2003年11月17日(月)……兵庫県学習協のみなさんへ。
以下は,2004年2月開催の「レーニンと『資本論』」講座の「よびかけ文」です。
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時代に応じた理論を基礎から学ぼう
――不破哲三『レーニンと「資本論」』をテキストに――
神戸女学院大学助教授・石川康宏
http://web.digitalway.ne.jp/users/walumono/
1)改革者の知性が問われる時代
21世紀の最初の10年も,すでに半ばになろうとしています。90年代以降のアメリカの野蛮な単独行動主義に対しては,国連の平和維持ルールを守れという平和をめざす強い本流が生まれました。しかし,日本国内の国民本位の改革にむかう目に見える流れは,まだこれからです。各国の運動が平和を語り,国連のルールを語り,国際政治に大きな影響力をもったように,私たち日本の国民も大いに語りの力をつけていかねばなりません。必要なのは,何より語る言葉の力であり,根底にある知性の豊かさです。改革者たろうとする者の知性が,いま時代によって問われている。私はそう思っています。
2)学ばなければたたかえない
小さな子どもが6時間も勉強しているのに,世界や日本を語る大人が毎日たった1時間の勉強もしていない。それで日本がかわるわけはありません。労働運動や市民運動は,どのようにして全構成員に「毎日の独習の習慣」を根づかせるか。この課題に真剣に取り組まなければなりません。「時間がない」という「いいわけの思想」は何としてでも払拭せねばなりません。1人1人が毎日,自分で時間をつくり,努力して学ぶ。そういう姿勢をもたねば「たたかいの組織者」にはなれず,そういう個人が集まった組織でなければ「数の力」は発揮されようがありません。学習への姿勢を真剣に再点検すべきときです。
3)「若いころは勉強した」
その種の「過去の遺産」ではたたかえません。社会の変化は急速です。理論も政策も運動方針も,日々,急速に発展しています。「過去の遺産」では現代には対応できません。他方,若い人から「何を勉強していいのかわからない」「どう勉強すればいいのかわからない」という声が聞こえてきます。先輩が「学び」について語ることが少なくなっているのです。「この本を読むといい」「線をひいて読むんだ」「ノートをとるといい」「ペンの色をつかいわけたら」「最初はななめ読みでも」……。そんな学びの基礎技術さえもが語られない。これでは若い世代の育ちを励ますことさえできません。
4)幹部がハラをくくって
この現状をどう打開するか。それが真剣に検討されるべきです。ベテランも若手も,女も男も,1人1人が自分で学び始める。それが求められます。しかし,より決定的なのは各人を励まし,「学び」の輪をひろげ,組織化していく幹部(リーダー)の役割です。もちろん,自らが学ばない人間に,その役割は果たせません。各種運動の幹部こそが,まずハラをくくり,本腰をいれて独習に取り組む構えを建て直すべきです。そして,運動団体はそうした学習の時間を「幹部研修」の時間として,しっかりと保障すべきです。
5)学習協を「学びの拠点」に
「学ぶ姿勢」の本格的な確立に向け,兵庫県学習協の講座は良いきっかけになります。講座は「独習」にかわるものではありません。しかし,「独習」のリズムをつくり,自分を励まし,「独習」の質を高める機会となります。2月の講座は週1回の4週だけです。これだけの時間を各人が求めること,組織がその時間を保障することは,決して無理なことではないはずです。また,学習協の講座の成功は,県内の「学ぶ運動」を活性化させることにもつながります。「学びの拠点」として県学習協を大きく育てることは,各地の具体的な運動の力を育てることにもはねかえります。
6)なぜ,いま『レーニンと「資本論」』か
今回の講座のテキストは『レーニンと「資本論」』(全7巻)です。不破哲三氏の大部の著作です。「いまレーニンの全体を見なおすことは,21世紀を展望して科学的社会主義の理論と実践を発展させることを考えるうえでも重要な意味がある」(第1巻,362ページ)。レーニンを「鵜呑み」にしようというのではありません。レーニンの思索にあってさえ,重大な誤りがあり,21世紀には引き継ぐことのできない問題がある。何を発展させねばならず,何を払拭していかねばならないかを考え,われわれ自身の「科学の目」を鍛えていく。それが眼目です。視点はあくまで現在と未来にすえられます。
7)全7巻にぜひ目をとおして
講座ではレジュメをつかいます。全7巻のどこにどういう問題提起があるかを紹介していきます。しかし,みなさんには,レジュメの解説に満足せず,全7巻をぜひ自力で読み通してほしいと思います。「話を聞いて終わり」でなく,「話をきっかけに独習を深めて」ほしいと思います。解説の重点は「経済問題」に置きます。『資本論』の読み方,大企業中心主義への原理的な解明,市場を「敵視」した社会主義建設論の誤り,市場活用論への大胆な転換。ことがらは日本の現代と未来に深くかかわります。哲学や変革論の問題にも,できる範囲でふれていきます。ベテランも若手も,女も男も,時代を開く知性を求めて,大いに学びあいましょう。
2月 9日(月)〔第1講〕「レーニンはマルクスや『資本論』をどう読んだか」
・ 全7巻の概要,この本の特徴と成果を大きく紹介します。
・ 『資本論』にかかわっては,第2巻・第3巻を主につかいます。
2月16日(月)〔第2講〕「大企業中心主義を解明していく」
・ 「帝国主義論」・国家独占資本主義論を学んでいきます。『資本論』の発展です。
・ 第4巻を主につかいます。
2月23日(月)〔第3講〕「市場を『敵視』したレーニンの誤り」
・ 社会主義と市場の関係が焦点です。「ゴータ綱領批判」の読みまちがいも問題です。
・ 第6巻を主につかいます。
3月 1日(月)〔第4講〕「大胆な方針転換とスターリン以後」
・ 「市場活用」への方針と理論の発展を学びます。ソ連とはなんであったかの問題も。
・ 第7巻を主につかいます。
2003年11月12日(水)……京都学習協のみなさんへ。
以下は,11月16日に配布予定の京都学習協「現代経済学講座」のレジュメです。
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第2回現代経済学講座第7講
神戸女学院大学助教授・石川康宏
http://web.digitalway.ne.jp/users/walumono/
〔講師のつぶやき〕
今日は投票日です。結果はどう出るのでしょう。マスコミは「政権選択」一色ですが,はたしてそれは,そんなに国民にとって魅力的な選択でありうるのでしょうか。
国民の「シラケ」が低い投票率となってあらわれる気がします。
さて,最近は「構造改革」など日本の政治・経済問題の他に,「女性問題」についても勉強しています。月末に東京で,12月に大阪で,それぞれこのテーマで話をする機会があるのです。
財界からすれば低賃金・無権利でこきつかうことのできる「女性労働者」を,なぜ「結婚退職・出産退職」のような早期退職に追い込んでいくのか。以前から疑問に思っていたことです。
どうも,その根底には世界最悪の労働条件ではたらく「男性企業戦士」を確保するために,彼らの身の回りの一切を女性に押しつけるという,狡猾な労務管理政策があるように思えています。
「男は戦場でたたかっている,女は家庭を守れ」式の考え方です。そして,実際,そのようにして家事や子育ての能力を育てるゆとりをもたない「男性企業戦士」が,一路,会社人間となって高度経済成長を実現させていきます。
低成長期に入って,パートなど不安定雇用層としての女性の活用はひろがります。また国際的な男女平等への運動の中で,日本でもその実現を求める動きが強くなります。
しかし,「男性企業戦士」の労働時間は,むしろ80年代には長くなっており,そのもとで,雇用機会均等法との抱き合わせで「女性保護」規定が撤廃され,「過労死の男女平等」が女性たちには強制されていきます。
その結果,今日でも「総合職」に占める女性比率はわずか3%程度です。
「家事労働」による「夫と子ども」のお世話には,夫の労働力の再生産と,階級としての労働者の再生産という役割が込められています。男を企業のロボットとし,女をそのロボットのメンテナンス役に閉じ込める。
それこそが女性を「早期退職」に追い込む財界のねらいであり,職場の男女平等をさまたげようとする動きの根底にあるように思うのです。
財界は男性向け労務政策,女性向け労務政策をバラバラに行うのでなく,両者を見事に組み合わせることで,彼らなりにもっとも効率のよい低賃金(低人件費)政策を追求しています。
そうであれば,労働運動もまた,賃金差別の是正は「一部のやかましい女問題」といった的外れの理解にとどまることなく,男女労働者全体の労働条件改善に向けた,真に実効性のある闘いを組むことが必要です。
男性長時間労働を放置したままでの女性労働力の低賃金活用は,「家庭」のあり方に深刻な重い影響をあたえてきました。子ども,過労死,老人の自殺,熟年離婚が一斉に社会問題化する80年代初頭は,その直前からの低成長への突入を助走路としています。さらに児童虐待が90年代には大問題になっていきます。
職場における男女関係のあり方,家庭における男女関係のあり方,これを根本的につくりかえるという,それこそ骨太の方針が労働者・国民の運動には必要だと思います。
みなさん,いかがでしょう。
質問と答えにすすみます。
〔質問と答え〕
①下請けしている人の腕に技が残ると言うことは、その国の生産技術向上の役に立ちますか?(労働学校でならった歌「橋を作ったのはこのオレだ」風に)
●その歌のことは良くわからないのですが,職人の技術は大いに役立ちます。なにより社会に必要なものをつくっているのは労働者であり,それを設計し,運搬し,消費地で販売し,各家庭に届けているのも労働者です。経理や総務の事務職員も,そうした仕事を円滑にすすめるための作業をしている労働者です。それらの生産に必要な資金を貸し付ける銀行などでの労働も不可欠です。
●それらの労働には,どれにも一定の技術がともないます。技術の深い浅いのちがいはあっても,何の技術も必要としない労働というものはまずありません。たとえ,事務職であっても「熟練の力」というものはあるものです。「これはあの人に聞けばわかる」という頼りになる力が,経験の蓄積のなかで生まれるものです。それらは,どんなものであれ,この社会の生産や経済をなりたたせる大切な力です。
●特に生産技術となると,まだまだ機械では代用できない「職人芸」が,中小企業の現場にもたくさんあります。大量生産にむかない商品は,大変な精密機械であっても規模の小さいな中小企業でつくられています。東大阪などいい例です。ところが,その中小企業の経営がキビシイために,貴重な技術が若い世代に伝達できないという実にもったいないことが起こっています。そういう人間の技術というのは,伝統芸能や武術などと同じで,一度途切れてしまうと,再生するのがものすごく大変です。それらは本来,「市場の原理」などにまかせるのでなく,「将来社会に必要な技術」として社会の力(公的な力)で守り,引き継いでいくべきものだと思います。
② (P30 図3 原油価格の推移)で、石油の価格はどうしてこのように上がったり下がったりするのですか。車にガソリンを入れてても、変動をしています。でも、株式のような投機の要素はないと思うのですが、背景は何ですか?。為替も影響がありますか。
●テキスト30ページにみられる大きな変化は,中東資源国が,原油価格を引き上げたというのが第一の原動力です。途上国の原料資源(第一次産品)を先進国が,不当に安く買いたたくということは良くあることなのですが,73年と79年のオイル・ショック(価格引き上げ)は,そうした関係に対する産油国たちの「反撃」という意味がありました。売り手国グループが共同で売値をあげたということです。
●また国際的な石油価格は,基本的にドルで表示されます。ですから,ドルの価値に大きな変化があった時には,ドル表示の石油価格には一定の影響がでます。それから産油国に災害があったり,戦争があったりして,国際市場への石油供給量が減れば,当然,価格はあがります。逆に供給量が増えすぎてしまうと石油価格は下がります。この供給過剰を避けるために,産油国は互いに供給量をコントロールする努力をしています。
●なお「投機」ですが,原油は「先物取引」の材料になっています。シカゴやニューヨーク,ロンドンなどで始まったようです。価格リスクのヘッジ(回避)が直接の目的ですが,投機的な要素ももちろんふくまれます。
③ 講義の内容とは直接関係ありませんが、資本論を読むことを決意しやっと第1部が終わりました。ところが第2部に入ると全く前に進みません。がんばって読むしかないと思うのですが頭に入りません。何かいい方法があればアドバイスしてください。お願いです。
●第1部はマルクスが完成させた作品です。しかし,第2部・第3部はマルクスが書き残したノートをエンゲルスが編集したものです。「読者に読んでもらうもの」として,完成してはいないのです。したがって,第1部よりもずっと読みづらいです。エンゲルスの編集に混乱があることもすでに指摘されています。しかし,だからといって価値がないわけではありません。「読みづらい」けれども「解決されている重大な理論問題」はたくさんあるわけです。
●「わからないけど読む」ためには,ともかく音読をするといった方法もありますが,もう少し見通しをもって学びたいというのであれば,解説書をつかうのがいいと思います。章や節ごとに『資本論』の内容にそって,わかりやすく解説してくれているものに,宮川彰『「資本論」第2・3巻を読む』(学習の友社)があります。また,これとはちがった形で「ここが勘どころだ」という論点にグッと焦点をあてて,特に現代的な問題意識で解説してくれているものに,不破哲三『「資本論」全3部を読む』(新日本出版社)があります。手にとってみてください。
④ 「年収300万円時代を生きぬく経済学」を読みました。なかなかおもしろくて、共感出来る内容も多くあると思いましたけど・・・。どうなんでしょうか。
●ちょっとペラペラと立ち読みをした程度ですから,直接の感想は何もいえません。しかし,現在の日本の労働者の平均年収が500万円台,1世帯あたりの平均年収が700万円台です。そのような平均であっても生活はとてもラクとはいえません。もちろん無駄をしないという意味での節約は必要ですし,いまのよう大量消費時代には反省すべき点も多く,私たちが少なからずそういう生活様式に慣らされてしまっているというところもありますから,「清貧の時代」が一時の流行語になったように,そうした生活様式や精神に学ぶところはたくさんあるのだろうと思います。
●ただ,いまのように日本経済が「失政」によって破壊される過程にあって,そしてその破壊をストップさせる闘いが行われているなかにあって,あのような本が出されるということの意味はどうなるでしょう。どうも,私には「日本経済の再生なんて無理だから,もうあきらめて貧乏にも耐えて生きようよ」と,なんだか財界・政府が泣いてよろこぶような呼びかけになっているような気もするのですが,いかがでしょう。
〔今日のスケジュール〕
1)「講師のつぶやき」等(1時30分~1時50分)
2)テキスト「クリントンの世界戦略と軍事同盟の変貌」の解説(1時50分~2時20分,2時30分~3時20分)
・ソ連崩壊あとのアメリカの「拡張戦略」
・経済グローバリゼーション戦略/その一環としての対日市場進出
・軍事グローバリゼーション戦略
3)補足「小泉『構造改革』と日米関係/『帝国主義』の概念をめぐって」(3時30分~4時20分,4時30分~4時50分)
〔補足のレジュメ〕
--小泉「構造改革」と日米関係--
(1)報告の課題
(2)戦後日本経済の発展と対米従属の形成
1)戦後経済史のイメージ(林直道氏による6段階の区分)
・戦後インフレーションと政治経済体制の民主改革(1945~50年)/アメリカによる対日占領政策の転換
・朝鮮戦争に刺激された経済拡張(1950~54年)
・高度経済成長(1955~73年)
・石油危機とハイテク産業確立のための懸命の努力(1974~82年)
・経済大国への仲間入りとバブル景気の爆発(1983~90年)
・長期経済不況と日本経済の転換点(91~95年)/今日まで
2)対日占領政策の転換
・「冷戦」体制づくりの一環としての対日占領政策の転換(47~8年)
※「ポツダム宣言」「憲法制定」から,トルーマン・ドクトリン,アジアにおける反共の砦としての再建へ
※日米安保体制による「占領」状態の合法化(事実上の従属国)へ
3)占領政策に方向づけられた財界の復活
・「日本の財閥は……日本における最大の戦争潜在力」(45年11月,ポーレー報告),「軍事的,工業的に日本の戦争機構をつくりあげ動かしたものたちは……日本の経済復興にたいしても大きく貢献することになろう」(48年1月,ロイヤル陸軍長官演説)
・日本には海外からの投資を可能にする条件整備,日本からの輸出によるアジア諸国の安定,そのために日本の戦争賠償は大幅に緩和(48年5月,ジョンストン報告),「太平洋岸製油所を開放することは日本を基地とするアメリカ軍の石油供給を保証し,その意味で対共産戦略上重要」(49年4月,ノーエル石油調査団報告)。
※岸信介等A級戦犯容疑者釈放(48年12月),共産党パージ(50年6月),朝鮮戦争(50年6月),警察予備隊(50年7月),戦争犯罪者の「追放解除」(50年10月),以後,講和条約発効(52年4月)までに20万人の公職追放者が復帰。
・46年経団連結成,48年初代会長選出(石川一郎),51年日本を代表する財界人としての戦後初めてのアメリカへの発言,52年吉田自由党内閣の「経済最高顧問」に(三井本社の向井忠晴相談役,三菱銀行の加藤武男会長,住友本社の古田俊之助)
・戦後財界はアメリカの対日政策に沿うことで支配者の地位に復帰(アメリカの対日支配政策と日本財界の従属的な合作),戦後日本政治の戦犯性
※憲法改悪のための自民党結党(55年「保守合同」),岸内閣の佐藤栄作蔵相が「共産主義とたたかうため」と58年総選挙に向け駐日アメリカ大使に資金援助を要請
(3)対米従属・依存下での日本経済の発展
1)アメリカ主導のIMF体制
・第二次大戦での経済膨張,終戦による市場獲得問題,世界市場の自由化要求
・貿易に必要な通貨の供給と通貨の安定,世界の金の60%,金1オンス=35ドル,固定為替レート(1ドル=360円,52年ドッジライン)
・「代用世界貨幣=基軸通貨」,アメリカによる「ドル特権」の確立(外貨不足はありえない)
2)ドルの獲得を目的とし制約とした高度成長前半
・豊富な労働力,信用創造による資金の創出,不足は機械と原材料
・機械・原材料の輸入にドルが必要,アメリカからの資金貸出,ドルの入手には対米輸出
・輸出競争力強化のための産業基盤整備,対米輸出主導型の経済構造
※国民の消費能力はかえりみられない,低賃金・低福祉は輸出の武器,生産と消費のギャップを輸出と公共事業で埋めるという経済構造
3)ニクソン・ショックと「内需拡大」への外圧
・65年以降の「外貨不足」なき輸出拡大,公共投資拡大,GNP第2位
※「国民所得倍増計画」(60年,池田内閣)。最終の70年度まで大企業の設備投資は欧米の3~5倍,物価は2倍,勤労者世帯1人当たり消費支出は計画の半分,社会保障は横ばい,下水道・住宅も目標を下回る,深刻な環境破壊(公害),穀物自給率の低下(82%から45%へ)
・ドル危機と金ドル交換停止(71年),スミソニアン合意,変動為替相場制へ,基軸通貨ドルの継続
・オイル・ショック(73年)による物価投機,「日本列島改造」論(72年)破綻
・74~75年恐慌,「集中豪雨的」輸出(日米貿易摩擦の激化),「日独機関車」論
・ボンサミット(78年)での7%内需主導型成長誓約(福田内閣),最高の借金予算(実質国債依存度38.8%,深刻な財政破綻の始まり),79年JAPIC結成,81年臨調行革
※日本は外貨のほとんどをドルで保有,ドルを支える,ドル安による損失を甘受
※大型公共事業推進政策がアメリカの「輸出抑制策」との合作となる
(4)プラザ合意外交と「内需拡大」型への構造改革
1)債務国アメリカと債権国日本
・85年にアメリカは債務国に,日本は最大の債権国に
・アメリカからの国債購入急増(76年1億9700万ドル,86年4月には1380億ドルへ)
・ロン・ヤス関係は,アメリカの軍事支出をジャパン・マネーでささえる「共同体」
・日米金利格差の形成も
2)アメリカが初めてドル安に動いたプラザ合意
・85年9月プラザ合意(ドル切り下げ,240円台から),87年2月ルーブル合意(ドル安定へ,170円台で),87年10月ブラックマンデー(120円台へ)
・ドルの暴落回避,アメリカの貿易競争力強化,日本のドル資産破壊
※プラザ合意をきっかけとした「輸出と現地生産」の2本立戦略
※ドルを支える以外のマネー戦略をもたない日本
3)プラザ合意での「内需拡大」公約
・前川レポート(86年4月,輸出志向型経済構造から内需主導型経済成長へ),日米首脳会談で前川レポートを対米公約に(86年4月),87年リゾート法(総合保養地域整備法)
※小泉流「都市再生」の先駆け,83年4月「民間活力の活用による都市再開発」(アーバンルネッサンス),東京臨海副都心・大阪の「りんくうタウン」等
※専売公社を日本たばこ産業(JT)に,電電公社を日本電信電話会社(NTT)に(85年4月),国鉄「分割・民営化」(86年11月)
・86年7月宮沢蔵相はベーカー財務長官と秘密交渉(1ドル=170円での安定と内需拡大補正予算),低金利,バブル経済へ
4)「日米構造協議」(89年9月~90年6月)
・核心は日本の公共投資の拡大,「公共投資基本計画」(91~00年で430兆円)
・関空,東京湾横断道路,東京臨海部開発,汐留操車場跡地など,JAPIC・建設省との利害の一致
・対日輸出,対日投資,日本経済の「構造改革」も
※430兆円は80年代の総額263兆円の1.6倍
※89年ベルリンの壁崩壊,アメリカ経済覇権主義の再編,「最大の敵」をソ連の軍事力から日本の「経済力」へ(日本への支配の再編?)
〔補足〕日本資本の海外進出
1.海外進出は高度成長後半期に急増。1)60年代後半には,輸出拡大のテンポが国内生産の拡大テンポを追い越し,2)海外投資が生産と輸出の伸び率を上回る。直接投資は68年から急増,66~70年の投資残高増加率32.0%は世界一。75年度の投資残高は,アメリカ,イギリス,西ドイツに次いで4位。
2.中心は東南アジア。まずは商品輸出,それから直接投資(市場の支配と低賃金労働の活用)。69年にはOECD全体の資源輸入の18.2%で世界一の資源輸入国,投資順位上位12社中8社が総合商社。70年代には大銀行の海外進出も。
3.途上国へのDAC(国連開発援助委員会)援助で,60年6位,68年4位(イギリスを抜く),70年2位(フランス,西ドイツを抜く)。援助の中心はアジアの反共親米諸国に。
4.プラザ合意以後のバブル期に対外投資が急増。90年には直接投資残高でアメリカ,イギリスについで第3位。年間投資額で1位。「銀行の対外貸付額」でも資本主義世界全体の国際資産総額の37.4%。
(5)90年代不況の中での大型公共投資と財政赤字
1)バブルの崩壊(90年)
・消費不況,バブル期の設備投資・店舗面積拡大,生産と消費の矛盾
・不良債権問題,土地暴落による不良担保不動産の蓄積
※91年の1年間で株価は時価200兆円が消失
2)公共投資拡大への外圧
・93年11月クリントン・細川会談で100兆円増額要求
・「平岩レポート」(93年12月),大幅な規制緩和と「内需型経済構造」,「総合経済対策」(94年2月,細川補正予算)
・94年10月村山内閣630兆円に(95~04年度),1ドル=94円(95年),日経連「新時代の『日本的経営』」(95年)
3)「財政構造改革法」
・財政制度審議会(会長・豊田章一郎)財政構造改革特別部会(部会長・石弘光),医療・福祉・教育切捨て,「地方行革」,公共投資見直し提起(96年12月)
・97年6月「財政構造改革の推進について」(橋本内閣),97年11月「財政構造改革法」制定(630兆円を13年に,10年では470兆円)
・97年末,自民党日本型PFI提起(大手ゼネコンの不良債権処理も),98年3月従来型5全総,98年度予算公共事業費8%マイナス,98年4月「総合経済政策」,98年5月「財政構造改革法」改正,経団連会長交代,経済同友会の怒り
・98年11月小渕内閣「財政構造改革法」凍結「緊急経済政策」,12月「財政構造改革法停止法」,99年1月自自連立,2月「樋口レポート」が「都市再生」提起,11月「経済新生対策」(借金王)は樋口レポートにそって
※無駄と環境破壊の公共事業は温存・拡大,国民生活関連予算は切捨て,消費不況の深刻化
(6)小泉流「構造改革」内閣の実態
1)不良債権処理最優先の「骨太の方針」
・消費不況,不良債権問題,財政赤字
・銀行支援,ゼネコン等への「金融支援」,融資打ち切り・貸し剥がし・金利引上げ
・不況深化,財政赤字拡大,銀行・ゼネコン支援
※骨太の方針「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」。「日本経済の体質を強化して,内需主導の自律的回復を実現するという依然大きな課題を残している」「政府は,『金融再生プログラム』に基づき,平成16年度に不良債権比率を半減させるという目標の実現に取り組んでいる」。
2)公共投資の焼き直し「都市再生」
・01年5月第1回会議,小泉発言「新たな需要」(内需拡大)「土地流動化」(不良債権処理)
※なぜ都市か。都市開発は建築,不動産だけでなく,鉄鋼,セメント,電機,自動車をまきこむ複合事業となる。
・JAPIC,不動産協会,日建連,東京都
・8月第3回会議「第二次『都市再生プロジェクト』」,古顔公共事業の復活,規模
・コストで道路が圧倒的
3)「竹中プログラム」(02年10月)
・橋本「金融ビッグバン」,金融市場への本格的参入,新生銀行の「成功」
※95年末の「逆プラザ合意」と「金融サービスに関する協定」(金融ビッグバンの密約?)
・柳沢金融相更迭,日米財界人会議,「竹中プログラム」(02年10月),りそな国有化
・低金利,アメリカへのドル還流(96年からのドル高傾向)
4)政府税制調査会中期答申「少子・高齢社会における税制のあり方」(6月17日)
・庶民大増税
--〔個人所得税〕公的年金控除の縮小,遺族年金や失業給付などの非課税給付への課税
--〔消費税〕税調として初めて「2桁の税率に引き上げる必要」を明記
・大企業減税
「法人税率の引下げについて,……今後検討すべき課題」(答申)
「(法人税は)将来,基幹税としての地位は次第に薄れていくという意味において,所得税,消費税とは違う」(石弘光・税調会長)
※税の根本は戦後一貫して所得税と法人税。2000年の税調答申で初めて消費税も基幹税だとされた。その上で今回の法人税はずし。
・小泉首相は自分の任期中は増税しないと,《任期切れの2007年度から税率アップ》(塩川蔵相),これは財界が要求する10%の時期と合致
5)社会保障は自己負担で
・02年10月高齢者医療改悪,在宅酸素療法(患者11万人)の中断など命の破壊(自己負担月850円が1万円にも),03年4月サラリーマンなどの患者負担を3割に
・国民健康保険証のとりあげ(国民の36%,4600万人加入),国保料の滞納者が18%(412万世帯)に,97年国保法改悪(小泉厚生大臣,滞納世帯からの保険証とりあげを市町村の義務に〔00年4月施行〕),国保証のない世帯は22万5000(02年6月現在,97年の3.8倍),1・3ケ月の「短期証」の発行は78万世帯(02年6月現在,97年の4.1倍)
・年金スライド制で初めて給付額が0.9%減,介護保険料は引上げの方向,生活保護・被爆者への手当も削減
・雇用保険給付の削減,02年10月から保険料引上げ
※完全失業者中,失業給付を受けているのは2割程度,半数は無収入
・保育所の待機児童(4万人弱)ゼロ作戦(子どもの押し込め),母子家庭の児童扶養手当削減
※そもそも社会保障は公的保障
6)ネオコンの台頭と「アーミテージ報告」
・00年10月報告,対アジア戦略にとって日本がかなめ,より鮮明な要求を
・「鉄の三角形」(政治家・企業・官僚による共謀関係)の崩壊過程を評価。「この10年間,自由民主党は,内部の分裂,従来の利益集団が追求する課題同士の衝突,主要な支持者内での分裂の広がりに直面し,崩れつつある権力の座にしがみつきことに主な力を注いできた」。
・「日本が持続的経済成長を取り戻すには,市場の開放と,民間部門がグローバル化の力に対応できるようにすることが景気回復のかなめであるという認識が大いに必要となる。このためには,引き続き規制緩和と貿易障壁の撤廃に加え,より開かれた市場を支えるためのより強力なルールと仕組みを作り上げることが必要である」。
「日本の政策エリートの一部はこの点を理解しており,それはまた1986年の前からレポートにはじまる多くの公的な論評のなかで指摘されてきたことでもある」。
・「いくつか進展があったことを認識することも重要である。たとえば,西側の多くの経済学者たちは,日本のおこなった『ビッグ・バン』と呼ばれる一連の金融部門の規制緩和政策と,1998年の銀行救済策に高得点を与えている」。
・「回復への障害は引き続き存在する。特に,銀行問題はまだ適切に対処されておらず,財政刺激策は利益誘導型の公共事業に頼りすぎており,こうした政策が長期的な成長を促す可能性はほとんどない。この欠陥だらけの財政アプローチの結果,日本は少なくともGNPの1.2倍にのぼる巨大な財政赤字を作り出した」。
・「※短期的な財政金融刺激策の継続。財政赤字増大という問題はあるが,日本政府は将来の成長を促進する見込みのある分野に重点を置くべきである。橋やトンネル,あてのない高速鉄道などを建設する時代はおわらなければならない」。
7)小泉内閣の終わりのはじまり
・90年得票率46%,00年28%,無党派再結集の課題,「自民党をぶっこわす」
・アメリカの後押しが頼り,進まぬ「財政」改革,軍事での突出したすり寄り
・国民皆保険制度の危機に,日本医師会・日本歯科医師会・薬剤師会・看護協会も「3割負担凍結,高齢者負担軽減」を求める
・無党派の再離反,長野・徳島・高知・熊本・尼崎……
※「逆立ち財政」を継続しながら,アメリカに国内市場を明け渡す。アメリカの対日経済支配強化への積極的屈伏による首相の地位確保。
(7)経済再生の道を展望して
1)政治改革による民主的規制
・個人消費の激励,消費税減税,年金拡充,解雇規制
・財源は無駄の削減,建設労働者の雇用は生活・福祉密着型で
※日本の社会保障費は最低水準(政府の公的支出に占める社会保障費の割合,ILO『世界労働白書』2000年版)フランス55%,イギリス55%,ドイツ52%,アメリカ49%,イタリア46%,カナダ40%,日本37%
・景気回復をつうじた不良債権処理,税・財政改革
・大企業の横暴抑制,ルールのある資本主義,一例としての北欧
2)経済主権の確立
・対等・平等の経済交渉,セーフガード
・東アジア共同市場の形成,対米市場依存・ドル依存からの脱却,ユーロの実験
・日本の民主的改革と国際連帯,日米安保条約の廃棄も視野に
(8)労働運動の語り闘う力の拡大を
1)階級闘争の3つの側面
・政治,経済,理論,立体的に情勢をとらえる
・理論的優位を政治革新にむすぶ力
2)国民に魅力的な運動の探求
・全労働者・全国民を視野にいれて
・「正しい」だけでなく,元気がある,強さがある,かっこいい
・気分・感情を自由にこめて
・若い世代に自主的な経験を
3)職場・地域で理論・政策のリーダーとなる
・学ぶことを労働運動の中心的方針に
・学ぶ者が集まるときにのみ「数は力」となる
・「日本と世界」の現実はどのようであり,これにどうはたらきかけていくべきかを深く,系統的に学ぶ/学び,育つことの喜びを感じながら
〔補足〕「帝国主義」をめぐる新しい問題提起を受けて
1,イラク戦争と世界の動き
※以下は主に,不破哲三「世界とアジア」(2003年6月4日付「しんぶん赤旗」),連載「イラク戦争と世界」(2003年5月26日~7月31日付「しんぶん赤旗」)による。
1)アメリカの無法な戦争
・国際的な「平和のルール」を無視した先制攻撃/3月20日攻撃開始/4月9日にはアメリカが勝利宣言(フセイン政権の組織活動停止)/5月1日「戦闘集結宣言」/7月4日独立記念日演説「米はなお戦争のなかにある」
・直接の理由とされた「大量破壊兵器」/アメリカ・イギリスの情報操作に大きな疑問/大統領がウソを一般教書(施政方針演説)に盛り込んだ疑惑解明の調査を求める市民のメールが7月22日で40万人分
・占領政策も/「戦後」復興責任者,米軍占領統治機構である暫定行政当局(CPA)代表のブレマー文民行政官/チャラビにさえイラク国民にもっとも権限をと/ある外交官「新米政権の担い手を見つけていないから」
・一時的な動きでない先制攻撃主義(戦争政策のブッシュ段階)/しかしネオコンへの批判の高まり(『ニューズウィーク』7月2日「ネオコンは守勢にたたされている」/現時点での戦争支持世論は5割程度(戦争突入時は7~8割)/ブッシュ一色の新聞・テレビの論調にも変化/04年大統領選挙でブッシュに必ず入れる33%,絶対入れない36%
2)歴史上最大の反戦平和の運動
・50万人以上の集会・デモ/11月9日フィレンツェ100万人/1月18日ワシントン50万人/2月15日ニューヨーク50万人,ロンドン200万人,ドイツ各地60万人/3月15日ミラノ70万人/3月22日スペイン100万人,ロンドン100万人/30日インドのコルカタ60万人/4月12日スペイン50万人,イタリア50万人
・デモや集会が禁止されているイスラム諸国でも/シリア,パキスタン,エジプト,レバノン,トルコなどで数万のデモが相次ぐ
※81年以来,デモ・集会禁止のエジプト。1月18日1000人集会(治安部隊の方が多い)/2月末には15万人集会/3月5日政府与党も加わった100万人集会
3)世界の多数の国が公式に戦争反対を表明
・政府が「反対」あるいは「不同意」を表明したのは130ケ国をこえる
・公式に戦争賛成の態度表明をした国は開戦時の国防総省発表でも30のみ/その後の「補足」でも49まで
※ポーランドはイラク派兵/東欧の多くがアメリカを支持/4月世論調査で53%がアメリカ支持まちがい,68%が派兵まちがい/スロベニア79.5%,チェコ70%が戦争反対
※中東欧13ケ国がアメリカ支持/「イラク戦争を支持することで米国の支持を得られれば,近く加盟するEU内でより強い影響力を確保することが事実上可能になると考えたから」(オーストリア国際問題研究所ハインツ・ゲルトナー上級研究員)
4)「国連のルール」を守る問題が世界政治の大問題に
・安保理で戦争の支持・不支持が最後まで争われたのは初めて/アメリカは国連での敗北を事実上認め,採決をあきらめて戦争に突入
・世界の反戦平和の運動は「国連憲章の平和のルールを守れ」を高く掲げた/いずれも歴史に前例のないこと
※64年からのアメリカによるベトナム侵略戦争では,国連は最後まで何の役割も果たせず
2,現代の世界をどうとらえるか
1)20世紀の大きな変化
・レーニンが「帝国主義」を語った20世紀の初頭/ヨーロッパ・アメリカ・日本の帝国主義諸国が世界全体を抑えこむ/人口の圧倒的多数が植民地・従属国に/今日では植民地支配は一掃,各国は政治的独立から国連加盟へ
・少数派だった「国民主権」が世界政治の主流に
・女性の参政権はニュージーランドのみ/今日では政治だけでなく社会生活のなかでの差別も許されないとされる
・戦争と平和の問題/45年国連,国連憲章による平和の国際ルール(世界史上はじめて)/戦争は自衛と安保理決定のみ
2)21世紀の国際政治をどう展望するか
・「反対/不同意」の130ケ国の多くが非同盟諸国(116ケ国)やイスラム諸国会議機構(56ケ国・機構)/すでに世界政治の有力な要因に
※ASEAN36回外相会議(6月16-17日)「国連憲章を含む国際法の諸原則を厳密に遵守することの重要性を再確認する。この点で,平和と安定の維持,国際協力の強化における国連の中心的,不可欠の役割を強調する」
・中国外交の積極的な役割/5月27日中ロ共同声明「強権政治と単独行動主義が世界に新たな不安定要素を加える」/6月エビアン・サミット「国連の権威を守り,世界平和の擁護と共同発展にはたす国連の主導的役割を十分発揮させなければならない」
・ロシア・プーチン政権の「安全保障概念」/00年1月発表/「米国が率いる先進諸国の支配を基礎にした国際関係」を批判,「国際法の網をくぐって世界の主要問題を処理しようとする一極支配」に対抗し「多極世界」の構築を対置
・崩れたNATO諸国の共同行動/ユーゴ(99年)・アフガン(00年)には起きなかったフランス・ドイツを先頭とするアメリカの横暴勝手を認めない潮流/一方で中国やロシアと手を結ぶ/他方でも非同盟諸国と結び,アメリカを少数派の立場に追いこんだ
※フランス/エビアン・サミットで「国際社会,国連安保理によって容認されないいっさいの軍事行動は不当,不法である」「私は(イラク戦争を)認めなかったし,今後とも認めない」(シラク大統領記者会見,6月3日)/エビアン・サミットへの12人の途上国首脳の参加
※ドイツ/シュレーダー首相「イラク戦争反対での自分の立場は以前と変わっておらず,正しかった」「何も後悔することはない」(6月12日)/「一つの声でしゃべる強化された欧州」が必要(EU内部の意見の相違を乗り越えて)/6月のEU首脳会議で採択されたEU憲法草案は欧州大統領,外相の創設をうたった
・2つの国際秩序の衝突--「アメリカが横暴をほしいままにする戦争と抑圧の国際秩序か,国連憲章にもとづく平和の国際秩序か」
・平和の国際秩序をもまる個人・団体・政府の国際的共同を
3)世界のとらえ方をめぐる新しい問題提起--「帝国主義」をめぐって
・不破哲三「日本共産党綱領改定案についての提案報告」/「イラク戦争の問題をめぐって,独占資本主義国のあいだで,先制攻撃戦争という道に国連無視で踏み出したアメリカ,イギリスと,これに反対するフランス,ドイツが対立しました。この対立を,帝国主義陣営内部の対立,矛盾と見てすむか,そうではなくなっているというところに,世界情勢の今日の変化があるのではないでしょうか」「現在の世界情勢の変化のもとでは,独占資本主義の国でも,帝国主義的でない政策や態度,つまり,非帝国主義的な政策や態度をはることは,ありえることです」「その国の政策と行動に侵略性が体系的に現れているときに,その国を帝国主義と呼ぶ,これが政治的に適切な基準になると思います」
・触発される論点/1,世界を独占資本主義に固有の侵略性の側からとらえるだけでなく,それに対抗して平和と民主主義を求める世界諸国民の力との衝突のなかに現代世界をとらえる新しい視角/2,その現実的な力関係において,すでに平和と民主主義を求める力が独占資本主義の侵略性を封ずる可能性をもちつつあるという現状認識/3,「現代帝国主義」や「新植民地主義」にかんする研究は,多くが民主主義の拡大を求める世界の力をとらえきっていない/4,内からの民主的改革と外からの国際世論が,外交政策の民主的転換を進めるなら,独占資本主義国と発展途上国との関係も,ますます「支配と従属」のみでは語れぬものとなる/5,改定案の新提起は「独占資本主義=帝国主義」にとどまらず,「資本主義の世界体系=帝国主義」あるいは「世界資本主義の現段階=帝国主義」という理解にも,強く再考を促すもの
2003年11月3日(月)……和歌山学習協のみなさんへ。
以下は,11月1日に配布した和歌山学習協「『資本論』講座」のレジュメです。
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和歌山『資本論』講座
講師のつぶやき・質問に答えて№7
神戸女学院大学・石川康宏
http://web.digitalway.ne.jp/users/walumono/
〔講師のつぶやき〕
今回は「質問・感想文用紙」の提出が多かったです。やはり,みなさんにこれを書いてもらう時間をとることが大切なようですね。
内容としては,前回につづき,やはり「自己完結型」の感想が多かったです。「わかった」「楽しい」という言葉がならぶのは,こちらとしてもうれしいことです。
そもそも,学ぶこと,わかることは,楽しいことですからね。
◆なぜ資本家がもうけるために労働時間を長くしたり、技術力(生産力)を高めようとするのか、その仕組みがよくわかりました。資本主義社会がどうやって生まれてきたのか、そのイメ-ジがもてる内容だったと思います。生産力がどんどん発展していくといういい内容をもちながら、労働者の搾取が強まっていくという悪い面もあわせもっている、この二面性がよくわかりました。同時にその中に、次の社会へ向かうもの(土台?)がたくさん準備されていることもわかりました。
◆マニュフャクチュアという言葉は知っていましたが、それが労働の仕方を根本的に変え、労働者を部分にしてしまったということを学び、今日に連がるすごく大きな意味を持っていることがわかりました。
◆封建社会から資本主義社会がどのようにつくられてきたのか。協業があってマニュフャクチュアがあって…のところがよくわかった。(今まで、よく知らなかったので。)「経済が土台にある」ことの意味がわかった。はじめて知ることばかりで、今日は非常に新鮮で楽しかったです。最初の話がすごくよかった。"運動しない、活動家"(苦笑)。学びながら闘うことが本当に大切だと感じた。怒りも学ばなければ生まれてこないことに気づいた。語りまくろう!
◆生産量の発展には、かってから(生産手段の機械化の前)人間の力によるものであった。未来社会でも生産手段の社会化で生産者が真の主人公となる時代が来るんだという展望をもっていきたいと思います。
◆生産力が発展していく3つの流れ(協業→マニュフャクチュア→機械制)が分かりやすかった。マニュフャクチュアがすすむことによって、労働者(人間)の全面的な発達が失われるというところが印象に残った。9章も含め、資本家が利潤を獲得するために、いろいろな方法を生み出していく過程がみえた。
◆中学校や高校で習ったマニュフャクチュア。今考えると、試験のために暗記してきたけど、想像つきにくかった。家内制手工業なんて書かれていたと思うが、今日の講義で、二つのマニュフャクチュアが映像的によくわかった。
◆今日の講義をきいてマニュフャクチュア的分業が発展していき、それが機械化を生み、今日の大量生産、大量消費のしくみが形成されていったことがよくわかった。
◆前半いねむりしてしまいました。協業-分業-マニュフャクチュアの話は大変よくわかりました。工場に労働者を集めることによって技術等が次々と受け継がれていくという部分がありましたが、今学校職場は40代、50代の職員ばかり。民主教育の成果が引き継がれず、こわい学校になるのではと心配しています。(勿論、そうならないに頑張っているつもりですが)
◆「マニュフャクチュア時代」とは何か。未来論がよくわかった。高等学校に勤務しています。今、学校現場でも競争がすすむなか、個々の労働者が目的を明確にもって熟練した仕事をこなすのではなく、マニュフャクチュアのように部分部分バラバラに役割を担っているように思います。県の教育行政は無政府的で、学校内は専制的です。
◆最後のお話にあった、理論的誤りは社会建設(?)さえも誤るという事実にはドキリとさせられました。
◆最後の「前衛」の論文にあったレ-ニンの歴史的評価の話がおもしろかった。理論を読みちがえてはいけないと最近よく思っていたところでした。
◆資本論講義の補講として言われた、ゴ-タ綱領批判の中の「必然の王国」「自由の王国」についての理解、認識を新たにしました。よかったです。
◆社会的生産過程のあらゆる意識的な社会的管理および規制が必要。社会は無政府的、工場内は専制的計画的というのがよくわかった。
・資本による労働の形式的包摂から実質的包摂(独自的資本主義)
・資本主義の成立→(資本-賃労働関係)が、封建制(封建領主-農奴)に変わって支配的となる。
◆相対的剰余価値についてよくわかった。
◆数少ない人数よりも多人数ですることにより、競争などが生じて仕事が早くなることがよくわかった。「労働日」というのは、一つの場所で作業を行う労働者にとっては明確であるが、他の職種(運転手などの一つの箇所に止まらない仕事)では明確な「労働日」はないのでは? 分業と協業とありましたが、この二つの業は、たとえていえばどんな職種がるのでしょうか?最近では、協業は少ないような気がします。
個人的なことですが、数少ない人数の方が、仕事がしやすい人もいると思ったりもします。しかし、それは競争思想のない方、そのような方にとって競争社会には馴染まない。そこで何故、競争思想を持たない人と競争思想を持つ人、このような二つの性格が生まれるのでしょうか?ちなみに、僕は競争思想を持たない人間です。それでか何時になれば、暮らしよい社会に変わっていくのかが不明で将来に不安を抱いてしまいます。
しかし、この講座を学ぶことによって少しずつですが不安が解消されつつあります。資本論講座が人生の指標になるように学んでいきたいと思います。
◆今までの講義で今日のところが自分では一番よくわかったし、おもしろかったです。毎回、先生の講義はわかりやすく、知識の豊富さに感心させられてばかりです。マニュフャクチュアの内容がとてもよくわかったし、どのように発達していったのかもこの講義で理解できました。チャップリンの『モダンタイムス』をもう一度観てみたくなりました。
◆資本主義発展の前史というか、資本主義を成り立たせる構造が、協業-マニュフャクチュア-機械制への展開のしくみであること、そして、資本主義自体が第3段階の機械制以降の展開であること、というか、人間社会の発展の系統性を理解できたことが大きな収穫。
来週たぶん、出席できなくなるのは残念。講義を聞いてその後本を読むという読書スタイルでついていくのがやっとという状況なので心配だ。だがテ-プにたよりつつ、なんとか追いついていこう。
ゴ-タ綱領批判って何のことか(前に説明されたが忘れた)と前衛の案内記事を読み、本屋に注文しているがまだこないが、注文して良かった。共産主義というものが分配論に依拠することにそれなりの理ありとも思わざるを得なかったが、理念的には生産手段の体系の組織的管理できるまでの技術的科学的社会の発展過程の中で、人間の自由の拡大とその豊かさの使い方の発展ということで、今のところそれなりに心に響いたように思う。
◆第11章協業に入るときに白板に石川先生が書かれた「協業→マニュフャクチュア→機械制(抽象→具体)の図がうれしかったです。第11章~第13章の全体像を瞬時に教えてくれるものでした。協業の章の初めを読みなおしますと、「……歴史的にも概念的にも資本主義生産の出発点をなしている」とあり、歴史的推移というだけでなく、概念的発展ととらえられるということ。そういう目でもう一度読みなおしたいと思いました。
さて,このように「感想文」を紹介するだけでは,こちらの省エネにはなっても,みなさんにとっての「新しい知識」にはならないでしょうから,最近,私のHPにあげておいたメモをうつしておきます。
2003年10月18日(土)……長谷川慶太郎・竹中平蔵『これからの日本とアメリカ』(学習研究社,1995年)から。
1)もっぱら竹中氏の発言のみに注目して読む。
2)1980年代半ばからアメリカの経済学会の人気セッションが「経済成長論」に移行した。その背後にはアメリカ型ルールとは異なるアジア型の成長が生まれてきたこと(83ページ)。---以前の竹中批判論文における「経済成長論」の位置づけとの関係を確かめること。
3)クリントン政権は財政再建のための増税・財政支出削減によるデフレ効果を相殺するものとして,アジア・太平洋への輸出を位置づけた。APECもそこから必要になる。グローバリゼーションは外に新しいフロンティを求めることと一体である(86ページ)。---しかし,その「フロンティア」には先住民がおり,アジアの国民がいる。彼らの生活・経済に配慮しない,自己中心主義への批判はないのか。
4)NAFTA(北米自由貿易協定)の批准,APEC,GATTウルグアイ・ラウンドの妥結,アメリカはこの3層の国際戦略をとっている。日本はアメリカともアジアとも仲良くといっているが「そういった曖昧な姿勢がゆるされなくなっている」。アメリカにとってはマハティール構想をいかにおさえるかが関心事。「日本は,アメリカとアジアの両方から踏み絵を踏まされて迷っている」(90-92ページ)。---ここでは,いずれを踏むべきかを竹中氏は明示しない。そうであれば,氏の実際の活動で判断するほかないか。
5)「一橋大学の山沢逸平先生とか,大体この地域の専門家の方は,このマハティール構想というのは,政治的には問題があるかも知れないけれども,経済的には実は一番実態を反映したものなんだ,という判断なんです」(96ページ)。---調べること。
6)マクドナルドは世界共通通貨のひとつ。マック・カレンシー。ニューヨークでは90円,それが日本では240円,バンコックは90円。日本の市場障壁がいかに大きいか(113-114ページ)。---なぜ異常円高にふれないのか,この本が書かれた時期は,円が史上最高値に向かう時期であるにもかかわらず。ためにする議論? はじめに結論ありき? 144ページにも長谷川氏の円高を無視する発言に同意する箇所がある。
7)アメリカはソフト経済パワーを巧みにあやつっている。これによってアジアでの優位が目立ってきた。ひとつは知的インフラ,もうひとつは情報インフラ,最後が資本主義のインフラ。世界中どこでもインテリはアメリカ発のニュースを,「アメリカの解釈に基づいて英語で聞いている」それが日本にはない(118-119ページ)---CNNの世論操作,そのソフトパワーが自己中心的に活用されるものであることにより,世界に多くの軋轢が生まれている。そのことへの批判がない。強いもの(アメリカ)を見習うという姿勢のみ。そもそもソフトであれ,ハードであれ,他国にむけられるパワーをそのまま肯定すること自体に問題があるのではないのか。
8)「会計原則を統一しないと単一市場にならない」「単一市場にすると,アメリカの利点は非常に大きなものになる」(長谷川)。これに竹中氏は会計原則のアメリカへの統一化を主張(120ページ)---為替の異常円高を放置して市場の単一化をすすめるなら,日本経済そのものが破壊されてしまう。日本経済がおかれた「外的」環境にはまるでふれない,それはアメリカが日本にあたえる「聖域」ということか。
9)「日本の金融・証券市場の空洞化」は「何も問題ないかもしれない」。「基本的には農業と同じで,元来競争力がないと割り切ってはどうですか」(122-123ページ)。---競争至上主義的発想,90年代のアメリカによる日本金融市場への進出戦略と内容は合致。アメリカのエージェント(吉川)。さらに農業の切り捨ても当然視。他の先進国にこれほど自給率の低い国がどこにあるというのか。
10)金融部門は世界の中での国家戦略がえがける部門。国連やGATTをつくる際にも,ウォールストリートの金融家が大きな役割を果たした。そうした金融家が育つ環境が必要で,規制に守られて生き残ろうとするような金融家は必要ない(124-125ページ)。---ということは,日本には国家戦略を描く部門そのものが不要ということか。残るのは対米従属という国際「戦略」のみ? ドルを支える以外のマネー戦略がない(吉川),世界戦略が描けない(上田)。
11)公共投資630兆円は「増やしたという意味では大変いい」。問題は何をつくるかの中身を示さないこと。その意味では「日本の無責任体制の,象徴」(160-161ページ)。---中身が示されないで,莫大な財政支出の金額だけが決められることのどこが「大変いい」のか。ここでもアメリカの圧力は,無条件で受け入れられる前提としてある。
12)公共投資が「国民生活とあんまり関係ないところで投資されている」。「都市生活者への配分が少ない」。「この際,国家的なシンボルプロジェクトみたいものものをつくる必要がある」(164-165ページ)。---地方へのバラマキから都市への集中へという小泉流都市再生に通じるものがある。他方で,シンボルプロジェクトは「国民生活」と関係のあるものになる保障はあるのか。
13)経済と政治の癒着が問題になっている以上,物理的距離を離すことを考えるべき。「首都移転」が必要。国会と官僚,霞が関を移す(168-169ページ)。---電話で話して,密使が金を運ぶ。「物理的距離」がどうして,その障壁になるというのか。企業・団体献金の禁止を読むものの目からそらせつつ,最悪の財政破壊公共事業といれわる「首都移転」が合理化される。それのどこが「新自由主義」か「小さな政府」か。「都市再生」は土建国家の再編と集中(五十嵐・小川)。
14)アメリカには「ごみ缶理論」がある。政治家が政策を決定するときに,ごみ缶に入っている政策から掘り出し物を出す。ところが日本にはごみ缶がない(174-175ページ)。---これが竹中氏流のシンクタンク設立論につながる。政策専門家による政治家のコントロール。アメリカの経済シンクタンクを念頭? 『経済政策論争』?
15)日本は理想論者からリアリストにもどらねばならない。アジアのケアも必要だし,安全保障の責任も追わねばならない(186-187ページ)。---「アジアのケア」はどういう立場から行われるのか,なぜ安保の責任がアメリカの戦争への自動的追随なのか。そこの説明がまるでない。ようするに当然視されており,前提とされている。
16)430兆円が630兆円に増えた。しかし物価水準の変動があるので,630兆円は実質的には510兆円の効果しかない。私(竹中氏)は,以前から530兆円が必要だといってきた。したがって,630兆円でもまだ「決して十分な額ではない」。ただし「現状の硬直的な投資配分をどう見直し,国民生活に直接役立つようなものにするか」が問題(234ページ)。---いったい何をどう考えての発言なのか。財政赤字をどうするかについては,何ひとつ案が示されないにもかかわらず。
17)「小さくても強い政府にむけて,徹底した規制緩和と,一方で政府の役割を見直すという作業を,われわれは急ぎ進めていかなければならない」(258ページ)。---630兆円でもまだ足りないと語りながら「小さな政府」を追求するという。この支離滅裂。もっともレーガンも同じことを語っていたから,当然竹中氏にも自覚はあるのだろう。意図的な国民の欺きという他ない。
18)明快なのは決してアメリカを批判しないというその姿勢。アジアをアメリカがフロンティアと勝手に位置づけるも良し,ソフトパワーを他国に向けるも良し,それらのパワーが日本に向けられ,円高が強要されるのも良し,公共事業が強要されるのも良し,アメリカ追随のリアリストであることを求められるのも良し……そして,それに飽きたらず,アメリカ型の経済界による政治支配強化のための「ごみ缶理論」をふりまわし,対米従属型のシンクタンク設立論をぶちあげる。竹中氏の対米従属姿勢,アメリカの主張を侵すべからざる大前提としてものを考える,その発想法にあらためて驚かされる。これが日本の経済閣僚のナンバーワンである。いったいどこの国の閣僚でいるつもりなのか。
〔質問に答えて〕
◆今回の部分ではないんですが,貨幣の歴史について参考になる本を以前紹介してたと思うんですが、その本の名前を教えて下さい。
○国立歴史民俗博物館編『お金の不思議--貨幣の歴史学』(山川出版社,1998年),東野治之『貨幣の日本史』(朝日選書,1997年),山田勝芳『貨幣の中国古代史』(朝日選挙,2000年),P.L.グプタ『インド貨幣史』(刀水書房,2001年)を紹介しました。『お金の不思議』が『資本論』とはかなり違った論点をふくんでいますが,入門書として面白いと思います。
◆レ-ニンは死亡する前に「ネップ」を導入して、一時的にソ連が市場経済を導入したことがあったが、それについて、どういう考察をされますか?
○特に私自身の「考察」があるわけではありませんが,研究の到達点に学んで,それを少し紹介しておきます。いわゆる「10月革命」直後のレーニンは「市場経済否定論」の立場にたっていました。これが未来社会を「分配論」の角度からとらえる誤りとむすびついていたことは,前回,少し紹介したとおりです。
○しかし,ご質問にあるように,この方針は現実には大きくの矛盾を社会の内部につくり,「商業の自由」「商売の自由」を求める農民たち(当時の人口の多数者です)とのあいだに深い対立がつくられます。レーニンは労働者と農民の同盟(社会の多数者の団結)を維持・発展させるために苦労し,そこから「市場経済」の承認に向かいました。「ネップ(新経済政策)」は1921年3月からはじまりますが,その最初から「市場経済」が認められていたわけではありません。レーニンがそこまで探求の道をすすめたのは,21年10月のことです。
○このようなきっかけで始まった「市場経済」の承認ですが,その方針を決定してからのレーニンの探求は,農民との同盟という部分的な問題にとどまらず,「市場経済をつうじて社会主義へ」という社会主義の運命にかかわる大方針としてこれを発展させました。そこには,1)市場経済を舞台に,資本主義と競争しても負けない社会主義部門をつくっていく,2)資本主義の復活や発展を一定の範囲で認める,3)ただし経済全体のかなめとなる部分は社会主義の部門として確保する,4)社会主義の部門が力をつけるために資本主義に学べるものは徹底的に学ぶ,5)農民との関係では,土地や生産手段の協同組合化はあくまで農民の自発的な意思でつくる,といった方針がふくまれました。
○しかし,レーニンは23年3月に病気で倒れ,24年1月には亡くなります。そして,スターリンは29年から30年に強権的な「農業集団化」を行い,ネップの道を絶やしてしまいます。以後,ゴルバチョフ時代までは「市場経済の導入」が話題になることはありませんでした。しかし,ゴルバチョフ時代のソ連社会はすでに社会主義への方向づけのない社会に変質していました。
○こうした経過を見るなら,また,今日の中国やベトナムの現実的な模索の過程をみるなら,レーニンが最後にたどりついた「市場経済をつうじて社会主義へ」の道は,大いに研究の価値があり,実践的にも発展させられるべき価値のあるものだと思います。あわせて,日本の未来を考える場合には,レーニンのように市場をいったん排除した後に市場を導入するのではなく,もともとある市場の上に,これと十分競争できる民主的で,かつ効率的な経済部門を資本主義の枠内で形成していくことをつうじて,社会主義に接近していくという道筋がとらえることになります。より詳しくは,不破哲三『「資本論」全3部を読む・第1分冊』(新日本出版社,2003年)の末尾,さらに本格的には,不破哲三『レーニンと「資本論」・第7巻』(新日本出版社,2001年)の全体を読んでみてください。
◆生産性を高めて、いくら多くの商品をつくっても人間が使える量に限りがあります。そろそろ商品生産の量を規制するところに来ているのではないでしょうか? 車の台数の規制etc. 世界的に需要を超えて生産されている商品について資料はありますか?
○すでにお答えした問題ですので,簡単に問題提起的に「回答」しておきます。なお,おしまいの「資料」については,そのような公的資料はないと思います。
○クルマの場合ですが,排気ガス問題・環境破壊問題・交通事故問題などがあります。したがって,どういうクルマをどういう形で走らせるか,という問題は重要問題です。有害な排ガスのないクルマが必要という点では,「商品の質」についての規制が必要なのはまちがいありません。しかし,それは「商品の質」についての規制であった「量」についての規制ではありません。また,国内を走るクルマの台数について,かりに国民的合意ができて,これを制限するということになった場合にも,これを政府が法的に規制するのか,あるいは国民自身が「購買」を自発的に調整していくのかという具体的な問題は,その段階で具体的に討議すべきことのように思います。なお,その場合にも,現実のクルマ資本は世界市場を相手に活動していますから「商品生産の量」の規制という問題には直結しないと思います。いかがでしょうか。
○他方で,現代の世界ははたして「商品生産の量を規制する」ことを一般的な課題とするまでに,人類全体が必要な生活手段を手にする段階にいたっているかという問題があります。大量の餓死があり,飢餓があり,それは先進国の内部にもある問題です。となると,生産物の「生産の量」の規制の他に,まちがいなく,大量の生産物をいかにして,それを必要とするひとたちの手にわたらせるかという課題があるわけです。さて,この問題とのかかわりをどう考えたらいいでしょう。
○さらには,たとえば中国12億の人民が生活の利便性を求めてクルマをもとめるなど,世界の「生産と消費」のバランスは,生産を発展させるだけではなく,消費をも発展させていきます。今後,どのような商品が,どれだけ必要になるかは,予測が立ちません。もちろん,そこで排ガスの多いクルマに12億人が乗るようになれば環境問題が悪化するという懸念はありますが,それはクルマの「質(性能)」を問う問題であり,「量」を問う問題ではないのではないでしょうか。
○なお,「量」の規制というとき,根本問題的には,現実世界にどの商品がどれだけ必要かを,どうやってはかるのかという問題があります。現代世界では「市場の機能」以上に効率的にこれを行うものがないということで,今日,あらためて市場の積極面の活用がいわれているわけです。この「どうやってはかるのかという尺度の問題」を,どのように考えますか。
◆賃下げが行なわれても物価が下がれば、手に入る使用価値は変わらないので、再生産に必要な物資を手に入れ、生活をしていくことができる、という流れは理解できました。ただ、相対的剰余価値生産が活発化するのと、物価の低下、賃下げは具体的にはどのような関係にありますでしょうか?特別剰余価値を得るために、物価の低下は即座には生じないでしょうし、あからさまな賃下げは抵抗に合う…長期スパンでは、いずれそこに落ち着くということを言っているのでしょうか。もしくは、労働力の価値の減少によってもたらされた相対的な事象のことを言うのでしょうか?
○「もしくは」以降が正解です。説明がわかりやすくなればと思って,「もし物価が下がれば」という事例を出しましたが,実際には,特に独占資本主義の社会では消費者物価がどんどん下がるということはありません。つまり,そこでは,労働力の価格である賃金は維持あるいは労資の闘いに応じて少しずつの上昇をつづけることもあるわけですが,そのあいだにさえ,一定の生産力の上昇があれば,剰余価値の量(剰余生産物の価格)は賃金の伸び率をこえてどんどん増大していきます。その結果,賃金の伸びをこえて,剰余生産物価格が伸びていくなら,1日に生産される価値量総体に占める両者の比率は,労働力の価値が小さくなる方向に変化します。そのような意味でご質問にあるように「相対的な事象」ということになるわけです。
◆未来社会は、人間が持っているであろう自由な時間を、いかに使い人間の成長に役立てるかが大切である? 理論のあやまりが社会の建設をあやまらせる。いかに生産手段を社会化していくんだろう。生産手段の体系の管理と人間の自由の拡大という矛盾をどう克服するのだろうという新たな疑問も生じたが……。
○生産手段の社会化の具体的な形態は,それが現実的な課題になった時の具体的な条件に応じて変わるものだと思います。ですから,今の段階で「こうする」と決めつけることはできません。これは,むしろ,具体的条件が明らかでない段階では「決めない」ことが科学的な態度となります。
○他方で,「生産手段の管理と人間の自由」の問題ですが,前回,紹介した「ゴータ綱領批判」にかかわる論文をぜひ読んでください。人間は,社会のどのような段階にいたっても,生きるための労働を避けることはできません。労働組織を合理化する努力はあっても,労働しない自由はありえません。それをマルクスは「必然の王国」と呼んでいました。未来にあっても,人間はこの「必然」からは逃れることができません。しかし,生産力の発展が「必然」の時間を短縮するなら,あとには各人が自由にこれを処理することのできる真の意味の「自由時間」が拡大していきます。それをマルクスは「自由の王国」と呼んでいました。この「自由の王国」は「生産手段の管理」によって直接束縛される領域ではありません。したがって,ご質問のような「矛盾」は,少なくともその領域には存在しません。マルクスは未来社会が,このようにして人間の豊かな発達を保障する物的な条件を拡大していくことをみていたわけです。
〔今日の講義の流れ〕
1)「講師のつぶやき/質問にこたえて」(~2時)
2)「第13章・機械と大工業」(~2時30分)
◇第1~4節は機械と大工業の基本/第5~7節は労働者の雇用の問題/第8節は機械とそれ以前の生産の関係/第9~10節は工場法について
◇第1節「機械の発展」……機械と道具/機械の発展
◇第2節「生産物への機械の価値の移転」……平均的な磨滅の分だけ/機械使用の限界
3)「第13章・機械と大工業」(2時40分~3時30分)
◇第3節「労働者におよぼす機械経営の直接的影響」……労働日延長/労働強化と剰余価値
◇第4節「工場」……ユアの機械描写/労働者の集団/全体労働者/機械が主人公
◇第5節「労働者と機械との闘争」……機械が雇用を脅かす/機械への闘争
◇第6節「機械によって駆逐された労働者に関する補償説」……弁護論への反駁/雇用が増加している部門もある
4)「第13章・機械と大工業」(3時40分~4時30分)
◇第7節「機械経営の発展にともなう労働者の反発と吸引。綿業恐慌」……弁護論批判の継続/産業循環の事実/循環と雇用/イギリス綿工業の場合
◇第8節「大工業によるマニュファクチュア,手工業,および家内工業の変革」
◇第9節「工場立法(保健および教育条項)。イギリスにおけるそれの一般化」……保健と教育/個人の全面的な発達/家族形態の変化/未来を語るマルクスの方法/工場立法の一般化
◇第10節「大工業と農業」
5)「補足」(4時40分~4時50分)
◇技術の発展と雇用の問題
◇機械の使用についてのマルクスの演説
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