2003年1月8日(水)……京都のみなさんへ。
以下は,京都学習協で次年度に行なう現代経済学講座の「よびかけ」第1弾です。
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京都学習協2003年度ゼミよびかけ文(第1弾)
日米経済関係はどうなっているのか
--不良債権処理,公共事業,金融ビッグバン,円ドル関係……--
神戸女学院大学・石川康宏
http://www5.ocn.ne.jp/~walumono/
《不良債権処理加速へのアメリカの圧力》
2002年10月30日に発表された「総合デフレ対策」と「金融再生プログラム」は,小泉内閣の経済面における対米従属の深さをあらためて認識させるものとなりました。7大銀行頭取たちの共同会見という異例の「抗議」を生み出したこの政策は,日本の大銀行を「国有化」に追い込み,多額の不良債権を市場で売却することで,いずれもアメリカ金融・経済界の要請に見事にこたえるものになっています。「国有化」はアメリカ資本への銀行売却の道につながっており,不良債権の売却はアメリカの不良債権ビジネスに新しい金もうけの材料を与えるものとなっています。
アメリカ政財界がいかに執念深くこれを日本政府に求めてきたかについては,『前衛』1月号の大門実紀史論文をご覧ください。多くの資料を活用した見事な論文です。また大門氏のホームページには,この「プログラム」がアメリカの要望にそっていることをめぐる竹中平蔵氏等との国会論戦が公開されています(日本共産党のホームページから入ることができます)。ぜひご覧ください。
《公共事業と不良債権処理》
こうしたアメリカからの圧力を考えるときに,あわせて重視すべきは,もう一方での「公共事業」推進に対する圧力の後退です。1990年の「日米構造協議」は93年に初めて「公共事業50兆円」を実現させ,日本に本格的な「土建国家」を形成するうえで重要な役割を果たしました。これがきっかけとなって13年間で630兆円の事業を行なうという「公共投資基本計画」がつくられます。
ところがブッシュ政権に大きな影響を与える98年の「アーミテージ報告」は,「橋や高速鉄道」等の公共事業を無駄な政策だとして,日本におけるこれらの推進にストップをかけようとします。あわせて,この報告は日本政府による不良債権処理を強調します。今日のアメリカ政財界は,明らかに90年の「構造協議」の段階とは違った内容をもつ対日経済政策を追求しています。
《あらためて日米関係を問う》
あらためてアメリカに対する日本の国家的従属が問われており,日本国民にとっては経済主権の擁護と確立が重要な課題になっていると思います。こうした現実経済の大きな動きを踏まえて,私は2003年度の第2回現代経済学ゼミでは,戦後日本経済の発展をアメリカとのかかわりに焦点をあてて学び直したいと思っています。
従来,私は「構造改革」を主張する自民党の経済政策を,グローバリズムと土建国家との対抗と妥協という側面からとらえてきました。自民党がすでに「新自由主義的改革」の党になっているという評価に対しては,そうではなく土建国家的財政構造は改革されずに温存され,だからこそ改革の名で公共事業を推進する「都市再生」路線が生まれおり,また当初予算で公共事業費を削減しながら補正予算でこれを追加する「支離滅裂」「右往左往」が起こっていると考えてきました。そして,そのグローバリズムと土建国家との両面ともがアメリカの強い圧力の下におかれていることを指摘してきました。
《日本政財界との協調や摩擦も》
しかし,私のこの判断には,当のアメリカ政財界が対日経済政策としてのグローバリズム(市場開放・規制緩和)と土建国家(公共事業拡大)の両面をどうとらえてきたのか,その関係への分析が含まれていませんでした。「構造協議」の段階では市場開放・規制緩和と同時に公共事業拡大が求められたが,その段階で両者が統一されていることにはどういう意味があったのか。また,現在,公共事業推進の比重が低下していることにどういう意味があるのか。そうした変化は日本の政財界とのあいだにどのような協調や摩擦を生んでいるのか。
どうにも問題は大きく,手にあまるという思いは強いのですが,しかし自民党の経済政策の現在や日本経済の今後を考えるうえで,これはやはり避けることのできない問題です。ぜひ取り組んでみたいと思います。
《バブル期以降に焦点を当てて》
現実にどういう形で講座を行なうかについては,まだスッキリとした計画があるわけではありません。こういう課題にピッタリ合致する1冊のテキストがあるわけではありませんから,私自身の問題を意識を整理しながら,いろいろな文献を探していくという作業がまだしばらく必要です。ただ,それにしても,林直道・工藤晃・大槻久志・今宮謙二さん等の優れた研究は,やはり問題を考えるうえで,共有されるべきものと思います。
講義の方法としては,これらの研究論文を配布した上で,しかし,必ずしもその紹介ではなく,それらに学びながらも自分なりの意見を述べるというものになりそうです。いささか私自身のための学習と模索という色彩が強くなりすぎるかるかも知れませんが。
いずれにせよ,この文章は2003年度の現代経済学講座への「よびかけ」第1弾です。みなさんからのご意見・ご注文も受けながら,内容を考えていきたいと思っています。また,私へのメールは上のホームページからお寄せ下さい。
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