2月9日「イラク戦後の世界を読む――日本政府,米国への"忠誠の代価"は?」(田村秀男・編集委員)
アメリカのオニール前財務長官が個人的な義憤から「The PRICE of LOYALTY(忠誠の代価)」出版に協力してブッシュ政権を批判したが、ワシントンへの「忠誠の代価」を真剣に考えなければならないのは、実は日本である。
米、双子の赤字を放置
アメリカ・フロリダで7日開かれた7ヵ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議は声明で為替レートの柔軟性を求める一方で急激な変動を牽制したが、ウオールストリート・ジャーナル紙によれば市場関係者は現在のドル安傾向を追認したと受け取っている。膨らむアメリカの双子の赤字とドル安に直面していてもブッシュ政権は対策をとらないが、その代わりに日本はドルを買い、米国債を買い支える政策が今後も続くとみられる。それは1985年9月の「プラザ合意」以降の対米協調を思い起こさせる。当時はその「忠誠」の証しとして日本は金融を超緩和し、バブルをつくり、バブル崩壊でその後現在にいたるまでの経済難というとてつもない「代価」を払わされた。
現在では、中国は安い製品をアメリカ市場に供給し、アメリカはドル安でデフレを防ぎ、円高を通じてデフレ圧力を日本に輸出する。それで日本にバブルは再発しないし、むしろアメリカ経済が安定するおかげで中国などアジアからの対米輸出が増え、その波及で日本の対中輸出が増えるという好循環がある(本コラム需給から見た日米中三角関係参照)。急激なドル安→米金利急上昇が起きるとこの循環は破たんするが、日本のドル買い介入がそれを防いでいる。日本経済は2003年で20兆4250億円というドル買い、1月末で7412億ドルの外貨準備の大半を米国債に充てるという代価を払いながらも、今のところ円高抑制と合わせて、代価と報酬はほぼバランスしているとの言い方ができなくもない。
だが、厳密に観察するとツケはどこかにたまっているはずである。ドル買いというのは金融事象なのだから、代価は金融市場にあるはずだ。では、1990年代後半の過剰流動性を象徴した通貨供給量(マネーサプライ)かというとそうではない。当時、マネーサプライは2ケタもの伸びが続いたが、今では日銀がゼロ金利と量的緩和を続けても、2003年のマネーサプライは前年比で1.7%増にとどまり、前年の3.3%増から大幅に落ち込み、10年ぶりの低い伸びとなった。資金需要の低迷で銀行貸し出しが伸びないからである。では、銀行はどこで運用するかというと、国債である。2003年12月末までの1年間で国内銀行の貸し出しは17兆7891億円減ったのに対し、国債保有額は21兆6778億円増加した。日本の金融市場のゆがみはひどくなっている。これはバブル崩壊の後遺症であり、その間の政策の失敗を度外視すれば1980年代後半の超金融緩和の代価をいまだに払っていることになる。
金融市場の観点からすれば、先に挙げた現在の日米中の好循環も長続きしそうにない。長期国債と合わせて、ドル買い資金に使われる政府短期証券(FB)「外国為替資金証券」の発行額が膨らんでいるためだ。外為証券は償還期間が3カ月だが、円高・ドル安傾向の長期化で発行残高は膨らむ一方で、発行主体の財務省は発行限度額(残高)を来年度予算で140兆円とした。計算上は61兆円さらに発行でき、来年度の国債発行額36兆5900億円をはるかに上回る。これまで以上に長期国債と合わせてFBが市場から資金を吸い上げ資金需給を圧迫するようになる。数年間のうちには景気が拡大し、デフレ基調が修正され、物価が上昇に転じると、金利は上昇する。すると債券価格は下落して銀行は巨額の評価損をかぶる。
日銀のジレンマ
つまり、日本経済は今、バブルにならない代わりに、金融市場の機能が損なわれている。もちろん、国債相場が暴落するのを防ぐ手段はある。それは日銀が国債をひたすら市場から買い上げることなのだが、日銀には長期国債保有額を日銀券発行残高以内に抑えるという決まりがある。この1月末の日銀券発行残高は71兆5100億円であるのに対し、長期国債保有額は65兆6070億円と、91.7%(前年同期82.4%)に達した。日銀はこの国債保有ルールをいずれ撤廃しないと、金融市場の危機に対応できず身動きがとれなくなる。
福井俊彦日銀総裁は2003年5月の国会答弁で日銀の国債保有額上限撤廃について、「上限は、国債に対する信認の維持に寄与している」と答えて、慎重姿勢を崩さなかったが、財務省内部では「福井さんは事態がよくわかっているはずで、いざとなれば上限を撤廃してくれるだろう」との期待が強い。だが、日銀が際限なく国債を買い上げるようになれば、福井総裁が懸念するように国債への信認はもちろん日銀そのものへの信認にも影響が及びかねない。まさにジレンマである。
日本がアメリカに払う「忠誠の代価」をこれ以上増やさないためには、アメリカ自身の双子の赤字、とりわけ財政赤字削減、ドル安政策の転換が重要なのはもちろんだ。それ以上に、日本自身が国内経済を立て直し、外需に頼らない経済構造に改革するのが本筋なのだが、小泉純一郎内閣の改革路線も大した成果が上がらず、結局輸出とアメリカの株式市場による波及に頼っている。代価を払わされるのが日本の宿命なのか、読者の意見を聞きたいところだ。
(7)補足4――「しんぶん赤旗」2004年1月22日(木)――「政府のドル買い支えの資金源は?」
〈問い〉 政府は昨年から猛烈なドル買い支えをしていますが、どうやって資金を調達しているのですか。 (東京・一読者)
〈答え〉 財務省資料によると、昨年十二月二十六日までの一年間に、政府は外国為替市場で二〇・〇六兆円もの介入を行い、ほとんどが円売り・ドル買いでした。過去最高だった九九年の七・六四兆円の、二・七倍にのぼります。この介入の窓口が財務省所管の「外国為替資金特別会計」で、外為(がいため)特会、または外為会計と略称します。財務省が日本銀行に運営事務を委託しています。
外為特会による市場介入で現金が不足するときは、一時借入金や融通証券発行で調達することが法律で認められています。通常用いるのは、三カ月程度で償還する政府短期証券(FB)です。償還期間などが違うものの、国の借金であり、通常の国債と同じ性質のものです。
資金調達は、予算で限度額を示し、国会の議決を経ます。二〇〇三年度当初予算では限度額は七十九兆円でしたが、政府は補正予算で百兆円とし、〇四年度予算案では百四十兆円に増額して、大量のドル買い介入を続ける姿勢を示しています。しかし、外為特会はドル安でドル建て資産の価値が目減りし、〇三年度中に新たに二兆円以上の評価損が発生する見通しです。
現在、ドルはユーロなど他の通貨にたいしても全面安です。ブッシュ米政権の大軍拡・金持ち減税などの放漫財政やドルたれ流し政策のもとで、財政赤字や貿易赤字が最大規模に膨れ上がり、戦争の泥沼化など経済の先行きにも不安が広がっているためです。しかし小泉内閣は、米国の無責任な政策をただすどころか、イラク戦争での突出した支持などブッシュ政権の政策の片棒かつぎに終始し、ドル安を招く米の政策を、輸出企業をかかえる財界の意も受けた際限ないドル買い介入で、必死に支えるのみです。政府は介入で得たドルで米国債を購入し、ここでも財政赤字のブッシュ政権を支えています。(水)
(8)補足5――中尾茂夫『FRB-ドルの守護神』(PHP新書,2000年)
●「……新生銀行やリップルウッド社をめぐる人脈を眺めてみると,興味深い構図が浮かび上がってくる。八城政基・新生銀行社長は,元シティコープ・ジャパン会長である。新生銀行の社外取締役には,今井敬経団連会長や樋口廣太郎アサヒビール名誉会長が名を連ねている。また,リップルウッド社のシニア・アドバイザーには,ポール・ボルカー前FRB(連邦準備制度理事会)議長の名前も並ぶ。なお,ボルカーは,現在,1973年に設立された日米欧三極委員会の北米担当議長という同委員会のトップの一人である(なお,名誉議長はディビッド・ロックフェラー)。……リップルウッド社はシティグループの影響が強く,執行役員にはシティグループ等から出向したプロを配している。
……長銀買収時のアドバイザーだったゴールドマン・サックスにも,そして買収後のリップルウッド社に関与するシティグループにも,いずれもロバート・ルービン前米財務長官の影が見え隠れする。リップルウッド社の最高経営責任者のティモシー・コリンズも,ゴールドマン・サックスに長年在籍した人物である。旧長銀の売却や,旧日債銀の売却交渉に際しても,ゴールドマン・サックスが主要なアドバイザーだったが,『日本政府がアドバイザーに支払った報酬額は機密事項だ』と相沢英之金融再生委員長は答弁した(2000年8月2日の衆院予算委員会)。実際,ゴールドマン・サックスのアドバイザリー収入の急増ぶりは顕著である。その収益構成比では,98年と99年には,アドバイザリー収入が投資銀行本来の業務である引受手数料を上回っている。
こうしてみると,長銀売却から新生銀行誕生までの舞台裏では,日米をまたぐ金融関連の『大物』たちによるきわめて大掛かりな仕掛けが作られていたようである。もちろん,ここで主導権を握ったのはアメリカである」(13~15ページ)。
●「……あたかも『Too Big To Fail』が原則だと言わんばかりに囃したて,公的資金導入が正当化されたのは,明らかに,意図された『情報操作』だったのではないか。そのツケがいま出てきている。96年,住専7社に6850億円を投入して以降,公的資金による銀行救済は膨張の一途を辿り,98年3月には銀行21行に1.8兆円の資本を注入し,98年10月には公的資金枠は60兆円に拡大された」(37ページ)。
●「……この軟弱な米ドルを守るべく登場したボルカー〔FRB議長在任は79年8月~87年8月〕のとった政策は徹底した金利引き上げによるインフレーションの退治だった」(70ページ)。
「このボルカーの米ドル危機鎮静化策を成功裏に導いたのは,国際政策協調による海外資金の順調な対米流入だったことを忘れるべきではない。というのは,80年代にアメリカのインフレーションを収束させ,金利引き下げに成功した背景には,ジャパンマネーの流入が大きく関わっていたからである。こうして,アメリカの債務国化と符号して,日本は債権大国に浮上していくことになる。
日本の生保や損保は米国債への熱心な投資家だったが,その背景には日米金利差が大きく作用している。つまり,日本の金利がアメリカより恒常的に低く維持されることによって,資金が米国債に買い向かうというメカニズムでしり,それはゼロに近い金利に苦しむ現在にいたっている。しかも,日本側が米国債を購入すれば,アメリカ側としては経常収支赤字と財政赤字の双方のファイナンスで同時に満たせる。金利への影響ということに関しても,ジャパンマネーの流入は,財政赤字によるクラウディング・アウト(財政赤字補填のための公的資金調達が民間資金を横取りして資金需要を逼迫させること)の緩和に貢献したにちがいない。
この資金循環が,機関投資家による自主的な資金運用(ポートフォリオ・セレクション)の結果だったのか,それとも対米協力という名の,国際政治力学上におけるアメリカの外圧に屈した大蔵省の行政指導のゆえだったのか,見解は分かれる。
これを,国際政治経済学者の松村文武は『体制支持金融』と名づけ,興銀調査部からアカデミズムに転じた吉川元忠は『帝国循環』と呼び,プリンストン大学の国際政治学者ロバート・ギルピンは『アメリカン・ヘゲモニーのファイナンス』と表現した。さらには,シカゴ・ケンパー社のエコノミストで,ワシントンの国際経済研究所のアドバイザー委員会委員でもあったディビッド・ヘイルは,『規制嫌いのアメリカは,規制好きの日本の官僚諸氏によって買い支えられている』という皮肉に満ちたコメントを吐いた。いずれも,アメリカの政治的覇権がジャパンマネーによる買い支えによって維持されていたと見る点では一致する」(71~73ページ)。
●「……今日の日本は,96年11月,当時の橋本首相が唐突に『金融ビッグバン』構想を宣言したものの,そこには周到な準備もしたたかな戦略もなかった。その限りにおいて,第二次大戦にズルズルと突入していった指導層のメンタリティと類似する。
今日の日本社会で『マネー敗戦』という言葉が共感を呼ぶのは,たんに金融競争で日本がアメリカに敗退したから,というだけではあるまい。すべてにあいまいで歯切れが悪く,また責任の所在が明らかにされることのなかった敗戦前後と,経緯があまりにも類似しているからである。筆者の見聞きする限り,日本側には,全体の構想や戦略を練った包括的ビジョンは何もなかったし,そういうシナリオ・ライターも不在だった」(93~94ページ)。
●「米国債の保有者としては,海外勢が多いことも特徴的である(図3-2)。なぜならば,アメリカに準備資産を保有する非居住者が,その相当部分を米国債で保有するからである。換言すれば,非居住者保有の多さは米ドルがまさに基軸通貨であることを表している」(137ページ)。
●「この間における米ドルの凋落を決定づけたのは,87年10月のブラックマンデーだった。日本は,88年には円高不況を脱して明らかに過熱気味の景気事情だったにもかかわらず,ブラックマンデーというアメリカの危機に対処するために,国際政策協調という美名の下,金利引き上げという選択肢を断念し,その結果,猛烈な資産インフレーションを甘受した。日本が債権国で,アメリカは債務国という関係からは,貸し手の日本が借り手のアメリカを経済力で上回ったのは自明のように見えた。
……91年,日本の債権大国化は,米ドルという外貨建ての負債に支えられた,つまりは負債があって初めて資産を積み上げることが可能だったという意味合いで『又貸し国家』と正確づけした(『ジャパンマネーの内幕』岩波書店)。ぞさは,日本の『金貸し国家』化の裏にある脆弱性に警鐘を鳴らしたものだった。……
要点を繰り返せば,日本が債権国だったことで日本を競争力のある経済主体とミナスことは,債務国だということからアメリカ経済の脆弱性をストレートに説くことと同様に,誤りなのである。なぜなからは,アメリカは基軸通貨国であり,自前の通貨で自前の負債を返済できるという特権を有しているからである。日本がアメリカにカネを貸すということは,日本がアメリカに債権をもつことではある。しかしそれがドル建てで値決めされている限り,極端な話,アメリカとしては米ドル紙幣を印刷すればいいのであって,返済に困ることはない」(160~162)。
●「……世界の公的準備通貨の内訳を,2000年6月発行のBIS年報でみると,米ドルのシェアが上がっている(……)。……それは非米ドル建ての外貨準備が絶対額で微増か,もしくは減少している様子と比べればきわめて対照的である。地域別内訳をみれば,99年末における世界の公的外貨準備1兆7460億ドルのうち,先進工業国保有分が40.4%でトップ,それに次ぐアジアは36.8%を保有する。……
ただし,興味深いのは,もしも世界最大の外貨準備保有国である日本をアジアにカウントして再計算すれば,先進工業国が23.9%にまで後退することとは対照的に,アジアは53.3%にまで上昇する。これは,先進工業国が西欧中心であることを考えれば,すでに単一通貨ユーロを立ち上げ,相当の米ドル離れを志向している欧州戦略の所産であると考えられる。
換言すれば,米ドルを支えているのはアジアなのである。……
このアメリカとアジアの関係は一見逆説的にさえみえる。これが『アジアの経済的豊かさ』の反映だと言えるのか,ぞさとも,米ドルから離れられないアジア通貨圏の独自性の欠如として嘆くべきなのか。どちらにしても,アジアを米ドル圈に組み込むアメリカのアジア戦略の巧みさということはまちがいあるまい」(188~190ページ)。
(9)補足6――大槻久志『「金融恐慌」とビッグバン』(新日本出版社,1998年)
●「……もしドルが大暴落し,かりにこの20年間の日本の黒字1兆ドルが輸出されたときの平均ドル対円相場の倍だけ円高になれば(例えば20年間に平均して1ドル200円で輸出しているとするとき,1ドルが100円になれば),今までも言ってきたように大体アメリカの銀行にドルで預けてあるか,あるいは,そこから引き出してアメリカの国債を買ってあるのであるから,日本がドルでもっている資産の円価値は半分になってしまうのである。もし100円だけ損になるとすれば全部で100兆円の損である。
つまり,日本人が20年間に働いて生産し,そのうちアメリカ人に売った商品の代金のうち,お金のままで置いてあってアメリカの商品をまだ買っていなかったから,その分で100兆円損するのである。
それを考えたら日本はアメリカの銀行に持っているドルを,またアメリカ国債の形で持っているドルを,直ちに売るべきであろう。だがそうすればドルは暴落し,それに続いて世界中のドルを持っている者がドルを売り,大暴落する。
どっちに転んでも日本は大損である。日本経済は貿易とその代金のドルで,アメリカに組み込まれてしまっているのである。日本がドル価値を維持してやっているのだと言っても言い過ぎではない」(78~79ページ)。
●「日本が損をすることなどアメリカは別に痛くも痒くもない。だがアメリカ経済と,生産する以上に消費するアメリカ的生活は断乎防衛しなくてはならない。それに最大の浪費としての世界中へのアメリカ軍の駐留,基地の維持,空母群と機動部隊の整備は絶対に続けたい。
当たり前のことだが,ドル大暴落というようなことにならないようにするには,生産するより遥かに多く消費する生活,貿易赤字タレ流しの経済を改めればよいのである。第二次大戦直後の日本,現在アメリカとその代弁人IMFに脅し上げられている韓国,タイ,インドネシアのように,緊縮して生産と消費,輸出と輸入の辻つまを合わせればよいのである。
だがそれはアメリカはしたくないのである。人類史空前のわがままである。それに,アメリカのわがままに寄生している者が日本にはたくさんいる。アメリカに輸出して大きくなった自動車工業,電機機械工業,半導体工業等である。こうしてアメリカはわがままを通そうとし,日本にもアメリカの言うことは何でもだまって聞き入れようとする勢力があることが理解できるであろう。
………こうしてアメリカは執拗に,日本に内需拡大と超低金利を要求し続けることになる。1980年代後半はその第一幕であった」(79~81ページ)。
●「1998年6月5日,『金融システム改革のための関係法律の整備等に関する法律案』(金融システム改革法案)が参議院本会議で可決成立し,一部を除いて98年12月1日に施行されることになった。……
ビッグバンが当時の橋本首相によって三塚首相と松浦法相に指示されるという形で動き出したのは96年11月であるが……。……94年まではそれほど大きな改革は主張されていなかったようである。……
しかしこれらはどれをとってみても,大体の調子はこれまでの改革をじっくり進めましょうといったもので,まったく目新しいものではなかった。それが一転して過激になるのは95年以降である。その前年夏,すでに内閣は代わって,細川,羽田のあと,社会党,自民党という,自民党に牛耳られる社会党村山首相の内閣になっていた。……どこかで,アメリカあたりからの大きな圧力がかかったのではないかとも推測される」(298~299ページ)。
●「……ドル支配体制は,それが続けば続くほど,アメリカが自分の都合で世界を振り回し,自国の節度を守らないほど余計に,貿易赤字の累積という形で自分の足許を掘りくずす。世界最大の貿易赤字国,世界最大の債務国の通貨ドルが,世界の貨幣価値の基準となっているという矛盾は絶対に永続はしない。何時かは際限のないドルの大暴落という形で崩壊するだろう。その時はアメリカが金融資産を失う時である。
それはどういうきっかけで開始されるかわからない。……」(318~319ページ)。
●「アメリカに頼るな,ということを最も強調しなければならないのは日本経済の生産と消費,いわば日本経済そのものである。第Ⅱ章で筆者が言おうとしたのは日本経済の行き詰まりはアメリカ依存経済の行き詰まりだということである。対米輸出依存度は近年多少低下して,対東アジア諸国貿易が拡大しているが,東アジア諸国は対日輸出依存と同時に対米輸出依存度も高く,これまたアメリカにしばりつけられた状態である。
この問題を考えるときは,日本と東アジア諸国の通貨の問題,為替相場の問題を考えてゆかなければならないが……。……簡単に言うと,ここではっきり日本と東アジア諸国はアメリカ依存経済を止め,お互いに頼りにし合う関係を結ぶべきではないかということである。アメリカに振り回され,アメリカの無理難題を言われても大切な輸出先だから従わざるを得ないという経済,そういう貿易構造を止め,互いに輸出し合う関係,したがって輸入し合う関係になるべきではないかということである。つまり東アジア共同市場を気づき上げるわけである。
その点で参考になるのはヨーロッパである。ヨーロッパはEU(ヨーロッパ共同体)加盟国である限り,関税をなくし,人,モノ,資本の移動を自由にした。そして共同市場を大切にし,お互いに売り手となり買い手となってEU域内の貿易を発展させてきた。各国とも生産のうちで外国に輸出しなければならない貿易依存度は非常に高いのだが,それは相手が主としてEUの域内で,右に言ったように互いに売りつ売られつの関係だから問題はない。それが共同市場というものである。
われわれもEUをお手本にして東アジアに共同市場を発展させるべきである。もちろんアメリカとも自由に貿易をしなければならないが,前にものべたようにアメリカは自分の国内がうまくゆくのを最優先して,シワを対外関係に寄せるのを常套手段にする国である。だから対米貿易が大きくなると必ずアメリカから無理難題がくる。ヨーロッパ諸国が日本と比べてはるかにアメリカに対して毅然としているのは何といっても共同市場のおかげである。
しかし共同市場を発展させるということは産業政策の問題でもある。……日本の得意なものは何か,東アジア諸国ではあまり作っていないものを作って輸出し,その代わりあるものは国内生産を断念しなければならないかもしれない。そのために出る失業をどこで吸収するかも考えなければならない。共同市場は極めて総合的な問題である」(319~321ページ)。
(10)補足7――銀行問題研究会『金融投機の経済学』(新日本出版社,1993年)
●「この時の〔プラザ会議での〕竹下氏の言動は,ボルカー氏もつぎのように証言しています。
『会合(プラザ合意のこと)で私が最も驚いたのは,その後総理大臣になった日本の竹下登大蔵大臣が円の10%以上の上昇を許容すると自発的に申し出たことである。彼は我々が予想していたよりもはるかに前向きであった。行天豊雄は,日本は米国内の保護主義的な圧力の高まりに危機感をもっており,このような圧力が軽減されることを期待して円の大幅な上昇を許容する用意があったと説明している。竹下大蔵大臣の態度が,他の参加者をも驚かせたことは確かであり,このことは会議の成功に非常に重要な影響を与えた。ヨーロッパ諸国の主要な関心は,過大評価されているドルに対する自国通貨の為替相場ではなくて,円に対する為替相場であった。円の切上げ幅が大きければ大きいほど,ヨーロッパ諸国は自国の競争力について安心できるのであった。』(『富の興亡』356ページ)」(214~215ページ)。
(11)補足8――植田信『ワシントンの陰謀』(洋泉社,2002年)
●「これを見て,クリントンはしばし態度を変えた。というのも,細川政権は日本経済の構造改革(それと規制緩和)を訴えて権力の座を射止めた政権だったからだ。日本の構造改革といえば,アメリカではニクソン大統領依頼の念願であり,つねに歴代政権の対日政策のトップに掲げられていた課題である。……
クリントンにとって,細川政権の登場は願ってもないことだった。細川政権を評価すると,そのうえさらに積極的に支援する策に出た。円高の流れを逆転させようと市場介入したのである。8月19日,ベンツェン財務長官,サマーズ財務次官が市場介入すると,この日1ドル=100円まで来ていた為替レートは1ドル=106円にもどった。クリントンはさらに細川政権を援護し,細川内閣が国会に提出した構造改革案が通る予定の年末まで,日米貿易交渉に関するアメリカ側の不満をいっさいマスコミに漏らすなと命じた。
1994年2月11日,ワシントンで日米首脳階段が開かれた。これまでのいきさつから,アメリカの提案に日本は『イエス』と返事するとばかり思っていたクリントンは驚いた。なんと細川首相は『ノー』と言ったのだ(このとき細川首相は,これで日米は大人の関係になったと説明した)。
クリントンは激怒し,ここにアメリカの『地獄の円高』戦略が始まることになった。……クリントン政権が発足した直後,財務次官に就任したサマーズは早々と予告していた。
『日本の経常黒字が年間千億ドル以上の水準で推移するようなら,円相場は数年で1ドル=70円台になってもおかしくはない。この為替レートであれば日本企業の価格競争力は急速に低下し,日本経済は低迷する』(『日本経済新聞』1995年5月4日付)。……
……そして,1995年4月17日が来た。この日,ついに1ドルが79円になった」(147~150ページ)。
●「アメリカでは1995年1月10日,ベンツェン財務長官が高齢のために退任して,ルービンが財務長官に就任していた。4月25日にワシントンでG7蔵相会議が開催されると,ルービンが議長になり,日本問題が検討された。特別の措置は何もとられなかったか,夕方になって声明が発表された。最近の為替の傾向は,『ファンダメンタルズによって正当化できる水準を超えている』と告げた。これはG7が円高は少しばかりいきすぎた,と認めたものだった。声明は続けた。『こうした変動を秩序ある形で反転させることが望ましい』(榊原英資『日本と世界が震えた日』)と。
それから1カ月後の5月26日,日本では大蔵省財政金融研究所長の榊原英資が国債金融局長に就任した。この人事が円高対策のためにおこなわれたと理解した榊原は,すぐにアメリカに飛んだ。G7声明にある『秩序ある反転』を具体化するためだ。帰国すると彼は,『海外投融資の思い切った規制緩和を行いましょう』(『サンデー毎日』1997年3月16日号)と武村正義大蔵大臣に進言した。
その一方で,榊原は強力な市場介入を始めた。マスコミでは『日本の貿易摩擦が主要な話題になっているが,現在の為替取引の実状では,貿易関連の取引は5%程度でしかない。資本取引が残りの95%をしめており,このような状況では小出しの介入は効果がない(100億ドルの介入でも1日の総為替取引の百分の一でしかない)。しかし,介入する以上は市場に勝たねばならない。介入の量(介入金額)を多くし,意志を固く保ち,当局の姿勢を広く周知させること』(榊原英資,前掲書)。……
8月2日,1ドルが90円台に近づいた。このことを武村蔵相が電話でルービン長官に報告すると,長官は日本当局の介入を称賛した」(150~151ページ)。
●「超円高が終息したあと,日本では細川政権のあと橋本政権が誕生し,日本経済に構造改革を促す『金融ビッグ・バン』政策がスタートする。誰がそれを始めたのか。……
……そのときアメリカはどこにいたのか,と。やはりアメリカの態度の急変に不信を抱いたカレル・ウォルフレンは,榊原英資とルービン,サマーズのあいだで秘密の取り引きがあったのだと推測した。すなわち,アメリカが『円高反転』に合意するのと引き換えに,日本は構造改革(『金融ビッグ・バン』)を実行するという密約が交わされたのではないか,と推測したのである。
……この疑問をウォルフレンは武村蔵相にぶつけた。返ってきた言葉は,『榊原君はそんなことができる立場ではありません』(『サンデー毎日』1997年3月16日号)というものだった」(153~154ページ)。
●「幸い,この疑問に答えてくれそうな一つのスピーチがある。1997年11月5日にニューヨークのジャンパン・ソサエティでサマーズ財務長官がおこなったスピーチがそれだ。サマーズばアジア市場の自由化を話題に取り上げたのだが,そこに私たちには耳慣れない言葉が出てくる。彼によれば,95年に日米間で『金融サービスに関する協定(United States-Japan Financial Agreement)』が結ばれたというのだ。それだけではない。サマーズはさらに私たちにとって驚くべきことを口にした。『この協定のもとに,目下,橋本首相が〈金融ビッグ・バン〉をおこなおうとしているところであり,これは日本経済に構造改革を促すだろう』と,そう期待をこめて語ったのだ。そして,『これが成功し,健全な金融システムが構築されれば,日本は内需主導の経済になり,さらなる経済成長が見込めるだろう』(『財務省レポート』1997年)と。
……私たちにはサマーズの発言を疑う余地はない。スピーチのペーパーは誰でも入手できるからだ。
それにしてもこたれは奇妙だ。私たちはそのような協定があったことを,どこかで耳にしたことかあるだろうか」(157~158ページ)。
●「それからもう一つ,アメリカが1995年4月に『逆プラザ合意』をした背景には深刻な理由があった。『ユーロ』の誕生である。……アメリカにとって『ユーロ』の誕生は世界におけるドルの地位が脅かされることを意味していた。……
……ドル安をこのまま放置して,1999年1月1日を迎え『ユーロ』が誕生するとき,もしドル安のままであれば,世界の資金はそれでもいままでどおりドルに投資を続けるだろうか。こう考えたルービンは不安を覚えた」(159~160ページ)。
●「……『逆プラザ合意』によって『地獄の円高』の危機を乗り切ったのはよかったが,それも束の間のことだった。意外にも,思わぬ方角からしっぺ返しがきたのである。アジア諸国で経済危機が勃発したのだ。……
……円安によって日本の輸出競争力が回復するということは,自国の通貨をドルに連動させているアジア諸国にとっては,自国の通貨が割高になるということである。すると輸出品の価格が上昇し,国際競争力が落ちてしまう。『逆プラザ合意』が発表されると,まさにアジア経済にそれが起こった。強力な日本の輸出産業が再び国際市場に顔を出したことで,そのぶん,アジア諸国の輸出が減退したのだ。
この事態が発生したことで,1993年に世銀が発表したリポート『アジアの奇跡』の正体が明らかになった。アジア諸国の奇跡の経済成長,それは円高による奇跡だったのである。そして,それを引き起こしたものは何かといえば,もはや言うまでもなく,85年のあの『プラザ合意』だったのだ」(161~162ページ)。
(12)補足9――今宮謙二『投機マネー』(新日本新書,2000年)
●「……このままならば大暴落となる様子をみて,日本銀行は東京市場でドル買いの介入をおこなってドル相場の下落をくいとめます。この日本銀行の介入は,本来は大蔵省の仕事で,日銀は代理としておこなっているのですが,日銀の買ったドルが日本の外貨準備高になるのです。この外貨準備高は正確にいうと,大蔵省の外国為替資金特別会計(外為特別会計)と日本銀行保有との二つの合計をさします。ではドルを買うための円貨はどう調達するのでしょうか。大蔵省が外為特別会計のもとで外国為替資金証券を発行し,それを日銀が引き受けて,日銀券を発行する仕組みなのです。……この外国為替特別会計の含み損の実態はまったく不明です。会計検査員の決算検査報告によると,95年度には約10兆円の含み損に達し,その後ドル高で98年度末には約3兆円となり,99年度は円高のため約5兆円の含み損とみられています(『毎日新聞』2000年4月15日)。
さて,問題はこのたまった外貨準備高をどうするかです。先にもふれたように日本の外貨準備高は世界第一です。ユーロ地域合計よりも大きく,アメリカの約3倍以上の保有高となっています。この巨額な政府・日銀保有の外貨(ほとんどがドル)はどのように使われているのでしょうか。……2000年5月10日,大蔵省は同年4月末の準備だか発表のさい,はじめてその内容を明らかにしました。……
このなかで注目されるのは,外国証券所有がほとんどを占めている点です。この証券は主としてアメリカの国債です。……
……日本政府はこのようにアメリカ経済・金融全体を支えているだけではありませんァ日本の大金融機関,大企業に対して,アメリカの国債などを買うように指導しています。大手生命保険会社などの『セイホマネー』は,アメリカへの資金供給パイプとして日米関係に組みこまれていたと『朝日新聞』は報じています(2000年6月25日)。この記事では,大蔵省が生保各社の社長をよびつけて,アメリカへの資金供給への『協力』を求めた事実を明らかにしています。つまり,日本政府を中心とし,日本の大金融機関をまきこんで,日本のマネーをアメリカへ還流させる仕組みがつくりあげられているのです。日米金融『協力』の実態はここにあります」(131~134ページ)。
(13)補足10――吉川元忠『マネー敗戦』(中公新書,1998年)
●「日本はアメリカに巨額の資産を有している。80年代の初めから,生保など機関投資家を主力とするジャパン・マネーがアメリカ国債の形で買いまくったドル――これがその資産の主要な中身である。
ところが,1985年以降の円高ドル安によって,それは大きく減価してしまった。日本がはじめてドルの世界に足を踏み入れたといわれる80年代全般の長期国債などは,そのまま保持していれば,95年4月の円高のピーク時には約7割も価値を失い,95年以降の相対的ドル高の期間においてさえ,4割以上も減価している計算になる。……日本の保有するアメリカ国債こそは,ある意味で,究極の不良資産といえるのではあるまいか。
……極論すれば,アメリカが債務を負う相手国の国力を削ごうと思えば,為替相場をドル安に誘導することだけでこと足りる。そうであればこそ,ドイツをはじめヨーロッパ諸国は,『ドルからの自由』を求めてユーロを創設したのである」(11~12ページ)。
●「……79年1月のEMS(欧州通貨制度)発足で,西ドイツはその経済的運命を,アメリカではなく統合ヨーロッパとともにすることが決定的となっていた。70年代末のドル不安に際してマルク建て『カーター・ボンド』が発行された折りには,ドイツはその引受けに協力したが,当時,すでにドイツは,ドルを支える必要性を感じていなかった。というより,EMS自体が,不安定なドルに振り回されないよう,EC諸国によって設けられた仕組みだったのであり,ドイツ,マルクはそこで中心的な役割を果たすことになっていたのである。
80年代はじめの高金利政策は,西ドイツから日本へ,アメリカ経済の支え役を交替させるために仕掛けられたといっては,言い過ぎになるだろうか。……
……日本のアメリカ国債購入額は,76年の1億9700万ドルから10年後の86年4月には,早くも1380億ドルに達している。日本の85年1年間の対外投資額818億ドルのうち,534億ドルが債権投資,特にアメリカ国債に向けられている……」(46ページ)。
●「〔プラザ合意以降〕何がいった彼らをドル債購入に駆り立てていたのか。……
その一つは,きわめて特殊日本的な政・財・官の関係である。……80年代の後半には,アメリカの長期国債の入札が近づくたびに大蔵省の担当者から電話が入ったという。用向きは,アメリカ国債への応募や購入の意向に関するヒアリングである。しかし,ついでに必ず他社のアメリカ国債購入状況について説明がある。こうなると機関投資家としても黙過できない。当局の意を抑えるべく行動せざるを得なかったと密かに洩らすジャパン・マネーの担当幹部は多かった。
生保が組み入れられた金融村においては,大蔵省自身にとっては単なる『ヒアリング』と言い抜けることのできる言動が,村八分をおそれる大きな圧力となって現れる。……
……第二の動因,すなわち80年末にかけてのバブルの含み益にほかならなかった」(80~82ページ)。
●「……日本側にとって,いったん深く足を踏み入れた以上,米国の経常収支赤字が続く限り,日本がこれを埋め続けなければ,ドルの暴落を引き起こす危険性がある。ドルが暴落すれば,それまでに投資され,ドルに姿を変えたジャパン・マネーはさらに大幅に減価する。そうならないようにと,ドル債投資を続けることが,唯一の方策となってしまった。一蓮托生,ドルと運命をともにする。これが日本側から見た『ドル買い』第二幕の基本的構造である」(87ページ)。
2004年7月14日(水)……和歌山のみなさんへ。
以下は,和歌山『資本論』講座・第2・3部を読むの第3講に配布したレジュメです。
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和歌山『資本論』講座・第2・3部を読む
『資本論』ニュース(第3回)
神戸女学院大学・石川康宏
http://web.digitalway.ne.jp/users/walumono/
〔講師のつぶやき〕
選挙本番に入ってからの情勢の展開がおもしろいですね。私たちの主張と国民の関心がこれほど一致している選挙はめずらしいようです。それほどに,今日の支配的な政党と国民との利害の対立が深刻になっているということですね。
他方で,しかし,その一致をマスコミは自動的に紹介してはくれません。となると,そこの一致の事実は,自力で広める必要があるということです。
最後まで,大いにがんばりましょう。
以下は,「しんぶん赤旗・日曜版」2004年6月6日付の記事「経団連/改憲へ動く舞台裏/政党に"踏み絵"迫る」にそえた私のコメント「米国の要請で本格化」です。
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日本経団連が改憲に本格的に動き出した動機や背景として,アメリカからの強い要請をしっかりとらえることが必要です。それにこの要請に応じることで自らの政治的・経済的な地位を高めようとする国内の思惑がむすびついていると思います。
経団連はじめ財界役員の中枢をしめる自動車・電機業界はその利益を,アメリカ市場に特別に深く依存しています。経済同友会の北城恪太郎代表幹事は昨年12月2日の記者会見で「安全保障にとどまらず貿易をふくむ日米関係を考えても,自衛隊の派遣は必要」と,アメリカとの経済的な利害関係を強調しました。
輸出でも直接投資の絶対額でもアメリカは財界にとって最も重要な市場です。この市場の安定的な確保のためにアメリカの軍事的要求に従うことが必要だという判断があるのでしょう。
新設された委員会に三菱重工はじめ軍需産業の代表がどれだけ入るかも注目点です。ただし,その場合も,最近の軍需産業の活発な動きがアメリカによる「ミサイル防衛」への参加要請に重なっている点が重要です。「ミサイル防衛」は日本だけで6兆円の軍事市場といわれています。アメリカの軍事戦略への加担が日本の軍需産業の利益の拡大につながるという関係ができているわけです。
財界の改憲要求は,アジアにおける日本企業の経営基盤を掘り崩し,今後に期待される友好的な経済協力の発展に大きな障害を生み出すものとならずにおれません。
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短い文章ですが,これを書くときにいちばん考えさせられたのは,最後の2行です。日本の今後を考えると,アジアにおける共存共栄に向かうしか道はないのですが,憲法「改正」は,その道をみずから断ち切る役割をもつ。そういう意味をもつのではないかということです。
それは,21世紀の世界的な平和秩序にかかわる問題であると同時に,日本とアジアの経済秩序にとっても重大問題に思えます。
アメリカ市場への過度の依存を脱却し,経済的にも「アメリカいいなり」の条件を削ぎ落としていこうとすれば,アジアの中での相互依存は不可欠です。そして,アメリカの10倍もの人口がひしめくアジア市場の開発は,日本経済のより大きな発展にとってもメリットが大きい道であるはずです。
もう少し,考えを深めていきたいところです。
さて,次は,「6月4日(金)に届いたメールです」。和歌山学習協に届いたものです。
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松野さん、おはようございます。
資本論講座1部が終了し、2部3部が始まりました。1部の講座はほとんど出席することができて、それなりにがんばったとは思うのですが、月に1回の講座に出席して石川先生のお話を聞くだけになってしまい、自身で資本論を読むということはできませんでした。
2部3部講座の第1回講座で石川先生がおっしゃった「資本論を小説のように読め!」の言葉に励まされて、1部を読んでみる気になりました。机に向かう資本論学習ではなく、新書版を常に持ち歩くようにしました。
これが結構いけるんです。トイレに座ったとき、ちょっとたばこ一服のとき。これまで机に向かってノートを用意して「さあ読むぞ」とやっていたときはすぐに挫折してしまっていたんですが、今回は「小説のように」とまではいきませんが、少しずつ読み進むことができています。
まだ、新書版の1冊目の中程まできただけで、じきに投げ出してしまっているかもわかりませんが、好調なうちにご報告をと思いメールしました。
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すばらしいですね。やはり,いろんな方法をためしてみるものです。
本はいつでもどこでも,アタマから,1文字・1行もとばさずにガリガリ読むしか読む方法がないというものではありません。
ななめ読みあり,段落のアタマ読みあり,わかるところだけ読みあり,気に入ったとこだけ読みあり……と,方法はいくらでもあります。
『資本論』のようにむずかしい本の場合には,「わからないと前にすすめない」という読み方は絶対にしてはいけません。理由は簡単で,そんなことをすれば,ほとんどの人が1ページ目で挫折してしまうということになるからです。
そこで,まずは「わかるよりなれろ」です。たとえば,むずかしい同じ言葉が,『資本論』のなかには,なんどもなんども繰り返してでてきます。
それを,最初はわからないから気にせず,とばしておきます。ところが,そうやってとばしているうちに,5回も10回も同じ言葉に出くわしていると,「これはひょっとするとこういう意味じゃないのか」と,ひょいと「わかった」の瞬間がやってくる。そんなことがあるのです。小難しくいうと「量から質への転化」ということです。
そういう「質的変化」を手にいれるためには,まずなんといっても「量」です。あまり苦しまないで「量」を手にいれるためには,「小説のように読む」「歴史小説のように読む」「経済小説のように読む」,この方法はいい手です。『資本論』に「お近づきになる」ためのよい方法です。
みなさんも,いろんな読み方をためしてみてください。ともかく,本を開いた回数,ながめた回数,声に出して読んだ回数といったことは,きっと,みなさんが思っている以上に,はるかに重要なことですから。
〔質問に答えて〕
◆「産業資本の運動」のこと、特に恐慌論についてよくわかった。恐慌が商業資本や金融資本、さらにはグローバル化の中で生産と消費のギャップが広がり、大きさの中でおこることがよくわかりました。そんな中で、あらためて生産者と消費者とが近くに存在する「地産地消の運動」は、小企業者や零細業者の犠牲を少なくする道であることがわかったように思いますが、そう理解すればよいのですか。
○「地産地消」というのは,地元で生産したものをその地域で消費するということですか? なるほど,それはそれで地元業者の安定的な発展にとって大切な保障のひとつですし,商品を買う側も,生産者の顔がみえるので安心ですね。しかし,たとえば日本の経済が海外からの石油輸入を不可欠とするように,遠くの商品への依存をゼロにするということはできません。いまや小麦もアメリカ産ですし,寿司屋のマグロやエビも,ずいぶん遠くからやってきているようです。
○経済のグローバルな発展は,そういう具合に,自分の国にはない世界のすぐれた商品を,各地にとどけるという大切な役割をもっています。ですから,この意味での生産の拡大を,ふたたび地域単位の生産と消費に切り刻んでしまうというわけにはいきません。そうなると,やはり私たちは,世界市場のもとでの生産と消費のアンバランスをどうすれば調整することができるのかという,この問題に挑戦する他なくなるわけです。将来の問題は,模索と実践が切り開いていくのでしょうが,いまの日本のアンバランスについては,個人消費の拡大こそが状態の改善に役立つよいクスリであり,それを可能にする政府の政策についても,社会保障への政府の責任,リストラの規制,消費税の減税と,具体的な処方箋がかかれています。ぜひ実現させたい政策です。
◆「産業資本は蝶だ」と言う言葉って、おーっなるほど!と思いました。「ノートは一冊」「頁数をふって、目次をつくる」ということを前回の講義の翌日から真似させていただいております。この方法は、かなり気に入っています。エンゲルスが序言でまとめていたマルクス第Ⅰ部の8つの要約は、それが自分の言葉で説明できるかどうかで、それが理解できてるかというのを点検できるということでしたが、私には、ひとつも満足に説明できません。説明できませんが、石川先生は、「これはエンゲルスの要約」と言っておられましたが、例えば他に、どんな人が、どんな風に、マルクスの第Ⅰ部を要約しているのでしょうか。
○そうですね,普通の「蝶」だと,成虫になったあとは死んでしまうわけですが,第1篇「循環」から第2篇「回転」に話がすすむと,「成虫から再びタマゴにもどる」ということにもなっていきます。しかし,それにしてもよくでてくる「変態」という言葉づかいといい,マルクスには自然のイメージを社会の理解にとりこむところがありますね。じつはマルクスが哲学を学んだヘーゲルは,ものごとの発展を「生命」になぞらえています。いずれも狭い意味での専門家ではなく,科学全般に広く目を配る人だからこそ,言葉つかいもまた狭い学問のわくを越えて活用することができのでしょうね。ノートの活用については,いろいろ自分流に工夫してみてください。
○第1部の要約や,『資本論』全体の要約については,マルクス自身も語っていますし,エンゲルスにもちがった角度からのものがありますし,レーニンも語っています。特に,第1部については,出版の際に,エンゲルスがいくつもの書評を匿名で書いて宣伝しています。7つの書評は,それぞれにちがった角度からの『資本論』評になっています。また,エンゲルスが『資本論』第1部を要約したノートというのもあります。『資本論要綱』という名前で,新日本出版社から発行されてもいます。このあたりについては,不破哲三『エンゲルスと「資本論」』に詳しい紹介がありますし,また不破哲三『古典学習のすすめ』の『資本論』の項目にも紹介があります。ぜひ読んでみてください。
◆「資本論(第2部・第3部)講座」は、第1部に引き続いて受講することになり、先週の第1回は仕事のため受講できなく、今回が私としての第1回目でした。月に1回、行事的に受講することを打破するため予習、復習に励みたいと思います。
○学習の基本はもちろん独習ですが,学習の積み上げにはもちろん個人差があります。たとえば,はじめて第2・3部を読むという場合には,それはかなりの難物ですから,先ずはともかく毎回講座にきて,だいたいのイメージ(ニオイ)を欠かさずつかむ(かぐ)ということを重視するのがいいかもしれません。
○もちろん,しっかり予習・復習ができれば万全です。しかし,「完璧主義」はつかれます。予習ができなくても,講義で紹介した箇所だけを,あとで復習してみるというのは,効率的な方法かもしれません。いまの自分にできる「背伸び」の範囲を守りながら,長続きのするやり方で,がんばってみてください。
◆今日から流通過程の勉強に入った。私が関心を寄せるのは、社会的総資本の流通です。最近、循環型社会という言葉がよく言われていますが、詳しく勉強して解明したいと思います。
○いまいわれる「循環型社会」というのは,できるだけ無駄をなくして,生産物をキチンとリサイクルする社会ということですね。それに対して,マルクスの社会的総資本の生産と流通は,個々の資本家による生産が,他の資本家による生産とどのようにむすびつき,また他の資本家による消費,多くの労働者による消費とどのようにむすびついているかの探求です。それが社会全体で見事に過不足なく消費されるのは,どういう場合であり,またそれがうまく消費されずに,バランスがこわれてしまうのは,どうしてなのか。そこが,大きなテーマです。
○いわゆる「循環型社会」とはちがった意味になるのでしょうが,しかし,それはそこへたどりついてからのお楽しみです。きっと別の楽しみがあります。そして,ひょっとすると,その楽しみを味わうことが,もとにもどって「循環型社会」への理解にむすびつくということも,あるかもしれません。楽しみにしてください。
◆商品資本の介在による生産と消費のギャップが恐慌の出発となるということがよくわかった。
○もうすこしいうと,商品資本がたとえ介在しなくても生産と消費のギャップはあるのです。しかし,そのギャップを恐慌という生産力の破壊を必要とするほどに,周期的に拡大することには商品資本や信用が重大な役割をはたしているということですね。この問題は,第2・3部のとても大きな柱ですから,ひとつひとつ,順を追って,しっかりとおさえていきましょう。
◆後半ついていけなくなりました。
○そんなときこそ,「わからないことを悔やむ」のでなく「わかったところを積み上げて喜ぶ」の精神です。減点法でガックリするのでなく,加点法で点数を積み上げていく精神です。レーニンにだって読み間違いがあり,エンゲルスでさえ編集のしそこないがあるのです。わたしたちが1度でわからないのは,むしろ当然のことなのですから,あせらずに,「次はわかるかもしれない」ことを楽しみに,先へと歩いていきましょう。
◆〔特別質問〕
おはようございます。昨日(6月16日)、ようやく新書版の第1分冊を読み終えました。奥付を見ると,1982年11月15日 初 版,1982年12月30日 第6刷,となっていますから、最初のチャレンジから20年以上たっての読了ということになりました。といっても、新書版の第1分冊が終わったところですから、引き続いて第2分冊以降にとりくんでいきたいと思います。ところで、質問です。原ページ147。
「蓄蔵貨幣形成の衝動は、その本性上、限度を知らない。貨幣は、どの商品にも直接的に転化されうるものであるから、質的には、あるいはその形態からすれば、無制限なもの、すなわち素材的富の一般的代表者である。しかし、同時に、どの現実の貨幣額も、量的に制限されたものであり、それゆえまたその効力を制限された購買手段であるにすぎない。貨幣の量的制限と質的無制限性との間のこの矛盾は、貨幣蓄蔵者を、蓄積のシシュフォス労働に絶えず追い返す。彼は、新しい国を征服するたびに新しい国境に出くわす世界征服者のようなものである。」
この部分がよくわかりません。貨幣の量的制限と質的無制限性とは何を言っているのでしょうか。
○よくがんばって,読まれていますね。こうやって,自分を励ましながら,一歩一歩,確実に前にすすむ努力はじつに貴重です。これは,多くのみなさんを励ますことにもなるでしょう。今後もがんばってください。
○さて,貨幣の量的制限というのは「どの現実の貨幣額も量的に制限されたものである」ということです。「私の月給は25万円です」とか「財布にあるは5000円です」というように,誰にとっても手もとにある貨幣は「一定額の貨幣」です,「ある量の貨幣」です。そのことをいっています。大金持ちの資本家が10億円をもっていたとしても,それはやはり「一定額の貨幣」です。
○それに対して貨幣が質的に無制限であるというのは「素材的冨一般の代表者である」ということです。それが,どんな冨(商品)とも,いくらでも交換されうる,どんな商品とも,どれだけでもかわることができるということです。「この商品とは交換できるが,あの商品とは交換できない」「この数までは交換できるが,それより多くとは交換できない」という制限がないということです。
○ですから,上の文章は全体として,貨幣はつねに「一定額の貨幣」だが,貨幣はどの商品とも,いくらでも交換されるうるものだから,その交換には限りがない。そこで「一定額の貨幣」しかもっていないことを乗り越えようとする,果てしのない蓄積の衝動が「貨幣蓄蔵者」に生まれる。つまり,商品のためこみには制限があるが,貨幣のためこみには制限がないということをいっています。いかがでしょうか。
〔今日の講義の流れ〕
1)「講師のつぶやき/質問にこたえて」(~2時)
◇たくさんの意見,質問へのコメント。
2)第2篇「資本の回転」(~2時20分)
・回転論の組み立て――『「資本論」全3部を読む』第4冊185~188
◇第7章「回転時間と回転数」――前半は第1篇の復習として
3)「資本の回転」つづき(2時30分~3時20分)
◇第8章「固定資本と流動資本」――「減価償却」,「社会基準上」の磨滅
◇第9章「前貸資本の総回転。回転循環」――産業循環の10年周期をめぐる75年フランス語版の展開(第4冊210)
◇第10章「固定資本と流動資本とにかんする諸学説。重農主義者たちとアダム・スミス」――不変資本・可変資本の区別の大切さ
◇第11章「固定資本と流動資本とにかんする諸学説。リカードウ」――「スミス的混同」の継承
◇第12章「労働期間」――労働期間がとくに長い事業
◇第13章「生産時間」――生産過程に自然の過程がふくまれる場合
◇第14章「通流時間」――交通手段の発展による時間の短縮と延長
4)「資本の回転」つづき(3時30分~4時20分)
◇第15章「資本前貸しの大きさにおよぼす回転時間の影響」――「資本(貨幣)の過多」が恐慌への過程を必然とする?
・マルクスの錯覚――第4冊236~243
◇第16章「可変資本の回転」――回転速度と剰余価値年率,労働期間の長い事業度市場
・恐慌論についての「覚書」――第5冊29~34
◇第17章「剰余価値の流通」――信用制度につながっていく
5)質疑応答(~5時)
2004年7月8日(木)……兵庫のみなさんへ。
以下は,兵庫学習協で,この夏おこなう短期講座の案内文です。
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〔兵庫学習協/不破哲三著『「資本論」全3部を読む』から〕
『資本論』研究の新たな成果にテーマで学ぶ
――市場経済,搾取,恐慌,社会主義――
2004年6月21日作成
神戸女学院大学・石川康宏
http://web.digitalway.ne.jp/users/walumono/
2004『資本論』講座の荒行第2弾です
春には,不破哲三著『レーニンと「資本論」』全7巻をたった4回の講座で読むという知的荒行を達成(?)しました。おつきあい下さったみなさん,どうもありがとうございました。つづいて,この夏には,不破哲三著『「資本論」全3部を読む』全7冊を,これまたたった4回の講座で読むという,知的荒行の第2弾に取り組みたいと思います。
春の講座には80名の方が参加されました。この夏の講座には,キリ良く100名のみなさんの参加を,いやそれ以上のみなさんの参加を期待したいと思います。いっしょに楽しく学びましょう。
『資本論』で「科学の目」をやしなう
なぜいま『資本論』なのか。答えは簡単で,『資本論』こそ,日本と世界をとらえる「科学の目」を養うのに格好の書物だからです。『資本論』は資本主義の根本に挑戦しており,そこには現代の資本主義をとらえるための科学的で重要なヒントがたくさんあります。
あわせて大切なのは,『資本論』が「経済学だけの本」ではないことです。唯物論の見地はもちろん,弁証法や,人類史の発展,未来社会の展望と,そこには科学的社会主義の学説の構成要素が自由自在にからみあっています。レーニンはこの学説を「全一的な世界観」といいましたが,その「全一性」がまるごと入り込んでいるのが『資本論』の特徴です。
『「資本論」全3部を読む』の新しさ
今回の講座でとりあげたいのは不破哲三著『「資本論」全3部を読む』です。そこには『資本論』研究のユニークな新しい高みがこめられています。先の点に関連していえば,この本は経済学者による研究・解説にありがちな,『資本論』を経済学の面だけから論ずるという制約がありません。また『資本論』を章ごと・篇ごとに輪切りにするのでなく,あくまで全体を1つの著作として読むという姿勢が貫かれるのも重要です。
さらに,もうひとつ大切な点は,今回の研究が,現行『資本論』を完成品としてではなく,マルクスの研究によって補足されるべきものと見ている点です。
『エンゲルスと……』から『レーニンと……』まで
『全3部を読む』に結実する不破氏の『資本論』研究の直接の出発点は,『エンゲルスと「資本論」』でした。エンゲルス没後100年の1995年に始まったこの研究は,『資本論』第2・3部の編集に取り組んだエンゲルスの苦闘を詳しく調べあげ,そこには偉大な功績とともに,検討を要する問題が残されていること,また必ずしもエンゲルスの編集に取り入れられなかった,第1部以降のマルクスの新しい研究の内容が明らかにされました。つづいて書かれた『レーニンと「資本論」』では,レーニンの業績全体の再評価が中心課題となりましたが,特に『資本論』とのかかわりでは,レーニンが『資本論』を最初からロシア社会の解明と変革の指針として受けとめる姿勢と力をもったことが強調されました。
『マルクスと……』による大きな前進
『マルクスと「資本論」』には,研究の新しい飛躍があります。経済学研究の開始から,亡くなるまでのマルクスの研究のすべてをながめ,そこから,マルクスにはあったが『資本論』には残されなかったものは何だったのか,その食い違いが整理されます。特に重要だったのは,現行『資本論』の編集には採用されなかった第2部第1草稿に,恐慌の解明の核心が隠されていたことへの注目です。エンゲルスはその意義を十分にとらえることができず,その結果,『資本論』全体の構成についても大きな難問が残されました。
こうした一連の研究の上にたっての『「資本論」全3部を読む』は,もはや現行『資本論』の研究・解説にとどまることはできません。そこには,いまある『資本論』への補足があり,補足された『資本論』が示す姿についての新たな解説がふくまれざるをえないのです。
4つのテーマで読んでみる
さて,こうした意義をもった不破氏の『「資本論」全3部を読む』ですが,この講座ではページの順に読むのでなく,次のようなテーマにそって読んでみたいと思います。これら4つのテーマごとに,この本が明らかにしていることの全体をつかまえることに力点をおいてみたいと思うのです。いわば,この本の現実解明にむけた理論的な「威力」を,4つのテーマにそって探ってみよういうことです。
ぜひ,みなさんには『「資本論」全3部を読む』全7冊を手元において,いっしょに読んでいただければと思います。講座では毎回レジュメを配ります。これを全7冊を読むうえでのひとつの参考にしてもらえればと思います。100名をこえる方々のご参加を,兵庫のみなさんの学ぶ意欲と取り組みの力に期待したいと思います。
『資本論』研究の新たな成果にテーマで学ぶ――市場経済,搾取,恐慌,社会主義
8月 2日(月)――「『資本論』入門」,「市場経済と資本主義」
8月 9日(月)――「労働力の搾取と再生産」(家族の問題にもふれて)
8月16日(月)――「資本主義の基本矛盾と恐慌」
8月23日(月)――「資本主義と社会主義」
2004年7月6日(火)……京都学習協のみなさんへ。
以下は,京都学習協「第3回・現代経済学講座」第2講義に配布したレジュメ2種類です。
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講師のつぶやき
神戸女学院大学・石川康宏
http://web.digitalway.ne.jp/users/walumono/
政治の動きが急ですね。以下は,「しんぶん赤旗・日曜版」2004年6月6日付の記事「経団連/改憲へ動く舞台裏/政党に"踏み絵"迫る」にそえた私のコメント「米国の要請で本格化」です。
前回の講座の部分的な復習にもなっています。
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日本経団連が改憲に本格的に動き出した動機や背景として,アメリカからの強い要請をしっかりとらえることが必要です。それにこの要請に応じることで自らの政治的・経済的な地位を高めようとする国内の思惑がむすびついていると思います。
経団連はじめ財界役員の中枢をしめる自動車・電機業界はその利益を,アメリカ市場に特別に深く依存しています。経済同友会の北城恪太郎代表幹事は昨年12月2日の記者会見で「安全保障にとどまらず貿易をふくむ日米関係を考えても,自衛隊の派遣は必要」と,アメリカとの経済的な利害関係を強調しました。
輸出でも直接投資の絶対額でもアメリカは財界にとって最も重要な市場です。この市場の安定的な確保のためにアメリカの軍事的要求に従うことが必要だという判断があるのでしょう。
新設された委員会に三菱重工はじめ軍需産業の代表がどれだけ入るかも注目点です。ただし,その場合も,最近の軍需産業の活発な動きがアメリカによる「ミサイル防衛」への参加要請に重なっている点が重要です。「ミサイル防衛」は日本だけで6兆円の軍事市場といわれています。アメリカの軍事戦略への加担が日本の軍需産業の利益の拡大につながるという関係ができているわけです。
財界の改憲要求は,アジアにおける日本企業の経営基盤を掘り崩し,今後に期待される友好的な経済協力の発展に大きな障害を生み出すものとならずにおれません。
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これを書くときに考えさせられたのは,いちばん最後の2行です。前回講座で,日本のこれからの国際関係がアジアにおける共存共栄に向かわねばならないことを強調しましたが,「9条改悪」は,その道をみずから断ち切る役割をもつ。そういう意味をもつのではないかということです。
それは,21世紀の世界的な平和秩序の問題であると同時に,経済秩序にとっても重大問題ではないかということです。もう少し,考えを深めていきたいところです。
以下,質問にこたえていきます。質問は表現を変えている場合があります。ご了解ください。
〔質問に答えて〕
①アメリカへの経済従属がこれほど深刻な仕組みになっていることに驚いた。アメリカ国債を買う日本という構図がアメリカ経済を支えているとするならば、アメリカの赤字財政が破裂する時、それは世界的な大恐慌へと進むのではないか。あるいはまた、日本のバブル以降の大不況を一度に解消するために、財界はこれまでの赤字を帳消しにするため、大インフレへともって行く可能性も現時点では考えられる。この大恐慌、大インフレへのからくりをお聞きしたい。
●アメリカ経済に多くを依存している日本の特に大企業が,アメリカ経済の不調によって大きな影響をうけるのはそのとおりです。ですから,日本の財界中枢は,特にアメリカの景気と円とドルの相場に重大な関心をもつのでした。一方でアメリカの景気後退はアメリカ市場に依存している自動車・電機などの産業に大きな打撃をあたえます。他方で,アメリカの景気後退がドル安につながった場合,日本の政府等がもっているドル資産の価値が下落します。他方で,アメリカ経済への依存度の低い国々は悪影響の度合いも小さくすみます。
●バブル以降の不況解消のためのインフレについてのご質問は,いまひとつ趣旨がわかりません。申し訳ありませんが,もう一度お願いします。
②「外資」とは何をもって規定されるのか。ゴーンが社長でも日産は外資ではありませんね。三井住友グループの筆頭株主がゴールド・サックスでも外資ではありませんね。おそらく株の保有率で規定されるのでしょうが、企業税は日本に納められているのでしょうか。日本企業と同じぐらい税金を納め、労働者にまっとうな賃金を払うなら外資が増えることの問題は何なのか。
●外資とは簡単にいえば外国資本のことです。具体的には,経営権をにぎっているのが外国の資本ということで,その場合には,形式的には株式の保有が50%を越えていれば確実ということになります。ただし,もっと少ない株式保有であっても,他に大株主がいなければ,事実上の経営権を握ることは可能になります。個々の資本の実態によりけりということですね。かつての通産省には外国資本による株式保有が20%を越えるものを「外資系企業」ととらえる基準がありました。しかし,これもひとつの形式的な基準にすぎないと思います。
●多国籍企業の税制については「本国と出先の両方でとられたのではたまらない」という減税要求が強く,日本でも「新生銀行」に対する優遇などいろいろの制度があるようです。『前衛』7月号の塩川論文「外資・新生銀行のまるもうけのカラクリ」に,その仕組みが紹介されていますので,ぜひ読んでください。たしかに,キチンと税金をはらい,まっとうな労働条件を守り,長期にわたる安定した雇用が確保されるのであれば,私たちの勤め先は,日本の資本でも外国資本でも大きなちがいはありません。ただ,いま日本の入り込んできている資本は,税制の優遇をうけ,アメリカ型のリストラを持ち込むことで金をもうけ,また儲からなければさっさと帰るという資本が多いですから,こういう資本がふえることは,私たちには大問題です。
③アメリカの要求を受け入れることについて、財界の利害関係による内部抗争はないのか。
●あります。竹中プログラムに前後しての銀行業界の動きがそうでした。また「ゼネコン国家」の是正をめぐっては,ゼネコン関連資本と自動車・電機などの財界役員主流にも利害対立があると思います。ただし,後者についてはアメリカとのかかわりは私にはよくわかりません。いずれも前回の講義でふれた問題ですが,今後の講義の大きなテーマにもなるものです。
●財界の利害対立を見やすくするもののひとつに,竹中氏の政策をめぐる自民党内部の意見対立があると思います。和歌山県出身の竹中氏は,アメリカの大学で経済学を学び,その段階でアメリカの経済政策に影響力をもつ人々とも人脈をもったようです。竹中プログラム作成の前後に,当時アメリカ大統領経済諮問委員会委員長だったグレン・ハバードと密接な連絡をとっていたことについては本人が語っています。
④とても良くわかり、大きくものが見えてきました。しかし、経済の面以外に(それにあわせて)、文化の面も気になります。具体的には特に教育分野における英語の重視や競争、国際化ですが、この動きをどうとらえたら良いのか。また今後を見すえた時(東アジア、ASEAN諸国との関係)何をしたら良いのかご意見をお聞かせ下さい。
●これは特別に勉強しているとはいえない領域ですので,しろうとの感想にしかなりません。英語の重視以前に,教育の分野では,基礎的な学力をいかに全国民が身につけるかが根本問題であるように思っています。ていねいに時間をかけて,だれもが理解できる水準をあげていくことです。そうして自分で考える力をもった個人をたくさん育てることが,国際世界で日本が何をすべきかについても,自分で判断できる国民づくりにつながるように思います。スウェーデンの中学の教科書には「あなた自身の社会」というタイトルのものがありますが,そのように社会とのかかわり,主権者としての意識と責任を育てることも大切だろうと思っています。
⑤講座の最後にあったASEANとの共同。確かにその通りだなあと思いました。と同時に未だ半分夢物語だという考えが拭いされないのも現実。まずは当面、共通の対抗国を持つEUと共同することからはじめて、アメリカとの距離を遠ざけていくということは不可能なのでしょうか。でもアメリカは対処策を用意するでしょうが。トンチンカンな質問かもしれませんが、復習したい楽しい講義でした。
●可能か,不可能かは,結局,実践的にしか答えのでない問題です。ASEANとも,EUとも,あるいは中国とも,南米とも,中東とも,いろいろな国との平和友好関係づくりに積極的に取り組む姿勢をもった日本政府をつくることが,まずは大きな課題です。
●なおASEANの活発な活動について,事実に即して理解を深めていくことはなにより私たちにとって大切だと思います。
⑥「円高ドル安」を押し付けられる仕組みがもう少しわからない。それを拒んだらどうなるか。
●これも前回大急ぎでふれた問題で,また今後の大きなテーマになる問題です。アメリカによる押しつけについては,政府高官らの積極的な「円高」推進あるいは容認発言で,巨大な投資家たちの投機をあおって,事実上は,「円高ドル安」を誘導するということになっているようです。日本政府はそれを回避するために,昨年1年間で20兆円ものドル買介入を起こったわけです。しかし,これは最終的には為替市場の力関係が決めることであり,「円高」の圧力は依然として非常に強いのが現実です。それは直接には「拒む」ことのできない関係です。
⑦当日の資料を出来れば事前にいただければ、読んで参加したほうがより内容が深められると思いますので、ご検討お願いします。(2名からありました)
●ごもっともです。ところが,この講座の準備の実態は「自転車操業」なのですね。どうも,今後についてもあらかじめ1ケ月前に資料をお渡しするという自信はありません。申し訳ありませんが。
●ただし,講義の内容がどのようなものになるかについて,あらかじめ予測をもちたいということであれば,私がいままでに書いたものを読んでいただけるといいと思います。宣伝になりますが,『現代を探求する経済学』(新日本出版社)が7月中旬に発売されます。副題は「『構造改革』,ジェンダー」です。これを読んでいただけると,この講座の内容が,そこに書かれていることの延長線上にあることが良くわかっていただけると思います。
〔感想〕
●ルポタージュを読む(聴く)ように興味深く聴きました。次回以降が楽しみです。
●運動や闘いの展望をつかみ取りたいと思い受講しました。先生の話はとてもわかりやすくおもしろい内容で感動しました。今後の講義にも期待しています。今日はありがとうございました。
●なぜ、ここまで日本の政治家が、私たちの国・日本を切り売りするのか不思議でした。結局の所、ほんの一握りの財界と言われる人たちの、自分の利ざやを守ることだけが目的だったのですね。それにしても、こんな方法、ずっと続けていけるはずがないと思うのですが、財界の人たちは年寄りばかりだから、自分の存命中のことしか考えていないのでしょうか。
●講義の内容はよくわかりました。これから更に深めていくことを楽しみにして参加したいと思います。
●アメリカいいなりの理由を戦後の経済から聞いてよくわかりました。いっぱい聞いて未だ消化し切れていませんが、とにかく「つながっている」事がわかり全体を深く見ることが大切と思いました。ひきつづき頑張って参加したいです。
●1:30~5:00、長いと思っていましたが、とてもわかりやすく楽しかったです。これからも楽しみです。
●公共事業、規制緩和、ドル買い、福祉切り下げなどのいろいろな問題が一つの体系の中で整理できたようでとてもおもしろく聴けました。
●話をワクワクしながら聞きました。円高ドル安のしくみ、むつかしかったけど、単純に喜んで海外旅行に行っていたことなど、ちょっと冷や汗です。なんとか日本を変えたい思いでいっぱいです。
●社会のこと、経済のことが(信用できないことが多すぎて)わからなく、自分で勉強していくしかないと思い、また月1回なら参加できるかなと言うことで参加しました。最速に国連の流れ、戦後の財界復活のはじまりのこと、よくわかりました。財界のアメリカへの従属と過度の依存ぶり、大変よくわかりました。わかりやすかったです。ありがとうございました。次回も楽しみです。
●全ての講義が楽しみです。高校教師をしていますが、女性学という授業を受け持ったことがあります。その時にスウェーデンについて学びましたが、大戦後に男性が「夜の訪問者」といわれるような今の日本とあまりかわらない状況が、スウェーデンにもあったのが、女性が公務員に多く採用されていった中で、育児休業法や保育所の増設など、働く環境整備が進められたことを知り感慨深かったです。
●大変わかりやすく、確実に自分の力になる勉強会です。個人的に、運動に疲れていました。それは今日理解できました。「運動が先にありき」の環境が、自分の中で「違う」のだと確信できました。ありがとうございました。
●昨年の夏(平安会館)新婦人大阪中央支部主催のつどいで石川先生の講演を始めておききしました。本当に目からウロコでした。今回思い切って時間のやりくりをし、学びたいと思っています。よろしくお願いします。特に今日少しお話のあった第7講義で話していただける内容に大きく関心があります。自分らの生き方(働き方、社会人としての地域・家庭での生き方も含む)を見つめ直しながら未来への道すじに希望と確信と、私なりの働きかけをみつけていきたいです。9/19の講座は姪の結婚式出席のため欠席します。(残念です)
〔京都学習協・第3回現代経済学講座〕
第2講・グローバリゼーションと市場開放
神戸女学院大学・石川康宏
http://web.digitalway.ne.jp/users/walumono/
(1)第3回講座のねらいと構成
1)戦後日本経済の発展と到達をアメリカへの従属と依存を重視してとらえた第2回講座の到達点をふまえて,これに,重要な歴史的分岐点における「財界の判断」を付け加えていきたい。あるいはその「判断」にアメリカの意向がどのように反映したのかをとらえていきたい。それは今日の日本の政治経済の「財界・大企業いいなり,アメリカいいなり」の姿をより深く,根本からつかまえようとする作業でもある。
2)全体の構成は次のようになる。
第1講 現代日本の経済社会をどうとらえるか
第2講 グローバリゼーションと市場開放
第3講 『マネー敗戦』と金融ビッグバン
第4講 『日米構造協議』と土建国家
第5講 奥田ビジョンの21世紀戦略
第6講 新しい道を模索するEUとアジア
第7講 日本型資本主義の特異な家族・女性支配
第8講 展望・現代に挑む経済理論
(2)「第2講・グローバリゼーションと市場開放」
1)財界とはどういうものか――資料「日本経団連」のHPより
2)論文「財界のアメリカへの従属と過度の依存」(日本共産党『前衛』第774号,2004年3月号)――4・日本市場への支配と介入の諸政策
3)論文「財界の21世紀戦略と対米従属」(鰺坂真編『史的唯物論の現代的課題』学習の友社,2001年)――3・アメリカによる世界戦略の新展開,4・財界の「国際戦略」
4)補足1――1978年ボン・サミット
5)補足2――前川レポート(1986年)
6)補足3――日米構造協議(1990年)
7)補足4――平岩レポート(1993年)
8)補足5――樋口レポート(1999年)
9)補足6――骨太の方針(2004年)
10)補足7――日本共産党のグローバリゼーション論
(3)補足1――1978年ボン・サミット(ロバート・D・パットナム/ニコラス・ベイン『サミット「先進国首脳会議」』1986年,TBSブリタニカ)
●1976年12月,福田政権誕生。76年11月,ブルッキングズ研究所での日米欧エコノミストによる勧告。「西ドイツ,日本ならびに米国は,いまや経済活動の刺激に適合した国内経済諸政策をとるべきである。……より強い経済拡大策をとってもインフレ問題を強めることはなく,国内失業を減らし,他の先進・発展途上両諸国に恩恵を施すべきである」(勧告)。「弱い経済諸国に輸出市場拡大で利益を得させることによって,強い経済三国が世界的景気回復をはかる『機関車』の役目を果たすべきだという勧告である」(100~101ページ)。
●77年5月,「参加首脳最長老の福田首相は,1933年のロンドン『世界経済会議』に出席したときのことを感動的に回想し,そのさいの失敗が保護主義,不況,戦争への大洪水の関門を開いたことを指摘し,日本は成長刺激への一翼をになう決意であると表明した」。「西ドイツ,日本はコミュニケそのもののなかに特定の数字を盛り込むことを避けたが,西ドイツは5パーセント,日本は6.7パーセント,米国は6パーセント近くをめざすことになったと一般にみとめられていた」(108ページ)。
●1977年末,「福田首相がロンドンで示した成長目標はとうてい達成できないことがすでに明白となっていた。同年の成長は公約の6.7パーセントではなく5.3パーセントと見込まれ,貿易収支も予測の7億ドルの赤字どころか,円切り上げがあったにもかかわらず,逆に黒字が100億ドルにものぼる勢いだった」。「日本国内では,ビジネス関係,通産省,経済企画庁,それに自民党内の拡大主義支持派の政治家たちが大蔵省のかたくなな抵抗を押さえ込む反論の絶好のてことして米国からの外圧を利用し,大幅な追加刺激策を推進した」。「9月末,同首相は内閣改造にあたり自民党内の拡大主義者数人を入閣させるとともに……福田内閣で対外経済問題担当相となった牛場信彦氏に米国との調整任務を担当させた」(以上116ページ)。「6週間のうちに牛場氏とロバート・ストラウス氏との間で,二国間の主要な貿易問題の決着とともに,1978年の日本の成長目標を7パーセントとし,その達成のため追加財政刺激策をとることについての正式合意が成立した」(116~117ページ)。「もし日本政府部内に分裂がなかったとしたら,米国の要求は通らなかっただろう。……大蔵省の一部打筋の個人的判断だと,『外圧が70パーセント,内政が30パーセント』だった。通産省の高官は『フィフティ・フィフティ』と推定していた」(117ページ)。
●1978年7月のボン・サミットに「福田首相は日本に期待されていた『おみやげ』を事実上全部かかえてボン入りした。同首相は1978年の成長目標の公約を繰り返し表明していたため,東京では『ミスター7%』というニックネームさえ付けられていたし,またサミット開幕3日前には,1978年の日本の輸出を昨年並に抑えること,40億ドルの緊急輸入計画を実施すること,さらに向こう3年間に開発援助を倍増することなどを発表していたからである」(130ページ)。「福田首相からは7%の内需主導型成長の誓約が繰り返され,またこの目標達成のためなお必要と考えられるばあい8月,9月にも追加的財政措置をとる旨の約束がなされた」(131ページ)。
●1978年9月,「日本は,成長に明らかに伸び悩みがみられたことから,追加公共支出計画を採用した。同年末の時点で,日本の成長率は福田首相の7パーセントの目標に1ポイントおよばなかった。これはボン・サミットの主要誓約中でただ一つ全うされなかった点だったが,しかし米国のシェルパ役ヘンリー・オーエン氏は翌春の議会で『日本はボン・サミットの目標達成のため誠心誠意の努力を払ったというのがわれわれの見解である』と証言している」。「日本の1978年の輸出は前年を2パーセント下回り,輸入は10パーセント上回った。日本の1980-81年の対外援助額は1977年のレベルをドル・ベースで130パーセント,円ベースで90パーセント上回った」(135ページ)。
●「西ドイツおよび日本の財政赤字の増大が,少なくとも一部1978年の決定に由来していることは,ある程度考えられよう」(140ページ)。
(4)補足2――前川レポート(竹村健一『改訂版・前川レポートの正しい読み方』1987年,東急エージェンシー)
●「国際協調のための経済構造調整研究会報告書」(1986年4月7日)。「経常収支の大幅黒字は,基本的には,我が国経済の輸出指向等経済構造に根ざすものであり,今後,我が国の構造調整という画期的な施策を実施し,国際協調型経済構造への変革を図ることが急務である」(199ページ)。「外需依存から内需主導型の活力ある経済成長への転換を図るため,この際,常数効果も大きく,かつ個人消費の拡大につながるような効果的な内需拡大策に最重点を置く。(1)住宅対策及び都市開発事業の推進……」(201ページ)。
●「経済構造調整特別部会報告書」(1987年4月23日)。「(1)我が国は,経常収支不均衡を国際的に調和のとれるよう着実に縮小させることを『国民的政策目標』として設定している。……(3)……我が国の経済を内需主導型に変革することによって,調査ある対外均衡達成へのみちを定着させることが必要である」(216ページ)。「(1)経済構造ちょうせいは,需要,供給両面から進められる必要がある。すなわち,1)需要構造面では,国民生活の質の向上を中心とする内需主導型経済構造への変革を,2)供給構造面では,需要構造の変革に見合った産業構造の転換,輸入の拡大を目指すものである」(216~217ページ)。
(5)補足3――日米構造協議(『日米構造協議』1990年,日本共産党中央委員会出版局)
●「日米構造問題協議・日本側最終報告」(1990年6月28日発表),全体は「貯蓄・投資パターン」「土地利用」「流通」「排他的取引慣行」「系列関係」「価格メカニズム」の6部門。
●「貯蓄・投資パターン」から。「内需主導型の力強い成長に向けての適切な政策努力の結果,我が国の経常収支黒字は着実に縮小しており……」「この好ましい傾向を確かなものとするため,今後とも,インフレなき内需主導型の持続的成長を目指す政策運営を行う」(181ページ)。「21世紀に向けて,着実に社会資本整備の充実を図っていくための指針として,新たに『公共投資基本計画』を策定したところである。この計画は,1991~2000年度の10年間を対象期間とし,今後の公共投資について,その基本的方向を総合的に示すものである。この計画に基づき,経済全体のバランスに配慮しつつ,今後,中期的に公共投資を着実に推進することは,我が国の内需を中心としたインフレなき持続的成長に資することとなると期待され,これは,他の手段と相まって,経常収支黒字の一層の縮小に資することとなろう」(182ページ)。「……1981~1990年度の10年間の公共投資実績見込額(約263兆円)を大幅に拡充し,計画期間中におおむね430兆円の公共投資を行う。この計画は,日本政府が,これまでのトレンドをはるかに上回る相当規模の公共投資の増加に踏み出したことを示すものである」(184ページ)。
●「流通」から。「空港,港湾等の輸入インフラの整備を通じ,輸入貨物の流通の迅速化,低廉化を図る」(189ページ)。「我が国として,『輸入大国』となるべく,1)製品輸入促進税制の創設,2)輸入情報ネットワークの整備や米欧諸国への商品発掘専門化の派遣等の人材交流等を内容とする輸入拡大予算の抜本的強化・拡充,3)輸入拡大のための低金利ローンの拡充強化,4)1000品目余におよぶ関税の撤廃を内容とする輸入拡大策のパッケージを打ち出したところ,これらは,国会での議決を経て実行に移されているが,更に,通産省と米国商務省との間で貿易拡大のためのアグリーメントに合意するなど,輸出国側の努力と協力して実施することにより,施策の実効性を高めるべく努力している」(195ページ)。
●「系列関係」から。「対日直接投資促進」。「日本政府は,国際投資に関する開放的な政策を,内国民待遇の原則を含め,積極的に推進することを明らかにした声明を最終報告の公表後直ちに発表する」(202ページ)。
(6)補足4――平岩レポート(内橋克人とグループ2001『規制緩和という悪夢』1995年,文藝春秋)
●経済改革研究会(平岩研究会)「経済改革について」1993年年12月16日(同研究会は93年8月スタート)。「改革のための5つの柱」――1)「規制緩和」,2)「内需型経済と知的・創造的活力に富む経済の形成」,3)「少子化・高齢化社会の総合的福祉ビジョンの策定と男女が共に創る社会の形成」,4)「世界に『自由で大きな市場』を提供し,かつ多角的海外支援を実施」,5)「財政構造の改革と金融・資本市場の活性化」(巻末12ページ)。
●同レポート,2)「内需型経済と知的・創造的活力に富む経済の形成」から。「〈社会資本の充実〉国民貯蓄の活用,生活基盤の強化及び将来の創造的社会の活力の強化の観点から行われる社会資本投資は,内需型経済構造の中で重要な役割を持っている。……後世代に負担を残さないような財源の確保を前提として,公共投資基本計画の配分の再検討と積増しを含めた見直しを行うべきである」(巻末15ページ)。
●同レポート,4)「世界に『自由で大きな市場』を提供し,かつ多角的海外支援を実施」から。「政策の透明性の下で,世界に『自由で大きな市場』を提供するとともに,冷戦後にふさわしい多角的な海外支援を行う」。「従来の輸出型経済構造を規制緩和,企業のリストラ,住宅・社会資本整備,内外価格差の縮小等により,内需型経済構造に変革する」(巻末17ページ)。
●同書の論文から。「日本の場合は,むしろ,黒字減らしのための外国企業の日本市場への参入ということがメインポイントとなって,規制緩和が平岩研究会に諮問されたのである。冒頭で紹介したアメリカの声明を良く読むと,そのことがよくわかる。
≪日本の規制制度の自由化を図れば,日本の消費者はより低い価格でより多様な商品という利益を得ることになる。また,外国の供給者と投資家も,経済の自由化によって,より大きな日本市場へのアクセスという利益を得る≫」(45ページ)。声明は94年6月22日,円が100円を割った直後の声明(14ページ)。
●論文から。「……なぜいまになって,あらためて『規制緩和』の大合唱になったのだろうか。ここに至る歴史的経緯を振り返ってみれば,最近の"規制緩和一辺倒"現象の背景事情が明らかになるだろう。ここでは,次のような5つの理由をあげておきたい。
(1)厳しさ増す対日市場開放要求
(2)進む円高
(3)わが国大企業の低収益性
(4)国際化の失敗
(5)圧倒的行政優位の官僚国家に対する批判と反発」(140ページ)。
(7)補足5――樋口レポート(日刊工業新聞特別取材班『経済戦略会議報告・樋口レポート』日刊工業新聞社,1999年)
●レポート「日本経済再生への戦略」(1999年2月26日)の構成。第1章「経済回復シナリオと持続可能な財政への道筋」,第2章「『健全で創造的な競争社会』の構築とセーフティ・ネットの整備」,第3章「バブル経済の本格清算と21世紀型金融システムの構築」,第4章「活力と競争力のある産業の再生」,第5章「21世紀にむけた戦略的インフラ投資と地域の再生」。
●レポート中には「内需主導」への転換といった文言はなく,解説文中にも「内需型経済」(120ページ)が1ケ所登場する程度。このレポートには,対米関係,外国貿易,対内外投資の問題がいっさいふれられない。そこがむしろ奇異であり,それはいうまでもない大前提であるのかも知れない。すでに「金融ビッグバン」は開始されているのだし。
(8)補足6――「骨太の方針」2004年
●「骨太の方針」2004年には,直接「内需主導」にふれた箇所はない。ただし,2003年には「日本経済の体質を強化し,内需主導の自立的回復を実現するという依然大きな課題を残している」とあり,この基本路線に変化はない。
(9)補足7――日本共産党のグローバリゼーション論(第22回大会決定)
●「大会決議」,「(13)経済の「グローバル化」をめぐる二つの流れのたたかい」より。
「(1)経済の「グローバル化」(地球規模化)をどうとらえ、どう対処するかは、二十一世紀に世界が直面している重大な問題である。
資本主義のもとで、貿易、投資、市場が国境をこえて広がる国際化は、さけられない固有の傾向である。
問題は、「グローバル化」の名で、アメリカを中心とした多国籍企業と国際金融資本の無制限の利潤追求を最優先させる経済秩序――規制緩和と市場万能主義の経済秩序を、全世界におしつけていることである。その結果、世界の資本主義は、その存在そのものをみずから脅かすような深刻な矛盾を広げている。
――貧富の格差の拡大……世界的に貧富の格差が拡大していることは、国連の報告からも知ることができる。国連開発計画(UNDP)の『人間開発報告書』(九九年)は、「所得と生活水準の世界的な不平等はグロテスクなまでに膨らんだ」、「最も豊かな国々にすむ世界人口の五分の一と、最も貧しい国々の五分の一の人々の所得の差は、六〇年の三〇対一から、九〇年には六〇対一に、九七年には七四対一に拡大した」、「世界の億万長者の中で最富裕者三人の資産は、四十八カ国の後発開発途上国のすべてとそこに住む六億人の全GNP合計よりも多い」、「経済協力開発機構(OECD)諸国内でも八〇年代から所得の不平等が広がっている」と指摘している。
――国際的規模での独占化……国境をこえる企業買収によって、独占化が急速に進行している。マレーシアのマハティール首相は、「グローバリゼーションの結果、いまおこっているのは、西側を中心としたいくつかの巨大企業が世界的な独占体制をつくろうという企てだ。将来、世界にはそれぞれ五つずつの銀行、自動車会社、流通企業、ホテル・チェーンだけが残り、世界市場を独占するだろう。中小企業はこうした巨大企業に吸収されてしまうに違いない。巨大資本家が夢見る世界だ」と告発している。
――金融投機の横行……国境をこえて投機的な資金が流れ込み、一国の通貨を暴落させ、経済を破壊するという事態がひきおこされている。九七年から九九年にかけておこったアジアの金融・通貨危機をひきおこした犯人は、ヘッジファンドなどとよばれる投機集団と、国際金融資本だった。全世界の年間の商品輸出額が五・三兆ドルであるのにたいして、為替取引高はその六十一倍の三百二十五兆ドルにのぼる。わずか四日間の為替取引が、一年間分の商品輸出と同じ額というのは、金融投機、為替投機がどんなに異常な水準に達しているかを物語っている。
(2)アメリカは、IMF(国際通貨基金)、世界銀行、OECD(経済協力開発機構)、WTOなどの国際組織を、「グローバル化」をすすめる道具として利用してきたが、それが各国経済、各国国民との矛盾を深め、国際的批判を広げ、大きく破たんしつつある。
IMFは、八二年のメキシコの経済危機への対処以降、いわゆる「構造調整政策」――経済破たんをおこした国にたいして、緊急融資と引き替えに、国民犠牲の緊縮財政や規制緩和をおしつけ、一国の経済主権を奪うというやり方をとってきた。ロシアの経済危機、アジアの経済危機にたいしても、この方式がとられた。しかし、このIMF路線は、どこでも経済と国民生活に重大な打撃をあたえ、世界各地で失敗した。東南アジアでは、マレーシアが、この方式をきっぱり拒否して、独自の経済再建に成功した。この事実を前にして、IMFはマレーシア方式を評価せざるをえなくなっている。
WTOをめぐる矛盾もきわめて深刻になっている。昨年十一月に米国・シアトルで開かれたWTO閣僚会議が決裂した。その最大の原因は、アメリカが、農業問題、知的所有権問題などで、自国の多国籍企業の通商利益を最優先させる横暴きわまる態度をとったことが、発展途上国はもとより、発達した諸国との矛盾を爆発させたことである。ヨーロッパのある有力紙はこの結果を、「貧しい諸国と市民運動の勝利」と伝えたが、ここでもアメリカの経済覇権主義が、世界に通用しなくなる状況が生まれている。
(3)「グローバル化」による矛盾が深刻化するなかで、すべての国の経済主権の確立、平等・公平を基礎とする新しい経済秩序をもとめる流れが、さまざまな形で広がっていることは、重要である。
世界百三十三カ国の発展途上国が参加する「グループ77」の初の首脳会議(南サミット)が、今年四月におこなわれ、そこで採択された「南サミット宣言」は、「公正さと平等性にもとづいた国際経済関係を確立することを、国際社会にたいして強く要請」し、「各国の国内および各国間にある、貧者と富者の間で増大する不均衡を逆転させる新しい人間的な世界秩序」の必要性を強調するなど、経済の「グローバル化」への共同の対処として広範な一致点を確認している。
国連の諸機関が、「グローバル化」の否定的現象の告発にとどまらず、多国籍企業や国際金融資本への民主的規制の必要性を強調していることも、最近の新しい特徴である。「弱者を保護し、強者を統制する新しい世界的な社会と経済の枠組みを力を合わせて構築しなければならない」(国連開発計画・UNDPの報告書、九九年)、「諸国政府は、多国籍企業の活動が環境にダメージを与えたり、現存する国内企業を締め出したり、幼い国内産業の可能性を危うくすることのないよう保障しなければならない」(国連貿易開発会議・UNCTADの報告書、九九年)などが注目される。さらに、国連社会開発調査研究所(UNRISD)の今年五月の報告「見える手――社会開発に責任を負う」は、規制緩和万能論による「市場の『見えざる手』への過度の依存が、世界を持続不可能なほどの不平等と貧困の水準に押しやっている」と指摘し、「多国籍企業には、強力で効果的な規制が必要であり、市民団体からの首尾一貫した対応がもとめられる」と強調している。
さらに、七主要国の蔵相・中央銀行総裁(G7)が、ヘッジファンドなどの投機集団の規制を検討せざるをえなくなったり、IMF関係者から、貧困問題の解決のために世界が努力すべきだという提言がなされるなど、「グローバル化」の推進者たちからも、これが生みだしている矛盾を放置すれば、世界資本主義の存立と発展が土台から損なわれかねないという認識がしめされている。
こうしたもとで、国際的規模での民主的規制が強くもとめられている。とりわけ投機的取引を国際資本取引から締め出すこと、IMFやWTOの民主的改革をはかることは、急務となっている。
日本共産党は、アメリカ主導の「グローバル化」の横暴から、勤労者の権利を守り、貧困と飢餓をなくし、金融投機を規制し、地球環境を保全する、新しい民主的国際経済秩序の確立をめざして、共同と連帯を発展させるものである。
●「中央委員会報告」,「多国籍企業や国際金融資本への民主的規制をめざす地球的規模での連帯」の項より。
「決議案の第13項でのべた、経済の「グローバル化」(地球規模化)をどうとらえ、どう対処するかについての提案には、新鮮な注目がよせられました。
決議案がのべているように、「資本主義のもとで、貿易、投資、市場が国境をこえて広がる国際化は、さけられない固有の傾向」であります。マルクス、エンゲルスの『共産党宣言』では、「世界市場の開発をつうじて、あらゆる国々の生産と消費を全世界的なものにした」ことを、資本が演じた「歴史上きわめて革命的な役割」の一つにあげています。
問題は、いま「グローバル化」の名ですすめられていることが、「アメリカを中心とした多国籍企業と国際金融資本の無制限の利潤追求を最優先させる経済秩序」づくりであるということにあります。それは経済政策では規制緩和万能主義、イデオロギーでは市場万能主義を、全世界におしつける動きであります。その結果、決議案が指摘しているように、貧富の格差の拡大、国際的規模での独占化、金融投機の横行など、世界の資本主義は、その存在の基礎をみずから脅かすような深刻な矛盾を広げています。
「グローバル化」の名のもとでの多国籍企業と国際金融資本のための国際経済秩序に反対し、すべての国の経済主権の確立、平等・公平を基礎とする新しい国際経済秩序をめざす国際的共同を発展させることが、いま強くもとめられています。
その条件は広がりつつあります。最近の注目すべき報告を一つ紹介したいと思います。国連社会開発調査研究所(UNRISD)が、今年五月に、「見える手――社会開発に責任を負う」と題する報告を発表しています。この報告では、規制緩和万能論による、「市場の『見えざる手』への過度の依存が、世界を持続不可能なほどの不平等と貧困の水準に押しやっている」と、現状へのきびしい警告をおこなっています。そして、「企業の責任を問う」という章をたてて、「多国籍企業の巨大で拡大しつつある社会的な影響は、彼らが相応の責任を負うことをもとめている。……公益が完全に満たされるのは、より強力な規制と監視を通じたときだけである」と指摘し、「多国籍企業には、強力で効果的な規制が必要であり、市民団体からの首尾一貫した対応がもとめられる」と強調しています。
全労連が主催した「国際労働シンポジウム」が最近おこなわれましたが、ここでは、各国の労働組合が、自国の労働条件改善のたたかいの発展を土台にして、多国籍企業の横暴の国際的規制にとりくむこと、IMF(国際通貨基金)やWTO(世界貿易機関)など国際機関の民主的改革にとりくむこと、そのための国際的連帯の強化をはかることを確認しています。これも重要な動きです。
多国籍企業と国際金融資本への民主的規制は、地球的規模でも急務となっています。「アメリカ主導の『グローバル化』の横暴から、勤労者の権利を守り、貧困と飢餓をなくし、金融投機を規制し、地球環境を保全する、新しい民主的国際経済秩序の確立をめざして、共同と連帯を発展させる」(決議案)ために、わが党は力をつくすものであります」。
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