2005年6月8日(火)……論文「『東アジア共同体』をどう構想していくか」(仮題)のためのノート
0・「東アジア」にかかわって書いてきたこと
帝国主義による植民地支配からの脱却の過程にある現代世界
「独占資本主義は固有の侵略性を継続するが,植民地主義やむきだしの軍事的侵略はますます困難となった。これを許さぬ国際的な合意や,その合意を強制する包囲の力が大きく育っているからである。『東洋』の独立は植民地体制を過去のものとし,それによって,双方の側からする植民地争奪の帝国主義戦争を過去の歴史に葬った。さらに独立した『東洋』は,すでに平和・公正・民主の国際社会の建設に巨大な力を発揮している」「歴史はすでに,帝国主義が資本主義の『最後の段階』ではなかったことを明らかにした。現実世界は,帝国主義を抑止し,独占資本主義の侵略性を抑止する平等・互恵の民主的な国際秩序づくりの段階へと足をすすめている。内政・外交においてルールある資本主義の発展を求める取り組みは,その歴史をさらに前に進める意味をもつものとなる」(「世界情勢の発展と『帝国主義』」176ページ)。
陣取り合戦の対象としての東アジア市場という財界の認識
「近年,財界が重視するのは『自由貿易協定(FTA)』の締結」経団連は『自由貿易協定の積極的な推進を望む』(2000年7月18日)で「この取り組みへの遅れに対する強い危機感を表明していた」「経団連アジア・太平洋地域委員会共同委員長(00年)の立石信雄氏も『FTAを締結していないために,日本がアジアで影響力を十分に行使できない状態にいるのは残念です。EUやアメリカは,陣取り合戦のようにさまざまな地域に触手を伸ばしており,日本が世界から完全に取り残されるのではないかという懸念を強くもっています』」。経団連「戦略的な通商政策の策定と実施を求める」(01年6月14日)は「政府に『「通商立国」日本のグランドデザイン』をせまっている」。この文書は「地域協定に積極的に取り組む」として「東アジア市場統合」を重視する。そこでは「シンガポールにつづき韓国ともFTAを」「日本・韓国・シンガポールそれぞれがFTAを拡げる」「中長期的にはASEANプラス3によるFTAを目指す」「『日米FTA』や中南米諸国との協定も重視される」(『現代を探究する経済学』130ページ)。
肝心なのは東アジアの共存共栄を可能とする政治の改革,協定の内容
「政財界はシンガポールとの合意を皮切りに,インドネシア,タイ,マレーシア,フィリピン,メキシコなどとの二国間の貿易協定づくりをすすめています。ASEANの主だった国とは,すでに交渉をスタートさせています。しかし,問題はその協定の内容であり,協定づくりにおける姿勢です。日本側が追求しているのは,ここでも自動車と電気機械という財界主流の利益です」「その一方で,相手国へのメリットとして日本側が差し出しているのが農業です」「これらの協定の策定には,直接,財界人がかかわっています」「多国籍企業の代表者が,国家間の協定づくりに深くかかわり,東アジアにおける共存共栄の観点を欠いた大企業本位の関係を持ち込もうとしています」「こう考えると,日本の政治と外交政策の転換は,日本の経済や国民生活の改善にとって急務であるだけではなく,アジア経済の健全な発展にとっても重大課題となっています。国内で連帯の精神が求められるだけでなく,国際社会においても日本には連帯と共同の精神が強く求められています」「構造改革」の主な特長の6つ目に「経済侵略型の自由貿易協定を推進しようとする」(『軍事大国化と「構造改革」』118ページ)
日本経済のためにも憲法擁護,平和外交の精神が必要
「憲法9条が代表する平和外交の精神の発揮は,アジアにおける日本の経済的交流をひろめ,日本経済の再生と前進に新たな可能性をひらくものとなる。これに対して,アメリカの侵略や介入の戦争に自衛隊を一体化させようとする憲法『改正』は,アジアにおける日本経済の孤立を一段と深めるものになる。政治の孤立は,経済の孤立を深めずにおれない。それはいわば当然のことである」(「憲法9条こそ日本経済再生への道」29ページ)。
1・日本財界の東アジア共同体論
グローバル競争の手段としてのアジアの位置づけ(日本経団連)
●「活力と魅力溢れる日本をめざして」(2003年1月1日,奥田ビジョン)
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/vision2025.html
※第3章に「東アジアの連携を強化しグローバル競争に挑む」はあるが,日米関係,安保問題についての言及はない。
※第3章の5つの節から。
・「1,自らの意志による『第三の開国』を」
○――東アジア自由経済圏の実現に向けたイニシアと,自らの手での市場開放を
――ルールづくりの積極的通商政策を,FTAも重視
――自由経済圏を東アジア経済外交の基軸に
――交渉力を得るために市場の開放を---取引材料を獲得する手段としての「開放」(農業)
・「2,東アジアを強力なハブに」
○――欧米とのFTAで劣位に立たないように,自由経済圏を域外へのハブにする
――自由経済圏なしに欧米とのFTAが進めば,市場・生産基地両面で日本は劣位に
・「3,『5つの自由』と『2つの協力』を実現する」
○――自由経済圏内では5つの生産要素の移動の自由と,協力推進・問題解決の協力を
――生産要素はモノ,サービス,ヒト,カネ,情報
――域内問題への協力には「アジア通貨基金の創設」あり---アメリカ・ドルとの関係はどうなる?
・「4,東アジアの多様性が生み出すダイナミズムと発展」
○――域内取引コストの低下による競争力強化,巨大単一市場の形成,供給・需要両面でアジアのダイナミズムを成長の源泉として活用する
――徹底した最適地生産,市場,金融投資市場,世界経済システムへの貢献(世界のエンジン)
・「5,東アジア自由経済圏の実現に向けた課題」
○――アセアン+3で2015-2020年まで,「第三の開国」は農産物市場の開放と外国人に開かれた社会づくり
――「中国との協力が重要である」「東アジアにおける歴史観の共有に向けた努力を強化する」「東アジアが強く求めているのは,日本の市場,経済協力,直接投資」「中国脅威論は,中国とは異なる比較優位を持つ日本が,中国と同じ製品をつくり続けようとする発想から生まれてくる。むしろ,日本企業は他の東アジアの国々が比較優位を持つ生産要素を国内外で積極的に活用しながら,付加価値の高い分野にポジションを確保していくべき」
アジアにおける通貨統合を前提とする
●奥田碩『人間を幸福にする経済』(PHP新書,2003年)
※「新ビジョンへの理解を深めていただく」ための本(5ページ)
※金融,土建,軍事,アメリカはまったく登場しない。ビジョンは実質的な「トヨタ宣言」?
※第5章「『第三の開国』を自らの手で――グローバル競争に挑む」――ビジョンとの重複は避けながらのメモ
・「1,東アジア自由経済圏の構想」
――アジアとの連携による競争力強化という国益の追求
――高コスト構造の是正,「山の国」企業の再編と資源再配分(構造改革)
――国際企業に選ばれる日本づくり---それを口実にした「構造改革」は日本企業自身の要求でもある
――自由経済圏のために率先して市場の開放を
――通貨危機の教訓として,地域の自律性を高め,域内での資金循環を
――カネの移動については,為替リスクのない通貨統合を長期的にめざす---ドルとの関係をどうするのか?
――アジア通貨基金は,外貨危機の国に対する緊急融資の機構
・「2,2015年の実現に向けたビジョン」
――欧州統合の本質は恒久的な平和。自由経済圏の「実現に日本が建設的な貢献をしていくことは,過去の不幸な歴史を乗り越えていく大きなチャンスでもある」
――中国とは協力し,共同でリーダーシップを
――ODAの戦略的活用
財界からに都合の良い世界づくりにむけた軍事的関与のすすめ
●「わが国の基本問題を考える――これからの日本を展望して」(2005年1月18日)
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2005/002/index.html
※金融,土建にはふれないが,「これまで触れてこなかった外交・安全保障や憲法などについても検討を加えた」(はじめに),「我々経済界は,これらに加え,さらに,外交・安全保障や憲法を中心とする国の基本問題に取り組むことを期待する」「その取り組みは,ここ数年内に着実に実を結ばなければならない」(おわりに)
・「第1章 わが国を取り巻く現状と問題意識」
――グローバルな活動をすすめる企業にとって世界の軍事的脅威は自分の脅威
――外交・安保で国際的にどのような役割を果たすかについて根本的な議論が必要
・「第2章 これからの日本が目指すべき道」
――目指すべき3つの国家像,1)「国際社会から信頼・尊敬される国家」世界平和に主体的にかかわる,2)「経済社会の繁栄と精神の豊かさを実現する国家」,3)「公平・公正で安心・安全な国家」---第一の課題が「国際社会への積極的な関与」
――国家像の実現にとって憲法「見直し」は不可欠
・「第3章 外交・安全保障を巡る課題」
「1,わが国外交・安全保障を巡る認識」
――平和憲法のもとで国益を踏まえた戦略的主張,主体的関与が不足した
「2,国際社会との向き合い方に関する基本的考え方」
――企業にとって内外の平和と安定は大前提
――国際優位を維持する最重要要素は経済力・技術力,経済の相互依存が国際の安定にも寄与する
日米安保を軸としながら東アジアにも政治・安保の協力を発展させる
●「わが国の基本問題を考える――これからの日本を展望して」(2005年1月18日)--上のつづき
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2005/002/index.html
「3,わが国外交を巡る重要課題」
――東アジア全体の安定のために日米安保を強化する
――アメリカは「わが国の繁栄の基盤を支える最大のパートナー」,経済などでも緊密な協力を,それが「日米安全保障条約の基本的精神でもある」
――「国連による国際秩序の維持活動に主導的な役割を果たす」,常任理事国入りをめざす
――東アジア自由経済圏を「政治・安全保障面での連携・協力へと発展させていく」,「東アジア自由経済圏の構築と日米同盟の強化を外交政策の軸として,地域の安定と発展に最大限の努力を」
――自由経済圏に「日中関係は極めて重要」「経済面では,米国に次ぐ重要なパートナーとなりつつある」
「4,国際安全保障への積極的協力」
――「国際社会や同盟国との協力を前提とした,自衛隊の国際活動を……強化」「憲法における自衛隊の役割や集団的自衛権についての明確化が必要」
「5,総合的な安全保障体制の確立」
――輸出入を海上輸送に依存しており「シーレーンの安定確保は死活問題」,「とりわけ,中東からマラッカ海峡を経て,わが国に至るシーレーンは,原油調達の8割以上を中東に依存するわが国の生命線であり,沿岸国との協力の下で,テロや海賊などへの対応を強化すべき」---アメリカのいう不安定の弧に合致
――「200海里を越えて国土の1.7倍と推定される大陸棚にわが国の新たな経済的権利が発生する可能性がある。領土の拡大という国益に係る本プロジェクトを,国をあげて完遂させる必要がある」
戦争する国家づくりにむけた憲法・人間・産業改革
●「わが国の基本問題を考える――これからの日本を展望して」(2005年1月18日)---上のつづき
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2005/002/index.html
・「第4章 憲法について」
――9条第2項を,自衛とともに国際貢献に参加できる自衛隊に
――集団的自衛権の否定が「同盟国への支援活動が否定されていることになり,国際社会から信頼・尊敬される国家の実現に向けた足枷となっている」,行使できるように---アメリカへの「支援」の意図は明確
――96条も
・「第5章 より民主的で効率的な統治システムの実現」
――官僚主導国家の再構築,無責任な利己主義・公務員制度改革
・「第6章 政策別の重要課題」
――国際人である前に日本人,教育基本法改正,伝統・文化・歴史の教育,政治についての教育,宗教についての教育
――科学技術は「防衛,民生の垣根をこえて」,「最先端技術の防衛目的での活用を制限している宇宙の平和利用原則や武器輸出三原則は,わが国の先端科学技術発展の観点から,見直しやさらなる緩和が必要」---軍需産業の本格的振興
――わが国の一次エネルギーの半分は石油輸入,うち9割近くは「政情の不安定な中東に依存している」,エネルギーでは「どの先進諸所外国よりも脆弱な環境」「総合的なエネルギー国家戦略」が必要
――「有事の際の食料確保は,国家が行う危機管理政策,有事法制の一環として位置付けて検討する必要がある」---農産物市場を取引手段に開放しながら?
中国における「ビジネス」環境の発展に強い期待
●第41回日米財界人会議における奥田日本経団連会長スピーチ「日本の政治経済状況」(2004年11月15日)http://www.keidanren.or.jp/japanese/speech/20041115.html
――「東アジアにおいて重要な経済的プレーヤーとして台頭している中国におけるビジネス環境の整備も,東アジアにおける自由経済圏の実現のために重要な課題である。中国がWTOに加盟して3年が経過しようとしております。中国政府は,加盟約束の遵守に向けた努力を続けており,わが国経済界はこうした努力を高く評価するとともに,今後もこうした努力が継続・加速化されることを期待しております」
日中経済の飛躍的緊密化の中で,経熱から政治も改善へ
●日本経済団体連合会中国委員会企画部会「日中通商・経済関係の更なる拡大に向けて~日中通商対話ミッション・ポジションペーパー~」(2005年2月23日)
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2005/016.html
――「昨年の中国の貿易総額は,前年比35.7%増の1兆1547億ドルとわが国を抜き,同国は米国,ドイツに次ぐ世界第三位の貿易大国となった。そうした中,日中経済関係も飛躍的に緊密化しており,昨年の両国貿易総額は1600億ドルを突破し,中国が米国を抜いてわが国の最大の貿易相手国となった」
――「日中両国においては,経済関係の緊密化の一方で,政治面では一部で緊張も見られる。このような状況の中で,わが国経済界としては,企業のビジネス活動を促進し,経済分野での相互補完関係をさらに深化させることで,政治面にも良好な影響を与え,日中関係全体の発展に寄与したいと考えている」
――東アジア自由経済圏については「例えば2015年の実現を目標に,わが国と中国が共同でリーダーシップを発揮していくことが重要である」経済圏の構築は「域内の取引コストの削減による効率的な生産体制とともに,巨大な市場を生み出すことによって,域内のすべての国はもちろんのこと,世界経済にも大きな利益をもたらす」
――「人民元にかかわる諸制度の整備」「為替レートの問題については,当面は,貿易の自由化にあわせて資本取引を漸進的に自由化するとともに,将来的には変動為替相場制度へ移行することを望む」
総会決議ではアジアにふれず
●日本経団連2005年度総会決議「新しい成長の基盤を創る」(2005年5月26日)
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2005/033.html
「企業の力を引き出す」「国を支える産業をつくる」「人を活かす社会をつくる」「外国人の受け入れ・活用」の4節からなるが,アジアや中国との関係についての直接的な言及はない。関連するのは,以下の部分のみ。
「2.国を支える産業をつくる」「(2) 国際連携の強化WTOを中心とする多角的な自由貿易体制の維持・強化と、経済連携協定(EPA)による二国間・地域間の経済連携の強化を車の両輪とし、通商立国の実現を図る。WTO新ラウンド交渉の推進にリーダーシップを発揮するとともに、農業問題などの国内構造改革を急ぐ。また、ODAの拡充により、開発途上国のインフラ整備や人材育成を進める。加えて、対日直接投資促進の環境整備を行う。」
アメリカ市場における日米連携をすすめながら,中韓との友好を大局的に見失わないように
●日本経団連総会における奥田会長挨拶(2005年5月26日)
http://www.keidanren.or.jp/japanese/speech/20050526.html
「国際的な面に目を転じますと、今日、BRICsや東南アジア諸国、さらには中東欧諸国の急速な台頭に伴いまして、経済のグローバル化はさらに加速し、また深みを増しております。わが国がこれらの国々との連携を強化していけるかどうかは、わが国の将来を決する重要なテーマであると私は考えております。
日本経団連では、昨年度新設した「国の基本問題検討委員会」におきまして、安全保障や外交の分野にまで踏み込んだ検討を行い、報告書をとりまとめましたが、そのなかでは、わが国が目指すべき姿として、「国際社会から信頼・尊敬される国家」を掲げました。
私は、わが国がそうした国家を目指して、タブーを恐れず真摯に改革に取り組み、世界からの信頼を得ることによって初めて、平和主義を基本とした「通商立国」が実現するものと考えております。私どもが考える以上に、世界では日本企業のプレゼンスが増大しております。このことに留意しつつ、グローバル競争に臨んでいく姿勢が必要であると存じます。
日本にとって重要な日米関係につきましては、現在の比較的良好な関係に安住することなく、米国の経済、産業の動向を常に把握し、政府間、あるいは企業間の関係を強固にして、相互に情報を共有する必要があります。---トヨタの要望?
また、中国、韓国など東アジア諸国との関係につきましては、いろいろな問題を抱えつつも、それらを一つひとつ乗り越えて、友好関係を長期的に発展させるという大局を見失わないようにすることが肝要であります。投資協定や経済連携協定の締結に向けた話し合いを着実に進めるなど、経済面での結びつきをより緊密にすべきであると存じます。」---実態としては単純な嫌中の動きへの批判になる
中国との友好維持を政治家に求める
●日本経団連第4回定時総会後の会見における奥田会長発言要旨(2005年5月26日)http://www.keidanren.or.jp/japanese/speech/kaiken/2005/0526.html
【日中関係について】
将来、日中の政治関係、経済関係がともに冷却化するとは見ていない。政治家には、中国の要人と頻繁に接して良い関係を構築してもらいたい。
主導権を発揮してアセアンとの経済連携を
・「わが国としては、ASEANを重要戦略地域と改めて認識し、東アジアのバランスある発展を目指すべきである。そのためには、わが国が主導権をもって、ASEANとの包括的経済連携構想を早期に具体化することが重要である。これに韓国ならびに中国との経済連携をあわせたASEAN+3を中心とする統合された東アジア市場の形成に努めるべきである」(日本経団連「日・ASEAN包括的経済連携構想の早期具体化を求める」2002年9月17日,http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2002/054.html )
貿易立国とてしの国益達成の手段としてODAを活用する
・「わが国が、将来にわたり貿易立国として生存し繁栄していくためには、世界平和の実現、世界各国との友好関係の維持を図ることはもとより、貿易・投資等の経済活動の維持・発展が必須の条件となっている。わが国にとってODAは、これらの諸目的を実現するための極めて重要な手段である。従って、ODA大綱の基本理念においても、国際社会が共通して取り組むべき諸課題への貢献に加えて、国内資源に乏しい貿易立国としてのわが国の安全と繁栄を確保するという国益のためにODAを積極的に活用するとの姿勢を明確に打ち出すべきである」(日本経団連「ODA大綱見直しに関する意見」2003年4月22日,http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2003/033.html )。
東アジア自由経済圏の実現のためにODAを戦略的に
・「いわゆる要請主義については、まず、わが国の国益を重視した総合的な戦略(グランド・デザイン)を立て、その上で相手国政府との政策対話を通じて、相手国政府の政策の取り組みを促すとともに、具体的なプロジェクトを策定すべきである。そのためには、大綱整備と並んで、中期計画の充実も必要であり、「国別援助計画」についても、こうした観点からの整備・拡充が急務である。そうした中で、東アジア諸国については、経済連携、ひいては東アジア自由経済圏の実現のためにODAを戦略的に活用することが重要であり、こうした視点に立った政策対話、経済協力を推進すべきである」(日本経団連「ODA大綱見直しに関する意見」2003年4月22日,http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2003/033.html )。
ODAは東アジアを重視して
・「わが国のおかれた歴史的、地理的、政治的、経済的な状況に鑑み、わが国のODA政策においては、引き続きアジア、特に東アジア地域を重視すべきことを大綱にも明記すべきである。特に、近年、ASEANとの包括的経済連携強化が重要課題となっていることを踏まえ、その推進のためにもODAを戦略的に活用すべきである。具体的には、ASEANの結束強化と安定のために、貿易・投資の促進や関連諸制度のハーモナイゼーション、後発加盟国への支援や域内協力の促進に資するようなODAの活用を大綱に盛り込むべきである」(日本経団連「ODA大綱見直しに関する意見」2003年4月22日,http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2003/033.html )。
「アセアン+3」の東アジア共同体・通貨統合を目指す
●経済同友会「日本の『ソフトパワー』で『共進化(相互進化)』の実現を――東アジア連携から,世界の繁栄に向けて」(2005年2月8日)---「世界における日本の使命を考える委員会」(委員長・下村満子・健康事業総合財団「東京顕微鏡院」理事長)
http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2004/050208a.html
※「世界における日本の位置づけと関わり方を,10年後を視野にした将来ビジョンとして提言した」「世界における日本の使命とは,『世界の平和と繁栄の創造に貢献すること』」「使命を果たす理念は,日本人の価値観の底流にある共進化(相互進化)」「使命を果たす手段は,相手と同じ目線で接する日本的なソフトパワー」
※具体的貢献の提言は2つ「東アジア共通通貨の創設まで視野に入れ,リーダーシップを発揮し,世界秩序の創出に貢献する」「『国づくり,人づくり』に尽力し,世界の繁栄の創出に貢献する」―――ドルとの関係は,アメリカとの関係は?
※以下,軍事・東アジア戦略に限定して
・「前書き」「提言とりまとめにあたって」
――10年後の世界。軍事・政治ともアメリカ支配の一極構造は変わらないが,中国の大国化とASEANの成長によりアジアへのパワーシフトが起こる
――「すでに同友会では,平和憲法の精神を踏襲しつつも,自衛隊や集団的自衛権その他の分野での憲法の見直し,改正を提言している」「『東アジア経済提携』の動きを更に発展させ,『アセアン+3』の『東アジア共同体』の実現,通貨の統合までをも目指し,それへの向けてのイニシアチブをとる。遠い将来には,インドなども含む『アジア共同体』をも視野に入れる」
海外派兵のなかでも自衛隊はソフトパワー,アメリカのハードパワーとの相互補完を
●経済同友会「日本の『ソフトパワー』で『共進化(相互進化)』の実現を――東アジア連携から,世界の繁栄に向けて」(2005年2月8日)---「世界における日本の使命を考える委員会」(委員長・下村満子・健康事業総合財団「東京顕微鏡院」理事長)---上のつづき
http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2004/050208a.html
・「提言書――1,共進化(相互進化)」
――「占領軍主導で出来たものではあるが,"平和"憲法とも呼ばれる日本国憲法は民主主義,戦争放棄,といった平和理念をうたっており,日本国民の平和志向を明確に表している。特に,唯一の被爆国として,日本は戦争,そして特に核兵器,の被害の悲惨さを世界に伝える義務があり,使命がある」
・「提言書――2,ソフトパワー」
――ソフトパワーの概念「魅了する力によって,自分の望む結果を他者から引き出す力」
――東アジアで「日本は,世界第2の経済大国,そして先端課題に取組む先進国として,東アジアの連携をリードし,東アジアを基盤に世界の平和と繁栄に貢献する」
――ソフトパワーの事例「イラクでの自衛隊」「現地の人と一緒に働く(同じ目線),日本の水は美味しい(品質),過去の蓄積」
――アメリカとの関連「ソフトパワーだけでは秩序を維持・構築できないことから,米国と日本は相互補完的な関係にあることが望ましい」
――「伝統的な国家による外交(交流)から,日本のソフトパワーの特長がもっと活かせる民間外交にシフトすべきである」
アメリカがつねにアジアに関与するとは限らない,だから独自の防衛政策を
●経済同友会「日本の『ソフトパワー』で『共進化(相互進化)』の実現を――東アジア連携から,世界の繁栄に向けて」(2005年2月8日)---「世界における日本の使命を考える委員会」(委員長・下村満子・健康事業総合財団「東京顕微鏡院」理事長)---上のつづき
http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2004/050208a.html
・「提言書――3,世界,東アジア,そして日本の現状」
――世界「現在の国際社会は安全保障,政治経済,そして価値・文化,の3つの階層で捉える事ができる」
――安全保障「アメリカの安全保障政策の転換」「アメリカの軍事力が世界の秩序を左右する」,テロを嫌って「孤立主義に走る可能性がないわけではない。しかし,アメリカ以外の国にとってはアメリカの『過剰な介入』もさることながら『過少な介入(孤立主義)』も問題」「アメリカが唯一のグローバルパワーであり,アメリカが世界と関わらなければ,混乱が生じる可能性が高い」「イラクのように上手く行かない場合は,軍事的な負担が大きくなる」「世界に対して押し付けがましく関与するのではなく……深くは関与せずに,薄く広い関係になっていく可能性が高い」「途上国へのパワーシフトを国際秩序にどの様にして繁栄させるかが課題」「安保理改革」---アメリカの軍事政策の後退を展望?
――東アジア「20世紀前半まで世界を支配していた欧米から20世紀後半にかけて非西欧に力が移り始め,日本はその尖兵であった。現在もその流れは続いており」---アメリカの後退もこの一環にいちづけられる? つくる会教科書史観との兼ね合いは?
――「東南アジアのイスラム化(=異文化間の対話と共生の必要性)」「東南アジアでイスラム問題が激化すれば,シーレーンの確保や安全保障の観点からも日本に多大な影響を与えかねない」---経団連と共通
――「北朝鮮の核の脅威は……日米同盟の試金石」
――「中国の台頭」潜在的には課題があり経済が「不調になれば,環境問題,沿海部と内陸部の格差,そして共産党の一党独裁と市場経済の矛盾,という3大課題が吹き出し,中国が将来大きく乱れるという見方もある」
――日本「人口構成全体が成熟化」「膨大な資本蓄積をどのように活用するかに,について妙案がなく行き詰まってしまった」「多額な財政赤字」「競争力の相対的な低下は不可避」
――日本の安全保障「今後も日米安保関係が基本的重要性」「日米関係も色々な意味で変わっていかなければいけない」「日本自身がどのような防衛政策を持つかが今後は重要になる」「アメリカが常にアジアに関与するとは限らない状況である」「日本も今後は地域的な防衛政策を検討せざるを得ない」「例えばミサイル防衛……衛星による地域の監視や攻撃を受けた場合の一定の敵基地攻撃能力を含む」「地域的な対話による協力,軍備管理,軍種など」も「日本がより積極的に働きかける局面が増えてくる」「同友会は2000年12月に発表した『21世紀宣言』において,『わが国は,国際連合・国際通貨基金・世界貿易機関等の世界の公共財たる国際機関の活動により積極的に参画し,国連常任理事国入りをはじめ,従来に増してより大きな役割を担っていく必要がある』ことを提言している」---アメリカに期待しつつも,独自の防衛政策を,経団連とのズレ?
――経済「WTOが影響力を失いつつある」「先進国と途上国の亀裂が拡大すれば,日本への影響は大きい。例えば,中東とアメリカの亀裂が決定的となれば,エネルギー安全保障の面での影響が出てくる。そういう亀裂を避けることが日本の重要な役割になる」「日本の経済にとってのフレームワークとしては,引き続きアジア・太平洋が基盤となる」---WTOへの評価も,アメリカの力の後退への展望と一致?
東アジア共同の力でアメリカにも意見のいえる日本をめざす,通貨主権の積極的な放棄も
●経済同友会「日本の『ソフトパワー』で『共進化(相互進化)』の実現を――東アジア連携から,世界の繁栄に向けて」(2005年2月8日)---「世界における日本の使命を考える委員会」(委員長・下村満子・健康事業総合財団「東京顕微鏡院」理事長)---上のつづき
http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2004/050208a.html
・「提言書――4,東アジアにおける平和の創出(東アジア共同体に向けて)」---安保をふくんだ「東アジア共同体」
――東アジアの日本に対する見方,1)経済復興への尊敬,2)アメリカ重視・アジア軽視,3)歴史問題,「複雑な思い」はあるが「総じて日本に対する期待の方が大きい」,1)「経済成長の牽引役」,2)「中国に対する警戒心から,東アジアにおけるカウンターバランスとしての政治面での日本への期待も大きい」
――「日本企業の収益の中で,東アジアからの収益が占める割合は年々増えており」「これまで日本は米国一辺倒であったが……米国以外に,特にアジアの中で,パートナーが必要になっている」---アメリカ一辺倒からの脱却が自覚的課題に
――日本の貢献「多極化」の進展のなかで「日本としてどのように地域的取り組みや地域主義とかかわるかが大きな課題となる」「日本がその中に含まれているのはアメリカにとっても戦略的な価値があり,アメリカも自国を含まないASEAN+3という枠組みも敵視すべきでない。よって,日本は米国との関係を深化させつつ,東アジアの秩序形成に欠かせない中国との連携強化も検討していくべき」日中間の「歴史問題には様々な解釈,意見があることを認識し,自由に議論できる環境を整えることが重要であり,その為には人的交流が肝要」「早い段階で中国との関係を深め,影響力を強めるべき」---「東アジア共同体」をアメリカは敵視するな,一定の対決の意識も
――アメリカとの関係「アメリカのアジアにおける最大の関心は中東から朝鮮半島に掛けて(いわゆる不安定の孤)の安全保障,そして中国の台頭,という2つの点」「日米関係においても改善の余地がない訳ではない」「アメリカのパートナーとしての日本(アメリカのためを思って意見が言える日本)」イラク開戦時に小泉首相が「フセイン政権を打倒すると言うことには意義があるが,決してそれがアラブやイスラム,今回の反対国を排除するものであってはならない,という言い方もできた」「反対側についても一定の理解を示すことができた」「ブレア首相と連携して,このメッセージを米国に伝えることができれば,より大きな効果がえられた」「日本はこの様な論戦(説得力のゲーム)に充分に加わることができなかった」「日本の場合は(西洋でないので――石川)アメリカに反対すると一対一になってしまうので,そうならない様に普段から仲間を作る努力が必要である。それが韓国であり,東南アジアや中国,インドである。このような国と日本は普段から友好関係を深め,アメリカに苦言を呈すときも,日本が矢面に立つことなく,『グループで諫める』テクニックが必要である」「アメリカが疎外感を覚えない形であれば東アジア諸国がまとまりを持って活動できる環境が整いつつある」「アメリカとしても東アジアの連携が経済分野に限られ……阻止することはできないであろう」「日本がアメリカに信頼され,その上で中国との関係を強化できれば,長期的には地域全体の安全保障につながり,東アジアと米国の間のバランサーとして日本の果たす役割は極めて重要となる」---アジアとの共同のなかでアメリカにたいしてもモノをいう??
――「東アジアとしても,長期的には経済だけでなく,安全保障面を含めた東アジアの秩序の構築をめざすべきであり,地域連携に留まらず,地域統合を視野に」「第一段階として,東アジア共通通貨単位の創設が考えられるが,その中核には円,元,そしてウォンが入ることが予想され,日本,中国,そして韓国が前向きに協議する事でその実現は大きく前進する」
――「中国国内の消費拡大は目を見張るものがあり,もはや米国への迂回輸出基地としてではなく貿易相手国としての中国は日本経済の成長を左右する存在となっている」「通貨統合は通貨主権の放棄である」「日本としても率先して自国通貨(円)を捨てることで共通通貨を大きく推進させ,東アジア共同体の実現に貢献する事ができる」
靖国参拝は非常に大きなネック,日中の良好な関係が「国益」
●経済同友会北城恪太郎(代表幹事)・渡辺正太郎(副代表幹事・専務理事)の記者会見発言要旨(2005年6月7月)より
http://www.doyukai.or.jp/chairmansmsg/pressconf/2005/050607.html
Q: ……現在は「政冷経熱」と言われているが、「政冷経冷」とならないためにはどうすべきか、また政府に何を望まれるか。
北城:…… 「政冷経熱」は良いことではないし、長期的には良好な関係を維持することが必要だと思う。両国相違はあるとしても、共通の利益を探し出して、政治に関しても良好な関係を築いていただきたいし、経済や国民レベルの交流が進むようにしていただきたい。小泉首相の靖国参拝については、いろいろな議論があるが、首相は靖国参拝を続けられると思う。A級戦犯を崇拝しているわけではなく、戦争で亡くなった方を慰霊するという意味での参拝だと思うが、中国の政府や国民の理解を得られるような方策を考えていただく必要があると思う。そうしないと、この問題が非常に大きなネックとなっているように感じる。
Q: このままの日中関係が続くと、経済も冷めてしまうのではないか。
北城: 政治の面で対立関係が継続することは、経済の面でも決して良いことではない。しかし、中国との関係は、靖国問題だけではなく、歴史認識や資源開発の問題など、さまざまな課題がある。それを超えて共通の利益を探すための戦略が必要だし、歴史認識については共同作業をやる方向で進んでいるので、このようなことを積み重ねていくことが重要だ。一方、中国から日本へ留学して日本で良い経験をした方々は、良い対日感情を持って自国へ帰るので、長期戦略として、留学生、修学旅行、観光含め、多様な交流を推進するような戦略を作って対応する必要があると思う。米国では、米国への留学生が卒業後も働ける職場を作る、また成功した人たちが母国へ戻ったとき母国での成功を支援する、などの仕組みを作り、うまく機能している。日本でもそのような長期戦略が要ると思う。
渡辺: 現在のような日中関係の経済への影響がないわけではない。日本の企業は中国の市場において、欧米や現地の企業と激しく競争しながら苦労してやっている。経済活動にとってプラスということはあり得ないので、市場においては常に競争しているということを忘れないでほしい。経済的利益を得たいという意味ではなくて、それが日本の富への国益になると思う。
北城: 何が日本の国益かを考えながら議論をした方が良い。「日本および日本人の安全と国の繁栄を実現すること」が国益だと思う。それに合致しているかどうかで政策を判断すべきで、経済界は決して自社の利益のためにこのような発言をしているわけではない。
小泉総理の靖国公式参拝に反対
●経済同友会北城恪太郎(代表幹事)の記者会見発言要旨(2004年11月24月)より
http://www.doyukai.or.jp/chairmansmsg/pressconf/2004/041124a.html
Q: 日中首脳会談が行われ、久し振りに両国の首脳が話し合ったが、はかばかしい進展が見られなかったようだ。どうご覧になっているか。
北城:話し合いが行われたということは、色々な背景があったにせよ良かったのではないか。できれば、相互に訪問できて、それぞれの国で会談ができれば更に好ましいと思う。
今回の会談の中で、日中の協力が重要であること、経済を含めて日中の協力関係が進展することの重要性は認識されたと思う。その一方で、靖国問題に関して中国側から批判が出たということだが、(靖国問題は)日本の国内問題であると同時に、中国には、日本の首相がA級戦犯を合祀している靖国神社に参拝することを快く思っていないという国民感情がある。最近のインターネットの普及もあって、中国政府が一方的に国民の意識を制御できる状況でもない。小泉総理が靖国神社に参拝することで、日本に対する否定的な見方、ひいては日系企業の活動にも悪い影響が出るということが懸念される。経済界の意見の大勢だと思うが、総理に今のような形で靖国神社に参拝することは控えて頂いた方がいいと思う。
2・アセアンの動き
単一の市場,単一の生産拠点をめざすASEAN共同体
・「ASEAN経済共同体は,単一の市場と単一の生産拠点を目指している。第二次バリ宣言は次のように述べている。
『ASEAN経済共同体は,地域を特徴づける多様性を,ASEANを世界の供給ネットワークのよりダイナミックで強力な一部にするビジネス補完の機会に変えつつ,ASEANを単一の市場,単一の生産拠点として確立するべきである』」(北原俊文「ASEAN共同体に向けた一歩――第37回外相会議」『前衛』781号,2004年9月,41ページ)。
2020年に安保・経済・社会文化の共同体を
・「インドネシア・バリ島のリゾート地ヌサドゥアにあるバリ国際会議場で2003年10月7,8の両日,東南アジア諸国連合(ASEAN)の第9回首脳会議が開かれた。合わせて,ASEANと日本,中国,韓国(ASEAN+3)の全体および個別の首脳会議,ASEANとインドの首脳会議が開かれた。……
……バリ島で27年ぶりに開かれた今回の首脳会議は,第二次ASEAN協和宣言(第二次バリ宣言)を発表し,2020年を目標に,安保共同体,経済共同体,社会文化共同体を3本柱とするASEAN共同体を目指すと宣言した。また,中国とインドがTACに加入した」(北原俊文「内を固め外に拡げるASEANと日本の孤立」『前衛』771号,2004年1月,130ページ)。
単一市場・単一生産拠点をめざす経済統合の多面性
・「ASEANの経済統合では,ASEAN自由貿易地域(AFTA)を中心に,ASEANサービス枠組み協定(AFAS),ASEAN投資地域(AIA),ASEAN統合イニシアチブ(IAI),ASEAN統合の行程表(RIA)など,列挙しきれないほどの様々な取り組みが行われている。地域の多様性を利点として活かしつつ,単一の市場と単一の生産拠点を創出するのが目標である」(北原俊文「内を固め外に拡げるASEANと日本の孤立」『前衛』771号,2004年1月,137ページ)。
多面的に「帝国主義」支配からの脱却の道をひらくASEAN
・(東アジア共同体)「この発展の背景にあるのは何か。……
第一は,いわゆるグローバル化がすすむ中での《ASEANの着実な発展》です。……
第二は,《中国の変化と発展,その中国とASEANの関係の発展》です。アジアにおけるとくに経済面での中国の比重はここ数年の間に顕著に拡大しています。日本,米国を抜き去りつつあるとの見方すらあります。……
『中国脅威論』は過去のものとなりつつあるだけでなく,今では中国はASEANの重要なパートナーです。
第三は,《EUの発展》です。……
……重要なのは,共同体ということでの関心だけでなく,EUが単独行動主義に抗して多国間協調主義の立場に立つ地域協力,連合という形ですすんでいることに注目していることです。今年のASEAN外相会議が,『ASEAN憲章』作成を決めたのは,そういった点でもEUに刺激されたのは明らかでしょう。
第四は,《イラク戦争が生み出した新しい世界の流れ》が共同体という主張の中に反映していることです」(三浦一夫「平和と友好,対話と協調のアジアへ――東アジア共同体を考える」『前衛』781号,2004年9月,26~29ページ)。
日本への不満を隠す必要がなくなっているASEAN――日本の孤立
・「今回の首脳会議では,最終準備のための高官会議の段階から,日本への不満がかつてなく聞かれた。……。
日本への不満は多々あるが,中国とインドがTACに加入する一方,日本がTAC加入の要請を断ったことで,頂点に達した。『他の条約とのかねあいもあるので……』というのが,日本の対応だった。『他の条約』とは当然,日米安保条約のことである。……
TACは,ASEANの『平和憲法』とも,ASEAN発の国際的『不戦条約』ともいえるもので……」(北原俊文「内を固め外に拡げるASEANと日本の孤立」『前衛』771号,2004年1月,131ページ)。
日本は独立すべきというASEANからの評価
・「首脳会議終了後の10月18日,マレーシア戦略国際問題研究所のシャウハル・ハッサン所長が,『日本が米国追随から抜け出せばもっと良いことができる』と題する論評を,同国の英字紙ニュー・ストレーツ・タイムズに寄稿した。同氏は,次のように述べている。
『中国の魅力ある攻勢は,最近のバリASEAN首脳会議で最も明白で,そこでは,中国は日本を完璧に凌駕した。……』
『最も重要なことは,中国がインドとともに,TACに署名したことであり,日本にはできないことである。……』
同論評はさらに,『ASEANに対するまったく新しい,ダイナミックな接近方法をとらない限り,中国だけでなく,インドなどの諸国に対しても,日本は,イニシアチブと推進力で後れをとることになろう』と警告し,『日本の官僚主義は,その慎重さと伝統的な思考をいくらか捨てる用意がなければならない。何より,対米追随を脱却し,自分自身の独立の道を固める必要がある』と指摘した」(北原俊文「内を固め外に拡げるASEANと日本の孤立」『前衛』771号,2004年1月,132ページ)。
第1回東アジア会議のメインテーマは「経済」
・第1回東アジア会議はマレーシアの首都クアラルンプールで「マハティール首相の提唱と設立されたシンクタンク,マレーシア戦略問題研究所(ISIS)が主催して2003年8月4日から6日までおこなわれ……1500人余が参加し,経済問題が主に議論されました」(笠井亮「大国の横暴ゆるさず『アジアのことはアジアで』」『前衛』769号,2003年11月,66ページ)。
ASEANの成果を東アジアの全体へ,一番重要なのは地域の平和
・東アジア会議の趣旨について,ノルディン・ソピーISIS会長はこう述べた。「『私たちは,いま東アジア共同体の形成ということを考えており,今回の会議がそうした方向への一助となればと思っている。……
東アジア共同体というのは,アジアのためのアジア諸国の組織である。ASEANの発展を踏まえながら,さらに東アジア全体で,各国の独自性,多様性を尊重しつつ,地域の平和確立を最大の目標に,経済,文化面でも協力をすすめていくための組織にできればと思っている。とにかく,一番重要なのは,地域の平和ということだ。平和が担保されてはじめて,安定して経済建設の条件ができる。……
「共同体」の範囲は,当面は,ASEAN10カ国と日本,中国,韓国,つまりASEAN+3でつくることを考えている。ゆくゆくは北朝鮮も入れることになるだろう』」(笠井亮「大国の横暴ゆるさず『アジアのことはアジアで』」『前衛』769号,2003年11月,67ページ)。
金融でも貿易でも「脱ドル支配」が共通の決意――日本の孤立
・「とくに議論が集中したアジアの『債権市場』や『通貨基金』の構想,『自由貿易協定』(FTA)の問題などの議論でも,主権尊重と平等・互恵の立場にたって,『脱米軍支配』とともに,『脱ドル支配』へ一歩を踏み出そうというのが共通の決意でした」(笠井亮「大国の横暴ゆるさず『アジアのことはアジアで』」『前衛』769号,2003年11月,69ページ)。
日本もアメリカも中国も中心にしないというマハティール
・マハティール首相演説は,東アジアの協力では,『帝国的な支配や,「ご都合主義の」覇権の奇跡の存在を信じない』『東アジア共同体は日本や米国あるいは中国が中心になるといったものでもない』とのべ……
そのうえで,『いまこそ,われわれ自身がわれわれの国民とわれわれと世界の未来のために権能を与えられるときだ』と訴え,『互恵,相互尊重,平等,コンセンサス,民主主義』を繰り返し力説し,『覇権主義ノー』『帝国主義ノー』などを列挙して『東アジアの,東アジアのための,東アジアによる共同体創設』の重要性をのべました」(笠井亮「大国の横暴ゆるさず『アジアのことはアジアで』」『前衛』769号,2003年11月,70ページ)。
EAECはちがった形で成功した,中国・韓国は最初から賛成――マハティール
・「最後に,1990年12月に提案した東アジア経済圏構想(EAEC)に関しては,紆余曲折はあったが,わたしは違った形で成功を収めたと考えている。『ASEANプラス3』がそれだ。このまとまりは,わたしが1990年当初掲げた『東アジア経済グループ(EAEG)』の範囲に等しい。また,その役割も,東アジア諸国のゆるやかなフォーラムである点で『ASEANプラス3』と同様である。このまとまりの中で参加国の共通の課題に取り組み,国際社会の中での地位を確立しようというのが構想の中味であった。中国と韓国は,当初からこの構想に賛成の立場を表明したが,日本のように米国の圧力を懸念して反対した国もあった」(マハティール・ビン・モハマド『日本人よ。成功の原点に戻れ』PHP,2004年,11~12ページ)。
なぜアジアの貧困克服の努力に力を貸さないのか――マハティール
・「ASEANに中国と日本,韓国を加えた,私がかつて提案した『東アジア経済グループ(EAEG,後の東アジア経済協議体=EAEC)もまた経済的なつながりであり,やがて東アジアに平和をもたらすでしょう。域内諸国にとって一番大事なことは平和であり,これは世界にとっても同様です。
EAECに反対する気持ちが,私にはわかりません。なぜ域内の国々だけが,貧しいままとどまらねばならないのでしょうか。まさしく理解に苦しむところです」(マハティール・モハマド『立ち上がれ日本人』新潮新書,2003年,85ページ)。
西側諸国やIMFによる圧力は植民地政策の延長――マハティール
・「植民地の終焉で小型砲艦はアジアから姿を消しましたが,経済的・政治的な圧力は現在も威力を発揮しています。西側諸国が私たちにとって大きな脅威であることに変わりはないのです」(マハティール・モハマド『立ち上がれ日本人』新潮新書,2003年,35ページ)。「(通貨危機の直後)行政機関は国際機関の支配下におかれました。そしてその国際機関はといえば,豊かな国々の論理に支配されたものです。これではまるで植民地政策の繰り返しではありませんか。かつて西側諸国が『自由貿易』のために小型砲艦を差し向けたように,国際機関が開国を迫っているようなものと言えます」(マハティール・モハマド『立ち上がれ日本人』新潮新書,2003年,37~38ページ)。
植民地の独立以後も,世界では西側による一方的な支配がつづいている――マハティール
・「彼らはアジアやアフリカの多くの国々を植民地にして,富を根こそぎ奪い取っていきました。それらの国が独立してからも,大所高所から『こうやるべきだ』『ああやるべきだ』とあれこれ指南してくれたものの,全ては間違った処方でした」「前世紀までに植民地主義とアパルトヘイトは一掃されましたが,世界ではまだ西側による一方的な支配が続いています」(マハティール・モハマド『立ち上がれ日本人』新潮新書,2003年,132ページ)。
※西側諸国を一括することの問題点(マハティール批判としても)
・戦後の途上国支配の主体として,アメリカを頂点とした「西側同盟」を一括することの問題点に注意する必要がある。途上国に対して「支配」的な地位にある国についても,それを強制をつうじて行うのか,独立国同士の合意にもとづいて行うのかの相違がある。後者が戦前型の「古い植民地主義」を排除する主体として立ち現れていること,あるいはヨーロッパ資本主義における新しい「脱皮」が行われていることに注意すべし。
自立した社会から植民地体制へ,再びすべての国民が自分の土地の主人公に
「だいたい,人類社会では,もともとは,そこに住んでいる人びとこそがその地方の主人公でした。一部の国ぐにが,『先進国』だといって,他の世界を支配する,こういうことは実は,人類社会の歴史のなかでは,最近の,それもごく短い期間の特徴なのです」(不破哲三『いまこの世界をどう見るか』新日本出版社,2005年,16ページ)
「これが14~15世紀の,アジア・アフリカ・ラテンアメリカ世界の状況でした」「そこにはもちろん,いろんな国ぐにの,あるいはいろいろな社会の興亡がありました。征服もあれば戦争もありました。しかし,初めにいいましたように,支配する国と支配される国,こちらは支配者,あちらは被支配者というように,画然と区別が固定されるといった状況は,世界的には存在しなかったのです。大きな視野で見れば,アジア・アフリカ・ラテンアメリカの全体が,自立した社会としてそれぞれなりの道を歩んでいる。これが六,七百年前の世界だったと思います」(不破哲三『いまこの世界をどう見るか』新日本出版社,2005年,22ページ)
「そういう世界が,どうして,支配・被支配の世界体制にくつがってしまったのか。その答えはもう明白でしょう。16世紀を転機として,ヨーロッパの資本主義諸国が,支配勢力としての膨張を開始しました。その膨張は,19世紀にアフリカ大陸を植民地として各国が分け取りしあうアフリカ大分割をもたらし,19世紀の末からアメリカと日本も加わって,地球の領土的分割の完了という,そういう地点にまで到達したのです。こうして,20世紀の初めには,資本主義的『先進国』の世界支配が完成しました。これが,『先進国』の支配という世界体制--いわゆる植民地体制をつくりだしたプロセスでした。
植民地体制の崩壊というのは,この世界的な体制を崩壊させたことにほかなりません。結局,長い目で見てみると,いわゆる『先進国』の特権的支配というのは,文明が生まれて数千年といわれる人類社会の歴史の中で,せいぜい二,三百年程度のごくわずかの時代を占めるだけだった,ということが浮き彫りになってきます。
そして,20世紀の後半に,それに終止符が打たれました。
この意味で21世紀というのは,すべての国民が自分の土地の主人公となるという本来の姿を,人類社会がより高い段階で取り戻したものだと言ってもよいのではないでしょうか。これが,歴史を振り返りながら考えた第一の点であります」(不破哲三『いまこの世界をどう見るか』新日本出版社,2005年,23~24ページ)---東南アジア史の「自生的段階」論との共通性。
分裂と敵対の時代から独特の共同の時代へ
「アジア大陸は,20世紀後半もある時期までは,まだ分裂と敵対が特徴でした。ベトナム戦争の時の状況を思い出してください。アメリカのベトナム侵略の戦争に,アメリカの側に立って軍隊を送った国が,東南アジアの地域にもありました。文字どおり分断と敵対が特徴でした。
しかし,いまではその状況がすっかり変わって,アジアのほとんどすべての国が与党と野党の区別を越えて集まり,平和の問題をはじめ,共通の諸問題について討論しあう,こういう独特の性格をもった国際会議が,大陸の全体を覆うかたちで発展しているのです。私は,このこと自体が,未来ある発展に向かうアジアのたくましい姿を示すものだと思いました」(不破哲三『いまこの世界をどう見るか』新日本出版社,2005年,45ページ)。
ソ連崩壊後のアジアにおけるアメリカの策動
「アジアの政党国際会議がアジアの政治の世界に定着してきたことのもつ重大な意味は,歴史をひもとけばいっそう明らかになります。アジアというのは,16世紀以来,ヨーロッパ諸国による侵略と支配が広がった世界で,20世紀には,日本軍国主義がおおいに荒しまわったところです。第二次世界大戦後でも,中国革命が起きたら,中国敵視と『封じ込め』の政策がアメリカの世界戦略の重要な柱となり,アジアの少なくない国ぐにがアメリカのこの戦略にくみする,そういう強烈な分断がありました。その時期に起こったベトナム戦争では,アジアの一連の国ぐにが,アメリカの指揮下に出兵しました。この戦争自体が,アジアの分断と敵対の大きなるつぼとなったのです。さらに,ソ連が崩壊した後は,アメリカが,その状況を好機として,アジアに自分の天下を築こうと,経済・政治・軍事の諸分野で,さまざまな策謀をめぐらしました」(不破哲三『いまこの世界をどう見るか』新日本出版社,2005年,109ページ)。
アジア・アフリカにはその国特有の困難からの出発がある,こちらの価値観を絶対基準にしない
「さきほども『北京宣言』に関連して述べたことですが,現在,世界の多くの国,たとえば,アジア・アフリカの国ぐには,その国特有の多くの困難を含むさまざまな条件から出発して,独立した近代国家をめざす国づくりに取り組んでいます。それは,近代化や民主化のできあがった道を一直線ですすむという坦々としたものでは決してなく,その途上では,さまざまな試行錯誤もあれは,逆向きの流れもおこります。そういう国の政府や政党と交流する場合,自分たちの価値観や常識を絶対の基準にして,それで相手の国を裁断する態度や,それらの問題点を理由に相手側を批判するなどの干渉的な態度をとってはならない,こういうことが,『内部問題相互不干渉』の原則には含まれています。
かりにその国の社会や政治に欠陥があるとしても,それをただし,改革する権利をもっているのは,その国の人民であって,外国の人間ではないのです。これは,民族自決権にもかかわる国際政治の原則的な基準であって,もし私たちが見失うようなことがあれば,それは,私たちが一貫してたたかってきた干渉主義の誤りを,私たち自身がおかすことになります。ここには,そういう性質の問題があります」(不破哲三『いまこの世界をどう見るか』新日本出版社,2005年,165~166ページ)---試行錯誤や逆流をもその国の社会的経験の過程として大きくとらえる。
その国の内面の論理から現状をつかむ
「もう一つ大事なことは,どんな国と交流する場合にも,あれこれの勝手なモデルをもってその国の現状をはかるのではなく,その国がたどってきた歴史をよく研究し,その社会の内面に働いている論理から,現状をつかむ努力が必要だということです。党綱領が提起しているように,『異なる価値観をもった諸文明間の対話と共存の関係の確立』が,世界平和の重要な課題となっている今日,私たちは,どんな場合にも,この努力を重視し,国際関係における基準と節度をまもる必要があります」(不破哲三『いまこの世界をどう見るか』新日本出版社,2005年,166ページ)。---東アジアという地域全体の発展についても,「内面の論理」からつかまえる必要がある。
日本と世界を切り離してとらえない,大局的な相互関係に目をくばって
「世界と日本との関係は,弁証法的なんですよ。どちらかか先に進んで,他方が遅れるということは,いつでもあることですが,世界の流れに逆らった逆流は,最後には,国内でも破綻にぶつかることになるんですよ」(不破哲三『いまこの世界をどう見るか』新日本出版社,2005年,222ページ)。
「憲法改悪というのは,世界的な見通しのたたない道に日本を引き込んでゆくことなんです。憲法改悪派が,平和の外交戦略をもたず,『戦争のできる国になりたい』の一心で,こういう前途のない道に突き進むなら,その結果は,必ず国内に跳ね返ってきて,それを推進した勢力の危機をやがては引き起こします。
国内の政治には,いろいろな波があり,そういうなかで,歴史は進んでゆくものです。どんな局面でも,まともな道でがんばることが,次の局面を開くカギだということを,いつも心に刻んでおきたいですね」(不破哲三『いまこの世界をどう見るか』新日本出版社,2005年,224ページ)。
3・日本・アメリカとアジア・中国との経済関係の実態
きわめて急速な日本から中国への輸出拡大
「2003年,日本の対中輸出は572億4000万ドル(対前年比43.6%増)に達し,全世界に対する輸出増加分の67.5%が中国市場向けとなっている」(峰如之介「チャイナ特需最前線」『Voice』2004年5月号)。
アメリカの対中貿易赤字は日本への倍以上
2004年アメリカの貿易収支赤字は最大6177億ドル。第1は中国1619億ドル,第2が日本751億ドル(今宮謙二『動乱時代の経済と金融』176ページ)。
日本からの輸出が中国を経由した迂回輸出に
カーラ・ヒルズ(元アメリカ通商代表)――「(中国の)ハイテク産業の成長といっても,そのほとんどは家電製品であり,しかもこれらは日本,韓国,台湾,香港,シンガポールなど『アジアの豊かな国・地域』が中国に直接投資をしている結果である」「しかも,そうした製品の部品のための多くは輸入によって賄われている」「アジアの投資国からの部品輸入総額と,中国で組み立てられた製品の輸出額の間にそう大きなギャップはみられない。140億ドル程度だ」「アメリカと,日本など『アジアの豊かな国・地域』との間の貿易赤字が減少し,一方で中国との間の赤字が増えている。要は,こうした国や地域が中国に生産拠点を移したことで,中国との赤字が増えているのだ」(「中国の経済と貿易の行方」『論座』2005年6月号)。
8割がアメリカ企業自身による中国からの逆輸入
長谷川慶太郎「中国の未来は日本次第」――「中国は,アメリカに対して消費財を中心とした輸出を続けなければ,経済成長を維持することができない。中国の対米輸出の8割は,中国に進出したアメリカ企業の製品である。つまり,アメリカ企業は中国を『自分の工場』として使っているのである」(『Voice』2004年5月号)。
アメリカのドル安放置は輸出拡大策
2004年9月ごろからのドル安現象。対照的な金価格の上昇,ロシアや東アジア・中国などのドル離れ,アメリカ自身の容認策(輸出拡大重視)(宮謙二『動乱時代の経済と金融』179ページ)。アメリカによる人民元の切上げ要求も。
アジアはドルを手放せない
ファリード・ザカリア(フォーリン・アフェアーズ誌前副編集長)――「アジア諸国がドル建て資産を手放すようになれば,それによって傷つくのは,アメリカ経済よりも,むしろアジア経済のほうだろう。彼らの保有するドル価値が低下するし,(人民元が高くなれば輸出にかげりを見え始め)中国の成長は鈍化する。日本もインドも成長をそこなうような行動をとるとは思えない」(「中国の台頭にどう対処する」『論座』2005年6月号)。
対東アジア貿易では日本が後退,中国が台頭
「貿易面での特長は,東アジア貿易における日本の後退と中国の台頭である。日本の対東アジア輸出シェアは対アジアNIES,ASEAN向けを中心に大幅に減少している。これにたいして中国のそれは逆にアジアNIES,ASEAN向けを中心にして大幅に増大している。つまり対東アジア市場の獲得に関しては日本と中国は代替関係つまりライバル関係にあるということを見落としてはならないのである」(蛯名保彦『日中韓「自由貿易協定」構想--北東アジア共生経済圏をめざして』明石書店,2004年,99ページ)。---中国からの輸出がどの程度に日本の迂回輸出であるかという問題はあるが。
日本の対中投資は2000年から再び増勢
「日本の対中直接投資は,1994年から99年にかけて減少傾向を辿ってきたが,2000年から再び増勢に向かっている」(蛯名保彦『日日中韓「自由貿易協定」構想--北東アジア共生経済圏をめざして』明石書店,2004年,208~211ページ)。
中国の輸出の5割以上が外資による
「だからといって,中国の経済成長が順風満帆であるというわけではない。成長論に即していっても--構造論に関して次節に譲ことにする--とりあえず二つの問題点を指摘しておかなければならない。一つは,外資にたいして過度に依存している点である。……その結果,中国の輸出にしめる外国企業の比重が大幅に増加し,外資による輸出も全体の5割を超えるに至っており,とくにハイテク部門の場合には8割が外資によるものだとされている(1)。二つにはデフレーションの下での成長だということである」(蛯名保彦『日中韓「自由貿易協定」構想--北東アジア共生経済圏をめざして』明石書店,2004年,35ページ)。
「(1)内閣府『世界経済の潮流』2002年秋,31~35頁参照」(蛯名保彦『日中韓「自由貿易協定」構想--北東アジア共生経済圏をめざして』明石書店,2004年,77ページ)。
中国は米欧との貿易関係を深めているが,その内実には日本の迂回貿易も
「世界貿易に占める中国のシェアは2002年に5%を超え,その後も存在感は高まる一方です。中国商務省によりますと,04年の貿易総額は1兆1547億ドルで,日本を抜いて世界第三位の貿易大国になったと発表しています。
中国の貿易相手国は,03年までは11年連続で日本が最大の取引先でした。しかし,04年は米国,EUが日本よりも上になりました。WTOの加盟以後,中国が欧米との結びつきを急速に深めていることの表れといえましょう。
その反面,米国,EUでは対中貿易の赤字が増大しています。とくに米国の04年の貿易赤字5613億ドルのうち,4分の1に当たる1419億6100万ドルは対中貿易赤字です。ちなみに日本は,02年から対中貿易が黒字に転じ,04年の対中貿易総額は1兆700億ドル(約110兆3500億円),黒字額は140億4000万ドル(約1兆4500億円)に達しました。日本から部品や製造設備を中国に輸出し,中国で組み立てて欧米に迂回輸出するという三角貿易の構図が見て取れます」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,44ページ)。---どの程度が迂回輸出なのかの数字は手にはいるのか?
アジアにおける市場拡大の担い手としての「中産階級」
「巨大市場としてのアジアが浮上」「中国の13億人のうち15%に当たる約2億人の人々が,年収で100万元(日本円に換算して1000~1300万円)クラスの中産階級として育ってきた」「インドには,年収3000ドル以上の所得層が約1億5000万人いるといわれます。購買力平価では5.5倍くらいの差があるので,調整すると3000ドルは1万7000ドルくらいになるでしょうか。生活物資の安いインドでは,これだけの収入があれば中産階級です」「世界第一位の人口大国・中国と第二位のインドで,合計3億5000万人もの中産階級が形成されているのです」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,20~21ページ)。---人数が多すぎないか?
急成長する中国とインドの接近が重要
「もっとも重要なのは,インドと中国との経済的な関係が深まっていることです」。貿易など「経済が先を行く形で,両国の関係の密度は高まっているのです」。2005年4月に温家宝・中国首相がニューデリーでシン首相と会談,国境問題とあわせて「二国間貿易の障害を取り除くための共同作業や財政・金融当局者による対話の開始,民間航空路の増設などに関する11の覚書も両国は調印しました」。「中国は同時に,インドの国連安全保障理事国入りへの支持を表明しました。インドは,石油,石炭,鉄鉱石などの豊富な地下資源を有しており,中国がインドに急接近している理由はそこにもあります」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,86~87ページ)。
中国・インドと手を組んで第三の経済圏を
「……死中に活をもとめる方法が,アジアの経済統合の中心となりつつある中国・インドと手を組んで,アメリカ,ヨーロッパに続く第三の経済圏を形成することです。
そうすれば,移民の形で人も増え,製造業も販路がひろがり,アジア全体としての活発な経済活動が,日本を潤していくことにもなるでしょう」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,175ページ)。---榊原氏はインドを重視。
4・アジアにおける通貨統合問題
2002年「円・元スワップ協定」は「アジア通貨基金」構想の模索
「さらに通貨・為替分野では,日中両国政府間で通貨スワップ協定が締結されたということも見落とせない。日本銀行は,2002年3月28日,中国人民銀行との間で『円対人民元スワップ協定』を締結した。こうした円元スワップが日中両国間の金融・為替業務の安定化に貢献しさらにそれを通じてその発展に繋がることはいうまでもない。だが問題はそれだけに止まらない。それは本来,東アジアにおける通貨協力として,ASEAN10ケ国と3ケ国(日本・中国・韓国)との間で2000年5月に合意された『チェンマイ・イニシアティブ』における『三層スワップ』の一つである日中韓スワップの一環をなしているにすぎないのであるが,問題は,それが円と人民元との直接のスワップでありその点で米ドルを対価としている他の『チェンマイ・イニシアティブ』の下でのスワップとは本質的に異なる性格を帯びている,という点にある。というのは,現在米ドルは,アメリカの膨大な双子の赤字すなわち経常収支赤字と財政収支赤字の下できわめて不安定な状況に置かれており,そうした中で,日中両国がドルとの対価なしにスワップ協定を結んだということがきわめて重要な意味を持っているからである。しかも米ドルを支えているのがいまや日中両国に他ならないということを考慮すれば,このことの意味はなおさら重要である。……米国債購入に大きく貢献しているのが日本政府および中国政府なのである。こうした状況の中で,日中両国政府が敢えて米ドル抜きで円と元の直接スワップ協定を結んだということは,アジアにおける通貨協力が不安定化するドルに対する独自性追求と表裏の関係にあるということを強く示唆しているといえよう(15)。その意味で,両国政府が両国通貨をそれぞれ対価として円元スワップを協定を締結したということは,両国政府がアジア通貨形成を独自の立場で模索し始めた--ととらえられても決しておかしくはないのである(16)。なぜならばそれは,アジア通貨危機を機に日本政府によって提唱されたが米政府の難色によって事実上棚上げされたままの『アジア通貨基金(AMF)』構想の再現に繋がる可能性を孕んでいるからである。つまりこうしたファンド方式によるアジア通貨協力が実現すれば,現在の二国間協定方式による通貨協力は地域協力方式へ移行することになるが,それは足あ共通通貨構想実分への第一歩となる可能性を伏在させているからである」(蛯名保彦『日中韓「自由貿易協定」構想--北東アジア共生経済圏をめざして』明石書店,2004年,208~211ページ)。
「(15)北東アジアにおける通貨協力すなわち円・元・ウォン協力は,ドルの不安定化進行を背景に,近く予想される世界的な調整にたいして日本が中国・韓国と連携して臨む必要性があるという観点からも注目を要しよう」。
「(16)現に日本銀行の担当者自身がそうした認識を披瀝している。たとえば,松島正之『日中,通貨で緊密化進む』(日本経済新聞,2002年4月10日)がそれである」(蛯名保彦『日中韓「自由貿易協定」構想--北東アジア共生経済圏をめざして』明石書店,2004年,215ページ)。---きわめて重要。
人民元の切上げから,為替リスクを回避するアジア共通通貨が動く
「私はいずれアジア全体の共通通貨が誕生すると考えており,域内貿易の活発化はその前哨ととらえています」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,34ページ)。
「私はこの元が中心になって,いずれかなり遠い先ですがアジア共通通貨が成立していくのではないかと予測しています。……アジアの域内貿易がさかんになればなるほど,各国が独自の通貨をもっているというのは,その通貨が対ドルに交換比率が固定(ペッグ)されていなければ,為替リスクにさらされることになり不便です。そして,その国の経済が強くなれば,いずれ対ドルへのペッグをやめざるをえないのです。
そのときの為替リスクを回避するための有力な選択肢がアジア共通通貨なのです」
「つまり,中国人民元の切り上げ及び,変動相場制への移行が,アジア共通通貨への道筋の非常に重要なポイントになるということです」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,47ページ)。
95年の円高は中南米の通貨危機とからめてとらえる
「私は93年に国際金融局次長,95年から国際金融局長という立場にいましたから,よく覚えているのですが,為替市場では94年の夏ごろからドル安・円高が始まり,翌年もどんどん円高にふれていきました。その背景の一つが,このアルゼンチン,メキシコの通貨危機だったのです」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,101ページ)。
「メキシコ通貨危機を収束させた95年春は,ドル安・円高がピークを迎えた時期でもありました。対円は1ドル=80円を切り,対マルクは1ドル=1.4マルクを上回るという状況でした。このドル安はアメリカにとっても望ましいものではなかったようで,93年の夏頃からアメリカは協調介入を実行し始めていました」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,103ページ)。
「日本では,円高問題をとかく米国との二国間の関係だけで考えがちですが,95年のドル安・円高の背後には,アメリカの裏庭ともいえる中南米の通貨危機があり,日米関係と複雑に絡まっていたわけです」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,104ページ)。---自分の中の視野の狭さとして,反省すべき点。
日本のAMF提案はアメリカの反対で頓挫,アメリカは危機の原因をクローニー資本主義に求めた
97年のアジア通貨危機「日本は,IMFのアジア版,AMF(アジア通貨基金)をつくってこれらの国々に融資支援しようとしましたが,アメリカの反対で実現しませんでした。
アメリカは『アジアの国々がとっているアジア型開発モデルに問題がある。国家機関や主要企業の要職を政権担当者の一族が占めてしまうクローニー資本主義をあらためるべき』と,アジア危機の原因がもっぱらアジア経済の体質にあると指摘しました」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,106ページ)。
宮澤構想,日本独自のアジア通貨支援
98年の「ロシア危機で大損失を被ったのは西側の銀行やヘッジファンドでした。……
アジア危機のときは,傍観者的だったアメリカも,このときはルービン財務長官,グリーンスパンFRB議長,サマーズ財務副長官の3人が中心になって事態の収拾に乗り出し,奉加帳を回して資金集めをするなど,まさに護送船団方式でウォールストリートの救済にあたりました」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,117~118ページ)
「このとき,日本やヨーロッパは出し渋るのですが,最後は妥協してアメリカに協力しました。その際,私たち日本側がブラジル支援の条件として提示したのは,当時,日本がAMF構想に代わる新しいアジア支援プランとして用意していた宮澤構想によって,マレーシア等に支援することを了解してほしいというものでした。……
宮澤構想とは,日本が自国の外貨準備を基に,通貨危機に陥ったアジア諸国の経済回復のため,中長期の資金支援として150億ドル,短期の資金需要が生じた場合の備えとして150億ドル,合わせて全体で300億ドルを用意し,各国の要請に応じて低利のローンで貸しつけるという,日本対独の資金支援スキームです。
……98年3月のアジア蔵相・中央銀行総裁会議で発表された宮澤構想は,実物経済面に着目し,通貨危機に見舞われたアジア諸国の経済困難の克服を支援し,国際金融資本市場の安定化を図ることを目的とし,日本によるバイ(二国間)の支援を中心としている点でAMFと異なります。……
……日本自身も長銀・日債銀問題に端を発した金融システム危機の最中にあり,非常に苦しい中でアジアに資金を提供したわけです。
IMFと異なり,きびしいアドバイスや制約はつけずに融資したこともあって,通貨危機に苦しむ韓国やタイ,マレーシアなどからは大変に歓迎されました。
これはバイラテラルな二国間援助ですから,本来,アメリカが注文をつけてくるような筋のものではありませんが,アメリカとIMFの方針に逆らって通貨リンギットを為替管理して守ったマレーシアに日本が融資を決めたときには,相当な抵抗があったのです。
そうした状態のときに,ロシア金融危機がおこり,その危機がブラジルに飛び火したのでした。
私たちは,ブラジル支援とバーターで新宮澤構想によるマレーシア支援を認めるように折衝したのでした」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,118~121ページ)。---背後には,すでに日本の大資本がアジアに進出しており,アジア経済の「安定」が日本資本にとっての利益でもあったことがある。
円安はインフレにつながりかねない
「円が暴落すると,そうした輸入物資の円建て価格が高騰することになります。円の価値が半分になれば,原油価格は2倍になります。……円が暴落すると国内では食品はじめ生活物資の急激なインフレが発生するわけです」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,152~153ページ)。
起こりうるドル安への抵抗力をつけるには,域内通貨レートの安定が必要
「……アジア全域で域内貿易,特に部品貿易が急増した結果,総貿易に占める割合は40%まで達しています。
域内貿易がこれだけ大きくなってくると,決済に使われる通貨もドルである必然性はなくなってきます。……
その一つの理由は,アメリカの経常赤字が今,どんどん増えているため,対ドル相場は乱高下する可能性があるからです。
経常収支の赤字を解消するためには,基本的には三つしか方法がありません。一つは自分の国の経済を調整して輸入を減らすこと。もう一つは,外国の需要を刺激すること。第三の方法は自国の通貨のレートを切り下げることです。
……最後の選択はドル安しかありません。アメリカが政策としてドル安政策をとるかどうかはともかくとして,ドル安が傾向として続くことは充分考えられます。
それによって一番打撃を受けるのは対米輸出の比重の高いアジア諸国です。……
日本を含めアジア諸国がドル安に対して抵抗力をつけるためには,中産階級を中心として勃興し始めたアジアの市場を育て,域内貿易の比重を一段と高めると同時に,域内での通貨レートを安定させておくことです」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,183~185ページ)。---非常に明快な脱ドルのすすめ。
チェンマイ・イニシアチブは,かつてのAMF構想につながるもの
「2000年の5月には,ASEANと日中韓の各国がタイのチェンマイで蔵相会議を開き,対外的な資金繰りが苦しくなった場合に外貨を融通しあう『通貨スワップ協定』を結ぶことで合意しました。これはかつてのAMF構想につながるものだと言えます」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,186~187ページ)。
通貨バスケットではないACUから入るのが現実的
ヨーロッパの「経緯を見てくると,やはりアジアの場合もいきなり共通通貨の創設を目指すというのは非現実的でしょう。まず最初は中国の元,日本の円,韓国のウォン,タイのバーツ,インドのルピー,そういった各国の通貨を加重平均した仮想ユニットを創ることから始めるべきであると私は考えます。
このユニットを私はヨーロピアン・カレンシー・ユニットのアジア版ということで,エーシアン・カレンシー・ユニット(ACU)と言っていますが,これが作られると各国の通貨当局は,ACUに対して自国の通貨のレートが,中心から上下5%とか,あるいは10%以上は乖離しないよう,協調して市場に介入してゆく義務を追うわけです。
このカレンシー・ユニットというシステムは,通貨のバスケット制とは異なります。バスケット制とは,ある国が,ドルとかユーロとか円といった主要通貨を加重平均した仮想のバスケットに対して自国の通貨の値動きの幅が一定になるよう,その国単独で市場に介入してゆくやり方です。
カレンシー・ユニットは,域内で各国の通貨を入れた共通の通貨をつくって,対ドルとか対ユーロではなく,このユニットに対して各国の通貨が一定の範囲に収まるよう,各国共同して管理してゆくということです」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,191~192ページ)。
元を中心に通貨統合が起こってくる
「さて,共通通貨にいたるおおきなポイントは元のフロートです」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,195ページ)。
「元の弾力化という大きなパラダイムシフトによって,いろいろなレジュームが変わってゆきます。その時に混乱が起きるのか,起きないのかが,大きなポイントです。
たとえば弾力化された元には,一時的に海外から巨大な資本が流入してくる可能性もあるでしょう。そのマネージメントを誤ると,ちょうどプラザ合意後の日本がそうであったように,バブル経済に陥り,その反動で10年以上にもわたる不況の時代を経験するといった事態も考えられます」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,196~197ページ)。
「とはいえ私の個人的予想では,中国は元弾力化の衝撃を乗り切り,長期にわたる成長をつづけてゆくだろうと考えています。
そして,この元が中心となって,通貨の統合がおきてくると私は考えているのです」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,198ページ)。
東アジアの本格的統合はチェンマイ・イニシアティブから
「2000年5月の『チェンマイ・イニシアティヴ』以来,ようやく動きだした東アジアの地域協力・統合の将来における本格的な進展のために,われわれはヨーロッパの経験からどのような教訓を得ることができるかということである」(山下英次『ヨーロッパ通貨統合--その成り立ちとアジアへのレッスン』勁草書房,2002年,はしがき1ページ)
現在の国際通貨制度の改革には必ずアメリカが反対する
「ところで,3極通貨の固定為替相場制,すなわち筆者が考える『新ブレトンウッズ体制』を目指すとして場合,率直にいって一番大きな障害は,アメリカが反対するということである。理論的もししくは技術的に固定相場制に問題があるとういことではない。現在のフロート制は,準備通貨国であるアメリカに政策ディシプリンが全くかからず,アメリカにとって誠に都合の良いシステムである。すなわち,アメリカは現在の通貨システムに多大な既得権益を有しているため,3極通貨固定相場制のアイディアには必ずや反対するであろう」(山下英次『ヨーロッパ通貨統合--その成り立ちとアジアへのレッスン』勁草書房,2002年,252ページ)。
現行通貨制度の最大の被害者は日本
「わが国として新ブレトンウッズ体制を推進していくには」「現行の国際通貨システムにおける先進国中最大の被害者は明らかにわが国であり,日本の首相が独仏両国の首脳に直接呼びかける形で開始すべきプロジェクトである」(山下英次『ヨーロッパ通貨統合--その成り立ちとアジアへのレッスン』勁草書房,2002年,253ページ)。
通貨制度改革におけるアメリカとの共同を考えることはできない
「国際通貨制度改革を,アメリカと一緒に構想しようなどという考え方は全く馬鹿げている。なぜならば,グローバルな国際通貨制度改革の本質は,準備通貨国,とりわけアメリカに如何にして政策ディシプリンを課すか,ということだからである。……わが国が現在のようなグローバル・システムにおける変動相場制を擁護するとしたら,それはほとんど自殺行為に近いのではないだろうか」(山下英次『ヨーロッパ通貨統合--その成り立ちとアジアへのレッスン』勁草書房,2002年,254ページ)。
アメリカによるルール破壊以後の日欧の動きの格差は悲劇的
「グローバルな国際通貨システムは,ニクソン・ショックのとき,中心通貨国であるアメリカが『ルールの破壊者』(rule breaker)となったために,必然的にフロート制への移行を余儀なくされた。そうした中にあって,ヨーロッパは域内固定為替相場制を採用し,その後もそれを着実に進化させることを通じて,フロート制の悪影響をミニマイズしてきた。しかしながら,わが国の場合には,なんの対応策も採らなかったために,全く無防備の状態でフロート制とアメリカの身勝手な政策に振り回されてきてしまった。実質実効為替レートの動きに関する円とマルクの際立った違いは,日本にとって正に悲劇的といわねばならない」(山下英次『ヨーロッパ通貨統合--その成り立ちとアジアへのレッスン』勁草書房,2002年,255ページ)。---ヨーロッパ特にドイツと対比した日本の「思考停止」状態は何によって説明されるか?
通貨制度は経済安保の要の問題
「どのような国際通貨政策および国際通貨制度政策を採るべきかは,わが国の経済安全保障政策の要であると理解すべきである」(山下英次『ヨーロッパ通貨統合--その成り立ちとアジアへのレッスン』勁草書房,2002年,255ページ)。
チェンマイ・イニシアティヴはアメリカから独立した通貨制度の萌芽として意味をもつ
チェンマイ・イニシアティヴは「アジア通貨危機以来の懸案であったAMF(the Asian Monetary Fund,アジア通貨基金)構想,すなわちアジア域内の多国間の枠組みに発展しうるものである」「AMFは,単に緊急時に迅速に外貨を融通するためだけでなく,ウォール街の業界の利害にとらわれることなく,適切な政策上の助言をアジアの新興市場国に対して行なうという観点からも,ぜひとも設立が必要とされる」(山下英次『ヨーロッパ通貨統合--その成り立ちとアジアへのレッスン』勁草書房,2002年,256ページ)。
円・ドル・ユーロのバスケットによる固定相場制から
「域内通貨制度については……日本を除く他のすべての東アジア諸国が,円,ドル,ユーロの3極通貨バスケット・ベースの固定為替相場制を採用することからはじめるべきではないかと考える。これが東アジアの共通通貨制度の第1段階である」「第2段階としては,日本を含めた東アジア諸国の通貨を相互に固定させるといことである。すなわち,EMSタイプの固定為替相場制を採用するということである」「第2段階で各国間の経済パフォーマンスの収斂が進めば,やがて,東アジアにも単一通貨を構想する機が熟してくるであろう。すなわち,これが第3段階であり,いわば『アジア経済・通貨同盟』(the Asian Economic and Monetary Union,AEMUもしくは the Asian EMU)を目指すということである」山下英次『ヨーロッパ通貨統合--その成り立ちとアジアへのレッスン』勁草書房,2002年,259~260ページ)。---元の動きを軸にしてという榊原との相違点。
5・FTAをどうとらえるか
FTAを画一的にとらえるのでなく,グローバリズムの平等・互恵型を追求する
「他方,FTAは締結国を優遇し,その他の国が相対的に不利になる。また締約国どうしでも,アメリカが進める新自由主義的な『自由貿易』の拡大では,農業における家族経営の危機,輸出に偏った作物生産と主食の輸入依存,食の安全を守る施策の後退,環境破壊,労働条件の悪化などを引き起こしており,こうした事態については,たとえば世界社会フォーラムなどで,多くの批判が行われている」(佐藤洋「自由貿易協定と東アジアの地域統合を考える」『前衛』2005年6月号,167ページ)
「以上のような問題はあるものの,財界,政府が推進するという理由だけでFTAをすべて否定するのではなく,東アジア全体の流れのなかでFTA問題を考えていく慎重な立場を取る必要がある。なぜなら,FTAは相手国との交渉,同意によって成立するものであり,日本の単純な無理押しはできない。また経済関係の強化によって,平和・友好の関係もより確かなものになっていく展望も出てくる。経済的な関係に止まらず,東アジアで共同体への動きが本格化し,相互の関係が深まれば深まるほど,こうした問題点を克服していく展望も開けてくることを考慮する必要がある」(佐藤洋「自由貿易協定と東アジアの地域統合を考える」『前衛』2005年6月号,173ページ)
「もちろん,日本の多国籍企業がこれを市場確保,利益拡大の好機と位置づけていることは明白であるが,それは日本だけではなく,中国,韓国の企業も,ASEAN諸国も同様である。問題は,それがどれだけ国民経済間の平等・互恵に寄与するかである」(佐藤洋「自由貿易協定と東アジアの地域統合を考える」『前衛』2005年6月号,173ページ)。---それを何を基準に考えるか
アメリカの農業戦略に対抗して「東アジアの相対的な自立を追求することは,アメリカ主導のグローバリズムの画一的な推進がさまざまな問題を引き起こしているなかで,近隣諸国や立場が似通った国々の間で,多様な価値観を前提としつつ,平等・互恵を実現する経済・社会のグローバル化のモデルを探究するための重要なステップとなる」(佐藤洋「自由貿易協定と東アジアの地域統合を考える」『前衛』2005年6月号,176ページ)。
日本とマレーシアのFTA
「日本とマレーシアFTA正式合意へ」(日経2005年5月25日夕刊)「(25日)自由貿易協定(FTA)を柱とする経済連携協定の締結で正式合意する。自動車,鉄鋼製品の関税を十年以内に段階的に撤廃することなどを盛り込む」「日本にとってはシンガポール,メキシコ,フィリピンに次ぐ4カ国目のFTA締結となる見通し」「今回は大部分を継続協議とした通信や金融,建設などのサービス,投資分野」「自動車分野では現地生産する自動車用部品の関税を即時撤廃する。完成車の関税撤廃は大型車を先行させる。排気量2000cc以下のクラスは2015年までの猶予を設け,マレーシアが重視する『国民車』への影響に配慮する」「農林水産品分野は,果物とエビの関税撤廃などを盛った。ただマレーシアが求めていた合板の自由化は結論を先送り」。---双方の利害調整の後が見える。
日本とマレーシアの協力によってアジアの途上国支援を――マハティール
・「いま域内では,自由貿易協定(FTA)に関する議論が盛んです。なかでも私は,日本との経済連携交渉に期待しています。なぜならこの協定は単に関税率を引き下げるという貿易・投資上の視点にとどまらず,人材育成など,マレーシアと日本が協力して域内の発展途上国を支援するという総合的なものだからです。日本のリーダーシップは域内の国々を豊かにするために大変重要です」(マハティール・モハマド『立ち上がれ日本人』新潮新書,2003年,127~128ページ)。
隣人を富ませる「啓蒙された自己利益」――マハティール
・「マレーシアの将来の発展を真剣に考え抜いた際に到達した結論が『隣人を富ませよ』という政策だった。これは,隣人を富ませることによって自国が富むという,両者にとって得となる政策である。われわれには産業がなかった。産業化に必要な技術力も,資金も,知識も,経営力もなかった。そこでわれわれは外資の導入を促進した。われわれは日本企業を誘致し,日本企業はマレーシアに職をもたらした。マレーシア人が雇用され,給料を受けるようになると,購買力が生まれ,結果として日本製品が売れるようになる。つまり,日本が,マレーシアの工業化を促進すると,マレーシアを豊かにし,廻りまわって日本が得をすることにつながるのである。
逆に,貧困国は,周辺の国に問題を撒き散らす傾向が強い。貧困国において職を得られない国民は,経済移民として周辺の先進国へ向かい,移動先の社会でさまざまな摩擦を引き起こす。よって,先進国が貧困国の繁栄に協力することは,廻りまわって自国の問題の軽減に役立つのである。他国の利益になることを行って,結果として自国の利益になる行いを,われわれは『啓蒙された自己利益』と呼ぶ」(マハティール・ビン・モハマド『日本人よ。成功の原点に戻れ』PHP,2004年,45ページ)。
EUの途上国支援はテロ対策・世界の安定化対策
・EUの対外戦略。「9月11日の事件は,世界に(貧しい国々と豊かな国々のあいだに・福島)橋を架ける必要があることを示した」(ファビウス前蔵相,福島清彦『ヨーロッパ型資本主義』講談社現代新書,2002年)。これは日本のFTAあるいは「東アジア自由経済圏」構想にはまったく別のもの。EUと加盟国の途上国援助額はOECD全体の55.3%(長部重康・田中友義編著『ヨーロッパ対外政策の焦点――EU通商戦略の新展開』ジェトロ,2000年,76~78ページ)。
6・日本政府の動き
東アジア共同体そのものは否定できない小泉首相
小泉首相「東アジア・コミュニティー構想」(2002年1月),日本・ASEAN特別首脳会議(2003年12月)でも繰り返す。日経新聞「アジアの未来」では東アジアサミットについて「成功のためできるだけの協力をする。将来の『東アジア共同体』の構築も視野に入れ,地域協力の基本理念を確認しあいたい」,アメリカのオブザーバー参加の提唱を念頭しながら「開かれた地域協力の原則が反映されるべきだ」(日経新聞2005年5月26日)。
体制をこえた安保共同は予想できない
マクロ経済的観点から共同体形成を唱えるが,政治・外交については靖国問題についてさえ「内政干渉」だと。日経新聞「アジアの未来」での町村信孝外相講演「中国,ベトナムという政治理念・体制の違う国があり,ここは欧州連合(EU)とはまったく違う。安全保障面の共同体に行くことは当面予想できない」(2005年5月26日)。
アジアの動きを日米関係に従属させようとする日本の役割
・「日本政府は,東アジア共同体に関して積極的姿勢を示していますが,その中で,これらの点についてどういう考えでいるのか,いくつかの問題点を指摘しないわけにはゆきません。
その一つは,小泉内閣が,東アジア共同体への米国の参加に道を開くことを狙っているととれる立場をとっていることです。外務省は,今年のASEAN+3外相会議に文書(イッシュー・ペーパー)を提出しましたが,その文書の『東アジア共同体の範囲』と題した項目の中で,『他のパートナーに参加の可能性』とか『開放性』を強調しています。あたりまえの指摘のようにみえますが,これは米国に参加の可能性を開こうとするものというのが専門家の指摘です。
東アジア共同体論は,いま日本の政財界の中でも急速に活発化していますが,同論を主張する民間機構の中には,日米同盟など米国とアジア各国との軍事同盟関係を東アジアの安全保障体制の柱と提唱するものもあります」(三浦一夫「平和と友好,対話と協調のアジアへ――東アジア共同体を考える」『前衛』781号,2004年9月,34ページ)。
TAC加入の原動力は中国との主導権争いという政財界の自覚
・「日本政府のEAEC忌避はその後もつづく。2002年1月,小泉首相はASEANを訪問し,今後の日本の課題としてのアジア外交についてのべ,東アジアと『共に歩み,共に進む共同体』をつくることを提言した。……ところが,昨年2003年10月,インドネシアのバリでおこなわれたASEAN首脳会議,同+3(日中韓)会議で,日本政府は,TACに加入してほしいとのASEAN側の要請をしりぞけた。……
拒否の理由は『(TAC加入が)米国との特別な関係にどのような影響を与えるかについて日本の内部にいくつかの問題がある』というものであった。要するに『日米安保体制と相容れない』との判断だった(ジャカルタ・ポスト10月9日付)。……
ところが,そのほぼ2カ月後の12月11,12日に東京でおこなわれた日本・東南アジア諸国連合特別首脳会議で,小泉政権は一転してTAC加入を表明した。180度の転換であった。……この2カ月に何があったのか。
当時,ある財界誌記者はこう説明していた。――もちろんアジアからかなり厳しい批判もあったのは事実。同時に,日本の経済界関係者がかなり政治に詰め寄ったようだ。かれら,とくに一部の有力財界の間では,自由貿易協定(FTA)問題をふくめてかなり早くから,アジア共同体とくに経済共同体に積極的に介入した方がいい,というよりイニシアチブをとるべきだ,いまもたもたしていたら情勢に立ち遅れる,とくに中国に完全にやられてしまう,という考えがますます広がっていた。
他方では"この間に外務省は米側におうかがいをたてた可能性がある。その結果,OKとの感触を得た"との見方もある」(三浦一夫「アジアの新しい流れと日本」『前衛』774号,2004年3月,64~65ページ)。
国益追求が中国への対抗を焦点としているという政府の自覚
・「今回の会議にいたる経過には,日本政府と財界が,中国に対抗するという意識が目立っているとの指摘もある。
日本政府にはもともと,特別会議で『共同文書は法的拘束力がある「憲章」にしたい』との思惑があったという(日本経済新聞12月14日付)。そこには,ますます緊密になりつつある中国とASEANの関係を牽制するととともに,浮上しつつある『共同体』構想で日本が主導権を握るという狙いがあった,というのが大方の分析である。しかし,結局『憲章』案はASEAN側に受け入れられず,『東京宣言』となった。
採択宣言には『政治・安全保障分野でのパートナーシップ』という文言も盛り込まれたが,この文言も含めて『憲章』ということになれば,いわば日本中軸の東アジア共同体という構図を打ち出すことになる,先の財界誌記者の指摘にはこの狙いに通じる思惑が明らかである。しかし,それはASEANとしてこれまで追求してきた『東アジア共同体』とは相容れないというのが,ASEAN側の本音ではないだろうか。結局『日本・ASEAN憲章』は幻の文書となった。
実際に,中国をわきにおいての東アジア共同体などありえない。そういう狭い国益追求型の共同体構想は,結局小泉政権のアジア外交がいままでの枠を大胆に超えない,古い発想の域を出ないことをしめしている」(三浦一夫「アジアの新しい流れと日本」『前衛』774号,2004年3月,64~65ページ)。
アメリカ同様アジアの自由化を最優先する小泉発言
「Q 総理は以前,ASEAN諸国の文化,宗教,伝統はそれぞれに異なっており,民主主義の形態にも同様の違いがあるとおっしゃっています。そのように文化や伝統が異なるASEAN諸国を,実際に一つに結びつけるものは何でしょうか。
A 最も大きな要素は,市場経済と商品の自由な流通,すなわち貿易です。ASEAN諸国の投資環境は改善されつつあります。そのことが政治体制の変化にもつながっており,今後もその傾向は続くでしょう。また,それは財界のリーダーたちの安心感を高めることにもつながります」(〔インタビュー〕カンボジア・デイリースタッフ『ASEANの首脳は語る』たちばな出版,2003年,26ページ,小泉純一郎「共通の脅威と闘うための協力」)。
小泉外交は正解ではない,アメリカが東アジアから撤退したら
「この小泉内閣の外交姿勢は,アジア諸国の台頭,アメリカの緩やかな没落という世界の大きな流れを考えたときに,果たして正解と言えるものでしょうか。
本来,冷戦構造が終わったときに,日本はアメリカとの関係,中国・ロシアとの関係を見直すべきだったと思います。……
私はアメリカとの友好関係を維持しながら,共通通貨へといたる道筋はあると考えています。たとえばアジア全域でNATOのような集団保障体制を作り,その上でアメリカとその集団が安全保障協定を結ぶという枠組みです。
……もちろんそれが一筋縄でいくとは思っていません」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,206~207ページ)。
「私が主張しているように,日本の将来をにらんでアジアを重視し,中国との連携の道を探ってゆくという外交方針には,やはりアメリカの強い抵抗があるはずです。しかしアメリカの意向ばかりを気にしていた場合,アメリカ経済が停滞して軍事費の負担に耐えられなくなり,東アジア地域の安全保障から手を退いていかざるを得ないという事態になったとき,どうなるのかも考えねばなりません」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,208ページ)。---アメリカの撤退論は,経済同友会の文書に通ずるところがある。「いつでもアメリカがアジアに関与するわけではない」という日本経団連も含めた議論は,この榊原の見解に通じるものか? 重要。
日米同盟だけではダメ,アジアの安保と経済とリンクして大きく変わる,いまこそ親中路線を
「中国と仲良くならなくとも,アメリカとさえしっかり軍事同盟を結んでいればよいとする意見がありますが,これから,アジアの安全保障体制は経済の変動とリンクして大きくかわると私は見ています。……そうなったとき,中国と敵対をしていては,アジアのブロックから日本ははじき出されることになります。そして繰り返しになりますが,そのことによる国益の損失は大きい。
今こそ親中路線をとれ,と私が主張する所以です」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,61ページ)。
米軍のプレゼンスと東アジア独自の枠組みとの重層的な安保体制へ
「東アジアの地域協力・統合に向けて」「基本的に何を目標とすべきか」「第1に……最終的には,東アジアだけでなくインドを中心とする南西アジアをも含めた包括的な『アジア統合』(Asian Integration)を目指すべきである。」「第2に,経済的には,実体経済と通貨・金融の両面での協力・統合を一体化してすすめていくことが必要とされる」「第3に,EUがEMU(経済・通貨同盟)とPU(政治同盟を平行して進めてきたように,東アジアにおいても,各国間の信頼を高めるためにも,地域の安全保障の枠組み作りを経済分野における協力・統合と平行して推進すべきである。アジアにおける米軍のプレゼンスは今後とも必要であろうが,東アジア独自の枠組みもまた必要とされる。すなわち,ヨーロッパと同様に,わが国とアジア諸国は,今後,重層的な集団的安全保障の枠組みを追求していくべきである」(山下英次『ヨーロッパ通貨統合--その成り立ちとアジアへのレッスン』勁草書房,2002年,258ページ)。---榊原との意見の共通性。日米安保と両立しうるアジア独自の安保政策。
最も重要なことは外交における「アメリカ離れ」
「目標を達成するために,何がなされなければならないか」「第1に必要なこと,そしておそらく最も重要なことは,日本の外交姿勢を根本的に改めなければならないということである。すなわち,率直に言って,わが国の『アメリカ離れ』がどうしても必要である。ヨーロッパでは,1960年代初めに『ヴァン・カンペン報告』を中心とした最初のEMU計画が提案されたが,当時,西ドイツがまだ対米関係を重視していたため,同国の反対によってこの計画は実現しなかった。しかしながら,1970年代終わり頃になると,西ドイツ自身がEMSを構想するようになり,1979年3月これが実現したのである。EMSに対してはアメリカの強い反発もあったが,この頃になるとドイツの『アメリカ離れ』が進んでいたのである」「従来のような対米絶対追随外交を続ける限り,わが国はアジアから信用されないし,東アジア地域協力・統合に向けたリーダーシップは決してとれないであろう」「第4は,欧州統合は,独仏枢軸によって推進されてきたが,東アジアでは結局のところ日中が共同してリーダーシップを発揮していくことがぜひとも必要とされる」「独仏両国は,『ギブ&テイク』の良い関係を築くことによって,パートナーシップを高めてきたが,日中両国間においても,互いに相手の弱点に手を差し伸べるようにな形の関係を築いていくことは可能であろう。日本の弱点は,言うまでもなく『過去の負の遺産』であるが,中国も発展途上国であるがゆえに,国際社会をリードしていく上で知識と経験がまだ不足しているし,また民主化の進展が不十分であるという意味で国際社会に対する大きな『負い目』もある」「ただし,いずれにせよ,中国が現在の政治体制と経済体制のミスマッチを,何らかの時点で平和裡に解消することが大前提となる」(山下英次『ヨーロッパ通貨統合--その成り立ちとアジアへのレッスン』勁草書房,2002年,261~266ページ)。---歴史認識問題をギブ&テイクで処理していく?
APECには意味がない
「『アジア太平洋』(Asia Pacific)などというのは,地理的な概念として全く意味のないものである」「APECは,『非アジア』であるアメリカとオーストラリアが熱心に推進してきたため,ここまできたのである。これまで,わが国を含めてアジア諸国が本当の意味でAPECを熱心に推進したことはなかったであろうし,また今後ともその必要はないであろう。わが国としては,今後は,APECなどというあまり意味のないものに無駄なエネルギーを費消することなく,『アジアの建設』に全精力を傾注させるべきである」(山下英次『ヨーロッパ通貨統合--その成り立ちとアジアへのレッスン』勁草書房,2002年,267~268ページ)。---アメリカの戦略に与しない。当然のナショナリズムともいえるが,アジアに対してそれが排他的・支配的にならないように。
プラザ合意から安保と経済との矛盾の時代に
「折りに触れて,わが国の指導者立ちの口を突いて出てきた言葉は,あたかも何とかのひとつ覚えのように,『日米関係はわが国外交の基軸』というのが常であった。その意味で,わが国は,『没戦略的』というよりも,むしろ,対米関係が絡むと,国としてたちまち『思考停止』状態に陥ってきたといった方が良いであろう。その結果,この15年ほどの間にわが国は国益を大きく損ねてきてしまった」「戦後約40年間,『日米同盟』は,わが国に安全保障と経済的反映の双方をもたらしてきた。しかしながら,1980年代半ば頃から日本が経済的にも技術的にも本当の意味でアメリカを脅かすような存在となったことから,状況は一変したのである。すなわち,1980年代半ば以降,わが国は,安全保障と経済的繁栄とが,戦後はじめて矛盾する事態に立ち至ったということではないだろうか」「国や企業や団体のいずれについても,かつて成功したと同じ要因で衰退するとよくいわれる。いわゆる『成功のパラドックス』である。日本経済の場合,それは『日米同盟』かもしれない」「その意味でも,欧州統合の推進に積極的にコミットすることを通じて近隣諸国からの信頼を勝ち取ることに成功し,その上で1970年代の終り頃『アメリカ離れ』を実現し,そしていまや完全に『普通の独立国』へと脱皮を遂げたドイツの生き方から多くを学びとることができるであろう」「いずれにせよ,わが国は『日米同盟』一本槍の外交姿勢をどうしても改めなければならない」「そして,今後は困ったことに,仮に日本抜きでも,アジアの地域協力・統合は進展していくことになる」(山下英次『ヨーロッパ通貨統合--その成り立ちとアジアへのレッスン』勁草書房,2002年,309~311ページ)。
米軍のプレゼンスと東アジア独自の枠組みとの重層的な安保体制へ
「東アジアの地域協力・統合に向けて」「基本的に何を目標とすべきか」「第1に……最終的には,東アジアだけでなくインドを中心とする南西アジアをも含めた包括的な『アジア統合』(Asian Integration)を目指すべきである。」「第2に,経済的には,実体経済と通貨・金融の両面での協力・統合を一体化してすすめていくことが必要とされる」「第3に,EUがEMU(経済・通貨同盟)とPU(政治同盟を平行して進めてきたように,東アジアにおいても,各国間の信頼を高めるためにも,地域の安全保障の枠組み作りを経済分野における協力・統合と平行して推進すべきである。アジアにおける米軍のプレゼンスは今後とも必要であろうが,東アジア独自の枠組みもまた必要とされる。すなわち,ヨーロッパと同様に,わが国とアジア諸国は,今後,重層的な集団的安全保障の枠組みを追求していくべきである」(山下英次『ヨーロッパ通貨統合--その成り立ちとアジアへのレッスン』勁草書房,2002年,258ページ)。---榊原との意見の共通性。日米安保と両立しうるアジア独自の安保政策。
最も重要なことは外交における「アメリカ離れ」
「目標を達成するために,何がなされなければならないか」「第1に必要なこと,そしておそらく最も重要なことは,日本の外交姿勢を根本的に改めなければならないということである。すなわち,率直に言って,わが国の『アメリカ離れ』がどうしても必要である。ヨーロッパでは,1960年代初めに『ヴァン・カンペン報告』を中心とした最初のEMU計画が提案されたが,当時,西ドイツがまだ対米関係を重視していたため,同国の反対によってこの計画は実現しなかった。しかしながら,1970年代終わり頃になると,西ドイツ自身がEMSを構想するようになり,1979年3月これが実現したのである。EMSに対してはアメリカの強い反発もあったが,この頃になるとドイツの『アメリカ離れ』が進んでいたのである」「従来のような対米絶対追随外交を続ける限り,わが国はアジアから信用されないし,東アジア地域協力・統合に向けたリーダーシップは決してとれないであろう」「第4は,欧州統合は,独仏枢軸によって推進されてきたが,東アジアでは結局のところ日中が共同してリーダーシップを発揮していくことがぜひとも必要とされる」「独仏両国は,『ギブ&テイク』の良い関係を築くことによって,パートナーシップを高めてきたが,日中両国間においても,互いに相手の弱点に手を差し伸べるようにな形の関係を築いていくことは可能であろう。日本の弱点は,言うまでもなく『過去の負の遺産』であるが,中国も発展途上国であるがゆえに,国際社会をリードしていく上で知識と経験がまだ不足しているし,また民主化の進展が不十分であるという意味で国際社会に対する大きな『負い目』もある」「ただし,いずれにせよ,中国が現在の政治体制と経済体制のミスマッチを,何らかの時点で平和裡に解消することが大前提となる」(山下英次『ヨーロッパ通貨統合--その成り立ちとアジアへのレッスン』勁草書房,2002年,261~266ページ)。---歴史認識問題をギブ&テイクで処理していく?
APECには意味がない
「『アジア太平洋』(Asia Pacific)などというのは,地理的な概念として全く意味のないものである」「APECは,『非アジア』であるアメリカとオーストラリアが熱心に推進してきたため,ここまできたのである。これまで,わが国を含めてアジア諸国が本当の意味でAPECを熱心に推進したことはなかったであろうし,また今後ともその必要はないであろう。わが国としては,今後は,APECなどというあまり意味のないものに無駄なエネルギーを費消することなく,『アジアの建設』に全精力を傾注させるべきである」(山下英次『ヨーロッパ通貨統合--その成り立ちとアジアへのレッスン』勁草書房,2002年,267~268ページ)。---アメリカの戦略に与しない。当然のナショナリズムともいえるが,アジアに対してそれが排他的・支配的にならないように。
プラザ合意から安保と経済との矛盾の時代に
「折りに触れて,わが国の指導者立ちの口を突いて出てきた言葉は,あたかも何とかのひとつ覚えのように,『日米関係はわが国外交の基軸』というのが常であった。その意味で,わが国は,『没戦略的』というよりも,むしろ,対米関係が絡むと,国としてたちまち『思考停止』状態に陥ってきたといった方が良いであろう。その結果,この15年ほどの間にわが国は国益を大きく損ねてきてしまった」「戦後約40年間,『日米同盟』は,わが国に安全保障と経済的反映の双方をもたらしてきた。しかしながら,1980年代半ば頃から日本が経済的にも技術的にも本当の意味でアメリカを脅かすような存在となったことから,状況は一変したのである。すなわち,1980年代半ば以降,わが国は,安全保障と経済的繁栄とが,戦後はじめて矛盾する事態に立ち至ったということではないだろうか」「国や企業や団体のいずれについても,かつて成功したと同じ要因で衰退するとよくいわれる。いわゆる『成功のパラドックス』である。日本経済の場合,それは『日米同盟』かもしれない」「その意味でも,欧州統合の推進に積極的にコミットすることを通じて近隣諸国からの信頼を勝ち取ることに成功し,その上で1970年代の終り頃『アメリカ離れ』を実現し,そしていまや完全に『普通の独立国』へと脱皮を遂げたドイツの生き方から多くを学びとることができるであろう」「いずれにせよ,わが国は『日米同盟』一本槍の外交姿勢をどうしても改めなければならない」「そして,今後は困ったことに,仮に日本抜きでも,アジアの地域協力・統合は進展していくことになる」(山下英次『ヨーロッパ通貨統合--その成り立ちとアジアへのレッスン』勁草書房,2002年,309~311ページ)。
7・アメリカ政府の動き
東アジア共同体に反対するアーミテージ,中国への強い警戒心
「アーミテージ前米国務副長官は29日、朝日新聞社のインタビューに応じ、日本政府が積極的に進める東アジア共同体構想について『米国がアジアで歓迎されていないと主張するのとほとんど変わりない』として、反対する考えを示した。同構想に中国が熱心であることに警戒感を示す一方、中国の台頭には『国際社会で有益な国になるよう、日米が支援しなければならない』と語り、望ましい方向に進むよう日本とともに働きかけることの重要性を強調した」(「朝日新聞」2005年5月1日)。
「現在、米国抜きで設立準備が進められている東アジア共同体は、『深刻な誤りだ』と批判。すでに米国が構築した2国間同盟のネットワークを切り崩すようなものではないとしながら、『そういう方向性が出ること自体が問題だ』と懸念を表明した。さらに、『中国は積極姿勢を見せている。米国を除いた協議に加わることには、非常に意欲的だ』などと語った」(同上)。
アメリカはアジアに深い利害をもつ,日米を引き離す意図
アーミテージ「東アジア共同体への参加は国益になるのか」(『WEDGE』2005年5月号)――「米国はアジアの国ではないと考える人たちが一部にいるが,現実には,米国は太平洋地域の経済,安全保障,政治に深い利害関係を持つ大国である」「(東アジア共同体)日本がこの動きに同調することの実益はほとんどない」「米国を日本から引き離すことで,日米同盟を弱体化させようとの意図すら見受けられる」「その意図が米国やその他の域外国を排除することだと疑われても仕方があるまい」。
ソ連崩壊後のアジア覇権をめぐるEAECとAPECの対立
・「マハティール前首相が最初に東アジアの共同を呼びかけたのは1990年末です。当時の提唱は東アジア経済グループ(EAEG)で,その後,東アジア経済会議(EAEC)と改められます。欧州のEEC(欧州経済共同体,現在のEU〈欧州連合〉の前身)と北米自由貿易協定(NAFTA)に対抗してゆくためにとして提起したのでした。
猛烈な妨害にまわったのが米国です。理由は,米国が参加しない組織がアジアにできることを許さない,です。米国に忠実な日本だけでなく,東南アジアのなかのいくつかの親米的な国もマハティール提案に消極的態度をとり,『ASEAN経済閣僚会議がEAECに支援と方向を与える』(ASEAN外相会議)と規定されるにとどまりました。
しかし,マハティール構想に同調する動きが根強いことをみてとったクリントン米政権は,アジア太平洋経済協力閣僚会議(APEC)を利用し,アジアにおける主導権確保に出ます。93年7月,来日したクリントン大統領は早稲田大学で講演し,経済から軍事協力まで視野に入れた『新太平洋共同体』構想をぶちあげました。そして同年,シアトルで米国のイニシアチブでAPEC非公式首脳会議を開催,ソ連崩壊後のアジアでの覇権確立に乗り出したのでした」(三浦一夫「平和と友好,対話と協調のアジアへ――東アジア共同体を考える」『前衛』781号,2004年9月,25~26ページ)。
APECによる覇権樹立の失敗
・「マハティール前首相の最初の構想を妨害したのは米国(クリントン政権)でした。そして,これに対抗して,APEC強化に乗り出し,東アジア共同体構想を封じ込めようとしたのでした。しかし,その後の経過はあざやかです。APECはいま,年中行事として閣僚会議,首脳会議はつづいていますが,その影は限りなく薄くなっています」(三浦一夫「平和と友好,対話と協調のアジアへ――東アジア共同体を考える」『前衛』781号,2004年9月,32ページ)。
APECはアジア通貨危機で何の役にもたたなかった――マハティール
・「(99年)北京に滞在中,両国の政財界のリーダーを集めた『第3回マレーシア・中国フォーラム』で東アジア経済会議(EAEC)の創設を再び提唱した。アジア独自の協議体があったなら,アジア通貨危機での投機筋の急襲に対処できたと痛感するからである」「米国の主導するアジア太平洋経済協力会議(APEC)は東アジア経済を支配している。しかし,APECはアジアの諸国が経済・通貨危機から抜け出す手助けもせず,その力もなかった。その代わりに先進国と発展途上国を加えたG22に責任を転嫁した。APECはアジア市場をできるだけ早期に開放することだけに焦点をあてている。そしてその恩恵を享受するのは誰なのか自明の理である」(マハティール・モハマド『アジアから日本への伝言』毎日新聞社,2000年,82~83ページ)。
APECが追求する市場開放はアジアの脅威ともなる――マハティール
・「マレーシアのビジョン2020は,ほかの多くの国々による長期ビジョンの策定に影響を与えた。東南アジア諸国連合(ASEAN)も,ASEAN自由貿易協定(AFTA)を目ざすASEAN版『ビジョン2020』を採用した。ただ残念なことにアジア太平洋経済協力会議(APEC)のメンバーがASEANの地域連帯を損なってしまった。ASEAN各国はAPECのメンバーとして独立した立場をもち,APECへの関与はASEANへの関与より尊重されるようになった。世界で最も強く豊かな国が加盟し,世界のトップリーダーが代表しているAPECの方が魅力的なのかもしれない。
APECの基本的な利益は,加盟国の市場開放であり,中国や韓国,東南アジア諸国の市場の潜在力は非常に大きい。しかし,東南アジアや韓国は,市場開放は深刻な脅威をもたらすことも今回の危機で知った」(マハティール・モハマド『アジアから日本への伝言』毎日新聞社,2000年,117~118ページ)。
オーストラリアはアメリカと連携してアジアで殿様顔をする――マハティール
・「インドネシアからの東ティモールの分離で最も利を得るのは豪州だ。豪州軍が真っ先にティモール島に進駐したのは驚くことではない。東ティモールに対する豪州の防衛は永久的なものになるかもしれず,豪州はその用意があるようだ。東ティモールは豪州のベトナムになる可能性がある。
すでに豪州はアジアの警察官として,米国の代理人となることを口にし始めた。これはまったく傲慢である。オーストラリア人は自分たちはアジア人であるというが,アジアに対して殿様顔をすることしか考えていない。これゆえにマレーシアが東アジア経済会議(EAEC)を提案したとき,アジア諸国は豪州がメンバーとなることを歓迎しなかった。
このため豪州は米国に働きかけ,アジア太平洋経済協力会議(APEC)をつくってEAEGを葬った」(マハティール・モハマド『アジアから日本への伝言』毎日新聞社,2000年,88~89ページ)。
アメリカがふくまれないAMF構想にサマーズは激怒
「通貨危機を以上のように読み解くと,それが決してアジア固有の問題などではなく,アメリカが主導してきたグローバリズムが本質的に持つ構造的問題であり,世界のあらゆる国で起こり得る普遍的な現象だとわかります。
単に巨額の資本の出入りによって危機が引き起こされるのであれば,アジアであろうと南米であろうと,ロシアや東欧などヨーロッパであろうと関係ありません。
それを防ぐためには,国境をまたぐ巨大な資本の出入りに何らかの形で規制をかけて通貨当局のコントロール下に置き,かつ巨大な投機資金に対抗できるだけの外貨準備を当局が備えるしかありません。
投機マネーの攻撃にさらされているアジアの国々には,当座の金,外貨準備が必要でした。
外貨準備が底をついてしまった場合,IMFの支援を求めるという手があります。しかし,IMFは,支援とひきかえに,『国内の改革』をもとめるのが常でした。『国内の改革』といえばきこえがいいですが,基本的にIMFはこれまでアメリカ流の改革を援助国に強いてきたのです。財政・金融政策の引き締めと極めて過激な自由化です。……
AMF構想は,そうしたIMF主導の改革ではなく,アジアの特色をいかした発展を維持するために,日本がイニシアチブをとり,IMFにかわる国際援助機関をつくろうというアイデアでした。
これは東アジア・太平洋中央銀行総裁会議(EMEAP)のメンバーが,通貨危機に陥った国に対して共同で資金援助を行うファシリティー(融資制度)で,具体的には日本,中国,香港,韓国,オーストラリア,インドネシア,マレーシア,シンガポール,タイ,フィリピンのアジア10ケ国が合計1000億ドルの資金を供託し,基金を創設するという青写真を描いていました」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,108~109ページ)。
「私たちは97年夏のタイ支援国会合の直後から,この構想を具体化するために動き出し,9月に香港で予定されていたIMF・世界銀行総会での基金成立をめざしたのです。
このAMF構想は,結論から言うとアメリカの反対によって実現しませんでした。
現実に通貨危機にさらされたASEAN諸国と韓国は賛成してくれたものの,日本がイニシアチブをとったこの提案に対して中国は消極的で,アメリカは『IMF・世界銀行による国際金融秩序を崩す』と猛反対しました。
大蔵省財務官であった私は,AMF提案に際して,最初にパリでアメリカのサマーズ財務副長官に構想の概略を話しました。このときには穏やかに聞いていたサマーズですが,後にAMFの基金拠出国の構想の中にアメリカが含まれておらず,IMFとは独立に行動する機関であると知ると,激怒してこの構想の反対にまわりました」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,110ページ)。
「IMFが融資にあたってアジア諸国に課した条件とは,いわゆるワシントンコンセンサスでした。それは資本の自由化を進めグローバリズムを進展させるという路線を推し進めるもので,アジアの古い開発独裁体質を改める効果はありましたが,いわば劇薬で様々な副作用をもったものでした」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,112ページ)。---アメリカン・グローバリズムの浸透のためには,アメリカから独立した「自律」的経済づくりの動きは許されないということ。
アメリカではなく中国を選ぶのかというキッシンジャーの警告
「アジアの通貨統合における最大のネックを一つ挙げるとしたら,それは日中問題でしょう。とりわけ両国の世論です」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,190ページ)。
「問題は,今の小泉政権が極端に親アメリカ,反中国であるということです」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,200ページ)。
「以前,韓国経団連の諮問委員会の会合で私がアジア共通通貨の可能性について述べたときには,同じ会合にきていたキッシンジャー元アメリカ国務長官から警告を受けました。
『君はアメリカではなく中国を選ぶというのか。もし日本がそのような姿勢をとるなら,日米安保条約を根本的に見直す』
そう彼は言ったのです。
アメリカは唯一の世界パワーとしての自らの地位を脅かす存在として,中国を見ています。そして日本と韓国をアジアにおける同盟国とすることで中国を牽制しています。にもかかわらず日本が中国に接近するというなら,もう日本を同盟国とは見なさない。
キッシンジャーが言いたかったのはそういうことでしょう」(榊原英資『経済の世界勢力図』文藝春秋,2005年,202ページ)。
8・日本国内の嫌中派の動き
自民党は「つくる会」教科書の採択に取り組む
扶桑社「つくる会」教科書の普及を自民党が運動方針に。「また、基礎・基本を重視した確かな学力の育成、豊かな心と健やかな体の育成を家庭・学校・地域社会が一丸となって進める。教科書の検定・採択に当たっては、客観的かつ公正、適切な教育的配慮がなされるよう努める。偏った歴史観やジェンダーフリーなどに偏重した教科書については、その内容の適正化を求める」(2005年自民党運動方針 http://www.jimin.jp/jimin/main/touJ.html)。
自民党は靖国参拝を受け継いでいく
「わが国は不戦の誓いを憲法にうたい、平和外交を国是としている。その証として今日の繁栄があり、国民の安寧があるのである。戦争の犠牲となり、また国の礎となられた御霊に心からの感謝と哀悼の誠をささげるために、靖国神社参拝は受け継いでいく」(2005年自民党運動方針 http://www.jimin.jp/jimin/main/touJ.html)。
東アジア共同体は日米関係を希薄化させ,中国に覇権をあたえる--アーミテージと同じ
渡辺利夫「東アジア共同対論の危うさと怪しさ/幻想を吹きとばす反日地政学」(『中央公論』2005年6月)――「FTAの二国間,多国間の合意は今後とも相次ぐであろう。私もこれを支持する。しかし……それ以上ではない」「東アジア共同体は,どう考えてみても日米同盟を『希薄化』させるという効果をもたざるをえない」「東アジア共同体が仮に創出されるとしても,覇権を握るのはそのための遠大な戦略をもつ中国となろう」。
歴史を売り渡す覚悟があるのか
遠藤浩一「それでも『東アジア共同体』という錯誤」(『正論』2005年6月号)――「『東アジア共生主義』といふ衣の下から『華夷秩序収斂主義』といふ鎧が透けて見える」「これ以上『中国』や『東アジア共同体』にのめり込んでいくのは,甚だ危険である」「歴史を売り渡して商売を続ける覚悟が本当にあるのかどうかを問はれてゐるのである。そこまでの覚悟がないのならば,聖徳太子以来の国策にしたがって,支那とは距離を置くことである」。
日本の製造,アメリカの軍需で補いあえる日米経済同盟を
葛西敬之(東海旅客鉄道社長)――「私は,日本が中国との付き合いを考えるうえでいちばん基軸となるのは,不動の日米同盟にあると思うのです。それもたんに安全保障だけでなく,経済的な役割分担までをもふくめた同盟にします。いまアメリカの製造業は,どんどん失われつつあります。しかし軍需産業という点においては,圧倒的なトップを走っています。ものづくり大国でありながら,軍需産業をほとんどもたない日本とは,まさに補い合える関係にあるのです」(対談「商売に過剰な熱意は禁物」『Voice』2004年5月号)。
財界批判
古森義久「財界の『靖国反対』は間違いだ――なぜ中国に『政治と経済は別だ』と明言できないのか」(『Voice』2005年2月号)。
アメリカ(ネオコン)に呼応した嫌中キャンペーン
櫻井よしこ「中国は台湾を武力制圧する」――「(ライス氏は)台湾については『台湾の安全について,米国は深い関心を有する』と確認し,一方で『中国は戦略的競争相手であり,戦略的パートナーではない』と明記した」「ライス氏の指摘は,東アジア共同体構想をみても的中しているといってよい。EUと同様の共同体を東アジアにつくりたいとするこの考えは,中国が東アジア諸国連合(ASEAN)と一挙に自由貿易協定(FTA)を結ぼうとした動きを一つのきっかけとして急浮上した」(『Voice』2005年2月号)。
個々のFTAの吟味だけでなく,東アジア全体の動きを視野にいれて
「東アジア諸国との間でのFTAは,依然として日本が直面する大きな課題であり,今後,一つひとつのFTAを吟味するだけでなく,FTAをめぐる全体の動きや,グローバル化した世界経済との関係,EU(欧州連合),NAFTA(北米自由貿易協定)などのいわゆるリージョナル化(地域経済化)の動き,『東アジア自由経済圏』構想,東アジア共同体を視野に入れた幅広い検討が求められている」(佐藤洋「自由貿易協定(FTA)と東アジアの地域統合を考える」日本共産党『前衛』2005年6月号,165ページ)
現時点でのFTAの特徴と問題点
「FTAについては,①双方の条件を考慮しつつ,貿易の活性化,投資促進,技術移転,資源の安定的な確保と配分,種々の基準や制度の共通ルールなどによる経済関係の拡大と深化,②すでに他の国とFTAを結んでいる国との貿易条件の改善,③経済関係で相手国との間で紛争が起きた場合の紛争処理の過程のルール化,④経済関係の深まりが平和と友好関係の土台ともなりうる――などの特徴が指摘されている。
他方,FTAは締結国を優遇し,その他の国が相対的に不利になる。また締約国どうしでも,アメリカがすすめる新自由主義的な『自由貿易』の拡大では,農業における家族経営の危機,輸出に偏った作物生産と主食の輸入依存,食の安全を守る施策の後退,環境破壊,労働条件の悪化などを引き起こしており,こうした事態については,たとえば世界社会フォーラムなどで,多くの批判が行われている」(佐藤洋「自由貿易協定(FTA)と東アジアの地域統合を考える」日本共産党『前衛』2005年6月号,167ページ)。---FTA一般を論ずるのでなく,各国間の経済関係やその国の経済をどこへ導くFTAなのか,その具体的な判断が必要。そこに個別の検討にとどまらない,大きな流れへの評価が必要になる。
アメリカとの関係をたもちつつも自立性を,平和と経済で「東アジア共同体」に積極的にかかわるべし
「しかし東アジア諸国の日本への不信は,1997年のアジア通貨危機を契機に変化を見せた。97年のアジア通貨危機は,アメリカ主導のグローバリゼーションによる被害とそれへの不信を一気にひろげ,民主的国際秩序,東アジア地域の結束と自立の必要性は,東アジア,なかでもASEAN諸国共通の強い認識となった」(佐藤洋「自由貿易協定(FTA)と東アジアの地域統合を考える」日本共産党『前衛』2005年6月号,170ページ)
「グローバリズムのリーダーであるアメリカが,支援の要請に応えなかったのに対し,日本は援助し,通貨基金構想を打ち出すなどの対応を見せたことで,日本にたいする信頼が生まれた。
日本が提唱した『アジア通貨基金』構想は,アメリカによって一度はつぶされたが,その後チェンマイ・イニシアチブとして実現した。1999年にマニラで開かれたASEAN・日本・中国・韓国が参加するASEAN+3第三回首脳会議で『東アジア協力に関する共同声明』が採択され,それにもとづいて2000年には,マハティール首相が提唱したEAEG構想の復活ともいえる『東アジア経済圏』構想に向けて,ASEAN+3(日本,中国・韓国)で作業部会の設置が合意され,『東アジア自由貿易圏』の検討が開始された」(佐藤洋「自由貿易協定(FTA)と東アジアの地域統合を考える」日本共産党『前衛』2005年6月号,170ページ)。
「ASEANにしろ,中国,韓国にしろ,軍事・政治・経済のいずれかの面で,アメリカとの結びつきを強く持っている。現に,直接投資を担うアメリカ企業や,輸出市場としてのアメリカ経済に依存している国は多い。しかし,アメリカとの関係を保ちつつも,アメリカ主導のグローバリゼーションでは97年の通貨危機の二の舞になるという危機感を強く持っている。それが,『東アジア自由経済圏』構想,『東アジア共同体』構想としてあらわれている。
この動向は,東アジアの平和と安定という点でも,平等・互恵の立場での経済発展という点でも歓迎すべきものであり,日本としては,こうした『東アジア共同体』形成の流れに積極的に関わっていくことが求められている」(佐藤洋「自由貿易協定(FTA)と東アジアの地域統合を考える」日本共産党『前衛』2005年6月号,171ページ)。---「平等・互恵の立場での経済発展」(?),資本主義の国際関係におけるルールづくりをするとき,そのルールは多国間合意か二国間合意か,あるいは力のある国による強制か。力関係におうじた「合意」という名のもとに「強制」がつらぬかれる可能性をどうとらえるか。これは各論。
※日本共産党綱領。民主的改革の主要な内容。〔平和外交〕について「多国籍企業の無責任な活動を規制し,地球環境を保護するとともに,一部の大国の経済的覇権主義をおさえ,すべての国の経済主権の尊重および平等・公平を基礎とする民主的な国際経済秩序の確立をめざす」。〔経済民主主義〕の分野で「すべての国々との平等・互恵の経済関係を促進し,南北問題や地球環境問題など,世界的規模の問題の解決への積極的な貢献をはかる」。
「財界にしろ政府にしろ,共通している問題の第一は,FTAに距離をおいていた時期も,推進に転換した今も,アメリカ追随姿勢がきわめて強いということである。ここにASEANや中国,韓国とのFTA交渉にのぞむさいの日本側の問題点がある。
第二の問題は,影響を受ける国内産業への対応である。……
第三の問題は,侵略戦争への根本的な反省にかけていることである。……
以上のような問題はあるものの,財界,政府が推進するという理由だけでFTAをすべて否定するのではなく,東アジア全体の流れのなかでFTA問題を考えていく慎重な立場を取る必要がある。なぜなら,FTAは相手国との交渉,同意によって成立するものであり,日本の単純な無理押しはできない。また経済関係の強化によって,平和・友好の関係もより確かなものになっていく展望も出てくる。経済的な関係に止まらず,東アジアで共同体への動きが本格化し,相互の関係が深まれば深まるほど,こうした問題点を克服していく展望も開けてくることを考慮する必要がある」(佐藤洋「自由貿易協定(FTA)と東アジアの地域統合を考える」日本共産党『前衛』2005年6月号,171~173ページ)。
「既存の地域経済統合との関係での不利益を解消するためにFTAの『ハブ』(中心地)になっている国と協定を締結することは,シンガポールとのFTAのようにありうる対応である。
もちろん,日本の多国籍企業がこれを市場確保,利益拡大の好機と位置づけていることは明白であるが,それは日本だけではなく,中国,韓国の企業も,ASEAN諸国も同様である。問題は,それがどれだけ国民経済間の平等・互恵の関係に寄与するかである」(佐藤洋「自由貿易協定(FTA)と東アジアの地域統合を考える」日本共産党『前衛』2005年6月号,173~174ページ)。
「中国の前外務次官で,現駐日大使である王毅氏は,日中FTAと東アジア共同体に関する論考で,ASEANの主導的役割を尊重することの重要性を強調し,東アジアの中小国の人々の疑念を解消するためにも,『共同体建設のより現実的な手順は,おそらく,ASEAN自身の一体化プロセスが,全体の東アジア共同体の推進に先行することだ』と指摘している(注)」
(注)王毅『日中FTAの推進を』(『日経』2005年2月22日付)」(佐藤洋「自由貿易協定(FTA)と東アジアの地域統合を考える」日本共産党『前衛』2005年6月号,174~175ページ)。
「いまアメリカは,APEC(アジア太平洋経済協力会議)の一段下の組織として『東アジア共同体』構想を取り込もうとしている。他方,ASEANには,ASEAN+3でという意向が強い。このように,いまの段階では『東アジア共同体』構想が,どういう枠組みですすむことになるか不透明である。明確なことは,この過程が,これまでのようなに外交のアジア軽視から,文字通りのアジア重視外交への大きな転機となりうることである。敵視や暴力ではなく,東アジアの将来に目線を向けた真剣で誠実な対話によって,いまある多くの課題を乗り越えていくことが,日本にも,関係の諸国にも求められている」(佐藤洋「自由貿易協定(FTA)と東アジアの地域統合を考える」日本共産党『前衛』2005年6月号,174~175ページ)。
「1.アメリカへの依存を見直し,アジアの相対的自立をめざす
FTA問題が日本にとって難しい課題となっている要因の一つに,日本の農業,食料問題がある。しかし,日本農業の困難さの主たる側面は,東アジア諸国との関係にあるのではなく,多国籍アグリビジネス(農業関連産業)企業との関係にある。この点では日本も東アジア諸国も共通した問題である。事実,ASEAN諸国,中国,韓国も,日本と同様,この間,食料自給率を下げてきている。
その背景には,WTO体制のもとで,アメリカなどの多国籍アグリビジネス企業による支配の拡大がある。……
こうした影響は,日本だけでなく東アジア諸国共通のものとなっている。アメリカは多額の輸出補助金をつけて,輸出を図っている。日本にしろ,東アジア諸国にしろ,このアメリカなどの巨大資本の支配から脱却しないかぎり,現に進行しているように,自給率の低下は避けられない。
日本の農協は,FTAの交渉にあたっては,両国農業者の発展と,日本農業だけが一方的に犠牲を強いられないことを強く求めている。……この実現の鍵となるのが,アメリカを中心とした多国籍アグリビジネス企業の支配からの脱却である。
……このままでは東アジア諸国は,米やトウモロコシなど主食のを担っている家族経営を維持できなくなり,アメリカからの輸入に依存したり,多国籍アグリビジネス企業の支配に甘んじることになる。
こうしたアメリカの農業戦略に対抗するには,東アジアの国々が結束,協同してこそ,その展望も切り開かれる。……
東アジアかの相対的な自立を追求することは,アメリカ主導のグローバリズムの画一的な推進がさまざまな問題を引き起こしているなかで,近隣諸国や立場が似通った国々の間で,多様な価値観を前提としつつ,平等・互恵を実現する経済・社会のグローバル化のモデルを探求するための重要なステップとなる。東アジアでこうした取り組みができれば,他の地域や世界レベルでのグローバル化推進にも大いに参考となるだろう。東アジアの自立にあたっては,北米,EUをはじめ,世界各地域との必要な連携を維持するのは当然であり,当然相対的なものとなるだろう」(佐藤洋「自由貿易協定(FTA)と東アジアの地域統合を考える」日本共産党『前衛』2005年6月号,175~176ページ)。
「2.利益を得る部門から不利益を被る部門へ所得移転で支援をおこなう
3.結束と協力で,共通の課題を解決しつつ国際的な影響力を強める
……FTAに取り組むさいには,①主食である米など譲ることのできない品目や地域の農業・経済を支える品目などセンシティブな(影響を受けやすい)品目と,現在,時給で需要をすぐにはカバーできず輸入が避けられない品目をしっかりと区別してFTAに取り組む,②価格・所得保障の施策など,欧米なみに手厚い農業助成を拡大する,③東アジア諸国の農業との共存,協力を追求する――という点を踏まえることが必要である」(佐藤洋「自由貿易協定(FTA)と東アジアの地域統合を考える」日本共産党『前衛』2005年6月号,177~178ページ)
「…外務省出身で『東アジア共同体評議会』(会長・中曽根康弘元首相)の議長を務める伊藤憲一青山学院大学教授(『新しい歴史教科書をつくる会』の賛同者でもある)が,次のように反論している。
東アジア共同体構想の『形成過程がどのようなものであるかについて正確なを集め,どのような方向に向かってそれが進みつつあるかを的確に判断することこそが,いま日本の取り組まなければならない戦略的課題である。……』
FTAや東アジア共同体をめぐる議論は,いまや保守勢力のなかでも大きな対立を生んでいる」(佐藤洋「自由貿易協定(FTA)と東アジアの地域統合を考える」日本共産党『前衛』2005年6月号,178~179ページ)。
「各国とのFTA交渉が進む中で,農業だけでなく,人の移動や各分野の国内産業の問題,安定的な通貨制度など,広範な問題が検討の対象となってくる。日本にとって大事なことは,日本の未来が,東アジアの一員として,平和と友好の流れに積極的に参加し,平等・互恵の立場でともに豊かになる経済関係に発展させるなど,積極的な役割を果たすため力をつくすことにある」(佐藤洋「自由貿易協定(FTA)と東アジアの地域統合を考える」日本共産党『前衛』2005年6月号,179ページ)。
山崎伸治「第二期ブッシュ政権の対外政策――ワシントン・リポート」日本共産党『前衛』2005年6月,
「中東対策が具体的であるのと比べれば,ブッシュ政権の対アジア政策は必ずしも明確とはいえない。同政権にアジアの専門家がいないとはよく指摘されることである。……
米中の対立,対決ということが注目されるが,ブッシュ政権の中国に対する警戒感はそれとして存在するだろう。しかし,米中関係は一方で反発しつつ,一方で協調を図るというバランスのうえに成り立っているようにも見える。中国はいまや最大の対米貿易黒字国であり,両国の経済関係はいっそう深まっている。中国を単なる『敵』としてとらえていたのでは,そうした相互依存の現実に対応できないということではないだろうか」(山崎伸治「第二期ブッシュ政権の対外政策――ワシントン・リポート」日本共産党『前衛』2005年6月,183~184ページ)。
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