2003年2月14日(金)……以下は「しんぶん赤旗」2月13日・14日付に掲載されたものです。
シリーズ・奥田ビジョンを読む
2003年2月7日
神戸女学院大学助教授・石川康宏
〔上〕「民主導型」かかげたけれど
日本経済は不況,金融システムまひ,財政赤字の深刻な三重苦の状態です。しかし,奥田ビジョンはこれを打開する具体的な政策を持ちません。はっきりしているのは消費税増税と社会保障改悪のシミュレーションだけです。
大銀行をどうするのか,ゼネコンや高速道路建設をどうしていくのか,アメリカの経済要求にはどう対処していくのか,そうした目前の課題に対する具体的な対策はどこにもないのです。もはや財界は,財界にとってさえすすむべき道を示すことができなくなっている--。それが証明されているように思います。
《いらだち示す》
ビジョンは改革の諸提案が実行されないことに,次のようにいらだちを示しています。
「改革提案は,1986年の『前川レポート』(国際協調のための経済構造調整研究会報告)や1993年の『平岩レポート』(経済改革研究会報告)をはじめとして,すでに数多く出されており,もはや何が問題で,どのように施策が必要かを議論するのではなく,実行こそが求められる段階にあった」
「経済戦略会議は,1999年2月に答申をとりまとめた。『樋口レポート』と名付けられ,数多くの改革提案が盛り込まれたが,依然としてその多くは,店晒しにされたままである。こうした実態を目の当たりにして,深く考え込まざるをえない」
そのうえで,これらレポートの主張を継承しながら,ビジョンはめざす社会を「民主導型の経済社会」と呼んでいます。これはアメリカ型資本主義に似せて日本をつくりかえよというアメリカ政財界からの外圧を利用しながら,大企業の金儲けの自由に対するさまざまな規制の緩和・改革を求め,また法人税や社会保障への企業負担を減らした社会をめざすというものです。
ところが,そこにはゼネコン・銀行などへの行き過ぎた「保護」をやめ,財政赤字削減に向けて過剰な公共投資を縮小する政策が含まれており,それが政財界内部の摩擦のタネになってきました。特に公共事業の利権に首までうまった自民党が,そう簡単に公共事業予算の縮小に踏み切れるはずもありません。
そこで,ビジョンは改革推進に向けた新たな政治介入の意欲を示します。「企業・団体献金のガイドライン」をつくり,ビジョンに「共鳴し行動する政治家を支援する」というのです。従来型の利権バラマキを放置したうえに,改革推進のための新しい利権のバラマキを積み重ねようというわけです。しかし,大企業への国民の不信は強く,それへの配慮を理由に「いまの状況でやることはマイナスが大きい」(1月6日,経済同友会・小林陽太郎代表幹事)と,早くも財界内部からさえ懸念の声があがっています。
《経済政策限界》
他方で,ビジョンには,当面の大きな焦点であろう公共事業改革に対する弱腰が感じられます。事業費削減については「経済財政諮問会議の方針に沿って」と他人ごとのような一文があるだけで,語られているのは都市再生への期待ばかりです。都市再生事業は,都市の競争力強化をうたい文句にしています。しかし,実際に行なわれている事業の多くは従来型の公共事業そのままです。
ここには,不況のあまりの深刻さに,奥田会長自身が「需要の底上げを図りつつ構造改革を進める"攻めと守り"の双方の戦略」(2002年10月21日の日米財界人会議)を語らずにおれず,しかも,需要底上げを個人消費の激励に求めることができない財界本位の経済政策の限界が現れているように思います。
〔下〕日米関係の検討を避ける
さらに驚いたことに,ビジョンには日米関係についての検討がまったくありません。
アメリカからの不良債権処理加速の要求は,ついに日本の大銀行を国有化からアメリカ資本への売却へと仕向けるところに達しています。10月20日~22日の日米財界人会議でも,「不良債権処理や外国からの投資受け入れを進め」るべきだというアームストロング米国側議長(AT&T会長)等の要請に,日本側からは「海外資本による日本の買いたたきにつながるのでは」という不安の声があがりました。
しかし,その後の竹中金融相のもとでの「金融再生プログラム」(10月30日)は,アメリカ政財界の要求を全面的に受け入れるものとなっています。
《反発込めるが》
これを受けて,奥田会長は年末年始に「失業率6.0~6.5%が日本社会の限界」「外圧による改革でなく内部からの改革を」といった発言をしています。そこにはアメリカの強い要求に対する一定の反発が込められているのかも知れません。
しかし,ビジョンには日米関係を問い返す議論はどこにもなく,アメリカ資本に対する銀行の売却についても,日本金融市場の展望についても何の検討もありません。また,ビジョンは「東アジアの連携を強化しグローバル競争に挑む」として,国際競争における欧米諸国への遅れを焦り,東アジア各国との自由貿易協定(FTA)を急ごうとしていますが,そこでもWTOなど現時点でのアメリカ主導の世界像が当然の前提とされているだけです。
財界はいったい何を考えているのでしょう。現状への焦りからくる改革への願望はあっても,それに必要な現実的な政策を示し,それを実行していく力がない。それが日本財界の実力ではないかと思うしかありません。
ビジョンのチグハグは,以上の点に限られません。たとえばビジョンは,消費税増税や社会保障削減が不況をどのように深刻化させるかについては,まったく検討していません。そのような政策を実施して自民党政権が維持できるのかという配慮もありません。
アジアへの大企業の進出のためには「歴史観の共有」が大切だといいますが,実際には小泉首相の靖国参拝は放置されたままです。そして「国境をこえる新しい分業」を描く箇所では,日本の失業率の上昇を無視した空洞化のすすめばかりが説かれていきます。
《選択肢もたず》
財界本位を前提してさえ,あまりにもずさんに思えます。戦後一貫して国民生活向上をつうじた経済再建の選択肢をもたず,「アメリカいいなり」の歴史の中で国家の基本針路を定める力を失ってしまった,その巨大なツケが現れていると思います。
結局,明快なのは消費税増税と社会保障削減の国民いじめの政策だけです。政治の転換を強く期待せずにおれません。
2003年2月14日(金)……以下は,有事法制反対河南連絡会での講演レジュメです。
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〔対イラク戦争レジュメ〕
なぜ今,アメリカは戦争を急ぐのか
---対イラク戦争の経済的背景を考える---
2003年2月13日
神戸女学院大学助教授・石川康宏
1,はじめに
・対イラク戦争へのブッシュ政権の執念と広がる反戦・平和の国際世論
・アメリカを支援し,無法な戦争への協力を義務づける「有事法制」
・経済学を学ぶ立場から対イラク戦争の経済的背景を考える
2,戦争政策のブッシュ段階
1)ソ連崩壊以後のアメリカの軍事戦略(〔4〕73~5)
・89年ブッシュシニアはソ連崩壊以後の新軍事戦略を統合参謀本部に(眼目は巨大な軍事体制の維持を何をもって正当化するか)/最初の回答は「それにかわる敵」はない/ブッシュ政権最後の時期に「ならず者国家」との対抗の新戦略に落ち着く
・クリントンはこれを引き継ぎ,国連を無視する一国行動主義/99年のヨーロッパ「新戦略概念」の採択や日米ガイドライン立法の押しつけへと具体化
・01年の対テロ報復戦争は本筋とは別のもの/アフガンは「ならず者国家」に入っていなかった/アメリカは国連の権威や「自衛」論で行動を正当化
・02年「悪の枢軸」(北朝鮮・イラク・イラン)発言以来新しい段階/標的は「ならず者国家」にもどり「先制攻撃」の権利も主張
・02年1月「核態勢見直し報告」では核攻撃能力をもって備えるべき相手を7ケ国/「さし迫った非常事態」(北朝鮮・イラク・イラン・シリア・リビア)「潜在的な非常事態に関連する国」(中国)「可能性としてあるもの」(ロシア)
・02年8月「国防報告」/「アメリカを防衛するには予防措置,そして時には先制攻撃も必要である」/アメリカと「対等な敵対的競争者の再出現」を「潜在的な非常事態」の一つと/「相当な資源基盤を有する軍事的な競争者が,この地域〔アジア〕で台頭する可能性がある
2)ブッシュ戦争の第2段階
・02年1月29日一般教書演説での「悪の枢軸」論(報復戦争が第一の「偉大な戦争」,「悪の枢軸」への制裁戦争を第二の「偉大な戦争」と)/02年1月8日「核態勢の見直し」(NPR)での「使える核兵器」再活性化の戦略/02年8月15日「02年国防報告」(〔1〕第1章)
・ブッシュ個人のものでなくアメリカの国家方針(〔1〕202)
・フセイン打倒にはブッシュ家の私的報復の側面もある/93年4月にブッシュシニア
暗殺の計画(クウェートが発表)/02年9月「僕のおやじを殺そうとした奴」だから(〔5〕52)
3,戦争を求める「軍事化」されたアメリカ経済
1)「軍事化」の起点は第2次大戦
・大恐慌からの脱出を可能にしたのは戦費(有効需要)/莫大な軍事支出は戦後アメリカの恒常的な基軸要素/アメリカは工業生産の53.9%(48年),輸出の32.5%(47年),金・外貨準備の53.7%(48年)を占めた([1]54~6)
・44年アメリカの武器生産は世界の40%/アメリカの総生産に占める軍需生産比率
は39年の2%から43年の40%へ/39年から44年にGNPは1.5倍に/「全軍需生産の75%を最大手100社が」/製造業の税引前利益額は36~9年の年平均31億ドルから40~5年の118億ドルへ([7]142)
2)莫大な軍事費と武器輸出
・アメリカの軍事費は世界全体の36%(2位から26位までの総計をこえる47.5兆円)/最大の武器輸出国(世界の10大兵器メーカーの9社,広瀬隆『アメリカの巨大軍需産業』)([1]60~2)
3)「軍産政複合体」
・ソ連崩壊後の軍需産業再編成(25社が4社に,ロッキード・マーティン,ボーイング,レイセオン,ゼネラル・ダイナミックス)/ロッキードとボーイングだけで232億ドル(120円で2.8兆円)([1]63)
・核兵器,核ミサイル,関連するエレクトロ機器などの膨大な核軍備生産に従事する巨大な軍事多国籍企業/あらたな「ミサイル防衛(ブッシュの最優先公約)市場」の開拓も([1]106)
※ブッシュ政権の閣僚人事
〔軍事色が強い〕
・国務長官コリン・パウエル(元統合参謀本部議長/湾岸戦争の最高指揮者/「ならず者」国家論の発案者)/国務副長官リチャード・アーミテージ(レーガン・ブッシュ政権の東アジア安全保障政策担当)……露骨な国防総省偏重人事
・副大統領ディック・チェイニー(ブッシュシニアの国防長官)/ドナルド・ラムズフェルド(フォード政権の国防長官/「ミサイル防衛」の熱心な提唱者)
・国家安全保障担当の大統領補佐官コンドリーザ・ライス女史(典型的なバランス・オブ・パワー論者)
〔政府人事はアジア重視の布陣〕
〔大企業首脳の経済閣僚への任命〕
・財務長官ポール・オニール(アルミ最大手アルコア会長)/商務長官ドン・エバンズ(石油・天然ガスのトム・ブラウン社長)/農務長官アン・ベネマン(バイオテク企業カルジーンの元取締役)
・軍需産業とともに石油・電力などエネルギー産業との関係が密接/「大統領の地元テキサス州は石油産業の中心地で,大統領自身も石油会社の経営者の経験がある。ディック・チェイニー副大統領,ドン・エバンズ商務長官,ゲール・ノートン内務長官,コンドリーザ・ライス大統領補佐官といった大統領の新任が特に厚い政権の枢要メンバーも,軒並み石油関連業界の出身だ。大統領への選挙資金をみても,エネルギー業界が,金融・不動産業,建設業,電気通信業界に次いで4番目」(読売新聞01年5月6日)([1]236~7)
4,経済・軍事グローバリゼーション戦略
1)ソ連崩壊による「冷戦」戦略の新展開
・多国籍企業の最大限利潤を確保する世界市場の制覇/経済的覇権を保証する軍事的覇権の役割/「危機と機会が併存する新しい時代におけるわれわれの最優先の目標は,市場を基礎とした民主主義諸国の世界共同体を拡大し,強化することでなければならない」(93年9月27日,クリントンの国連演説)([1]127)
・「われわれがアジアに集中する経済力から利益をえないのならば,申し分のない熱心
なパートナーとしてその場にいなければならない。そのために軍隊が必要だろうか。冗談はよそう--もちろん必要である。外交の通告書も,政治的な派遣団も,経済的な委員会も,目にみえる米軍プレゼンスほど明確な誓約のメッセージを伝えることはできない」(チャールズ・R・ラーソン米太平洋軍司令官/新原昭治『アメリカの戦略は世界をどう描くか』)([1]112~3)
2)国連を活用するが従わない
・湾岸戦争からの「教訓」/事前のサッチャーによる進言(サッチャー『回顧録』)
・クリントンによる日独への国連常任理事国入り要請/NATOの新戦略概念と日米新ガイドライン
3)世界市場への「構造改革・規制緩和」の要請
・90年代日本の「改革」(WTO・APEC,市場開放と規制緩和,日本企業の多国籍化,労働法制,金融ビッグバン)/不良債権処理加速の要求(日本金融業界の乗っ取りと不良債権ビジネス)
5,アメリカ支配層の一定の内部対立
1)軍事派(右派)と外交派(中道派)
・湾岸戦争時にも単独戦争派と「多国籍軍」派との対立があった/軍事派=タカ派=新保守主義(ネオ・コンサバティブ)=ラムズフェルド国防長官等=イスラエル寄りで反アラブの傾向強い/外交派(中道派)=パウエル国務長官等=「外交評議会」「べーカー研究所」=イスラエルとアラブのバランスをとる([3]45~7,73~4,105)
・クリントン政権では経済派が幅を利かせ「軍事派」の「文明の衝突」論は無視された/98年8月「イラク解放法」は1億ドルの予算を決めたがクリントンは5%を支出しただけで退陣([3]62~3)
・国連のイラク査察団に対する軍事派の攻撃/国防総省のリチャード・パール軍事政策委員長,ポール・ウォルフォウィッツ国防副長官([3]69)
・湾岸戦争に勝ったブッシュが国内経済をおろそかにしたとのクリントンの批判に敗れた/共和党の極右勢力にとり重大な屈辱/現ブッシュ政権では湾岸戦争時に国防次官(政策担当)だったウルフォウィッツなど対イラク主戦論者が返り咲いた([5]52)
・ラムズフェルド国防長官によるQDR前文には「他国が将来(アメリカに対する)軍事競争を始めることを思いとどまらせる」ような軍事能力を米軍が装備すべきだと/これは共和党右派がソ連崩壊後の世界戦略として10年前から構想してきた/ウルフォウィッツ国防次官(当時)が92年にまとめた「1994-99会計年度国防計画指針案」には「われわれの第一の目的は……かつてソ連によって押しつけられたような秩序への脅威をもたらす新しいライバルの出現を防止することである」と([5]54)
2)ブッシュ政権とイスラエル政権との深い結びつき
・93年オスロ合意(パレスチナ暫定自治宣言),経済グローバリゼーション戦略の影響も/95年オスロ合意を否定するネタニヤフ政権,アメリカがイスラエル弱体化を狙っていると/イスラエル右派とアメリカ右派との結びつき([3]138~50)
・エルサレムのシンクタンク「先端政治戦略研究所」/ネタニヤフ政権への提案「過去との決別・イスラエル存続のための新戦略」/「サダム・フセイン政権を倒すことは,イスラエルが存続するために大切な目標であり,ヨルダンのハシミテ王家がイラクの政権に就くことは,シリアを封じ込めることにもつながる」/執筆者はリチャード・パール(国防総省の軍事政策委員長),ダグラス・フェイス(国防総省の政策担当次官)等([3]199~200)
・ネオコンはブッシュ政権内でイラク国民会議をもっとも強く支持/02年7月ロンドンの公会堂でイラク国民会議の会合/ヨルダンのハッサン王子が参加(ヨルダン王室はハシミテ家)/フセイン以後体制の準備か([3]196~8)
・イラク国民会議のアハマド・チャラビ代表はポール・ウォルフォウィッツ国防副長官の支持を受けている/ハッサン王子は02年4月に訪米しウォルフォウィッツに会っている/そこでロンドン会合に招待されたのではないか([3]201)
・リチャード・パール,ダグラス・フェイス,チェイニー等はブッシュ政権中枢に入る前にはアメリカのイスラエル系軍事研究所「国家安全保障問題ユダヤ研究所」の顧問/「アメリカはイスラエルと組んで,イラクだけでなくイラン,シリア,サウジなどの政権も転覆させた方が良い」との主張を展開([3]201)
・ブッシュ政権の中東戦略は理解に苦しむ/イスラエルの安全という観点に立つとそれなりに筋が通ることがある([5]55)
6,中東とカスピ海への石油供給拠点の二重化
1)アメリカの石油戦略
・アメリカはカスピ海沿岸を湾岸原油の供給が停止した場合の代替エネルギー供給源に考えている/この地域へのアメリカの戦略的利益は97年4月の国務省の議会報告書で初めて明らかに([6]12~3)
・国家安全保障への「経済中心」のアプローチはクリントン政権とともにアメリカの公式戦略に/最重要課題はエネルギー供給/その認識に軍部は共鳴([6]20~22)
・99年末での「確認」埋蔵量(BPアモコ)は1兆330億バレル/「未確認」が2000億から9000億バレルと推測/仮に合計1兆6000億バレルとしても,99年末での使用料でわずか60年分/資源は少数地域に集中しており特にサウジアラビア(24.8%),イラク(10.7%),アラブ首長国連邦(9.3%),クウェート(9.2%),イラン(8.5%)の5ケ国でほぼ世界の2/3/イラクの石油支配はもちろん重要([6]67~71)
・カスピ海と周辺(アゼルバイジャン,ウズベキスタン,カザフスタン,キルギス,グルジア,タジキスタン,トルクメニスタン)には世界第二・第三の規模の石油資源と豊富な天然ガスが(正確な規模は不明)/アモコ,シェブロン,エクソン,モービル,ブリティッシュ・ペトロリアム,ロイヤル・ダッチ・シェル,エルフ・アキテーヌ(仏),アジップ(伊),スタトオイル(ノルウェー),ルクオイル(ロシア),中国石油公司(中)などがすでに出資([6]122~9)
2)アフガン報復戦争と石油
・93年クリントン政権発足/中央アジアでの石油開発計画/サウジ・パキスタンはアメリカに協力/アフガン内戦を終わらせるために94年サウジが武装組織タリバンを結成させる/97年クリントン政権はタリバン敵視に転換([3]108)/その段階までにユノカルはパイプライン建設でタリバンの合意を得ていた([6]155)
・ブッシュシニアは兵器企業カーライルを代表してサウジでビン・ラディン一族と接触/ブッシュ大統領は就任直後にFBIによるビン・ラディン一族の調査をストップ([2]150)
・カルザイはユノカルのコンサルタント,シカゴ大学で修士課程を修了,国籍はアメリカ,レーガン時代にも国務省の特使,ブッシュシニア時代には国防次官([2]151~2)
3)アメリカ右派の中東離れ
・02年5月ブッシュがモスクワ訪問,プーチンとエネルギー新協定(数年後にはアメリカの全輸入の10%をロシアから)/アゼルバイジャンのバクー油田からトルコのジェイハン港までのパイプライン建設の開始(02年9月)/アメリカ右派を主力とするサウジ依存離れ([3]111~4)
・ブッシュはサウジの石油利権による政治資金とイスラエルとの板挟み([3]118~9)
7〔補論・日本における「大東亜戦争」肯定論の動き〕
1)「教育改革」をつくる2つの流れ
・公教育縮小のなかで「国家統制」としての公教育を確保しようとする「新しいナショナリズム」の道。
・「規制緩和」による市場原理の徹底という財界流の道。
・文科省の改革は両者の妥協的性質をもつ。スリム化をいいながら学習指導要領や教科書検定を堅持し,「規制緩和」と「教育統制」をセットにもつ。
2)「新しいナショナリズム」の歴史と教育基本法「改正」
1)湾岸戦争をきっかけに
・本格的な多国籍化にふさわしい軍隊派遣を。アメリカの新軍事戦略も。
・92年12月,自民党安全保障問題懇談会(座長・森喜郎)「冷戦後の安全保障」。10項目中2項目が教育問題。
・94年11月読売新聞「憲法改正試案」。
2)自民党「歴史・検討委員会」
・93年8月~95年2月「歴史・検討委員会」。細川首相の侵略「反省」発言への危機感。自民党若手議員への歴史観の継承。
・目的は自民党による「大東亜戦争」の総括。『大東亜戦争の総括』(95年8月15日,展転社)。
・4つの結論。・大東亜戦争は自存・自衛の戦争,アジア解放の戦争,・南京大虐殺,「慰安婦」問題はでっち上げ,・教科書にはありもしない侵略・加害があり,「教科書のたたかい」が必要,・委員会の歴史認識を国民共通の課題とするために,学者をつかって国民運動を展開する。
3)「新しい歴史教科書をつくる会」の発足と運動
・96年夏「自由主義史観」研究会他による教科書攻撃開始。「全国教育問題協議会」(全国のPTA幹部有志の政治活動組織)も連動。
・97年1月「つくる会」発足,西尾幹二,藤岡信勝,高橋史郎,小林よしのり等。
・産経新聞,改憲勢力,右派組織,国会議員などが一斉に教科書攻撃を開始。これを「国民運動」とする実働部隊の中心が「つくる会」と「日本会議」(改憲組織)。
・2000年4月「つくる会」と日本会議を中心に「教科書改善連絡協議会(改善協)」発足。目的は「教科書採択制度の適正化を政府文部省ならびに政党・政治家に働きかけるとともに,構成団体支部(47都道府県に48支部)の採択活動への参画を要請する」こと。
4)教育基本法の改悪へ
・99年8月,自民党教育改革実施本部の教育基本法研究グループが「見直し」を決定。同月「全国教育問題協議会」がシンポジウム「教育荒廃の根源を衝く--いまのままでよいのか現行教育基本法」。
・2000年1月,小渕首相所信表明で「見直し」提起。3月,私的諮問機関「教育改革国民会議」発足。12月「報告」で「改正」を提起。
3)結論として
・自衛隊海外派兵への内部からの衝動の強まり/日本資本の多国籍企業化段階。
・対米従属は大前提/独自の経済圏構想は存在しない。
・海外派兵を正当化する論理の脆弱/それを補うものとしての「大東亜戦争」肯定論との補足関係(ここが致命的な弱み/事実の重みに耐えられない)。
8,おわりに
1)反戦・平和を願うアメリカ内部の闘い
・政府のメディア対策/アフガン空爆直後にペンタゴンはレンドン・グループ(広告代理店)と契約(空爆による一般人の犠牲者を放映しない)/アフガンと周辺の衛星放送の独占権を買い取り/全米の主力ネットワークの代表に指示(イスラエルを支持するな,中東の米軍は撤退せよなどビンラディンの声を編集)([2]154~6)
・アフガン報復に唯一反対票を投じたバーバラ・リー(カリフォルニア,黒人女性)への脅迫/ラジオでの平和ソングの禁止/反戦雑談へのFBIのチェック,留置者はいまも1000人以上/2001年10月「アメリカ愛国法」([2]143~6)
・空爆3日目(01年10月9日)から報復戦争に反対する活動が開始/多彩な平和運動/知識の豊かな学生グループ/平和を求める帰還兵の会(「戦争をカッコイイもののようにいうことが許せない」)/平和な明日のために9.11家族の会([2]166~77)
・ベトナム戦争時以来の10万人集会の繰り返し開催
2)日本の闘いの意義
・アーミテージ報告/ヨーロッパでの大規模な戦争は一世代は考えられないが「朝鮮半島や台湾海峡では,米国を大規模な紛争に直接引きずり込みかねない戦争がすぐにも勃発する可能性がある」「日本はひきつづき,合衆国のアジア関与のかなめ石となっている」([1]212)
・「アメリカが安全保障政策の重点をアジア・太平洋地域に移す結果,地理的に日本がアメリカの安保戦略の中心になる」(01年QDR・4年ごとの国防態勢の見直し)([1]247)
・独立・民主の日本は国際政治にも国際経済にも甚大な影響([1]219)
3)レーニン『帝国主義論』からの新しい現実
・米軍基地・軍事協定・軍事援助が先進国の80%,途上国の75%に(〔1〕44-工藤晃『現代帝国主義研究』)
・アメリカの軍事化は独占資本主義としても奇形的な「軍事的帝国主義」(〔1〕75)
・圧倒的な「核・軍事力」と各国軍事同盟の結合,最強の多国籍企業とこれに追随する各国多国籍企業のグローバルな力に依存したかつてない新しい帝国主義膨張体制(〔1〕185~6)
〔参考文献〕
[1]上田耕一郎『ブッシュ新帝国主義』(新日本出版社,02年)
[2]円道まさみ『アメリカってどんな国?』(新日本出版社,02年)
[3]田中宇(さかい)『イラクとパレスチナ/アメリカの戦略』(光文社,03年)
[4]不破哲三『北京の5日間』(新日本出版社,02年)
[5]坂口明「アメリカはなぜイラク攻撃に固執するのか」(『前衛』03年2月号)
[6]マイケル・クレア『世界資源戦争』(廣済堂出版,02年)
[7]石川康宏「『死滅しつつある資本主義』と社会変革」(『経済』97年6月号)
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